義肢・装具製作所における障害者雇用~身体障害のある社員が、より質の高い製作に大きな役割をはたす~
- 事業所名
- 株式会社佐々木義肢製作所
- 所在地
- 宮城県仙台市
- 事業内容
- 義肢補装具製造・販売・修理
- 従業員数
- 51名
- うち障害者数
- 15名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 15 義肢補装具の製造・販売・修理・営業(義肢装具士・義肢工・縫製工) 内部障害 0 知的障害 0 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要
(1)事業概要
創業70年になる当社の業務内容は、義手や義足などのいわゆる義肢、各種装具類、コルセットなどの製作や修理、車いす、補助ステッキなどの販売、福祉用具の貸与サービスなどである。
昭和24年に株式会社化し、その後秋田営業所、弘前営業所(青森県)を開設した。仙台本社ビルは道路拡張による移転を契機に平成16年に新社屋を建設した。周囲の建物の中でもひときわ目立つ社屋は、グッドデザイン賞を受賞した建物でもある。
ところで、義肢装具と一口に言うが、義肢と装具は異なる。すなわち、「義肢とは、手足を失った人々のために製作された人工の手足のことで、手や足を切断した人の生活様式やニーズに応じて製作される。また、装具はケガや病気で失われた機能を補い、機能の回復に導くために用いられるものである」と佐々木和憲専務取締役は説明する。
(2)顧客に配慮した社屋
平成16年に完成し、グッドデザイン賞を受賞した三階建ての社屋は、自然の光を十分に取り入れ、外部も内部もガラス張りとなっている。
「この建物構造は当社の運営理念を表している」と佐々木専務は話す。すなわち、義肢、装具などの製作過程を顧客や地域社会の人々に見てもらう会社でありたいとのことである。
道路側に面した作業場ではバスの乗客と視線があうことがあり、子どもたちを含む多くの人々に義肢、装具が決して奇異なものではなく、手足の機能が失われたときに当たり前に使われるものであるということを理解してもらいたい意向が表されている。また内部構造についても、顧客がどのような過程で自分の身体の一部が製作されているのかを観察することが可能である。
また、平板な歩きやすい路面のみで義肢・装具の試歩行を行っても、実生活を考えると不十分であると佐々木専務は指摘する。そこで、砂利道やタイル道、でこぼこ道等を作成し、水をかけて雨で濡れた路面を再現したり、坂道を作り試歩行できる環境を設置している。海外での視察や障害のある社員の意見を取り入れて整備したこれらの付帯設備は、まだ病院や施設などで取り組まれていない。障害のある社員の体験を反映し設置しており、利益を優先するよりも質を上げたいという理念に基づいた当社の姿勢の一端が表れている。

2. 障害のある社員への配慮と勤務状況
(1)配慮
旧社屋は、古い木造家屋で、狭く段差が多かったことから、新社屋を建築するにあたっては、障害のある社員に配慮した構造を検討した。
1)作業施設
①作業工程の関係から、2階と3階の移動が頻繁になるため、エレベータを設置した。
②下肢障害のある社員の多くは、歩行時に補助杖を使用していることから、手すりやスロープ、自動ドアを設置するとともに床面を平坦化し、歩行時の安定を図った。
③各部屋の広さについては、できるだけ障害のある社員が使用しやすい面積を確保するよう努めた。
④義肢、装具の製作工程では、切断、切削や研磨により、様々な粉塵が生じるため、集塵機などを効果的に配置して作業環境を整備する必要があった。
2)福祉施設
休憩室は、下肢障害のある社員がゆったりとくつろげるよう、広いスペースを確保した。
これらの点を配慮した新社屋の建築にあたっては、障害者作業施設設置等助成金と障害者福祉施設設置等助成金を活用した。
(2)障害者の勤務状況
義肢・装具は一人ひとりの身体にピッタリ適合して、身体の一部となってこそ役に立つ。装着後、違和感や痛みがあってはならないが、適合後に身体の一部として機能するためには、大きな不安もつきまとい、努力も必要になる。身体の一部として役に立つものを製作するためには計測や型採りを行って作製し、身体への適合を行うすべての工程において、きわめて高い技術レベルが要求されるとともに、それらの過程における顧客の不安を取り除くことが重要になる。
仙台本社の20人の社員のうち、6人が身体障害者(肢体不自由)であり、義肢装具士、義肢工、縫製士などとして義肢・補装具の製作、修理、営業などの仕事を行っている。
1)Oさん
縫製の仕事を担当しているOさんは、これまでにアビリンピック(全国障害者技能競技大会)の熊本大会と宮城大会の洋裁部門に出場した経験を持つ。うち、平成16年10月に開催された第27回大会(宮城大会)では、厚生労働大臣賞・金賞を受賞した。
Oさんは、第27回大会では、地元での開催ということで、熊本大会では感じなかったプレッシャーを感じた。かなり練習をつんできたが、大会当日は緊張のせいか針に糸が通らず手が震えて焦ってしまったという。しかし、時間がたつにつれて気持ちも落ち着いて作業に集中できた。しかし、金賞に決定したときには、すぐには信じられなかったという。
また当社では、仙台本社、秋田営業所、弘前営業所の三事業所合同で交流を図る三交会があり、数年に一度、社員同士の親睦を図ることはもちろん、研修などをかねた社内旅行を開催している。
平成19年6月上旬には、1週間にわたるドイツ旅行が企画され、日常の業務の中で使用している様々なパーツの供給元であるオットー・ボック社を視察した。
日ごろパーツとして活用している製品がどのようにして作られ、どのように製品管理されているのかについて視察し、講話を聴いて研修することによってその後の業務に大きな影響が現れてくることが期待される。また、ドイツの社会保障制度について学ぶことも多かったが、Oさんはこのドイツ旅行を大いに楽しんだ。

2)Nさん
怪我によって左足が義足になったNさんは、それをきっかけに現在の仕事に取り組み、義肢装具士として働いている。雇用40年になるNさんは、5年前に義肢装具製作職として仙台市技能功労賞を受賞した。
この賞は、長年にわたり技能を磨き続けるとともに、さらに後継者の育成にも努めるなど、市民生活を支えてきた技能職を技能功労者として仙台市が表彰するものである。
「一人ひとりに合った義肢装具を作り続けていくために技術を磨いていきたい」というのが、Nさんの仕事に取り組む姿勢である。
また、そのようなNさんであるから、技術はもとより、何気なく行われる会話が患者、障害者に安心を与えるような関わりを行っている。Nさんに採型して製作してもらいたいというなじみの顧客も数多い。突然の事故や病気によって義肢、装具が必要になり、大きな不安を抱えている患者、障害者にとって、障害のある義肢装具士は熟練した技術者であるとともに頼りがいがあり、冷静に対応してくれる相談相手でもある。
なお、顧客から指名されるのはNさんだけではない。一度製作すると3~数年程で新しい義肢や装具を製作する場合が多いので、なじみの顧客から既に退職した社員が指名される場合もあると佐々木専務は話す。そのような場合は、退職した社員に来てもらって現役社員との共同作業を通して、顧客の特性等を在職中の社員に引き継ぎ、新たな顧客と社員との関係づくりに努めている。一人ひとりの顧客を大事にするのは、一人ひとりの特性をしっかりと把握した一人ひとりの社員を大事にすることでもある。
3. 障害者雇用の効果等
(1)障害者雇用の効果
患者や障害者が顧客となる当社においては、身体障害のある社員の果たす役割が大きい。 身体の一部を構成する製品作りのためのすべての工程では技術力の高さが必要である。特に初めての顧客には大きな不安がつきまとうが、そのような時、実際に障害のある社員だからこそ、顧客の不安、悩みをより深く理解し、適切に対応することができる。また、顧客は障害のある彼らのアドバイスを受け入れやすい。
一方、障害のある社員の存在は、障害を体験したことのない社員にとっても重要である。同僚という立場から、職場の中でも、また、社員旅行や研修などを踏まえて多くのことを学ぶことができる。
(2)さいごに
超高齢者社会といわれる現代社会では、誰もが障害をもつことが想定される。地域社会における様々な不便性を解消するために役割を担う企業は多数存在し、今後も多くの企業が進出すると考えられる。それに伴い、障害という不便性、様々な制約を負っている人々の働く役割は大きくなってくるものと考える。
また、義肢装具士資格制度について、現在、7養成校(義肢装具学専攻)や2大学学科内の義肢装具コースで専門的知識・技術を修了しなければ、義肢装具士国家試験の受験資格を得ることができない。これは、障害者能力開発校における身体障害者対象の1年コースの福祉機器科を修了しても、義肢装具の製作工程に携わることはできるが、採型や試歩行(仮合わせ)、適合という顧客と接する仕事をすることはできないことを意味する。障害者能力開発校修了者がさらに養成校で学ぶ機会を持って義肢装具士を目指してもらいたいと思うとともに、一方、障害者能力開発校修了者にとって身近な地域で受験資格を得やすい制度づくりの検討も必要と考える。
執筆者 : 東北福祉大学総合福祉学部 教授 阿部 一彦
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。