第3セクター事業所における障害者個々の能力を発揮できる職場作り
1. 事業所の概要
（1）設立経緯と障害者雇用状況
第3セクター方式による重度障害者多数雇用企業として、平成2年8月に設立した当社は、全従業員36人のうち、障害のある社員15人（うち重度障害13人）を雇用している。
障害者雇用率は、77．8％であり、平成14年には、障害者雇用で厚生労働大臣表彰を受賞した。
（2）障害者雇用の理念
障害者個人の自立心が最も重要であり、障害の有無で区別はしない、自分の生活費は自分で稼ぐことが大事である。
企業側は経営上どれだけ業績を上げられるかが大事であり、努力と研究をしなければならない。また、高度な能力と体力を要求しているが、一人ひとりが自分の能力を発揮し業務に精励してもらうことが必要である。
（3）事業内容
地図情報システム（地図データ入力・都市情報システム・地籍管理システム・道路管理システム・土木設計システム及びシュミレーション・各種データ処理）測量（航空測量・デジタルマッピング・基準点測量・地形測量・地籍測量）地図（各種地図印刷・パンフレット・鳥瞰図・フォトモンタージュ作成・映像制作）を事業としている。
当社が提案する都市情報システムは、高精度の地図をベースマップに、建物・道路・交通などの都市施設情報、都市開発やマーケティング情報、そして気象や地質など、都市に関するさまざまな情報を自由に結合して運用することができ、私たちの都市生活を支える都市計画や防災、管理などの分野で大きく貢献している。
空間モデリングと地理情報システムの独自の技術、高度な航空測量技術と地図作成技術、および最先端のコンピュータ・マッピング技術、情報技術をもって、調査、測量からシステム開発、データベース構築に至るまで、トータルにサポートし、多彩なユーザーのニーズに100％応えている。
また、データベースとして、水道局、都市計画、道路管理センター、森林関係、固定資産に関するデータ構築の受注を行っている。その内訳は現在、官公庁が60％、民間40％である。
（4）経営方針
人々が人間らしい生活を営み、創造的、文化的な活動を行う場として、〈都市〉の存在の意味を考え、そのヒューマンな未来を創造して行くために、地理情報データベースを共用し、多目的・多ユーザーの高度な利用を可能にする統合的な都市情報システムを提案する。
そのテーマは、＜WITH＞。都市経営にあたる行政と都市創造に携わる民間企業、都市に関するパブリックな情報と私企業が開発したオリジナル技術、都市情報の制作者とユーザー、そして健常者と身障者が、そのままに出会い、共鳴・共感したときに生み出される発見と創造の喜びを信じ、したたかな自立としなやかな共生の知恵を持って、人間と都市の持つ可能性を追求する。
（5）組織構成
社内の組織は、代表取締役社長以下、総務部、営業部、情報システム部の3部門から構成されている。さらに、情報システム部は、システム開発課、システム運用課、計測技術課の3つの課から構成され、障害のある社員は、全員情報システム部に配属している。
2. 取り組みの内容
（1）設備環境
1）概要
当社は、人間にやさしい都市づくりをめざすこころをかたちにした1つのモデルとして、身体に障害のある人が何らハンディキャップを意識することなく働けるなど、人間的で文化的な環境を実現し、今後のオフィスや建築、社会情報のスタンダードを提案している。
当社は、その自然の明るさや余裕のある設計、また、車いす利用者に対し細部まで心配りした設計がなされている。「第3セクター企業だから」「障害者雇用企業だから」ではなく、「働く」ことの意味や「人の一日の重さ」を大切に考えた当社の、これからのオフィス作りのスタンダードとしての提案の意味が込められている。
2）具体的な設備・設計
当初から障害者雇用を目的としていることから、施設は平屋で設計している。具体的な設備は以下のとおり。
①廊下・ドア等
廊下は、車いすが余裕ですれ違うことができる幅を確保している。
ドアは、取っ手位置から下の通り抜け幅を広げることで最大限開くことができるほか、自動的に閉まる設計にしている。
ロッカーは、車いす利用者が楽に開閉できるよう取っ手位置を下げている。
②駐車場
車いす利用者のための屋根付き駐車場・スロープが設けられており、駐車スペースも十分に確保している。
③休憩室等の設置
車いす利用者に対して長時間の座位姿勢による褥瘡を予防するため、畳式休息室や、食堂・談話室に畳式休憩スペースを設置している。
④障害者用シャワールーム・トイレ
（2）労働条件
勤務時間は、8：30～17：30。賃金は月給制である。
（3）労働条件
障害のない社員と同じ業務を任せ、職場内で障害に対する意識を持たないよう配慮している。
（4）福利厚生・健康管理
年1回の定期検診とは別に、障害のある社員については年数回、健康相談を実施している。
3. 取り組みの効果
自然に囲まれ、余裕のある、細かな心配りのされた環境の下、障害のある社員と他の社員が全く同じ勤務条件で、それぞれの特性を認識している自然な雰囲気が醸し出されている。また、社員の勤務期間が長いこともあり、良好なコミュニケーションが確率されている。
障害の有無による区別なく、高度な能力や体力を要求する中で、一人ひとりの個性が発揮され職場が活性化されている。両上肢の肘から先に義手を装着しているAさんも、パソコンを使用したデータ処理に携わっている。
障害のある社員は「生き甲斐のある職場で、自分の能力を精一杯発揮できている」と話す。
4. 今後の課題と対策
福岡県で最初の第3セクター方式での重度障害者雇用企業のモデルとして設立された当社は、その役割を十分に果たしてきている。
情報業界も価格競争が激しく、取締役会の下部として官民メンバーによる受注推進分科会を設置し、受注増に努力するほか、企業として経営・事業運営等で中長期の展望を検討し実行に移している。
当面の課題としては、公共事業が減少する状況のなかで受注量を確保しながら、今後民間企業からの受注を60％以上に増やして行くよう取り組んでいく。
また、障害者雇用においては、社員は加齢化のなかで、高度な能力・体力が要求されている。今後、若年者の育成と営業力の強化を図っていく意向である。
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