タクシー事業における身体障害者の職域開発
~重度視覚障害者の電話受付業務への配置をきっかけに~
- 事業所名
- 第一タクシー株式会社
- 所在地
- 広島県広島市
- 事業内容
- 旅客運送事業(タクシー・寝台車・貸切バス・乗合バス・霊柩車等)
- 従業員数
- 226名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 電話受付 聴覚障害 0 肢体不自由 5 タクシー乗務・路線バス乗務・電話受付・ 内部障害 0 知的障害 0 精神障害 1 タクシー乗務 - 目次

1. 事業所の概要
(1)概要
昭和43年3月に広島市内においてタクシー4台で創業した当社は、タクシー・寝台車・貸し切りバス・路線バス・霊柩車等の旅客運送事業に取り組み、女性タクシー乗務員による「なでしこキャブ」、車いす専用車、なんでも代行便利タクシー、ペット同伴タクシーなど、地域サービスの向上を掲げて、広範な事業を行っている。
当社の従業員構成は、フルタイム147人、パートタイム・嘱託・アルバイト79人。男女比率は8:2である。
保有車両台数
タクシー | (中型16台、小型25台、ジャンボタクシー5台、ユニバーサルデザインタクシー3台) |
ハイヤー2台、寝台車2台、霊柩車8台
サロンバス2台、マイクロバス15台、中型バス2台、路線バス32台
なでしこcab有限会社:タクシー中型15台
事業沿革
昭和62年 一般貸切旅客自動車運送事業(貸切バス)認可
平成 6年 特殊用車両(寝台車)運送事業、乗合タクシー認可
7年 ハイヤー運送取扱認可
8年 一般貨物自動車(霊柩車)運送事業、一般貸切旅客乗合運送事業(筒瀬線)認可
9年 自家用自動車運行管理業開始
14年 一般乗合旅客自動車運送事業認可
16年 なでしこcab有限会社設立(グループ会社)
(2)基本理念・経営方針
安佐南区の輸送デパート化を掲げ「お客様の心で走る」をモットーに、お客から信頼される足となるように努め、「安心して乗れる車」を目指して、社員一同最善の努力の下、地域社会に貢献することを目指している。
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2. 障害者雇用の考えと経緯
(1)障害者雇用の考え
各人が持っている職業能力を発揮することが、個人の幸せに繋がるものと考えており、働く意欲を持ち、働く場を希望する者に対し、障害の有無で区別することなく、地域企業の使命として働く場を提供して行きたいと考えている。
(2)経緯
電話受付業務は作業が単調であることから、以前から要員の定着率が思わしくなかった。短時間勤務のパート従業員、女性従業員、高年齢者の配置等いろいろと試みたが、結果を得ることができない状況の中で、障害者の配置を試みた。
平成3年に、右前腕切断により義手を着用したタクシー乗務員を雇用したが、その後離職している。
平成6年に、タクシー乗務員Aさんが、突然視神経萎縮により、視力ゼロの視覚障害1級の認定を受けた。Aさんは治療のため一時離職したが、長年のタクシー乗務員の実績と経験があることから、再出発できる職場環境を整え、電話受付業務で再雇用した。
その後、Aさんの資質や仕事に対する意欲と熱意に負うところも大きいが、この再雇用の取り組みが順調に経緯していることから、電話受付業務における障害者雇用の取り組みを進めた。
3. 障害者雇用状況
当社の障害者雇用率は17.24%(平成19年1月現在)。雇用状況は下表のとおり。
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配車指令室(事務所):お客や外部からの電話応答、タクシーへの無線配車などを担当。
路線バス課:路線バスの運行業務を担当。
営業課:タクシーの営業と顧客訪問活動等の業務を担当。
4. 取り組みの内容
(1)視覚障害に対する電話受付業務設定の取り組み
1)奥さんを介助者として雇用
Aさんに対する評価は、それまでの仕事振りから推測でき、業務の知識における課題は小さかった。ただし、視力ゼロという障害から、介助者がいなければ就業することが難しい状況であったことから、Aさんは奥さんに職場の傍らから介助してもらいながら勤務を続けていた。
当社では、Aさんに対する奥さんの介助の様子から、従業員として雇用することが適切であると判断し、平成11年に奥さんを雇用した。
2)障害者雇用助成金の活用
障害者雇用支援制度について支援機関等に相談する中、障害者雇用助成金制度を知り、申請を行った。
障害者作業施設設置等助成金を活用し、電話受信記録・再生装置を導入するほか、Aさんを介助する奥さんの雇用に伴い障害者介助者等助成金を活用するなど、Aさんの再雇用への取り組みを進める原動力となった。
3)電話受信記録・再生装置の導入
視覚障害により電話の受信はできるが記録(記入)ができないことを補完するため、電話受信記録・再生装置(2wayカスタム)を導入することにより、正確な記録や伝言に加えて接客上の指導も行えるため行き届いた管理可能となった。
現在は、タクシー配車システムとの連動により、顧客データを登録してある電話と非通知や新規顧客の電話の呼び出し音を替えて対応している。
(2)職場配置と勤務シフトの設定
Aさんに続いて、新卒採用した重度の上下肢障害のある従業員の配属部署については、移動頻度の少ない業務として、現在、4人を電話応答が主たる内容である電話受付業務に配置している。
また、電話受付業務の配慮として、朝を頂点に昼間は利用客が多く電話も集中するため、4人のうち2人を電話応対の少ない深夜時間帯の勤務にシフトしている。


(3)雇用援護制度の活用
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5. 取り組みの効果・障害者雇用のメリット
(1)取り組みの効果
障害のある従業員が、持てる能力を生かして意欲的に働く様子から、周囲の従業員は障害に対する理解を深め、働く障害者に対する認識を改めることができた。また、彼らの働きぶりは、従業員自身が日々の働く姿勢を省みることにも生かされている。
(2)障害者雇用のメリット
1)電話受付業務においては、障害のある従業員の配置前は定着率が悪く、要員の補充に苦慮していたが、彼らを配置することにより定着率が上がり安定している。
2)障害者の職域開発と雇用管理を体験し、障害者の雇用拡大に実績を上げたこと等に力を得て、これからの雇用管理に自信を持って臨むことができる。
(3)障害のある従業員のコメント
当社に再雇用し電話受付業務に務めているAさんは、次のように話す。
「タクシーの仕事が好きで、この外の仕事は考えることができなかった。会社から、働いて見ないかと声掛けを受けた時の心遣いと気持ちは言い表しようがない。直ぐに仕事に復帰したいと考えたが、視力がゼロであり、単独行動ができない状況の中で、妻を介助者として採用することを提案頂いたことが職場復帰に繋がった。
職場復帰の中で一番の難関は、介助者がタクシー業務についての知識や情報を持っていなかったため、介助者が仕事に慣れるまで苦労した。職場復帰の実現は、介助者自身の努力も大きかったと考えている。
自身の努力としては、市内の地理を知っておくことが必須であり、市内地図を頭の中に入れているが、新しい道路や建物ができたら、その都度同僚の乗務員から情報協力を得て記憶を改めている。また帰宅後は、妻からも地理情報を入手して、日常業務に支障が出ないように備えている。
障害者は、自らが求めて行く姿勢を持たなければ何も始まらない。仕事上で分からないことが出てきたら、分からないままにしておいてはいけない。必ず解決しておかなければ、後で困ることが起きて次第に自信が持てなくなる。」
6. 今後の課題と展望等
(1)課題と展望
障害のある従業員に対する雇用の場が少ない状況であるが、彼らの仕事に対して一生懸命に取り組む姿勢が他の従業員への刺激となるので、今後も積極的に採用していきたく、施設改善等が必要であれば、従業員の働き易い職場作りを進める視点から整備改良して行く考えである。
障害のある人の立場に立って考える気持ちを障害のない人々に持って頂きたいこと。また障害のある人にしか分からないことを意見として発表して頂き、公共交通機関としてきめ細かなサービスに繋げて行きたいと考えている。
(2)障害者雇用を検討中の事業所に対する助言
どのような事業であっても、可能性への挑戦と工夫を重ねて行けば、どこかに雇用の場を作ることができる。障害者雇用に対するトップの決断を社の方針として打ち出し、定例業務の中で取り組む姿勢が大切である。実際に取り組んでみれば、それぞれが持ち場で能力を発揮し予想外の成果が得られる。
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