マンツーマン指導により知的障害者を雇用~「ここで働きたい」という意欲を大切に~
- 事業所名
- 株式会社すがた
- 所在地
- 岩手県宮古市
- 事業内容
- 菓子(煎餅)製造
- 従業員数
- 16名
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 1 包装、販売 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要
宮古市の中心部にある、創業明治14年の老舗お菓子メーカーの当社は、明治2年の宮古湾開戦時、製菓業を営み、上陸した官軍将兵でにぎわっている様子を見た初代・吉太郎氏が、宮古らしい菓子を作ろうと宮古市特産のスルメの煮出し汁と粉末を生地に練り込み、イカに似せ手焼きで焼き上げた「いか煎餅」を発案し販売したところ、人気菓子となった。
以後、「いか煎餅のすがた」として県内外で知名度が高まり、3代目には「いか煎餅」一本に商品を絞り込み、現在に至っている。
創業120周年を迎えた平成11年には、工場と支店を新築し事業を拡大。4代目の現社長は、「いか煎餅」のより広い普及を目的に、最近、小さな子どもやお年寄りが食べやすい、小型で食感がやわらかい「まごいかせんべい」を開発し、宮古市の特産品開発コンクールの食品部門で最高賞を受賞した。
現在は、「伝統の味を守りながら、良いものを作り続ける」を経営方針として、「いか煎餅」をベースにした新商品の開発も進めている。

2. 障害者雇用の経緯、背景等
(1)経緯
3代目が市の観光協会会長を務めるなど、当社は宮古市では優良企業として知られていることもあり、平成13年に市内の知的障害者施設「わかたけ学園」から、雇用の相談を受けた。
菅田社長は、相談を受ける直前に、歯科医院で、自分の気持ちを率直に出している障害のある子どもを見て「人間らしいなあ」「こういう生き方ができればみんな幸せになるんじゃないだろうか」と、どこか心が洗われたような気分になったこともあり、施設からの要請を受けることにした。
雇用したのは、20代の知的障害のある男性。若いので運搬や洗浄、片づけなどの作業を任せた。
そのうち、施設から「もう一人雇ってもらえないか」と相談を受けた。先に採用した男性の勤務態度がまじめだったことから、「もう一人雇ってもいいかな」と考え、とりあえず面接したところ、面接を受けた女性のAさんは「ここで働きたい」と話し、その意欲を買って採用した。Aさんは2週間の実習期間を経て、当所は製造部門に配置したが、右手が多少不自由であるため、本店の包装・販売業務に配置転換し、現在まで継続して当社に勤めている。
なお、最初に勤めた男性は、残念ながら1年弱で退社した。
(2)背景
スルメという地元の特産品を使い商品を開発するといった地域密着の姿勢から、当社は、地域に頼られてしまうことも多い。
また障害の有無や家庭環境などにこだわらず、仕事への意欲を重視して従業員を採用する社長の考えが施設や障害のある求職者に伝わり、「障害者にとっても働きやすい場」と評価されている。
さらに作業については、製造・包装ともに単純であるので、障害があっても対応することができる。なお、当社で働く前に別の製菓工場で働いた経験があるAさんは、その時の経験を活かせることができるため、当社に適応しやすいようだ。

3. 取り組みの内容と勤務状況
(1)配置転換に伴うペア体制づくり
1)マンツーマン指導
Aさんを本店の販売業務に配置転換する際には、彼女と同級生だった女性の従業員がたまたまいたため、その女性も本店に配置転換し、Aさんとペアを組ませOJTでマンツーマン指導させた。
「Aさんは、普段の会話や態度などから障害があることは感じられないが、たまに、他の人よりも神経質だったり心配性だなあと感じることがあったので、そのあたりは気を遣った」と社長は話す。
2)職務のフォロー
本店での仕事は、接客販売と、商品の箱詰め・包装である。
箱詰め・包装は、袋入りのせんべいを箱に詰めてふたをし包装する単純作業なので、Aさんも難なくこなした。また、接客もお金の計算も十分に対応できるので、基本的にはどちらの仕事も任せているが、電話の応対などは苦手で、その時にはペアの女性がカバーしている。

3)新たな従業員とのペア体制
平成19年1月に、ペアの女性が退職したので、現在Aさんは他の女性とペアを組んで仕事をしているが、特にコミュニケーションなどの点で問題はない。
新しいペアの女性は、「二人だけなので、お客さんがいない時には作業をしながらプライベートなことを話すことが多いが、Aさんは繊細なので、傷つけないよう言葉づかいなどには気を遣っています」と話す。
(2)Aさんの勤務状況
作業内容は決まっているので、5年間雇用している中で、特に新しく覚えてもらわなければならない作業はほとんどない。たまにあっても、のみ込みが早いので、最初にきちんと説明すればすぐに対応できている。
Aさんは、週末のほか通院日を休日とし、週4日勤務の体制にしている。休日には、以前通っていた施設に立ち寄って仕事の悩みなどを相談している。職場以外の場面で相談できる時間を設けることで、Aさんが精神的に不安定にならないよう配慮している。
菅田社長や他の従業員は、Aさんは知的障害があることを感じさせないほど、勤務態度やコミュニケーションには問題がないと話す。通常は本店に常勤なので、支店や工場の従業員との交流はないが、年2、3回の職場全体の飲み会や行事にも参加し、皆と話をしたりカラオケも楽しんでいる。

4. 取り組みの効果
知的障害のある人には、人と話したり、大勢の中にいることを苦手とする人が少なくない。その点を考えると、ペア体制の職場に配置しマンツーマン指導を行ったことは、Aさんにとっても事業所にとってもプラスである。
また当社は、現在従業員のすべてが平均年齢20代半ばの女性であり、結婚や出産で退職するため、長く雇用している人でもせいぜい5年である。そのような状況の中、Aさんが5年以上も勤めていることは、当社にとっては重要なことである。
社長以下従業員は、「仕事が丁寧」「まじめ」「文句を言わず働く」とAさんを評価している。それだけに他の従業員は「彼女は嫌なことがあっても文句を言わずに、ひたすらもくもくと働いているのだから、自分もがんばらなくては」と考え、刺激になっている。
当社で勤務するAさんの感想は、以下のとおり。
「治療のため、週に1回病院に通っているが、そうした体調面も考えてシフトを組んでくれるのでありがたい。」
「人が大勢いるところは苦手なので、今の職場は居心地がよい。」
「仕事そのものも楽しい。以前製菓工場で働いていたことがあり、その時、袋がよれよれになっているものや、袋の隅に割れかすが挟まっているものははじくよう教えられた。
現在の職場ではそれについては言われなかったが、自分から社長や他の従業員に申告して、そのやり方を取り入れている。そんな前の経験を生かすことができる点もうれしい。」
「職場の雰囲気がざっくばらんなので、自分も言いたいことはできるだけ言うようにしている。そんな雰囲気が良い。」
5. 今後の課題・展望等
菅田社長は、創業128年を迎えるにあたって、「自分の役割は、次の人につなげて次の100年の目途をつけること」を考えている。売上げは横ばいだが、いか煎餅以外の商品を製造販売する予定はない。
2人の障害者を雇用したが、どちらもまじめで満足できる勤務態度だったので、可能であれば増やしたい意向がある。販売部門は充足しているため、雇う場合は製造部門となるが、「でも、我が社のいか煎餅は型を使った手焼きなので、これ以上規模は大きくできない。雇っても一人か二人くらいだと思います」と少し残念そうに話す。
執筆者 : フリーライター 赤坂 環
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