ユニバーサル社会の実現を目指して
~障害者の職務開発に取り組むNPO法人~
- 事業所名
- 特定非営利活動法人ユニバース
- 所在地
- 京都府向日市
- 事業内容
- 精神障害者共同作業所・レストラン・玩具販売店・木工作業所・グループホーム等の運営
- 従業員数
- 24名
- うち障害者数
- 21名
障害 人数 従事業務 視覚障害 2 和風レストラン店長・料理長、レジ・フロア 聴覚障害 0 肢体不自由 3 販売指導・一般事務、木工製品の製作・指導、洋風レストラン料理長 内部障害 4 総務事務管理、一般事務、洋風レストラン店長、和風レストラン接客 知的障害 8 紙細工・見本帳作成、木工製品の製作、レストラン接客・レジ等、調理補助 精神障害 4 経理事務、指導員補助・見本帳作成、調理補助 - 目次
1. 法人の概要
(1)設立の経緯
京都市の南西に隣接し、戦後京都や大阪のベッドタウンとして発展してきた人口約5万5千人の向日市においては、平成12年当時は、京都府が全国に先駆けて設置した「こころの健康推進」制度など地域精神保健福祉活動が取り組まれていたにもかかわらず、精神障害者施設が皆無であった。
障害者の社会復帰に際して非常に難しい現実を前に、次のような声があがった。
「立派な(福祉)施設は要らない!小さくてもいい、本当に働ける自分たちの仕事場が欲しい!」それは、ボランティアと共に施設を作ってきた障害者自身の生の声であった。それは、彼らだけではなく、彼らを取り巻くボランティアの共通の夢で目標でもあり、彼らの願いを一から共に実現していきたい気持ちが事業の起業契機となった。
このような状況の中、日本が国際連合に提唱し採択された「国際ボランティア年」の2000年(平成12年)に、精神障害者の社会復帰のための施策企画等に従事してきた「京都府こころの健康推進員」である勢子真司現代表理事を中心とした有志が集まり、行政では対応できないようなボランティアならではの自由度を生かした「こころの健康に関するアクション」を興そうと活動を始め、同年12月1日に当法人を設立、平成16年に障害者雇用に取り組み始めた。
平成18年3月、当法人はNPO法人格を取得した。
(2)理念等
1)法人の理念
最大の理念は、名前の由来でもある「ユニバーサル社会」の実現である。ユニバーサル社会とは、障害の有無、年齢等にかかわりなく、国民一人ひとりがそれぞれ対等な社会の構成員として、自立し相互にその人格を尊重しつつ支え合う社会、すべての人が安心して暮らすことができ、その持てる能力を最大限に発揮できる社会システムのことを言う。
2)活動理念
障害者・高齢者等の社会的弱者とその家族及び関係者に対し、民間の知恵と努力(民力)によって、その利用者が個人の尊厳を保持しつつ、心身とも健やかに育成され、又はその有する能力に応じ自立した生活を地域社会において営むことができるよう支援することを活動理念としている。
3)ユニバーサルカンパニー構想
障害のある人だけでなく、障害のない人にとっても働きやすい、職場環境が整備された事業所がユニバーサルカンパニー構想であり、ユニバーサル社会の基盤となる社会構造を担う事業所組織である。よって、共同作業所や授産施設や福祉工場等が行う事業とは根底から異なっている。
2. 各職場の概要と障害者雇用状況
特例子会社制度の特徴は、障害があっても従事しやすい作業種目や働きやすい環境を備えることにより、障害者を雇用しやすくすることである。その結果、特例子会社が雇用した障害者は親会社が雇用したものとみなされることで、法定義務の障害者雇用率を達成しやすくするといったメリットがある。
ところが、当社では単に雇用率を達成するだけにとどまらない、独特な形態で事業を運営している。
(1)精神障害者共同作業所「ゆうとぴあ・むこう」
1)設置の経緯
当法人の最初の取り組みとして、京都府、向陽保健所、向日市、長岡京市からの指導や精神科・神経科の病院・医院の協力により、平成12年12月に、定員20名の当作業所を設置した。
なお、設置当初は無認可施設であったが、平成16年に京都府・京都市から認可を受け、補助金が受給できるようになり、障害のある従業員を配置した。さらに平成17年4月には総定員35名の京都府下最大の共同作業所となった。
2)作業所の活動概要
本部事務所の3階にある第1作業所の作業種目は、主にフェルトを縫い合わせ野菜や十二支の動物のアップリケを作成する内容である。一方、パソコン事業部における事務処理作業においては、心臓機能障害のある主任指導員が、精神障害や身体障害のある従業員に対し熱心な指導・援助を行っている。
第1作業所から約0.5キロ離れた第2作業所の作業種目は、建設会社や工務店から受注した、壁紙・カーテン地等の材質見本をカタログ帳に糊で貼付する見本帳作りである。精神障害のある従業員が障害のない施設長の補佐をし、利用者に対して作業指導を行っている。


(2)店舗「京・木夢」
平成16年10月に京都市からVIS事業の認定を受け、商業施設「新風館」3階に障害者雇用の店「京・木夢」を出店した。
当店では、平成17年10月に採用した重度肢体不自由のある従業員が、狭いスペースに木製おもちゃを体裁よく陳列するほか、ボランティアをうまく指揮・指導し店頭販売に従事している。
(3)木工事業部
平成16年5月に京都市伏見区で家具工場を賃借、平成17年に建物を当法人の所有として、木工事業部を創設した。当部では木製の食器棚や木製玩具の小物などを製作している。
平成17年4月に採用した肢体不自由の従業員が、平成16年10月に採用した精神障害のある従業員と、平成17年4月に採用した重度知的障害のある従業員の2人に対して、作業手順等の技術指導を行っている。
(4)洋風レストラン「かぐや亭」
平成17年4月に向日市民会館1階に出店した当店は、向日市が指定管理者制度によりレストランの経営を募集した際に採用された。客席数25程の明るい雰囲気の洋風レストランである。
店長以下7人の従業員全員が障害がある。平成17年6月に採用した上肢機能障害のある料理長が、調理補助の知的障害のある従業員に対し、簡単な料理などは一人でできるよう熱心に指導している。
ホール(客席)では、平成16年11月に採用した重度の心臓・腎臓機能障害のある店長が、平成17年7月から平成18年1月の期間に採用した知的障害のあるウェイターやウェイトレスに対して、接客の仕方や料理の出し方、下げ方、片付けなどを懇切丁寧に指導している。
(5)和風レストラン「かぐや庵」
平成18年7月に阪急電車東向日駅前の「ライフシティ」内に出店した当店は、1、2階を使用した客席20程のこじんまりした店だが、改装直後で木の香りも新しく和風の感じのよい店となっている。
店長以下5人全員が障害がある。当初は、平成18年2月に採用した重度視覚障害があるが経験豊かな店長が料理長として、平成18年4月以降に採用した知的障害のある従業員1人とアルバイト数人を調理補助や、接客等を担当する店員としてとしてスタートした。
平成18年10月には、視覚障害のある従業員1人をレジ・接客に、知的障害のある従業員1人をフロア業務に、精神障害のある1人を調理補助者として、トライアル雇用活用後に本採用した。




(6)精神障害者福祉ホーム「メゾン・みやこ」
当法人の関連事業として、平成14年4月に社会福祉法人みやこ福祉会を立ち上げ、京都市南区で当福祉ホームを設置・運営するとともに、重度視覚障害のある従業員1人を管理人として採用した。
(7)各職場における配置・就労状況
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3. 取り組みの内容
(1)採用
各職場での障害者の新規採用については、すべてハローワーク(京都障害者職業相談室)に相談し紹介された人に対して、トライアル雇用を活用しながら人材を見出し採用している。
(2)労働条件
1)賃金
職種と能力により定めている。
心臓・上下肢機能障害等のある店長・料理長の場合は、時間給800円程度に設定。
レストラン関係の職種で知的障害のある従業員者の場合は、時間給700円に設定しているが、能力が極端に低い知的障害のある2人については、最低賃金制除外認定を受け支給している。
なお、賃金としては、基本給の他、皆勤手当、住宅手当、通勤手当を支給している。
2)労働・社会保険
労働保険(労災・雇用保険)については、設立当初に加入している。
社会保険(健康・厚生)については、当法人がNPO法人になったことを契機にして平成18年7月から加入した。
3)勤務時間
実働1日7時間、週休2日制(週35時間勤務)。
レストランでは交代制にしてシフトを組んでいる。体調に不安が見られる精神・知的障害のある従業員には、1日6時間・週24時間といった短時間勤務も設定している。
(3)技能習得・能力向上に関する指導
障害者のための障害者による事業であるが、事業所としての独立採算制が求められるため、障害のある従業員一人ひとり技能・能力向上のための取り組みも欠かせず、特にサービス業としての接客技術の習得が重要となるが、職業経験や業務知識を持つ障害のある従業員が彼らを指導・訓練し、一人前の労働者に育てるよう頑張っている。また、事務系労働者には随時研修に参加させている。
(4)障害特性に対する配慮
1)精神障害
精神障害者は、体調に波があり長時間労働は困難であるため、一日の勤務時間は6時間、週5日勤務としており、かつ体調により随時休暇・早退を認めている。短時間に集中して作業に取り組むことができるので、継続勤務が可能となっている。
2)知的障害
知的障害のある従業員の中には、いくら細かく丁寧な説明を行ってもすぐに忘れてしまうため、毎日同じ説明を繰り返す場合があり、指導にあたる上司は苦慮するが、身につけた作業技能は、実際の業務遂行の上では十分に生かされ、原則を忠実に守り着実に業務量をこなすとことについては障害のない人以上ともいえる。また、職場に参加し業務に貢献することによって一人前の賃金を得ることは、彼らにとって大きな喜びとなっている。
なお、業務に持続して集中することが困難な従業員に対しては、1時間に10分の休憩を設けている。
3)腎臓機能障害等
腎臓機能障害のある従業員は、月に1回の通院、また数ヶ月に1回の大きな治療があるため、数日休むことがある。また他の障害についても、体調の悪化により急に休暇を取ることもある。そのため勤務はシフト制にし、交代要員を確保するほか、業務は何時でも他の従業員がカバーする体制など、彼らが安心して働ける職場環境を整備している。
(5)適性に応じた配置転換
個々の従業員一人ひとりの障害特性等により業務に適・不適があるため、数ヶ月あるいは半年ほど様子を見て、必要があれば、共同作業所より木工所へあるいは木工所からレストランへ、といった他部署への配置転換など、障害特性に応じた仕事内容に特化し、より専門性を身につけられるよう配慮している。
(6)安全管理
厨房機器のうち、制御可能なものは電気制御にして安全性と均一性を維持している。
(7)雇用援護制度の活用
ハローワーク関係では、トライアル雇用や特定求職者雇用開発助成金を受給しているほか、高齢・障害者雇用支援機構(当時)関係では、障害者介助等助成金(業務遂行援助者の配置)、通勤対策助成金(自動車の購入)、作業施設設置等助成金(1,2種)を活用している。
また、障害者雇用報奨金の支給申請も行っている。
4. 今後の課題と展望
障害者自立支援法の施行により、障害者福祉事業の運営はますます困難になってきている中、障害者を雇用しながら企業としていかに持続・発展させていくか、経営者の真価が問われる時代となってきている。障害者が就労できる事業を新規に開拓しながら、これからもますます障害者の雇用促進、職業の安定、自立に向けて頑張っていきたい、と勢子代表理事は強調している。
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