一人ひとりを活かすため、適材を適所に雇用する
~親会社と特例子会社営業所の取り組み~
- 事業所名
- 日本発条株式会社DDS(ディスクドライブサスペンション)事業本部駒ヶ根工場
(特例子会社 株式会社ニッパツ・ハーモニー駒ヶ根営業所) - 所在地
- 長野県駒ケ根市
- 事業内容
- HDD(ハードディスクドライブ)用サスペンションの製造
- 従業員数
- 498名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 2 外観検査・修正作業 内部障害 0 知的障害 1(8) 検査・現品管理
(構内清掃、機械・治工具整備)精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要
(1)概要
国内関連会社23社及び海外関連会社10カ国23社と、グローバルに事業展開している“ニッパツグループ”共通の企業コンセプトは“「創造挑戦型企業」「開発提案型企業」をめざしての「可能性への挑戦」”であり、そのためには、“グローバル企業の一員として、豊かな社会の発展に貢献する”ということである。
中央アルプス駒ケ岳を背に、眼下に天竜川を見下ろす高台にある当工場は、約95,000㎡の広大な敷地の中に、1981年に新設した当社産機事業本部駒ヶ根工場に続き1983に設立した。
23年の長い歴史を有し、近年はHDD用サスペンションの国内主力工場として、地域に根付いた事業所となっている。
(2)“ニッパツグループ”の基本方針
“ニッパツグループ”では、地球環境問題の解決に地域社会とともに取り組んでいる。
1971年、他社に先駆けて着手した「環境保全の体制づくり」のもとに、1992年に組織化された「地球環境対策委員会」の活動の一つとして、1994年、タイで植林運動を始めた“タイニッパツ”は、1996年、タイの営林省に苗木50万本を寄贈した。
また、日本各地にある事業所や工場周辺で実施された美化運動の一環として、駒ヶ根エリアでは、工場前に“小川のせせらぎと公園を備えた遊歩道”を造ったり、天竜川水系環境ピクニックに参加するなどして地域へ目を向けた活動を続けている。
このような“地域に根ざした活動”という動きは、社内で定められている「地球環境行動指針」や経営方針に基づくものであり、ニッパツグループにおける企業活動の基本となっているものである。
2. 障害者雇用の経緯
(1)職場実習の受け入れ
当工場は、当初、精密ばね関連製品を製造する当社伊那工場の第二工場として稼働していたが、全社的な事業拡大や海外進出に伴う事業展開の再編とともに、2000年に今のDDS事業本部の駒ヶ根工場として分離・独立した結果、個別の管理体制を確立・強化することが必要となり、その課題への対応と、それとほぼ並行して取り組んでいた1997~2001年に国内全工場を対象としたISO14001の認証取得達成を軸とした環境保全活動の強化や、1994~2005年の海外を含めたグループ内全社を対象としたISO9000シリーズ、ISO/TS16949の認証取得による品質保証システムの確立など、一連の経営体質強化活動のなかで、企業責任や地域貢献という視点があらためて強調され、社内に浸透し、新たな課題の一つとして障害者雇用について話題となった。
ちょうどそのような時に、地域の養護学校の先生から知的障害者の企業内実習の受入について熱心に求められ、「実習ならば…」と受け入れることにしたのがきっかけである。
当時、知的障害者についての受け入れ経験は全くなく、しかも、クリーンルーム内での精密部品加工職種の工場内には適職が思い当たらず、とにかくベテランの指導員をつけて外観検査や員数確認の作業補助をしてもらうことで実習受け入れの準備をしていた。
ところが、実習が始まってみると、実習生の女性Mさんの仕事への意欲が高く、よくメモをとったり、解らない事には必ず質問をしたり、繰り返し確認するといった積極性や、周囲にも好影響を与える明るさや態度が好ましく、K係長の印象に強く残った。
(2)雇用と職場内教育
長年にわたり製造現場で部下を育ててきたK係長は、その経験を基に、2回の実習を通じて実習生の能力や素質を把握していたことや、自身の交友者の中にも知的障害のある人がいたことから、ある程度の接し方は心得てはいた。しかし、自分の部下として仕事をしてもらい、戦力として成果をあげてもらわなければならない立場となることについては、真剣に悩んだが、彼女の持つ明るさと何事にも積極的に取り組もうとする姿勢や学校の先生の熱意にも押され、2002年4月雇用と判断した。
「今考えると、ちょっと強引だったかな」とK係長は笑うが、「でも今は、正しい決断だったと思っていますよ」と話す。
この時点から、自身の目と信念で部下を育成してきた昔気質の残るK係長による、新入社員Mさんへの指導教育が始まった。
入社して2ヵ月後、車の免許を取得したMさんから自家用車通勤の申請を受けたK係長は、自分で実際に同乗して運転技術やマナー、バック駐車の確認など、自分の目で確かめてから自家用車での通勤許可を与えたこともあった。
また、仕事中の指導やフォロー、休憩時間の過ごし方やその様子などについては、姉役のベテラン社員を配置し、メンタル面を中心とした支援体制をつくるなどじっくりと指導してきた。

(3)配置転換
Mさんが入社当時から従事してきた外観検査・員数確認の作業の大半が、海外工場へ移転することになった。
海外工場を持ち、グローバルな事業展開をしている企業では時々あり得る事ではあるが、彼女は入社3年で別の作業・職場へ変わらざるを得なくなった。
新しく担当することになった作業は、試作品関係の倉庫業務、即ちパソコン入力をしながら製品の員数チェックから、梱包・ビニール袋詰を経て、出荷処理までの一連の作業と端数品の受払・在庫管理であった。4人の担当者の1人となった。
作業の内容や方法が変わり、多種少量の製品を扱う上、出荷処理された製品はそのまま海外工場へ空輸し使用されるため、正確さが要求される責任の重い仕事である。
仕事とともに職場が変わったこともあり、声をかけても返事がないなど、しばらくは沈んでいたように感じられたMさんを、自身も配置転換で他部署に移動したK係長は、新しい担当係長と相談をしながら見守っていたが、姉役のベテラン社員との交際にも助けられ、見事に自力で乗り切り、今では安心して任せられるレベルにまで成長し、それに伴い、更衣室やクリーンルームの中で周囲に元気よく挨拶するなど、本来の明るさを取り戻し、皆に好かれるMさんに戻った。
(4)知的障害者雇用機会の拡大
“ニッパツグループ”の「可能性への挑戦」という方針に基づき、当工場では、障害者雇用については、通常の職場に配属して仕事に就いてもらうことを基本に、肢体不自由や内部障害を中心とした身体障害者を雇用してきた。
この取り組みは、企業の社会的責任や地域貢献の視点から、障害の有無にかかわらず共に働くという最もノーマライゼーションの実現にふさわしい雇用政策を採ってきたことによるものであり、「健常者と同じ環境で、同じように働き、十分に能力を発揮してもらい、自立した社会生活を送ってもらうために働く場を提供する」という考えに基づいている。
そしてさらに、ISOの認証取得への取り組みや最近の社会環境の変化・企業の社会的責任の果たし方など、企業におけるCSRの変化の動きに合わせ、障害者雇用について新たに取り組み始め、業務を見直すことによって新しく知的障害のある人にも就業の場を提供できるようにし、雇用の拡大を実現した。
そのひとつが、通常の職場での雇用であり、Mさんのように、通常の職場の中で能力発揮できる環境をつくり、働いてもらう方法である。
もうひとつの取り組みは、「特例子会社営業所での雇用」であり、株式会社ニッパツ・ハーモニー駒ヶ根営業所への清掃業務の委託という、新たな取り組みである。
通常の職場での作業が困難な知的障害のある人に対する共働による軽易な繰り返し作業の提供は、雇用率の安定維持と知的障害者の就業の拡大という社会的ニーズに応えるという面から取り組んできた。
3. 特例子会社営業所の設立
2002年3月に親会社日本発条株式会社のある横浜市金沢区に設立した特例子会社「株式会社ニッパツ・ハーモニー」は、横浜事業所(本社)、厚木営業所に続き、2005年4月に駒ヶ根営業所を開設し、駒ヶ根工場における作業現場、会議室・休憩室・廊下・ロビー・食堂・トイレなどの共用スペースの清掃を請け負っている。
清掃作業の方法や手順のほか、雇用管理、日常指導等については、すでに横浜事業所で培ってきたノウハウを準用し、知的障害のある8人の社員に対し、スタッフ指導員3人が専属で指導にあたってきた。
障害者民間委託訓練やトライアル雇用制度などを活用し、じっくりと彼らの個性や特性を見極めての指導・管理により、入社後1.5年余が経過するが、すっかり戦力となり自分の担当作業を確実に遂行し、休務者の代行も交叉訓練によりすでに習得している。

4. 取り組みの内容
(1)駒ヶ根工場の場合
当工場で勤務するMさんに対する配慮・工夫は以下のとおり。
1)作業内容の設定
製品の員数確認・外観検査、梱包、受払いおよび現品管理
2)指導のポイント
雇用当初から仕事に対する意欲は高く、積極的であり、理解力や社会生活力も高かったため、特別に配慮した点は少なかったが、次の点は意識して指導に当たった。
①「ゆっくりでいいから、確実に身につけるように!」
②「周囲から好評になっている“元気のよさと明るさ”を忘れないで!」
③職場が変わったときを中心に、メンタル面でのフォローアップ。
3)指導体制
①作業の内容・方法や部下の指導育成に精通しているベテラン社員に、障害者のことを学んでもらったうえで、できる限り他の社員と同じように指導し、一人前として接する指導体制をとっている。
仕事を熟知しているベテラン社員に対しては、社員は誰もが尊敬の念を抱き、厳しい品質管理やコスト・納期管理を実践している現場で仕事に取り組む先輩を見習うようになる。
②K係長の長年にわたる部下指導の経験が、養護学校からの実習受け入れを通じて実習生の持っている能力や素質を把握し、採否の決定やその後の指導方法の策定に生かされている。
職務と、それに必要な能力や資質を把握している社員による適切な判断と、様々な特性の社員を受け入れ、訓練や指導により戦力化してきた経験が活かされている。
③職場生活についても気配りが行き届き、自分の持ち場や存在感を自覚させるような配慮や、人事・総務部門に所属する障害者職業生活相談員との適切な連携体制が随所に見られる。
(2)特例子会社「株式会社ニッパツ・ハーモニー駒ヶ根営業所」の場合
1)作業内容の設定
当工場内及び共用施設の清掃
2)指導のポイント
横浜事業所等で培ったノウハウやコツを基本に、作業管理や雇用管理、日常指導や動機づけ等に固有の工夫をしている。
①目標の掲示


②作業スケジュールの掲示

③作業手順書の掲示

3)障害者支援機関との連携
知的障害のある社員の動機づけや定着のための生活指導には、地域ごとに設置されている県の障害者総合支援センターとの連携を採用時から続けており、就業支援ワーカーや生活支援ワーカーとの情報交換・協働指導を行うほか、家庭訪問を依頼するなど、生活面での支援ニーズの把握やその実行にあたって地域にある社会資源が有効に活用されている。
5. 今後の展望
“ニッパツグループ”共通の“地域への貢献”という視点が障害者雇用にも向けられた結果、“適材を適所に雇用する”取り組みに至っている。
障害者個人の持っている能力に応じた雇用の場を提供し続けるために、駒ヶ根工場に続き、現在、近隣の伊那工場でも知的障害者向けの仕事の確保や委託を検討する動きが急ピッチで進んでいる。
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