事業所名

アンデス電気株式会社（アグリ部）

所在地

青森県上北郡六戸町

事業内容

新ミスト農法によるオオバの有機栽培

従業員数

96名

うち障害者数

2名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	0
肢体不自由	0
内部障害	1	収穫作業
知的障害	1	土壌づくり、苗の更新、パック詰め等
精神障害	0

目次

1. 事業所の概要
2. 知的障害者雇用の経緯
3. 取り組みの内容（職務の変更等）
4. 今後の課題

1. 事業所の概要

（1）概要

　1971年に設立、1978年に現社名に変更した当社は、「ITと環境・健康」をテーマに掲げ、液晶カラーフィルターや角柱状酸化チタン光触媒などの最先端製品の事業化に取り組んでいる。アグリ（農業）分野進出は、その「健康」に関する領域での特化事業の一つである。
自然任せだけでなく、ITを駆使した装置によりオオバの栄養状態を探知し、不足すれば窒素分やマグネシウム、アミノ酸などを直接根に噴霧する。ハウスの出入口を二重三重にして害虫の侵入を防ぎ、オオバへの農薬散布はしない。「食の健康」を意識した事業である。
また、一般に露地栽培のオオバは虫が付きやすく、また収穫の面でもいろいろ制約があったが、土をほとんど使わない（宙に浮いた感じ）「新ミスト農法」の採用と温度・湿度管理の徹底によ って一年中収穫することが可能になった。 　オオバ（紫蘇＝シソ）栽培は、本社敷地内での一年間にわたるテストプランを使った実証実験を経て、2004年11月に青森県六戸町の工業団地「三沢臨空港インダストリアル金矢」に約40，000平方メートルの敷地を確保し、ハウス3棟で事業を開始、2006年5月には当初計画の10棟体制を確立し、フル稼働している。

新ミスト栽培で成長した大葉

大葉の苗

（2）障害者雇用状況

事業所全体
従業員数1，030人
うち障害者数12人
（聴覚障害4人・肢体不自由4人・内部障害1人・知的障害3人）

うちアグリ部

従業員数96人
うち障害者数2人
（内部障害1人・知的障害1人）

2. 知的障害者雇用の経緯

　新ミスト農法は、子どもに障害がある開発者により、障害者でもできる仕事として開発された。培養土の生成、育苗、収穫、選別パック詰め等障害にあわせた作業が可能である。
当社全体では知的障害者の雇用は3人であったが、アグリ部では、平成18年に青森県立七戸養護学校の生徒Aさんの現場実習が初めての知的障害者の受入であった。
まず、担任の先生がオオバの収穫の実習を行ってみて、生徒でもできるという確信を得てから現場実習を開始した。10棟（1棟の敷地面積が約2，000平方メートル）のビニールハウスの中で農薬を使わないオオバを通年で収穫し、緑に囲まれた環境での作業である。
2週間の現場実習では、Aさんの力や性格等よく分からないところもたくさんあったが、ある程度作業ができたことと、Aさんの「就職してここで働きたい」という強い意思表示により雇用することとした。
なお、当部は、自然に囲まれている分、交通の便があまりよくない。自家用車を持たないAさんにとっては、最寄りのJR駅まで徒歩一時間かけて通勤している。

3. 取り組みの内容（職務の変更等）

（1）オオバ収穫における課題の把握

　雇用したAさんには、現場実習の時と同じオオバの収穫を任せた。
大きさを揃え、オオバを摘んでいく作業はかなり根気のいる仕事であり、Aさんが作業中に居眠りをしていたことも何度かあった。その後、2ヶ月ほどジョブコーチについてもらうが作業的な進歩は見られず、日によって収穫のむらが目立った。
その頃、Aさんと同い年の知的障害者を現場実習で受け入れ、同じ作業を行ってもらったところ、自閉的傾向が見られ口数も少なかったが、与えられた仕事を淡々とこなすタイプの人であり、Aさんと全く対照的であった。
障害の特性や性格的なものもあったが、収穫については実習生の方が一緒に働いている従業員から評価が高かった。
このことから、Aさんの力・性格にあった作業を模索することとした。

（2）障害特性に適した職種への転換

　現在、Aさんには、当初のオオバの収穫からオオバの土壌となる培養土づくりの作業を任せている。粘土質の土を発酵させ雑菌を熱で消滅させるための準備作業である。培養土は団粒構造により好気環境をつくり、オオバの発育をより促進している。
併せて、苗の更新作業も行っている。一定以上に大きくなったオオバの茎を切り、根を抜き新しい苗を植え付けていく作業である。この時、必要に応じて培養土を足していく。配合物等もよく理解し手順等も間違わずに行っている。
また、オオバを選別し、パックに詰める作業も任せている。 　なお、現在従事している前の仕事は、生で食べられるカボチャなど野菜の露地栽培の管理であったが、天候の見極めや早朝の作業ということもあり長く続かなかったので、今の作業に変更した。

土壌づくり（右がAさん）

オオバの選定パック詰め作業

（3）作業指導

　どの作業を行うにしても、言葉・用語が分からないと仕事にならないので、まず言葉を覚えてもらうことにした。言われたことをその場その場で書いて、分からない時は聞き返すよう指導した。
次に、人の話をきちんと聞く姿勢を身に付けてもらうよう、打ち合わせで話したことをノートに書くよう指導した。Aさんは最初は嫌がっていたが、徐々に慣れメモ帳を持ち歩くようになった。専門用語が多いので意味が分からなくても書いて覚えてもらうよう指導している。
なお、Aさんについては、遊びたい気持ちが強く、嘘をついても仕事を休むことがあった。外泊等生活の乱れが仕事にも影響しているので、携帯電話やお金の使い方など時間をかけて指導している。特に携帯電話は使用を控えるように説明するが、なかなか理解してもらえない状況にある。Aさんが仕事にも身が入るためには、日常生活の部分で親の協力が必要不可欠である。

4. 今後の課題

（1）作業内容の工夫

　Aさんは、普段話していると障害があるかどうか分からないことが多いが、仕事をさせると分からないことやできないことが多い。携帯電話などは教えなくてもいろいろな機能を使いこなすことができる能力を持っているので、その能力を仕事にも向けていくよう作業内容等を工夫していく必要がある。

（2）家庭の協力

　Aさんの雇用にあたっては、働く力も大事であるが、障害特性や身体的状況・家庭環境などの情報があまりにも少なかった。個人情報保護法の問題もあるが、学校や家庭からの詳しい情報がもっとあれば対応もスムーズにできる部分も多い。ただし、私生活に事業所が深く関わることも問題なので、生活の部分については家庭でしっかり支援してもらわないと職場への定着も難しい。

執筆者　：　特定非営利活動法人サポートセンター虹　理事長　　湖東　正美