タクシー乗務員として身体障害者雇用の拡大を図る
1. 事業所の概要
（1）沿革
当社は、大正12年に熊本市にて定期乗合バスを開業、昭和3年には熊本タクシーとして開業した。その後、戦時体制企業合同による交通タクシーとの合併を経て、昭和26年に現在の事業所を設立。
コンピュータネットワーク、クレジットカード決済、介護タクシー事業など新たなシステムや事業を導入し、併せてバス事業、旅行代理業、保険事業、介護事業など事業の多角化・グループ化を図り、現在に至っている。
（2）事業内容
タクシーから大型貸切バス、福祉車両などによる旅客輸送サービスを主とし、旅行代理業、損害保険事業、有料駐車場運営、訪問介護事業などの関連事業を行っている。
（3）組織
熊本市内において、本社では総務事務および保険や介護に関する管理業務を担当し、田迎営業所ではタクシー運行の実質的な管理・配車を担当している、また、平成16年に吸収し事業部化した肥後観光バスについては、上益城郡において御船営業所として運営している。
（4）事業の動向
タクシーの利用自体が落ち込んでいることに加え、燃料代（ガス）の高騰が経営に大きな影響を与えており、タクシー業界は経営的には厳しい時代である。しかし一方で営業成績が伸びている事業所もあり、悪化している事業所との2分化が進みつつある。
熊本市は人口に対してタクシー会社が多い地域であり、70社の法人と、個人タクシーを含め2，700台の台数がある。
過当競争の中で好成績を収めている他社の状況を見ると、単に値引きによるサービスではなく、真に利用者のニーズに応えたサービスが基本となって収益性を高めていることから、当社においてもサービスの質を高めるための社員教育に力を入れているところである。
そのため、当社では、毎月「事故防止」や「接客マナー・会話」などをテーマにした、1時間程度の研修を開催している。
2. 取り組みの内容
（1）職場配置・職務
障害のある従業員9人の配置は以下のとおり。
1）管理職
下肢機能障害4級のある従業員は、管理職として運行管理全般を担当している。業務としては、従業員の管理、配車関係の業務、営業活動などである。
2）タクシー乗務員
8人の障害のある従業員（心臓機能障害1人、他の内部障害2人、上肢機能障害4人、下肢機能障害1人）は、タクシー運転手として勤務している。心臓機能障害のある従業員は身体障害者手帳1級を所持しているが、他の従業員は4級を所持している。
（2）障害者の業務の現状
タクシー乗務について身体障害が業務の支障となったり、事故の発生を招いたり、あるいは利用者から何らかのクレームが寄せられたりといったことはまったく経験したことがない。車両の運転に関しては、当然ながら2種免許の取得が雇用の条件でもあり、そもそも運転に支障のない人を雇用している。
利用者サービスの低下や事故発生への危惧を理由として障害者雇用を避ける事業所もあるが、当社における4級程度の上肢機能障害または下肢機能障害のある従業員の雇用に関しては、運転業務そのものに何ら影響しないと考えている。また、タクシー乗務には利用者の荷物の出し入れといった業務も付帯するが、それらについても運転手・利用者いずれからも問題点が指摘されたことはない。
175人の運転手のうち、無事故10年表彰を受け、平成17年度に最高の営業成績を納めたのは上肢障害のある従業員である。
（3）取り組みの内容
当社においては障害者雇用に関連して重大な問題が発生したことがないことは前述したとおりであるが、より働きやすい職場づくりを行うために施した取り組みとして、以下の3つが挙げられる。
1）心臓機能障害に対する勤務シフト
運転手の勤務は、日勤・夜勤の2交代となっているが、心臓機能障害のある運転手はペースメーカーを装着しており、日勤のみの4勤1休としている。また、通院に関しては有給休暇を活用するか、勤務の振り替えによって行ってもらっている。
2）手すりの設置
2階建ての事務所において下肢機能障害のある従業員から「階段が急でしんどい」話が出たことから、障害者雇用助成金を活用し、階段の壁面に手すりを設置し、改善を図った。
3）下肢機能障害に対する車両の改造
当社のタクシー車両は、すべてオートマチックで右足アクセル・右足ブレーキとなっている。
10年ほど前に右下肢機能障害のある従業員を雇用した際に、車両2台を、装置の切り替えにより左足でアクセル・ブレーキ操作ができるよう左右兼用に改造した。2台改造したのは整備や故障などの時の用意である。
比較的簡単な改造であり、障害者雇用助成金を活用し、地域内のタクシー会社に先立って取り組んだ。
3. さいごに
タクシー乗務において、身体障害があっても2種自動車免許を取得していれば、サービス業としてのコミュニケーション能力は問われることとなるが、車両改造等の配慮により支障なく遂行することができる。
現実には、旅客輸送会社における身体障害者の雇用状況はまだ十分とは言えないが、これは、経営者や職場において、身体障害の特性を把握することなく拒否してしまう意識があることも考えられ、有能な人材の雇用機会が失われているのだとすれば、本人のみならず企業や地域にとっても大きな損失となる。
当社の取り組みがごく一般的なものとして広まっていくことが期待される。
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