障害者助成金の活用と配慮の積み重ねにより障害者雇用を推進
- 事業所名
- 社会福祉法人はぴねす福祉会
- 所在地
- 愛媛県新居浜市
- 事業内容
- 老人福祉施設・老人保健施設・訪問介護事業・在宅介護支援事業等
- 従業員数
- 304名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 1 老人介護 肢体不自由 1 一般事務 内部障害 1 老人介護(訪問介護) 知的障害 1 老人介護(デイサービス) 精神障害 1 老人介護 - 目次

1. 事業所の概要
当法人は、平成2年12月に設立し、高齢者の方々への福祉サービスを通じ地域社会へ貢献することを目指し事業を展開してきた。
「私たちは社会福祉事業の責務を自覚し、誠実な行動を通じて質の高いサービスを地域社会に提供することにより安心で豊かな福祉社会の実現に貢献します」との経営理念の下で、運営に対する職員の意識統一を図っている。
現在、新居浜市内に5施設を運営、うち4施設は市街地で、銀行、郵便局、買物等、生活圏の全てが徒歩で可能な場所に設置した。
各施設の事業内容
①若水館(特別養護老人ホーム、短期入所生活介護事業所、デイサービスセンター、介護老人保健施設、通所リハビリテーション、グループホーム、ほか訪問介護事業、居宅介護支援事業、短期入所療養介護事業、一般乗用旅客自動車運送事業)
②プラチナガーデン(通所介護事業所、短期入所生活介護事業所、ケアハウス、ほか訪問介護事業、居宅介護支援事業、在宅介護支援センター、給食サービス事業)
③豊園荘(特別養護老人ホーム、短期入所生活介護事業所、デイサービスセンター、ケアハウス、ほか居宅介護支援事業、訪問入浴介護事業、配食サービス事業)
④はぴねすケアセンター(老人保健施設、通所リハビリテーション、ほか居宅介護支援事業、短期入所療養介護事業)
⑤ケアサポートセンター喜光地(通所介護事業所)
特に若水館は、一施設に老人福祉施設と老人保健施設の双方を持つ大規模な高齢者施設として、新居浜市内中心部商店街「登道サンロード」に設置した。工業都市新居浜市において福祉分野の雇用を創出した意義は大きく、また、地元商店街から調達する食材や物品、町内会費の負担などの面からも、地域に密着した福祉施設として、事業を展開している。
2. 障害者雇用に対する考え
当法人の障害者雇用に対する考え方や取り組みについて、事務局長は次のように話す。
「私共、社会福祉法人の業務は、一言で述べるならば、高齢者の方々のお世話をさせていただくことである。そのため、職員を採用する際、最も大切にしていることは、高齢者のお世話をすることが好きな方かどうか、優しい気持ちを持っている方かどうか、の2点となる。
勿論、積極性、自立性、協調性、指導性等、考慮すべき点は様々有るが、特に障害者であることに対する特別な取組みはしておらず、上記を満たす方であれば、全員同じテーブル上での採用であり、業務遂行であると言っても過言ではない。
100%労働集約型産業である当法人で仕事をする以上、ご利用者をはじめとするお客様との接点が不可避であり、別室の囲いの中で机に向かっての業務と言うわけにはいかない。その点で、私たちは、本人に対して、かなり厳しさを要求しているかもしれない。ご利用者は、職員の対応に不満や不安を感じる場合、その職員が障害者ということで大目に見て下さるとは限らないであろう。そのため、本人には、他の職員に負けない接遇技術等を身に付けてもらう必要があり、私共では、職員全員に対してフェアーな指導を実践している。さらにそれを要求する以上は、給与面でも全てフェアーに対応している。
とは言っても、細かい面で、周囲が本人に対して特別な配慮をしなければならないのは、同じ仲間として当然であるが、その点で幸い、当法人は、思いやりと優しい心根を持った職員に恵まれているように思う。と同時に、本人たち全員が、仕事に対する思い入れや責任感が強く、何より高齢者と接することに喜びを感じているので、その点でも非常に恵まれている。
上司と本人のコミュニケーションが充分図られ、本人への指導面が行届いている場合は、全面的に上司を信頼し任せてあるが、そこに何らかの支障を来たす時は、法人としてサポートをする体制を取っている。
私たちが目指す環境は、志を同じくして、法人の仲間入りをした職員が、ハード面、ソフト面ともに「バリア・フリー」で、力が発揮出来る職場、すなわちノーマライゼーションの実現である。」
「最近、『障害者を特別扱いせず、健常者と同じように接する』という考え方が広まってきていますが、それはやはり違うような気がします。同じことができるならば、それは障害があるとは言えません。ですから形は様々であるにしても、何らかの配慮をするべきだと思っています。」と事務局長は話す。
「配慮は絶対必要であるけれども、その根底には“同じ仲間”という意識がきちんとあります。一番大切な部分は、皆と一緒に同じ職場で働く仲間だということです。」
3. 取り組みの内容
(1)採用
基本的にはハローワークの紹介を受ける形を取っているが、当福祉会の理念に賛同する人から紹介を受ける場合もある。
コンセプトは、あくまでノーマライゼーションの確立である。
受入窓口は福祉会本部であり、責任者である事務局長が中心となって、受入れ体制を整える。本人が当法人において何をやりたいと望んでいるかについて、まず理解する必要があるため、十分時間をかけた面談が不可欠であり、事務局長をはじめカウンセラー経験者が対応している。
(2)配属
本人の自主性を最も重んじ、希望部署を第一優先としている。配属先の如何にかかわらず、障害があっても全員、必ずシフトの中で担当者として業務を任せている。
ただし本人に過度のストレスがかかっていないか、楽しく仕事ができているか等を把握するため、本部、上司、本人の三者間で毎月話し合いの場を設けており、その結果必要があれば転属を含めて敏速に対策を講じている。
(3)聴覚障害への取り組み
1)取り組み内容
特別養護老人ホーム若水館に配属した聴覚障害のある一色剛さんに対しては、会話はお互い顔を向き合ってゆっくり話すようにするほか、重要な内容は紙面で伝える、という二点に配慮している。
伝達事項は基本的に本人にメモで渡し、できる限り口頭は避けることや、本人に話しかける時は背後からではなく正面から行うことなどに気を配っているが、先ず第一に本人が周りに気軽に尋ねやすい環境づくりに上司は最も心がけている。
また、職務に対して積極的に取り組む一色さんから、外部研修受講の要望があれば、尊重して受け入れているほか、受講の際には聞き取り等における支障を防ぐため、必ず職員を同行参加させている。
2)勤務状況
一色さんにおいては、館内放送が聞こえにくい、早口で話しかけられるとわかりづらい等苦労があるが、本人はそれを殆ど意に介さず周りと係わり合っている。
なお、例えば5分間でも空き時間ができると、すぐにご利用者のところへ飛んでいき、ベッド上でのスキンシップを図ったり、また車いすで散歩をさせてあげたり、エネルギッシュに取組んでいる。彼のファンの利用者も多い。受付の熱帯魚の世話についても進んで行っている彼に対する上司の評価も非常に高い。
利用者の役に立とうとする意欲は誰にも負けない彼の責任感は大変強く、周りからの信頼を得ている。より良い介護の取り組みについて、常に自分に問いかけながら仕事をしており、当法人としても将来がとても頼もしい貴重な職員の一人と捉えている。


(4)身体障害への取り組み
1)取り組み内容
下肢障害があり補助杖を使用している堀池育代さんは、若水館1階で、主に事務を担当している。
事務職員に課せられている週末や祭日等の日直業務や、業務上止むを得ない残業等に対しては、負担を避けるため全て他の職員がカバーしている。その他、草引き、窓拭き、大掃除等、職員が一斉に作業に取り掛かる時など、彼女には電話番を任せている。
堀池さんへの数多くの心配りは、職員の間では当然のこととして受け止めており、ごく自然に実行されている。
2)勤務状況
若水館には約10名の事務職員がいるが、堀池さんの電話応対は、最も上手であることから、館内放送等は専ら彼女に任せている。
通常の歩行が困難なため、勤務の上で肉体に掛かる負担がかなり大きいと察せられるが、彼女の強い意志で、オフィスでは車いすではなく杖を使用している。またこの4年間にわたって病気や疲労が原因で休みを取ったことが無い彼女に見習うべき点は多い。
しっかりとした気持ちを持ち、弱い面などは全く周りに感じさせない。彼女への厳しい指導において、こっそりと一人で涙することも多かったようだが、それを乗り越えて、今では上司の大きな信頼を得ている。
通勤は毎日家族の送迎に支えられながら元気に仕事に励んで彼女は、障害をマイナスに捉えるのではなく、自分に与えられた人生の課題として、その中で如何に自分自身を活かし、また社会で活かされていくかを謙虚に考え実践している。


(5)知的障害への取り組み
1)取り組み内容
デイサービスセンター 豊園荘の介護職員である藤田美樹さんに対しては、とにかく楽しくやりがいを感じる仕事を任せてやってもらうことを大前提としている。その上で、彼女を常に傍らで見守りながら、施設長と上司を中心に適宜優しい声かけを行うことにより、彼女と職場との連帯感が保たれている。
上司の彼女に対するお互いに尊敬と思いやりを持った仕事への取り組みが、周りの職員や利用者にとって良い結果をもたらしている。彼女は将来、上司のようになりたいと思っている。
2)勤務状況
養護学校在学時から介護の仕事に夢と希望を抱いていた藤田さんは、あこがれの仕事ができる喜びが身体から溢れている。
デイサービスにおいて、毎日行われるレクリエーションの企画や準備に積極的に関わり、人形劇は全て彼女が担当したこともある。利用者に喜んでいただくため、自分で何ができるか常日頃から考えており、良いと確信したことは自信を持って周りに提案する積極性も持っている。また毎日行っている反省会の場で、一番発言が多いのも彼女だ。
利用者と一対一で話すときが一番楽しいとの彼女の言葉にあるように、社会福祉法人として一番大切なことを実践している。優しく素敵な笑顔が魅力的な彼女が休日の時は、利用者から「藤田さんに会いたい」との要望が必ず上がる。

4. 今後の課題と展望等
(1)聴覚障害
直接利用者と関わる仕事をする一色さんは、後方や横からの話しかけに対して気づかないため、相手を無視してしまったような形になることがあり、利用者やその家族からお叱りを受けたり、本人が気づかないことについて、上司が指摘を受けることもある。利用者や家族に対して障害を理解してもらう取り組みについて求められている。
(2)身体障害
体調管理が難しく、頑張りすぎて熱が出たり体が痛くなるといった変調を起こしやすい職員に対しては、体調管理に関するはたらきかけをこまめに行うなど、ちょっとした変化を見逃さないことが重要となる。
(3)精神障害
人との関わりであるため、ストレスのたまりやすい介護という職務の遂行において、一緒に働く上司が本人からの相談を受け、ストレスの軽減に努めている。
(4)障害者雇用に際しての課題
気になることや嫌なことがあっても心の中にためてしまう職員が多いなか、おせっかいにならない程度のコミュニケーションを図るということの難しさを痛感しながら、いかに上司に相談しやすい体制をつくるかについて検討しているところであり、今後の課題である。
また、障害者雇用は今後も取り組んでいく意向であるが、その際は、障害を特別視せず他の社員同様に接すること以前に、先ずは障害に業務を合わせることを考えるとともに、事業所内の理解を進めることを今後更に徹底していかなければならないと考えている。
5. さいごに
「最近、『障害者を特別扱いせず、健常者と同じように扱う』という考え方が広まってきていますが、それはやはり違うような気がします。」と障害者雇用についていろいろと取り組み体験してきた事務局長は話す。
平等という言葉の下に全てを押し詰めてしまうことは本当の意味での平等とはいえない。彼らができること、彼らにしかできないことを突き詰めて考え、それに基づいて配慮をする。それによって彼らの持っている能力を存分に引き出すことができことを当法人の取り組みは伝えている。
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