「いなくてはこまる。みんな大切な戦力だ」
1. 事業所の概要
岡山市の西部に1991年に設立した当社の事業内容は、高圧受配電盤・低圧配電盤の設計製作、制御回路設計及び制御盤設計製作、計装回路設計及び計装盤の設計施工、電気設備工事及び計装設備工事の設計施工、電気制御計装に関する現地調査及び現地改造、コントロールセンタの設計製作であり、主要取引先/富士電機グループ、日立グループといった大手メーカーとの取り引きを軸に、ベテランのスタッフが中心となって非常に安定した事業展開を続けている。
2. 障害者雇用の経緯
精神障害のある人の家族や関係者から「働きたくてもいくところがない、薬の副作用で仕事が続けられず、すぐにクビになる」といった声に、蓮岡精一郎社長夫人である千代子事務長が応え、実習として2人の精神障害のある人を受け入れたことがきっかけである。
実習においては、本人の体調に合わせて働ける時に出勤して働いてもらったが、この方法は現在の実習でも取り入れている。
「この時、障害者をかかえる家族の喜ぶ顔や声を聞いて感激しました。特に母親の気持ちがよくわかり会社にも何かプラスになるのでは、と考え、社長と相談して我が社でも障害者雇用を進めてみようと思ったんです。私共みたいな中小企業には人が来ない、来てもすぐやめてしまうなど、人集めには苦労していました。きっとやってもらう仕事がある。仕事は限られるかもしれないが、会社や社員にとっても役に立つ」と蓮岡事務長は話す。
3. 障害者雇用の状況
（1）知的障害
1）始業前の準備
平成17年9月に、福田晃久さん（39歳）と徳山信子さん（54歳）を雇用した。
2人は、他の社員たちが出社する前から事務所や工場内外の清掃・整備を行っている。2人が前日退社した後で出たゴミなどを収集するほか、徳山さんは事務所内の清掃、福田さんは工場で前日作業において出た不用な材料や運び込まれた機器のダンボール、木枠、ビニール袋などの梱包材料を収集するなど工場内を整備し、始業前にその日の仕事がしやすいよう環境を整える。当社にとって大切な仕事の一つであり、他の社員からも感謝されている。
朝8時半の朝礼には徳山さんも参加する。蓮岡社長らが連絡事項の伝達や安全に作業を進めるよう訓示を行った後、一日の仕事が始まる。なお、朝礼中も福田さんは収集したものをリヤカーに積み込む作業に取り組んでいる。
2）リヤカーによる不用品回収
「リヤカーには免許はいらんですよ。それにうちの工場は車で行く程ではなく、近くに三カ所ありますので都合がいいんです。福田君が1人でリヤカーで工場を回って、不用品などを収集して分別してそれぞれ処理してくれています。職場環境の整備、清掃は基本の基本です。福田君たちの仕事は、会社やここで働く社員たちにとって、とても助かり、いなくてはならないのです。」と蓮岡社長は話す。
福田さんは、リヤカーで三工場を回り、収集し、処理場に運び分別して処理する。まだ使える部材は、それぞれ指定した材料置場に戻す。小さなネジなども丁寧に拾い集める。こうした作業を工場の作業状況を見ながら一日に何度かリヤカーで回る。
「現在は問題なく仕事をしてくれていますが、はじめの頃は、必要な部品や材料もかたづけて、持っていってしまい収集場へ行って探してきたこともあったんです」と福田さんが入社して半年、つきっきりで部品や材料について教えた中藤伸行指導役は笑う。
新規の部品や機器が入荷した日は梱包材が多く時には残業もする。時間に余裕ができた時は、中藤指導役の指示で部品棚の整備などを行う。
なお、福田さんは、前の職場で“いじめ”にあったという。寡黙なため同僚たちに理由もなく小突かれ蹴られたこともあった。「今の会社は皆さんやさしいので長く働いていきたい」と話す。雇用以来、今まで自己都合で休んだことはない。
3）社員食堂の清掃と昼食配膳
朝礼を終えた徳山さんは、社員食堂に向かい清掃と、ゴミ出し、テーブル拭き、茶碗洗い、お湯沸かしを行う。
昼食のお弁当が配達されるとテーブルに並べ、味噌汁やお茶を用意し社員を待つ。「あーおなかすいたよ、徳ちゃんー」と社員が食堂に駆け込んでくると徳山さんは、「お疲れさん」と声をかけ笑顔で味噌汁の入った椀を渡していく。徳山さんは社員の昼食が終わると食堂の片付けをして午後2時～3時には自転車で帰宅する。
（2）聴覚障害
平成17年12月に聴覚障害のある高見恒彦さん（27歳）を採用した。
高見さんは、大手自動車製造工場で働いていたが、リストラで仕事を教えてくれた先輩や同僚たちが次々に退職したことでコミュニケーションがとりにくく働きにくい職場となり退職したところ、当社が雇用した。蓮岡事務長たちは「今まで働いていた大手会社のように給料も払えないが」と心配し、また現場の社員たちは手話ができるわけではなかったが、みな親切に迎え入れたことで高見さんも自然にとけ込み、制御・計装機器の組立作業に励んでいるほか、フォークリフト・クレーンの玉掛けの免許も取得し、当社の心強い戦力として活躍している。
小山 博孝
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