障害者と共に学び職場定着を図るとともに、障害者雇用以外でも地域に貢献
- 事業所名
- 扶桑工業株式会社
- 所在地
- 滋賀県長浜市
- 事業内容
- 産業用機械部品の精密加工、アルミダイキャスト鋳造から加工・組立・塗装・試験までの一貫生産
- 従業員数
- 290名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 3 ソフト開発、エンジン部品技能工、油圧部品の研磨 内部障害 2 油圧部品の仕上げ・組立 知的障害 1 出荷 精神障害 0
- 目次
1. 事業所の概要
(1)概要
滋賀県北部、湖北地域にて1962年5月に創業した当社は、自動車部品やディーゼルエンジン部品等の製造を始め、以後、新規工場の建設を経て、建設機械部品や産業・農業機械部品等分野にも進出し現在に至っている。
また、2001年にはISO14001を認証取得、2004年にはISO9001を取得し、品質管理ならびに環境保全の体制を整備・確立した。
(2)社員教育
「企業は人なり」という言葉があるように、「企業は人の考え方と行動」であり方が変わってくると考えている。毎年、全従業員を対象として、企業の考え方についての研修会を開催している。
単に押し付けるだけの教育では「求める姿」へは到達できない。モノづくりの企業にとって、実践が一番であることから、OJT教育は人材育成の基本であり重要である。
また、教育する側、受ける側の互いが成長することが「教育」の本来の姿であるとの考えから、当社では「教育」を「共育」という言葉に置き換え、その重要性をより深く感じてもらえるよう図っている。
トップからすべての従業員が自ら学ぶ・育つという意識をもつこと、そしてその重要性や必要性をしっかりと伝え、継続していくことが企業・従業員ともに育つ上で大切なことであり、「これまでも」そして「これからも」変わらないものとしていきたいと考えている。
2. 障害者雇用の考えと現況
(1)障害者雇用の基本的な考え
モノづくりの哲学に沿って、社会に求められる存在であることは広い意味での社会貢献である。障害者雇用についても社会貢献という枠組みのなかで地域に、そして人に貢献をしていきたいと考えている。
(2)障害者雇用の状況
当社は障害のある従業員を6人雇用しており、うち腎臓機能障害のある1人は重度障害である。従業員402人のうち常用雇用労働者は280人で、平成18年6月時点での障害者雇用率は2.39%である。
6人の障害は、内部障害、下肢障害、知的障害と様々であるが、勤続年数では1人を除いて、皆長い。勤続年数の短い1人は、当初派遣社員であったが、仕事の熟達ぶりから正社員に登用した後に身体障害者手帳を取得した。足首にギブスをはめなければ自分の体を支えることが困難だが、6か月の休職期間を経て受障前と同じ部署に復帰している。
新規採用の際には、ハローワークからの紹介を受け採用している。
社内の人間関係については、個々人の違いを認め合うことを何よりも大切にし、「働く仲間」としての意識がともに醸成されており、その仲間意識を機軸として、職場配置やスキルアップ、健康管理といった雇用管理を全般にわたって行っている。
(3)知的障害者の職務
知的障害のある従業員は、現在、何百種類もの部品から仕様にしたがって部品をセットしていく、作業組みと呼ばれる作業に従事している。最終工程ではないため、万が一抜け落ちがあっても出荷までに確認しフォローすることは可能だが、日によって部品等の位置も変わり、定時のトラック便に間に合うよう、段取りとスピードが求められる。この作業は他の従業員と2人で行い、日に800~1,000個を仕上げている。また便は日に5~6便であり、時期によっては土曜日や日曜日も関係ない。忙しい時ほど声をかけ、本人からの投げかけに職場が受け止める。日々のコミュニケーションについては良好に循環しながら作業に従事してもらっている。
3. 取り組みの内容
(1)障害者との「共育」
基本的に障害の有無にかかわらず、「教育=共育」は同一の基準(ニーズ)をもって行い、区別はしないため、マンツーマンやグループで同僚と交じり合いながら、各人が求められる能力を高めている。このような共育の結果、資格を取得した従業員や、役付きの従業員もいる。
(2)障害者職場定着推進チーム設置の意義と成果
職場定着に向けては、職場内の人間関係の調整はもちろん、能力開発のための教育訓練の方法や作業環境の整備・改善など求められる。障害のある人にとって働きやすい職場は障害のない人にとっても働きやすい職場であるという認識をトップから従業員一人ひとりまで共通して持つことが大切である。
障害に対する理解と共感を深め、彼らの職場定着を図る取り組みとして、当社は1986年に障害者職場定着推進チームを設置し、一担当者レベルではなく一チームとして取り組み始めた。半年ほど前の1985年にハローワークからの勧めもあって知的障害者2人を採用したところでもあり、チームとして取り組み始めるには時期的には最適であった。
チームのメンバーは人事担当者及び関係部課長、障害者職業生活相談員とし、初めての知的障害のある従業員に対する職場内の理解の醸成に努めた。
知的障害のある従業員が従事する梱包や箱詰め作業は、決して短い期間で遂行できるようになったわけではないが、係長の指導により間違いの減少やスピードと質の向上が認められた。当時はジョブコーチ制度は存在せず、彼らが一体どこでつまずいているのか?どうすれば作業がやりやすくなるのか?など試行錯誤の中、一担当者が抱え込むことなくチームとしての取り組みによって課題を克服することができた。
その後、1人は生活面でのトラブルが原因で退職となったが、1人は継続勤務により平成14年度に優秀勤労障害者協会長表彰を受賞した。退職は残念ではあるが、事業所ですべてをフォローできるわけではない。定着に向けてはいろいろな課題やトラブルが起こりえるが、その時事業所に求められるものは「懲りてしまわない」気持ちであり、今後の障害者雇用の取り組みが縮小しないよう、障害者職場定着推進チームの存在がある。
(3)職場復帰への配慮
ともに学び・育つためには職場環境の風通しのよさが大切であるが、この職場、部署、現場、班で仕事をしたい、し続けたいと思えるコミュニケーションが原動力となっており、同時に、その原動力は職場復帰の際にも効力を発揮する。
職場復帰に当たっては以前と同じ部署で復帰させるのか、配慮のうえ別の部署で復帰させるのかは、本人・事業所ともに大きな懸案となるが、優先事項は安全面であり、その上で本人にとってうちとけた人間関係のなかの勤務も考慮する必要がある。復帰に向けての話し合いのなかで、下肢障害のある本人は「できるなら、今までと同じ職場で仕事がしたい。扱う部品は重いけれど何とかなるし、何よりも気心の知れた仲間がいることがありがたいから」と希望を出した。障害により身体的に厳しい部分があっても、それ以上に仲間がいること(「企業は人なり」)の重要性が示されている。
(4)加齢に伴う継続雇用への対応
勤続年数が長いということは加齢の問題は避けては通れない。加齢に伴う体力の低下は当然ありえることであり対応が求められる。配置転換につながる場合もあるが、各人の適性により職務を決めていることを考えれば、変更はできるだけせず、何らかの配慮を通じて従来と同じ仕事ができるよう考えている。
配慮を考える際には本人からの申し出を優先したいと考えているが、通路・階段・トイレなど多くの従業員が利用する施設・設備に関してはできるだけ使いやすいものにすることを考えている。決して大袈裟には考えず、階段に手すりを取り付けたり、十分に使いやすい駐車場に改修するなど、快適な職場作りの一環としての取り組みでもある。なお障害者専用駐車場は6台分設置している。
(5)障害に対する理解を深める
当社では、4人の従業員が優秀勤労障害者表彰、1名が知事表彰を受けている。表彰に際しては事業所が推薦するため、本人の承諾は必要不可欠である。だからこそ、表彰が自分にとってためにならなければその意義が薄れ、さらに他の従業員にとっても効用があるべきだと考えている。受賞した喜びが仕事に対する自信を深め、今後の勤務意欲を高めると同時に、職場全体の場での受賞報告を通じて、従業員には個人の出来事ではなく職場全体の出来事として感じて欲しい思いがある。その思い(=刺激)が職場を活性化させ、障害に対する理解をより深いものとする。
採用から雇用継続、職場復帰の流れを顧みると、障害への理解があるからこそ定着ができており、逆に定着ができているからこそ理解が深まっている。
ただし、障害への理解は絶対条件ではあっても十分条件ではない。何といっても仕事ぶりが大切であり、仕事を任せることができるかどうかにかかってくる。
4. 環境・地域・社会貢献の取り組み
(1)ボランティア活動
当社は、「環境こだわり県滋賀」が主催するボランティア活動「淡海エコフォスター」に湖北地域企業で最初に参画し、月1回、近くの河川の清掃作業を行っている。社会に対する責任としての一つの取り組みでもある。
(2)障害者作業所への作業発注
1)一部工場内作業の発注
社会が求めていることは「環境」に限ったことだけではない。「障害のある人の就労」に向けた支援も大きな取り組みである。当社での雇用とは別の選択肢として、近隣の作業所に仕事を発注している。
モノづくりの企業にとって、仕事の形態は2種類ある。加工・組立・試験の一貫した生産と、それに付随する軽作業である。設備面、あるいは求められる能力に対応した人的・技術的面から一貫した仕事は社外に出すことは難しいことが多い一方、軽作業は安定した仕事量の確保という面では難しさもあるが、社外でも十分に対応できる内容が多い。ボルトのネジ締め作業においては、数多くの量をこなすのに現場だけでは間に合わず、しばしば事務員等にも作業してもらったこともあったため、検討した結果、作業所内の作業として活用してもらうこととした。
ただし、当社のコストダウンその他の事情により、ネジが締められた状態での部品を購入することによって、現在はこの作業はなくなってしまった。今後は、作業所等の施設を利用している人に見合った作業の提供について考えていきたいが、まずは作業を掘り起こして見直し、検討へとつなげていければと考えている。
2)記念品包装作業の発注
当社にとって2006年は、業績がともなった良い年であったため、記念を兼ねて感謝の気持ちの表現と当社の理念でもある「環境」と「地域」への貢献を図るため、マイ・バック(ショッピング・バック)製作を計画した。レジ袋の代わりにマイ・バックを使うことで地球温暖化防止に効果があると言われている。なお、包装に際しては社団法人滋賀県社会就労事業振興センターを通じて障害者の作業所にお願いしたコラボレート作業となった。
作業所の担当者との相談で、「できること」と「できないこと」を明確にし、袋詰めと表リボン・シール貼り、作業所の宛名メモ入れを作業内容とした。年末の慌しい時期であったが、丁寧な作業ぶりであり、今後の作業委托も考えられる。
障害のある人が「できること」はたくさんあるし、企業が社会へ貢献できる、またはしなければいけないことも決して少なくはない。一つのきっかけになる出来事だった。
緑川 徹
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