「つながるやさしさ」~作業手順と体調管理を徹底し知的障害者の長期雇用に取り組む~
- 事業所名
- 株式会社リプライ
- 所在地
- 山形県寒河江市
- 事業内容
- マット・モップのレンタル、おしぼりサービス、ミネラルウォーター宅配、店舗清掃等
- 従業員数
- 53名
- うち障害者数
- 6名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 6 おしぼり・マット・モップのクリーニング後の仕分け・修繕・出荷準備 精神障害 0 - この事例の対象となる障害
- 知的障害
- 目次

1. 事業所の概要
果樹園と田園風景の向こうに遠く奥羽山脈や蔵王連峰を望む地で、安藤社長が当社を起業したのは昭和52年である。
レンタル事業の継続性という点に着目し、消臭剤のレンタルからスタートした社長は、かねてからの人脈と、顧客を大切にする姿勢により常に事業を拡大し続け、今日の発展に至った。
事業内容はマット・モップ等のレンタル、おしぼりサービス、ミネラルウォーターの宅配サービス、店舗清掃等、多岐に渡る。
現在は山形県と宮城県に5つの事業所を構え、中でも寒河江店団地工場には、自動投入式で国内最大級の洗濯設備が導入されている。
企業理念『企業は人なり 人は心なり 顧客は会社の命なり』をモットーに、顧客の繁栄、会社の発展、そして社員の幸せ、この3つをめざす。
“出会いを大切にする”という社長の信念は、当社のキャッチコピーでもある“つながるやさしさ”となって発展している。
2. 障害者雇用の背景
最初の雇用は昭和63年。社長夫妻の知人の子息である、脳性まひのある若者であった。最初は「かわいそう」という同情心と、人助けという気持ちからだったが、本人は仕事中にいなくなり、社員総出で探し回り、出勤しようとせず家まで迎えに行くことがしばしばあった。本人は障害のある我が身を嘆き、社員の皆が疲労困ぱいという状況の中、結局本人は3ヶ月で会社を辞めてしまった。
この経験から社長は、同情や慈善ではなく一社会人を雇用して一社員として育て上げる、障害者雇用はより社会的なものでなければならない、と考え方を改めた。
近くにある知的障害者授産施設の施設長から、知的障害者をうまく雇用している事業所があると紹介され、福島県まで見学に連れて行ってもらった。後に重度障害者を多数雇用する際も、社長は埼玉県の特例子会社など多くの先進例を見て回り、良い点を吸収してきた。
3. 知的障害者雇用の経緯・状況
(1)経緯
平成元年、授産施設出身の2人の重度知的障害者を雇用した。1人は欠勤もなくとてもまじめに働く女性、1人は社員の皆を楽しませる能力に長けたムードメーカー的存在。この2人を皮切りに、当社の発展に伴って障害者雇用も拡大し、現在では重度知的障害者5人、知的障害者1人を雇用している。
最高時には計7人の障害者を雇用していたが、1人が難病により残念ながら帰らぬ人となった他は退職する社員もおらず、定着率は極めて良い。
当社はその雇用姿勢と障害者の自立への寄与が認められ、平成6年に県知事表彰、平成9年に労働大臣表彰を受けた。 また、当社は、特に重度の障害者の雇用の促進・安定を図るため、研究調査・相談援助・啓発等を行っている(社)全国重度障害者雇用事業所協会(略称:全重協)に加盟している。各種障害者雇用促進セミナーや全国7ブロック会議等が行われ、当社も積極的に参加している。
(2)障害者の従事業務・職場配置
本社工場のおしぼりクリーニングのラインには2人を配置し、折り手作業、くず取り機械操作、コンテナ洗浄などを担当させている。
また、団地工場のマット・モップクリーニングのラインに4人を配置し、仕分け、収納保管、袋詰め、糸くず取り機械操作などを担当させている。

4. 取り組みの内容
(1)工程をわかりやすくする工夫
クリーニング工程は障害のない社員が行い、仕上がり後の不良判別・修繕・種類分け・サイズ分け・番号ごとに棚へ収納・出荷積み込みを障害のある社員が行っている。
1)マットのクリーニング工程と工夫

障害のある社員は可動区域に入らないようにしている)

搬出時にはパトランプの点灯とブザー音で知らせる)

担当の社員は一目でわかる)




2)モップのクリーニング工程と工夫

袋詰め・仕分けへ


知的障害のある社員にも作業手順をわかりやすくするための工夫として、以下の事柄を実践している。
ア)場所を決める(場所の構造化)
マット仕分け工程エリア、マットを置く棚エリア、モップ仕分け工程エリア、モップを置く棚エリア…と、作業別に異なる場所を設定している。当たり前のことのようであるが、混在による混乱を防ぐことができている。
イ)場所に名前をつける
同じく構造化の手法の1つ。場所を決めるだけでなく表示をすることがポイント。指示も「再洗い置き場へ」などと具体名を告げれば間違いなく遂行でき、曖昧な表現による職場内の不協和音は生じない。
ウ)判断の基準を明確に定める
人によって基準が変わったり、状況を加味して基準が揺れ動いたりすると、知的障害のある社員は対処しづらい。「どんな場合でもこの線から先は不可」という明確な境界を定め、なお、迷う恐れのある工程はダブルチェックをかけている。
エ)分業体制
担当作業を定め、日によって変えないことにより、混乱・思い込みによる間違いを防ぎ、かつ作業の習得を促進する。毎日やることを決めるだけでなく、自分は何をする人かわかっていることが、意欲と責任感を育てる上で大事である。
オ)整理整頓の徹底
棚でもコンテナでも、製品の重ね方にずれがなく、向きも揃っており、また何かが床に落ちているということがない。人は元々整理整頓された環境に入れば、「ここではこうするものなんだ」と自然にやり方を合わせることができる。逆もまた然り。家庭での子どものしつけとも通ずることである。
カ)指示を出す人を定める 関わる人が多いほど指示はニュアンスが変わり、混乱・間違いを生じ、意欲の低下へとつながってしまうことから、現場には障害のない社員を1人配置し、質問受け・指示出しはこの社員に一本化している。
(2)気持ちを支える工夫
知的障害のある社員が仕事を長期継続する上で、当社は、仕事以外にぶつかりやすい様々な壁に対して彼らを支え、対処している。
ア)体調管理
一人ひとりの身体・精神両面の調子をよく把握するよう努め、体調が悪いときは早めに帰らせる等の柔軟な対応をしている。上司と社員が普段からいろいろな話をし合える良好な人間関係が構築されていることが前提となっている。
また、社員の体と心の調子は仕事に大きく影響するものとして捉え、業務を円滑に遂行し事業所が成長するために、一人ひとりが仕事に専念できる状態を作る重要性を知っている当社では、上司が部下の体調に気を配る姿勢を持ち、その姿勢を感じ取る部下は上司を信頼し、結果として良い人間関係のスパイラルができあがっている。
イ)自力通勤の原則
自立心の育成のため、現在社員は全員、自転車・バス・電車・自車運転で通勤してもらっている。
ウ)生活面の把握
必要に応じて家族との情報交換も行ってきたことが、本人が長く勤められる安心材料になっている。なお、生活面の問題が生じた場合は、障害福祉全般の窓口となっている市町村福祉課や、働く障害者を支援する就業・生活支援センターなどを活用することも有効である。
エ)就労懇談会の開催
当社が主催し、本人、親、ハローワーク、高齢・障害者雇用支援協会が一堂に会して懇談会を開いている。普段聞けない家庭での状況など、有意な情報を得ることができる上、彼らを支援する人たちの相互理解が図れる。
オ)個々人の特性の把握
Aさんは、時々自傷行為がある。長く見ていくうちに、仕事が忙しくてAさんのペースに合わなくなっている時にそれが生じることに周りが気付いた。
またBさんは、時々威圧的な態度をとる。長く見ていくうちに、Bさんが取ろうとした物がそこに無い、いつもと違う作業が入った、行事が近い、といったことが引き金でそれが生じることに周りが気付いた。
その背後に「かまってもらいたい、自分を認めてもらいたい」という気持ちがあることもわかってきた。表に現れる行動を見ているだけでは気付けない。行動には必ず理由があり、理由と原因がわかれば対処方法も見えてくる。
カ)複数人での配置
当社は、障害のある社員をある程度複数人で配置することで成功している。仲間がいるという安心感、萎縮することなくのびのびやれる、互いに磨き合うことができる、といった点が利点である。
キ)社内行事の開催
障害の有無に関わらず、社員全員を誘い参加してもらっている。山形県民の恒例行事である秋の芋煮会、スポーツ、冬の餅つきなど、行事は多彩であり、関係機関を招待することも多い。
今年の社員旅行は30周年記念として韓国へ。障害のある社員にとっては初の海外旅行であり、パスポート申請に彼らを連れて行った。旅行中も元々ある仲間意識の強さから、団体行動を乱す社員もおらず、非常に楽しむことができた。

ク)賃金の設定
給料は、何と言っても働く上での大きなモチベーションである。最低賃金除外申請は行わず、他の社員同様、賞与も支給する。

5. .取り組みの効果・今後の課題
当社の多岐にわたる取り組みが、障害のある社員の“居心地の良さ”を生み、本格的に障害者雇用を始めた平成元年から、辞めた社員は1人もいない。社員は皆よい表情で、てきぱきとした動きで、活き活きと働いている。
今後について考える時、安藤社長は、知的障害のある社員の加齢の速さを心配している。定年の65歳まで何とか勤めてもらいたい。また退職後、家の中だけで過ごすことを心配し、退職した障害者が活動できるような場を創るなど、もう一歩社会的なことができないかと模索している。
執筆者 : 社会福祉法人山形県社会福祉事業団サポートセンターういんず 援助員
小竹 由子

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