教わりたい気持ちと教える熱意が合致して技能習得を実現
~売り場業務に知的障害者を配置~
- 事業所名
- 株式会社たけはら
- 所在地
- 島根県大田市
- 事業内容
- 県内西部地区における小規模スーパーマーケット経営
- 従業員数
- 65名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 3 品出し、発注管理、レジ打ち等 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要
(1)概要
当初は、農協に養護学校から実習の申し入れがあり、これを契機に3人の障害者を雇用した。この後、当社が農協から独立した後も、折りに触れ養護学校との交流を深め、継続的に障害者の採用を重ね、現在、22歳から52歳までの障害のある従業員が働いている。初めて雇用した3人のうち、1人は中途退職したが、2人は17年間にわたり勤続し、リーダー的な仕事までこなしている。
(2)経営方針
「お客様のために」を基本理念に、仕事を通して社会や地域に奉仕することを考える企業として昭和21年に開業。同59年には地元企業と共同でパル店を開設。江津、温泉津にも店舗を持ち、地元密着の経営を心がけている。またセルフチェック(自己査定)制度や業績加給制度を取り入れ、公正な体制を取りつつ、やりがいのある職場づくりに取り組んでいる。
(3)組織構成
従業員65人のうち、知的障害のある従業員3人を雇用。パルに2名、江津の店舗に1名配置している。
2. 障害者雇用の理念と経緯
(1)理念
障害者雇用は7年前から取り組んでいる。当初はバックヤードや雑用などの仕事が中心であったが、コンサルティングで入った現部長が、教育や訓練をきちんとすることで売り場業務も可能と判断し、自ら教育を行った。
売り場業務での接客に対して、部長は「出来そうなことなのにやらせないのはおかしい、誰かが責任を持って教育することができればやってみる事が大切」と話す。
彼らの能力を見極め、特に障害を意識せず他の従業員と同等に接し、熱意を持って教育や訓練をすることで、彼らの自立を最優先にした仕事の提供を考えている。
(2)経緯
7年前に石見・出雲養護学校の紹介で知的障害のあるKさんとMさんを採用した。当時紹介を受けた専務は、障害者雇用援護制度を利用した後、雇用は困難と判断するようなことはしたくない、との考えから、責任を持って長く勤めてもらうために最初80%の賃金でいいならと引き受けた。
その後大型店勤務経験のある現部長がコンサルタントとして来社。社内改革の中で、雑用など簡単な業務を任せられていたKさんとMさんに出会い、1ヶ月ほど様子を見た後、店内業務も可能と判断、本人達のやる気と、そのやる気を感じ取り「やってもみずに出来ないと決めつけるのはおかしい」と部長の責任で教育、訓練を始めた。
平成18年4月には石見養護学校の紹介で採用したWさんは、パル店の勤務希望であったが、同店での教育や訓練は困難であり、江津の店舗であれば部長自ら教育できることを伝え、Wさんのやる気を確認し配属した。
3. 取り組みの内容・効果
(1)売り場への配置
接客業を主とするサービス業で働く障害者の多くは、バックヤードでの業務や雑用、清掃などといった、直接接客する業務にはなかなか入っていけていない。お客に迷惑を掛けないという基本的な対応ができるかできないかというところで、店側は「やってみる」というリスクを避ける。もちろんお客の中には些細なことで苦情を言ってくる場合もある。企業としては利益重視することは当然であり、ひとつのミスが大きなリスクにも繋がる場合もあるわけである。
それに対し、「本人達の人柄が、何とかなると思わせた」と話す部長をはじめとする当社は、知的障害のある従業員に「売り場で働いてもらおう」と決断した。
(2)売り場業務の教育・訓練
Kさんは食品部門、Mさんは雑貨部門で同時期に配属した。当初はやはり障害のない従業員に説明するよりも数倍時間がかかったが、何度も教えていくことで作業を覚え、他の従業員よりも優れた面も確認することができた。
実際、東京から大型店舗勤務の経験を持つ部長と考えが合わず離職した従業員もいた中で、KさんとMさんはいくら注意しても30分後には「部長、これどうするんですか」と聞いてくることに部長は驚いた。2人はいわゆるビジネスマナーにおける報告、連絡、相談が完璧で、純粋で真面目に付いてきた。
軽度の知的障害のある2人の人なつっこさや真面目さを、部長は障害特性してではなく、一人の人間の性格として捉えた。これは2人にも伝わり、教わりたい気持ちを持つ2人と、教える熱意を持った部長とが合致した結果、良好な教育環境が生まれ、成長も早かった。
発注業務においては、当初は品切れが出ることもあったが、それは誰にでもあることである。社長も最初は心配で売り場に見に来ていたが、部長としては当たり前に出るミスとして捉え、そのミスが次に出ないようきちんと教える。2人とも素直にそれを聞き実践する。そして実践したことをこまめに報告する事で問題点や作業忘れ、次への課題もチェックできる。「ほうれんそう」が完璧だからこそうまく回転した。
最近ではジョブコーチといった制度利用も盛んに行われているが、2人については、当社が直接に教育、訓練することでお互いの信頼関係や工夫が生まれている。

(3)発注業務
文字を書くのは苦手で小学生レベルであるが、漢字を読むことはでき、記憶力も良いKさんに、機械による発注業務を任せている。
文字が書けないことへの工夫としては、部長と携帯電話で連絡を取ることで対応している。確認と報告が完璧に行われるので、現在は安心して任せられる状況である。1日に5回程度携帯電話でやりとりしており、どんなに小さな事でも連絡を行うきらいはあるが、部長のノウハウや経験がダイレクトに伝えることもできる。それでミスも少なくなるし、覚える速度も早い。部長を信頼し、教えてもらえる嬉しさや喜びを感じ、さらに努力する。そして経験を積み、今では部長の指示書通りに品出しもできるようになった。これはMさんについても同様で、自分たちでファイルを持ってきて、終わったものから移していくといった2人なりの工夫も見られる。
分業化が進んでいる大手スーパーでは、1人の従業員が管理する品数は約200点で、品出しの指示は場所指定も含めて事細かく書いてある。当社の場合は、1人で1500点程度の品数を管理することになるが、2人とも今では他の従業員よりも完璧にこなしている。部長は「2人とも今では大手に行っても絶対に合格する」と太鼓判を押す。本人達も発注業務を任されることで活き活きと自信を持って仕事に取り組んでいる。


(4)レジ打ち業務
Mさんには、最近レジ打ち業務にも取り組んでもらっている。計算能力は問題ないが、接客中に難しい対応を迫られると、若干パニックを起こす場合がある。しかし、そのような時は、ありのままのMさんをお客に受け入れてもらおうと、ギリギリまで顔を出さないようにしている。これはWさんにも言えることで、「お客さんは必ず判ってくれる」という当社の信念に基づいて行われている。本人のできることを伸ばしていくことが重要である。
このように、最後までとことん面倒を見てくれる上司に恵まれたことが、3人にとって職場定着や能力発揮に大きく影響している。現在部長はコンサルティング業を退き、部長としての手腕を発揮している。「3人は障害はあっても、接客に対して真心を感じます。それがあれば大丈夫」と部長は話す。Kさんも「お客さんに聞かれたことを答えて、親切に教えてくれてありがとうと言ってもらえるのが嬉しい」と誇らしげに話す。
職場における能力発揮のポイント
1.最初からあきらめずやらせてみる
2.本人のやる気と教える側の熱意の合致
3.報告・連絡・相談の徹底と作業方法の工夫

4. 今後の課題・展望等
(1)障害者雇用の拡充
部長は、将来自分がいなくなろうと店長が替わろうと誰が替わろうと、本人達が職場で絶対にいなければならない人材として存在感を持って仕事を続けられるように、責任を持って面倒を見なければならないと考えている。また接客業において障害者の競技大会があれば日本一になって欲しいと話し、その可能性は充分にあると自信も見せる。
当社の教育や訓練の取り組みが、今後の障害者雇用においてジョブコーチ等の制度を利用せずとも社内で対応できる一つの可能性を示している。
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