バラエティのある作業内容と習熟による達成感が職場定着を促す

1. 事業所の概要
紀ノ川農業協同組合(以下「農協」)の関連会社として、農協の集荷した産品の小分け作業、加工作業、消費者などへの発送作業を手がけている当社は、紀の川市中心部から北上した山の中腹の整備された農道に面しており、農協直売施設「ふうの丘」に隣接して事務所と作業場を設置している。
元々、農協の一部門であったが、現在の作業を別会社として行うべく、平成4年9月に独立した。従業員36人のうち障害のある従業員10人(知的障害8人、視覚障害1人、肢体不自由1人)が、自然に囲まれた環境の中元気に働いている。
障害のある従業員のうち、退職した人は3名。半分以上が長期勤続している。平成17年度には、最も長期間勤続している2人が、和歌山県及び和歌山県障害者雇用促進協会が主催する「優良勤労障害者表彰」を受賞した。

2. 障害者雇用の経緯
(1)障害者雇用までの経緯
当初は、農協に養護学校から実習の申し入れがあり、これを契機に3人の障害者を雇用した。この後、当社が農協から独立した後も、折りに触れ養護学校との交流を深め、継続的に障害者の採用を重ね、現在、22歳から52歳までの障害のある従業員が働いている。初めて雇用した3人のうち、1人は中途退職したが、2人は17年間にわたり勤続し、リーダー的な仕事までこなしている。
(2)障害者雇用に対する姿勢
障害者雇用を社会の一員として当たり前のことと考えている当社の姿勢として、障害者としてではなく障害のない従業員と区別無く対応している。
社長は、平成13年に現職に就任後、彼らを一般の従業員と考えて接し、また彼らが他の従業員と馴染んでいけるよう、ともに汗を流して働きながら日々努力を重ねている。彼らを特別扱いせず職場の仲間として一緒に楽しく働いていける環境を、職場全体が作り上げている。
3. 取り組みの内容
(1)労働条件
賃金は日給月給制であり、和歌山県の最低賃金相当額の従業員は何人かいるものの、最低賃金の適用除外を受けている従業員はいない。
労働時間は9時から昼1時間の休憩を挟み、17時までの7時間である。社会保険には全て加入している。
昼休みには、他の従業員とともに食堂で昼食をとった後、楽しく談笑をする光景がよく見られる。通勤は、社長自らが専用の送迎バスで、最寄り駅まで朝晩送り迎えしている。
通勤を除けば、障害のある従業員は、他の従業員と何ら変わらない社会人生活を送っている。
(2)職務内容
1)産品の小分け作業
農協の産物を小分け、加工し、全国の消費者に配送する業務のうち、障害のある従業員は、産物の小分け、加工に従事しており、キウイやミカンなどの果物、ブロッコリーや人参などの野菜を、指定された数量や重量に小分け、計量し、袋詰めした後、ベルトコンベアに流し集めていく。
①バラエティのある作業内容
農協からの作業指示書が示す通りに、作業場に届けられた採れたてで新鮮な産品をパックに小分けし、ベルトコンベアで流していく。発送先である全国の生協や学校、その他共同購入先など多数にわたる消費者が指定する数量や重量に産品を小分けする作業は、非常に煩雑である。そのため、一日の作業内容はバラエティ豊かに変動する。最短では10分で小分けが終了する産品もある。この作業を効率的にこなすため、彼らを含めた小分けチームは、いつも活気と緊張感に溢れた作業を行っている。
なお、作業内容にバラエティが見られることは、障害のある従業員が集中力を切らさずに作業に取り組むことのできる要因となっている。


②作業指示
多品目に渡り細かい文字で書かれた一日の作業指示書を、障害のない従業員が1品目ずつ大きな字で書き直し、リーダー格の長期に勤続する障害のある従業員の前に貼り付け、小分けチームに作業指示を出してもらう。彼はその出荷指示を見て、全体の数量を把握・カウントし、大きな声でチーム全員に「あと何個!」と掛け声をかける。



③計測や選別方法の習熟により達成感を付与する
障害のある従業員が受け持つ作業の中で、はかりを用いた計測や不良産品の見極めは非常に難しい内容である。
小分け作業では、作業指示書によって指定された数量と重量に産品を小分けする際に、はかりを使って産品を指定された量目に合うよう組み合わせていくことが求められる。また不良産品は、この段階で混入することのないよう選別して省かねばならない。
当初はなかなか上手くいかないことが多いが、彼らの母と同年代の障害のない先輩の女性従業員の適切な指導とコミュニケーションにより、数量の重さ感覚や不良品の選別基準について徐々に習熟が進み、早ければ一年で計測がマスターできるようになる。
また、農協職員から不良産品のアドバイスがあるときには、チーム全員が聴講し、不良産品の選別技術を学んでいる。先輩の従業員は、共に聴講した仲間として、適宜、障害のある従業員にアドバイスを行っている。
当初は対応が困難な作業内容ではあるが、習熟して確実に遂行できるようになることで、障害のある従業員においては達成感を持ち、さらなる意欲をもって作業に取り組むことができる。

④季節感のある作業環境
小分け作業において、採れたての匂いのする活き活きとした産品を直接手に取り袋詰めする際、産品の匂いや色彩、手触りは、それぞれ臭覚、視覚、触覚を通して、季節感として障害のある従業員にも良い影響を与えていることは大いに考えられる。
2)産品の加工作業
梅干を漬け、干し、水洗いする作業やほうれん草やジャムを作る作業などがある。
梅干しの加工作業は屋外で行うため、冬場は非常に寒く根気がいる作業だが、チーム単位で作業するため、業務への意欲は維持される。
また屋内でほうれん草やジャムなどを作る作業は、地道な内容ではあるが、作る喜びがわかる作業であり、彼らも意欲を持って取り組んでいる。

(3)養護学校の協力
障害のある従業員が自立した社会人となるまで、家族や学校の絶え間ない支援を受けた。特に入社後、小分けや計測作業に慣れるまでの数ヶ月間は、養護学校の先生が、こまめに巡回して指導したことは、作業内容の把握のみならず、精神的な安心も得られ、積極的に職場に馴染む姿勢が見られた。
4. 今後の課題と展望
当社の取り扱う商品は自然産品なので、一時的な豊作・不作が作業量に大きく影響を与えることがある。一方、産品の小分けや加工作業は、消費者の嗜好の多様化に伴い、更に複雑化、高度化していくと考えられ、消費者ニーズに対応するため、「間違いのない商品の小分けや加工」を当社のモットーとしている。
なお、品質の向上に対応するため、障害のある従業員にも産品に対する配慮と努力が求められるが、当社で雇用する障害のある従業員は、既にこのような取り組みに対応できる教育を受け、毎日習熟を重ねている。
①バラエティ豊かな一日の作業内容、②習熟により達成感が図られる職務、③人間の五感を通して満喫できる作業環境により、彼らの職場定着が図られているが、長期勤続により彼らが他の従業員と変わらない充実した社会人生活を送れるよう、当社は今後も努力を重ねていく意向である。
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