障害のある人と共に働くことで、介護職員の意識と介護のあり方を改革する
- 事業所名
- 社会福祉法人ふれあい共生会 特別養護老人ホーム花嵐(からん)
- 所在地
- 大阪府大阪市
- 事業内容
- 高齢者介護事業
- 従業員数
- 149名
- うち障害者数
- 8名(カウント数は5.5名)
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 1 法人本部にて一般事務 内部障害 0 知的障害 2 特別養護老人ホームにて介護業務 精神障害 5 特別養護老人ホームにて厨房
地域在宅サービスステーションの業務- 目次

1. 事業所の概要
当法人は、高齢者も障害のある人も住み慣れた地域で生活できるよう、「人権・福祉・自治」の芽生える街づくりをめざして、“輝け「人間の尊厳」 示そう「人間の世に熱と光」”を理念とし、1994年11月に設立した。
翌年の1995年4月には、施設を地域に開いていくという法人の方針の中、特別養護老人ホーム・地域在宅サービスステーション花嵐を開設し、以降、1999年4月にはヘルパーステーション、2003年4月には身体障害者デイサービス、知的障害者デイサービス、精神障害者地域生活支援センターを各々開設し、地域の様々なニーズに対応している。
2. 障害者雇用の経緯
(1)作業所との関わりによる障害の理解
当ホームの開設当初は、十分に人材が育っておらず、地域ボランティアの積極的な受け入れや障害のある人の雇用を進めるには至っていなかったが、次第に新しい教育を受けたリーダーが育ち始め、3年が経過した頃、アルコール依存症の人が通うための作業所の立ち上げ場所で困っているという情報が入り、同地域で協力が得られる場所を当法人が間に入って紹介した。
当ホームは、立ち上がったこのA作業所を利用するアルコール依存症のあるメンバー(作業所メンバー)とボランティアや業務委託などを通じて関わりを深めたことで、メンバーたちは「今まで人に助けてもらうことが多かったが、人に喜んでもらえるような社会的に価値のある仕事に就けることは、生きる力になる。」と自信を取り戻す一方で、職員や当ホームを利用する高齢者は、介護の現場で、自然に作業所メンバーを受け入れていった。
(2)施設長の障害者雇用のはたらきかけ
当法人で身体障害者デイサービス事業と知的障害者デイサービス事業を開始した年に、当ホームの施設長は、本格的な障害者雇用の重要性を感じ、障害のある人たちが介護業務に就き、共に働くことができるように、との想いを徐々に職員に浸透させた。それまでの作業所メンバーとの関わりから、介護現場の幹部職員たちは自主的に障害者雇用への道を探り出し始めた。
3. 取り組みの内容
(1)作業所との連携
A作業所メンバーとは、段階的に関わりを持つ取り組みを行った。
①高齢者デイサービスや喫茶コーナーへボランティアとして参加してもらう。
②庭木の剪定作業や除草作業やホットパック等の物理療法をA作業所に委託した。
③ホームヘルパー2級資格を取得した作業所メンバーを当ホームでパート採用した。1日3時間から段階的に勤務時間を増やし、契約職員や精神障害者へのピアサポーターへと雇用の拡大を進めた。
④業者委託していた厨房内作業を直営に切り替え、配食サービスで返却された容器の洗浄や皿洗い作業を、作業所メンバーや地域生活支援センターの精神障害のある利用者に依頼した。
(2)事務職における障害者雇用
平成15年にハローワークからの紹介で、全身性の身体障害のある人を、法人本部の事務職として採用した。介護保険法の改正等で繁忙期が重なり、多忙であるにもかかわらず、継続して勤務している。
(3)精神障害者の雇用
精神障害のある人の雇用については、当ホーム(厨房)で3人と地域在宅サービスステーションで2人、全員短時間雇用の形態で採用している。
4. 知的障害に対する配慮と取り組み
(1)「知的障害者ホームヘルパー2級養成研修」との関わり
1)研修講師の協力
知的障害のある人を対象にしたホームヘルパー2級養成研修(大阪市職業指導センター実施)での講師依頼に対して、施設長が自ら講師を引き受けるとともに、知的障害のある人と触れ合う経験が積めることから、幹部職員を交代で講師として派遣した。
2)実習の受け入れ
①研修受講生の、当ホームでの介護実習とホームヘルプセンターでの同行訪問実習を積極的に受け入れた。
②研修に関わり始めて3年目に、これまでの実習に加え、研修機関から依頼のあった「夜勤業務体験実習」を受け入れた(5日間の特別養護老人ホームでの介護実習のうち、最初の3日間で現場職員が夜勤業務体験実習を行うか否かを評価して実施)。
これらの取り組みを通じて、知的障害のある人と共に介護現場で働くことを職員が自然に受けとめ、どのように職場環境を整え、本人の得意な面を活かした業務を組み立てるかを幹部職員が考えるようになった。
(2)Bさんに対する取り組み
平成17年12月、ホームヘルパー2級養成研修を修了し、自ら応募してきたBさんを介護職として採用した。この頃には幹部職員の意識だけではなく、職員全体に障害のある人の介護現場での就労について受け入れ体制ができつつあり、Bさんの相談相手となり指導を行う担当職員を決めての採用となった。
担当者はBさんと話し合う時間を持ち、勤務時間と仕事内容を徐々に増やしていくことにしている。
Bさんは、社交的で高齢者とのコミュニケーションをとることが得意であるため、認知症高齢者の入所フロアに配属し、6時間半の勤務時間で利用者への見守りやコミュニケーション、身だしなみの介護などから業務を開始し、少数の利用者へのトイレ誘導や入浴時の衣服の着脱や誘導を行い、現在ではさらに業務の幅を広げて一連の業務を行っている。
(3)Cさんに対する取り組み
「知的障害者ホームヘルパー2級養成研修」を受講したが、前職でのさまざまな経験からか、職場での人間関係を含めて仕事に自信を無くし、研修の修了式が近づいても就職活動に今ひとつ踏み切れないでいたCさんに対して、修了式当日に施設長から「うちで働いてみないか」とはたらきかけ、少しずつ自信をつけさせたいとの介護主任の判断で、1日4時間から1カ月ほどの実習を開始し、平成18年5月にはトライアル雇用を行った。
穏やかなCさんは、勤勉で丁寧な仕事振りから、身体介護の必要な利用者が多く入所しているフロアに配属し、フロア主任と副主任がキーパーソンとなり、随時Cさんの相談に乗るとともに、段階的に業務の提案を行う体制をとっている。
勤務時間については、段階的に6時間に増加することで、日勤帯や遅出出勤の経験も増加していったが、トライアル雇用終了後からさらに半年後には6時間半に延長するなど、現在も本人と話し合いながら段階的に業務内容を増やし、勤務時間を延ばしている。
業務内容については、採用当初は環境整備やシーツ交換から始め、次第に配膳や片付け、配茶など食事に関わる介護や、特定の2人の利用者に対する食事介護、車いすを利用しているが立位が可能な2人の利用者に対するトイレ誘導と排泄介護、身体介護を任せている。
なお、身体介護については、2人の利用者から始め、少しずつ介護できる利用者の人数を増やしている。
Cさんの業務内容(平成19年1月現在)
①9:00~16:30
朝食片付け、トイレ誘導・排泄介助、昼食準備、配茶、配膳、食事介助、下膳、入れ歯洗浄、入浴時の衣服着脱・誘導等、ごみ集め、おやつ配り・介助、シーツ交換、離床時の移乗介助の補助、車いすの移動介助、歩行介助
②12:00~19:30
昼食配膳・介助、下膳、片付け、トイレ誘導・排泄介助、居室への配茶(コップ洗浄含む)、洗濯物の居室への配達・タンスへの収納、ごみ集め、手指消毒、夕食準備・配膳・介助、片付け、エプロン洗濯、入れ歯洗浄、離床時の移乗介助の補助、車いすの移動介助、歩行介助



5. 取り組みの効果
難しいことをできるようにするということよりも、まずはできることを伸ばしていく、確実なところを伸ばすという方向性で職員一同が取り組んでおり、今では、障害のある人たちは、現場になくてはならない存在となっている。
Bさんは、フロアリーダーに業務を確認し、わからないことは積極的に職員に質問している。1年以上経った現在もモチベーションは高く、今後も入浴の介護や排泄介護(おむつ交換)を任されるようになりたいと意欲を見せている。仕事が楽しいと感じ、いつも笑顔で挨拶も元気なBさんの取り組み姿勢に職員は刺激を受けている。
Cさんは、以前から興味のあった介護の仕事に就いた当初はいろいろなことに驚きもあり、利用者の名前や部屋を覚えるのに苦労もあった。今後はテキパキと動きながらも利用者の話を聞いてすぐに対応できるよう、みんなから信頼される介護職員になりたいという目標を持っている。
当法人の取り組みにより、就労場面から切り離されてきたと感じている人たちが、就労する場と仲間にめぐり合い、社会復帰への道が見えた時、高い意欲と能力を発揮してきている。
施設長と主任クラスの幹部職員たちは、障害のある一人ひとりに応じた介護現場での受け入れ体制や環境の整備、スキルアップに向けた職員の取り組みが、高齢者へのより良いケアを育み、介護のあり方を探求することにつながると考えている。
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