知的障害者雇用により職場の雰囲気が改善された
- 事業所名
- 株式会社サンライズ
- 所在地
- 和歌山県和歌山市
- 事業内容
- 農産物の物流センター業務及び農産物加工業務
- 従業員数
- 208名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 5 野菜の袋詰め等 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要と障害者雇用の理念
(1)概要
当社は、南近畿を中心に活躍するチェーンストア「オークワ」のグループ会社であり、平成18年に設立25周年を迎えた。
買い付けられた野菜や果物をオークワ各店へ出荷・供給する出荷センターを運営しており、集荷品を加工したり、袋詰めしたりする作業をはじめ、各店からの発注、入荷情報等の情報管理までを一手に引き受けている。
従業員は、情報管理を行う社員10人のほかは、パートや契約社員を約200人雇用しており、交代制として、定温化された農産物を扱い、鮮度管理している物流センター内で働いている。うち5人が知的障害のある従業員である。

(2)障害者雇用の理念
津田兼司取締役専務を中心とする当社の障害者雇用の考えについては、①より良い作業環境を作りたい、②「働きたい」障害者や両親の意思に報いたい、という理念に基づいて取り組まれている。顧客から頂戴した恩恵を社会に少しでも還元するために、率先して障害者雇用を行うべきと考えている。
また、彼らにとって、働く目的とは決してお金のためばかりではなく、社会との接点を求めているという点も無視できない。雇用だけで終わるのではなく、彼らが活き活きと働ける良い作業環境の構築にも取り組んでいる。
障害者やその両親の立場に立ち、現代社会で顧客に貢献できる企業として、障害者雇用についての理念は、今後も色褪せることなく当社内に息づいていく。
2. 障害者雇用の経緯
(1)経緯
当社は、当初障害者雇用を実施していなかったが、10年前、津田専務が、創業者である父親の求めに応じUターンして以後、障害者雇用の機運が社内で高まることとなった。
津田専務は、大学では教職課程を選択し、障害者教育にも造詣が深く、また友人にも養護学校の教諭が多かったので、ハローワークからの「会社見学」や「障害者との交流」の要請を好機と捉え、彼が原動力となり、地道に社内での説得と調整を重ね、初めての障害者雇用を7年前に実現させた。
当社での作業は、農作物の梱包・加工・パック詰め等を行う出荷センター作業が主であり、作業場である物流センターではフォークリフトが走り、扱う機械等の段差もあることから、肢体障害者を雇用する環境が整っていなかったため、知的障害者を積極的に雇用するという方針を採ってきており、現在もこの方針に変更はない。
(2)知的障害雇用により職場の雰囲気が改善
7年前、初めて障害者雇用に取り組んだ当初は、暗中模索の状態であった。職場内でも障害者雇用に対する不安や対処の仕方に悩んだため、匿名の批判投書が届くなど、問題も無いわけではなかった。
しかしながら、最初に雇用したOさんの性格が、この問題を乗り越えさせてくれた。根本的に明るく、いつまでもくよくよせず、またハキハキしているOさんの屈託ないキャラクターが、職場を徐々に明るくしていった。現場作業に従事するパートや契約社員の殆どは年配の主婦や退職後の男性という、平均年齢が高くおとなしい従業員が多く、職場では往々にして諍いが生じてしまうのだが、Oさんの雇用以来、諍いが聞かれなくなった。彼の明るさや純真さが、職場の眼に見えない嫌がらせを消し去る効果をもたらした。
以降、当社は、障害者を採用する基準を、障害の程度とはせず、「明るく、声が大きく、元気でハキハキしている」ことをポイントにするようにした。
当社では、障害のある従業員が明るく楽しく働く姿を見て、パートや契約社員も楽しく仕事を行い、また、お互いが得手不得手を分かち合い、助け合って仕事に取り組んでいる。

3. 取り組みの内容
(1)労働条件
障害のある従業員の雇用形態は、有期雇用の契約社員である。給与はパートや契約社員と変わらず、一日4~8時間の労働時間で個別契約しており、法の基準どおり社会保険や雇用保険に加入している。労働契約の期間は1年間であるが、働く意思を見せてくれる間は、継続的に自動更新をしている。
なお彼らの中には、今日の仕事に納得したら「帰ります!」と言い帰ってしまうこともあるが、敢えて当社の規則(何時間出勤せねばならない)といった枠にはめることはしていない。枠にはめることで、彼らの明るさが無くなってしまうことが最も良くないことだと考えているからである。その一方で、管理職であるセンター長が、従業員の担当作業をコーディネートしており、業務上大きな支障は見られない。
(2)面談
当社では、採用当初から「どのような仕事がしたいか」「仕事をする上で困ったことはないか」などについて、定期的に他の社員と同様に面談を行ってきている。なお、今年から障害のある従業員の面談については、家族等を交え三者で行っている。これは、社会の荒波に出ている彼らが事件に巻き込まれないための予防的な措置であり、親と当社が協力し彼らの働きやすい職場を目指していくためのものである。また当社としても、面談の場で親の意向や考え方が理解できるため、障害のある従業員を理解するには重要な機会である。
彼らに「昨日怒られたから、絶対今日は会社に行きたくない」ということがあったとしても、親と当社との積極的で緊密な連携により欠勤を防止することができる。
(3)パート等による対応
現在、5人の障害のある従業員が働く職場は、全部でほぼ40人のパートや契約社員が働いている。8人のグループの中に彼らが一人ずつ入って作業に従事している。
パートは彼らにとって、職場でのお母さん役であり、当初から自主的に創意工夫を持ち彼らに仕事を教えていくこととなった。かつて手話の必要な障害者がインターンシップとして実習を受けた際には、上司が指示せずとも、自主的にわかりやすい絵を描いて、重要なことを教えた。
パートの多くは障害のある従業員と同じ世代の子どもを持っていることもあり、一生懸命に頑張る彼らに対し、熱心に関わりを持とうとしている。また彼らも、パートを信頼し、常に明るい態度で接している。
このように現場のパートや契約社員は、彼らとの付き合い方について自主的な経験を積んできており、新しく障害のある従業員を雇用しても積極的に受け入れることができる。
(4)OJTで繰返し説明
職場では、配属した障害のある従業員に対し、ルールを繰返しわかりやすく説明している。例えば、「作業の後は、このように手洗いをするんだよ」、「この作業着を着ないとお部屋には入れないんだよ」と、常に横で作業するパートが、わかりやすく、適切な場面で繰返し教えるため、彼らは容易に職場のルールを理解することができる。
(5)相互に助け合う作業現場
知的障害のある従業員のできることやできないことについては、パートが全員把握した上で、適切と考えられるフォローを熱心に行う一方で、適切な作業分担により彼らからも支援を受けている。
現在彼らは、ジャガイモやたまねぎ、トマトの袋詰めや選別、ダンボール詰め、ダンボール移動、葉物野菜の洗浄と移動などをパートや契約社員とともに行っている。袋詰めや選別などは、単純であるが根気が必要であり、周りのパートが彼らに積極的に声をかけるなどのフォローを行っている。
その一方で、女性のパートや老齢の契約社員には厳しいジャガイモの入ったダンボールを運ぶ作業などは、力のあるOさんらが積極的に引き受けるなど、職場内での助け合いによる役割分担が適切に行われている。




(6)勤務外でのフォロー
職場の先輩であるパートや契約社員は、面倒見の良い人が多く、退社時には途中まで一緒に帰るなど、仕事を終えた後も自主的に彼らへと関わっている。また私的な面でも、初任給が出た従業員が携帯電話を購入し使用したが、高額な通話料を請求され苦しんでいたところ、母親のように丁寧にわかりやすく指導し対応したことにより、以後、そのような問題が起こることがなくなった。
(7)家庭との連携
障害のある従業員の両親は、我が子の仕事に対し一生懸命応援しており、当社まで定期的に電話で連絡したり、勤務状況を見に来社している。我が子の行く末を心配する両親に対して、当社は積極的に連携し協力していきたいという気持ちを持っている。
4. 今後の展望と課題
(1)障害者雇用の拡充
平成18年は、知的障害のある高校3年生3人を春に採用する計画である。彼らは既に現場実習を終え、年明けには具体的な作業などの打ち合わせを行う予定であり、春には障害のある従業員は8人となる。
将来的には10名以上にまで障害者雇用に取り組む意向である。職場での検証を進め、職域を開発することで、これよりさらに多くの障害者雇用も可能と考えている。
(2)職域の拡大
職域開発へのトライとして、春には衛生管理を必要とする職場、例えばカット野菜や生肉を扱って加工する職場に、現在の5人のうち数人を転属する予定である。
食品加工の職場では、包丁やスライサーなどの回転刃など鋭利な加工器具があり、些細なミスから労働災害が起きる懸念もあるため、当初は調理加工品を計量したり、丁寧に盛り付ける作業に従事することから始め、パートを主体にマンツーマンで作業指導を行うことにより、無理せず新しい職場の作業に慣れてもらうことで、決して災害が起きないような配慮を考えている。
ただ現在のところ、ひとつだけ懸念がある。衛生管理を必要とする職場では、帽子をかぶり、マスクをし、殆ど目しか出せない作業環境であるため、コミュニケーションに関して障害のある従業員の表情を見ることができない。業務上の注意や指導などを行った際の、彼らへの負荷の度合いが正確に読み取れない可能性があり、適切なフォローを欠かないようにすることがこれからの課題になる。休憩時間や昼食時を一緒に過ごすなど、職場ぐるみで対処することにより、解決を見込んでいる。
彼ら個別の能力に見合った職務を開発し、今後できる限り積極的に障害者の職域を広げていきたいと考えている。
(3)障害者指導のノウハウを活かせる職場に配属
春に入社予定の新入社員には、今まで先輩がいた職場に配置する予定にしている。新しく社会に出た彼らがやる気を失わず、労働する喜びを強く感じられるよう、周りのパートや契約社員が今までの障害のある従業員との緊密な関わりで培われたノウハウを実践できると判断している。
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