勤務形態を在宅勤務に変更することにより、雇用の継続を図る
- 事業所名
- 株式会社ワイケーデザインリンク
- 所在地
- 静岡県島田市
- 事業内容
- 自動車部品設計
- 従業員数
- 95名
- うち障害者数
- 2名
※平衡機能障害のある社員を「聴覚障害」として計上障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 1 設計(CAD) 肢体不自由 1 設計(CAD) 内部障害 0 知的障害 0 精神障害 0
- 目次

1. 事業所の概要
矢崎グループの小会社として、2000年に矢崎計器株式会社メータ開発設計センターから分社し設立した当社は、自動車用計器、部品の設計開発を中心に、2次元・3次元CADによる設計、照明シミュレーション・熱シミュレーション解析など、コンピュータを使った高度の技術を駆使した業務を展開しているほか、自社製品の開発も進め、そのための人材育成にも力を注いでいる。
創業時に、親会社から「これからのIT業務は、ハコにこだわらない雇用も検討されるべき」というアドバイスもあり、1箇所集中勤務から、多様な就業形態を模索していたが、障害者雇用の経験はなかった。
企業規模の拡大に伴い障害者雇用を検討し、ハローワークやIT関連職業講習機関等との相談や受講者の紹介もあり、2006年に平衡機能障害のある社員と下肢障害のある社員の2名の採用を決定した。

2. 在宅勤務への変更の経緯
2006年1月、2人をトライアル雇用を経て正社員として雇用した。雇用にあたっては、階段・トイレの補助手すりの設置など必要な整備を行うとともに、新人教育として2次元CAD操作や計器開発に係る専門教育を行ってきた。
平衡機能障害のあるMさんは、機械工学系大学を卒業しパソコンスキルの基礎があるため、比較的短時間で実務を習得し業務に携わってきた。採用が決まると自動車免許を取り、しばらく自動車通勤をしていたが、採用後半年経過した頃から平衡機能が悪化し、通勤困難のため休みが頻繁となり、連続の休みが一ヶ月となるに至って、本人から休職の申し出が出された。Mさんのモチベーションや技能、資質を評価していた当社は、貴重な人材として何とか勤務を継続させる方策はないか、真剣に考えた。
その結果、Mさんの事情が通勤困難であることから、創業時からの課題であった在宅勤務を選択、本人はもとより社内関係者の協力を得て相談や検討を重ね、実現に向けて取り組んできた。
3. 取り組みの内容
当社がMさんの勤務形態を在宅勤務に移行するにあたって取り組んだ内容は、以下のとおり。
(1)職務設定と必要器材の導入
開発グループの一員として、パソコンによる設計開発を中心とすることで、必要な専用機器、ソフトの導入等を進めた。
(2)機密保持の検討
設計開発業務の性格上、仕事内容が外部に漏洩することは重大な問題となることから、相互の情報管理について対策を検討した。
(3)就業規則の改正
在宅勤務に必要な勤務時間等の労務管理や安全衛生の確保などについて、労働基準監督署からの指導も受けながら、就業規則に必要な条項を加え、細則も作成して法令上の条件を整備した。
(4)就業環境の整備
在宅勤務の場合、家屋の私的な部分との隔離が必要であったが、幸い家屋に余裕があったため一室を独立して確保し専用機器を設置するなど、就業場所としての環境を整えた。
(5)必要経費
設備投資については、障害者雇用助成金を活用しつつ当社が負担したが、日常の通信費用(電力料)の把握は困難なため、在宅手当として支給する制度を設けた。現在は、必要な電力量を算出するため、一定期間計測器を設置してデータを収集している。
(6)勤務時間の設定
勤務時間は原則として社内規定が準用されるが、当社はフレックスタイムを導入していることもあり、勤務時間はMさんに一任した。現在は、社外から利用できるグループウェアのタイムカードにより出勤、退勤を毎日把握している。
(7)連絡方法
通常の業務連絡、指示、報告(日報:予定・結果等)などはインターネットで行われている。設計開発業務という仕事柄、設計仕様の細部の打合せや、指示、図面のやりとり、技術指導などのため、毎週定期的に開発グループの社員が直接連絡を行うほか、管理者が必要な情報の交換に訪れている。
当社と自宅間の所要時間は車で20分程度であることも在宅勤務導入に幸いしている。
(8)指導
日常の指導は開発グループの社員がMさんの自宅に出向いて定期的に行っている。
「解析」の基礎的な教材は当社が購入しMさんに貸与しているが、技術が日々革新されている時代、高度で膨大な技術スキルの向上は、Mさんが自らの課題として図書館に通うほか、インターネットなどで資料を収集して勉強をしている。最近は、当社の指導により「CAEの基礎知識」というeラーニング講座を受講した。
4. 取り組みの効果(障害のある社員のコメント)
以下は、在宅勤務するMさんからのコメントである。
在宅で業務を開始して数ヶ月です。いま三次元CAD作業-部品の強度解析に挑戦しています。指導のために何回も足を運んでいただいたり、解析の基礎的教材の購入や新聞連載資料をまとめてもらったり専門用語の理解などに大変役立っています。
在宅で仕事を始めると、社内で業務を進めるのと違い、不便なことが出てきます。
例えば「日報」です。最初の一ヶ月は、締め日後の出社日にまとめて提出していましたが、これでは管理者が日々の確認ができないといった問題がありました。
二つめは「データの受け渡し」です。グループウェアのメールを利用しましたが、大きなファイルは送信できないといった問題がありました。
相談の結果、会社サーバに専用のフォルダを用意してくださり、インターネットを使って、社内にいるのと同じような感覚でファイルのやりとりや、日報記入・閲覧ができるようになり、これらの問題は解決しました。
社内では毎月グループのミーティングがありますが、私は参加できません。グループウェアのメールで届く議事録を読むだけが現状です。業務の打合せや指示はメールと電話だけでは十分ではないので、たびたび自宅に来ていただいています。これらの点については、Web会議システムの利用の検討など、不便を解消する方法を探していただき感謝しています。
今後の自分の課題は、解析スキルの習得です。これは自分で様々な方法で勉強していくことが大切だと思っています。
仕事をあきらめかけたこともありましたが、たくさんの方のご支援があって、今後も仕事を続けられると思います。困っていることは遠慮しないで相談することが大切だと思っています。

5. さいごに~在宅勤務への提言~
(1)今後の展望
スキルアップを図るための組織的な支援や具体的方策については、現在、手探り状態で、今後どのように展開していくかが課題である。
在宅勤務に変更してから3ヶ月が経過したが、データ等の納期、品質管理には満足している。心配なことは唯一「健康管理」と当社は所感している。
今後も、当然心配なことは次々と出てくるが、その都度、ひとつひとつ問題を解決していく当社のスタンスにおいて、在宅雇用を選択したことには積極的に評価し、今後も前向きに取り組む意向である。
条件さえ整えば一般社員も在宅勤務が可能となる環境を整備することも検討している。
(2)在宅勤務への提言
在宅勤務は、障害者にとって今後大きな活躍の場としての可能性をもっており事業所にとっても働く障害者にとってもメリットがある選択肢として、今後も拡大が期待されている。
当社はMさんの仕事については、設計段階での短納期対応や開発経費削減に寄与していると評価している。
在宅勤務に取り組む場合、本人と事業所、またそれらをつなぐコミュニケーション手段の確保、行政上の制約など課題は多いが、決して難しく考えず、ひとつひとつ解決する方法があることを、当社の取り組みは示している
今後さらに制度上の改正や実践の蓄積が加わって、多くの、多様な事業所に導入の輪が広がることが期待されるが、何より一番大切なことは、技能スキル向上に対する組織的支援と本人のモチベーションの維持、健康管理であることも当社は教示している。
中島 義夫
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