“地の利、人の利”を活かした障害者雇用率16%の達成~40年かけて障害者受け入れの土壌づくり~
- 事業所名
- 株式会社ヒタチ
- 所在地
- 茨城県日立市
- 事業内容
- 段ボール箱・木箱の製造、電器製品の組立
- 従業員数
- 94名
- うち障害者数
- 12名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 1 ダンボール梱包箱・木製パレットの製造 知的障害 10 ダンボール梱包箱の製造 精神障害 1 ダンボール梱包箱・木製パレットの製造 - 目次
1. “地の利、人の利”を活かした取り組み
(1)雇用・定着のための“地の利”
1970年1月に設立し、段ボール箱・木箱の製造、電器製品の組立を業務としている当社の障害者雇用状況については、平成19年9月20日現在、障害者雇用率は16.0%と非常に高く、その内訳を見ると12名中11名が知的・精神障害者で、さらにそのうち10名は知的障害者である。
多くの障害者を雇用し、定着させることができた要因として、石川博之代表取締役社長は以下のとおり話す。
知的・精神障害者を多数雇用し定着している理由の一つは“地の利”。車で15分のところにO精神病院と日立市立養護学校がある。O病院とは40年以上前、当社の前身である石川林業時代の昭和39年から交流があり、数多くの精神障害者を受け入れてきた。
初めて精神障害者を受け入れた時は、正直不安でいっぱいであった。しかし、O病院の適切な指導もあり、本人が一生懸命働いてくれる姿を見て、感動し共生できることを実感した。その思いは40年以上経った今でも変わらない。
当時、O病院を利用する10数名の精神障害者は、当社の近くにアパートを借り通院していた。今でいうグループホームのようなものである。したがって精神障害とのかかわりは長く、統合失調症、てんかん、そううつといろいろな精神障害のある社員と時間をかけて交流を深めてきた。
そのため障害者受け入れの土壌は深く耕されており、初期にはトラブルも多かったが、現在では職場の社員の障害者に対する偏見はまったく見受けられない。
また、至近距離の日立市立養護学校からは、昭和61年に卒業生を1名採用したことが縁となり、以来ほとんど毎年のように卒業生を採用し、現在在籍している知的障害者10名は全員同校の卒業生である。いつでもじかに情報交換ができる距離にあることは大変便利でありがたいことであるし、採用した人がほぼ100%定着していることが、学校の信任を厚くし、毎年のように採用のお願いを受けている。
(2)雇用・定着のための“人の利”
知的障害者も障害の程度はいろいろであり、バイクの免許をもっている人もいるし、数ヶ月で仕事を覚え、ひとり立ちできる人もいる。しかし、中には半年以上かかってもなかなか仕事がマスターできずに苦戦している人もいる。
ありがたいのは、周囲の多くの社員の協力である。当社の“人の利”といってよいだろう。とくに年配の「お母さん社員」は、自分の息子や娘に対するように根気強く、温かい目で指導している。 感受性が豊かで、相手の声の調子や顔色で相手を見抜き、オドオドしたり、時には反抗的になったりすることもある人に対しては、努めてほがらかに明るく接し、時には仕事に関係のない話をしてリラックスさせることもある。
その「お母さん社員」である春日ケイ子さんは、1人で半数以上(7名)の知的障害者に対し、指導のほかに生活面でも面倒を見ている。
春日ケイ子さん談
①歩みは遅いが“後退しない”
「まだまだ不十分なところはありますが、非常に長い年月をかけて障害者雇用を続けてきておりますので、私たちも慣れてきており、無用なトラブルはほとんどありません。
しかし、ほとんど毎年のように新人が入ってきますし、慣れたといっても応用のきく仕事ができるかというとなかなか難しいです。一つの仕事が終わっても自分から別な仕事に取りかかることをしません。指示があるまでじっとしている人が多いですね。忙しい時は、あっちもこっちもというわけで正直なところついカーッとなります。しかし、怠けてやっているわけではないし、応用が苦手なのが障害者なんですよね。やりたくてもできないのですから、本人たちはもっと切ない思いをしているわけです。しかし、それでよいとなってしまうと成長はありませんから、反復連打で指導はしています。歩みの速さは人それぞれで、決して速いとはいえませんが、“後退しない”ことが救いです」。
②「会社人」の前に「社会人」の基本をきっちりと
「仕事ばかりではなく、社会人としても一人前になってもらわなくてはなりません。まずは、元気よく挨拶、返事ができることです。「おはようございます」、「はい、わかりました」、「お世話になりました」。まだまだ十分ではありませんが、これが社会人の基本ですからしっかり身につけるよう声をかけております。
また、服装は常にこざっぱりしていてほしいですね。夏は汗をかきますから、汗臭くなって嫌われないように多少はうるさくいいます。幸い寮生はきれい好きですので、親元から離れて暮らしていてもご覧のようにいつも清潔でうれしく思います」。
石川社長は、「障害者の指導者には、気の長いお母さんが向いている」と話す。社長とともに社員も大らかであり、障害者にやさしい事業所は、穏やかな人たちが揃っている。

2. 担当業務・教育方法等の取り組み
No. | 入社年度 (勤続) | 障害の種類 | 通勤方法 |
---|---|---|---|
1 | 昭和61年(21年) | 知的(重度) | 自宅:マイクロバス |
2 | 62年(20年) | 知的 | 自宅:電車—マイクロバス |
3 | 平成 2年(17年) | 知的 | 自宅:マイクロバス |
4 | 2年(17年) | 知的 | 自宅:電車—マイクロバス |
5 | 5年(14年) | 知的 | 自宅:徒歩 |
6 | 7年(12年) | 知的 | 自宅:電車—マイクロバス |
7 | 10年( 9年) | 知的 | 自宅:電車—マイクロバス |
8 | 12年( 7年) | 内部(重度) | 自宅:徒歩 |
9 | 15年( 4年) | 知的(重度) | 自宅:マイクロバス |
10 | 16年( 3年) | 知的 | 寮:徒歩 |
11 | 17年( 2年) | 知的 | 寮:徒歩 |
12 | 19年( 0年) | 精神 | 自宅:自転車 |
定年退職等もあり、現在在籍している障害者は上記のとおり。その担当業務の決め方・担当業務内容・教育内容等は次のとおりである。
(1)障害に合わせて担当業務を決定
知的障害者10名の担当業務は、各種段ボール組立が6名(ほとんどが手作業。一部、段ボールをジョイントしながら組み立てる作業は、合わせ目をジョイントする時、足で踏み込みながら大きな針を打ち出しジョイントしている)、手作業による結束が2名、トラック助手が2名である。
精神障害者の1名は、段ボール組立、ネーラー(自動釘打ち機)によるパレットの作成を担当している。
担当業務は、個人の能力に合わせて決める。新しいことに取り組むことは苦手なので、慣れるまで時間をかけてじっくり教え込む。
一方、単調な仕事も嫌がらないで黙々と取り組むところが、当社で働く知的障害者の長所である。また、車が好きな人はトラック助手を担当するなど、個性に合わせて仕事を決めている。
障害者は、ほとんどが手作業の仕事であり、多少の危険が伴う機械操作を担当しているのは、全自動化した機械で段ボール組立を行っている10年以上勤務の1名だけである。



(2)マン・ツー・マンでじっくり教育
昭和61年からほとんど途切れることなく毎年のように障害者を雇用し続けている。教育は春日さんのようなベテランがマン・ツー・マンで教育をするOJTが主流である。採用数が一番多い年で平成2年の2名が最高。ほかの年は常に1名採用し、じっくり教育する。
今でこそ障害者に対する偏見はまったくないが、創業当時の40年以上前は精神障害者に対しての差別発言も多く見られた。しかし、その後行きつ戻りつしながらも障害者が安心して働ける磐石な環境が生まれてきたわけで、これまでの時間は決して無駄ではなかった。
(3)各種障害者雇用援助制度の活用
職場適応訓練、トライアル雇用、ジョブコーチ支援(専門家による助言・援助)等の各種援助制度を活用している。
(4)通勤対策
知的障害者の雇用で多くの事業所が困っている問題の一つに通勤の方法がある。当社では、障害者の半数以上の7名が自社所有のマイクロバスを活用している。休む人はほとんどいない。
また、寮は、徒歩通勤が可能なところに民家を借り上げた日立市のグループホームを利用している。ここでも行政の助成を受けている。
(5)中途退職者
10年も前の話であるが、これまでに中途退職した障害者は2名。いずれも知的障害者であり、暴力癖があった。彼ら2名については、家族とも十分話し合ってきたし、本人に対してもいろいろ指導したが周囲が危険にさらされ、やむを得ず退職してもらった。残念な結果ではあるが、すべて満点の結果に終わるわけではなく、やむを得ない結果であった。しかし、このような問題にこりずに、その後も継続して多くの障害者を雇用してきている。
3. 障害者雇用の功績(表彰)
茨城県の「心を支える職親の会」会長であり、また、精神障害者の地域援助を目的にした「日立なぎさ産業治療援護協会」会長でもある石川社長は、これまでの障害者雇用の貢献が認められて、次のように多くの表彰を受けている。
なお、障害者同様弱い立場の高年齢者雇用にも熱心であり、その方面でも表彰されており、茨城県の障害者・高年齢者雇用の牽引車として、ますますの活躍が期待される。
年月 | 内 容 | 表彰者 |
---|---|---|
昭和53年10月 | 障害者の社会復帰に尽力 | 日立産業治療援護協会 |
平成 9年 5月 | 障害者の共同作業訓練支援 | 日立保健所・精神障害者を守る日立市民の会 |
平成15年 9月 | 障害者の雇用促進 | 日本障害者雇用促進協会 |
平成15年10月 | 障害者雇用優良事業所 | 茨城県知事 |
平成17年10月 | 高年齢者継続雇用の推進 | 社団法人茨城県雇用開発協会 |
平成18年10月 | 高年齢者多数雇用事業所 | 独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構 |

4. 今後の目標と課題
(1)安全第一
多くの知的障害者を雇用しながら、創業以来これまで長きにわたって労働災害は発生していない。また、リーダーの指導のもと、ここ数年不良もゼロで顧客から表彰も受けている。これは全員が一丸となって、しっかり目配り、気配りをしている証。これからも一層の安全作業が求められる。
(2)家族との連携
知的障害者の雇用には特に家族との連携が重要であるが、平成5年から家族会をつくり、毎年2回、懇談会や小旅行を楽しんでいる。15年かけてじっくり育ててきた家族会は、お互いが遠慮なく話し合える雰囲気があり、これからもしっかりコミュニケーションがとられていくことが期待できる。
(3)真の意味での“ひとり立ち”
最低賃金の除外申請を受けている人もいるが、「まずは雇用ありき」であり、賃金面で「独立できない」ことは、過程としてはやむを得ないところである。
大切なことは、親の保護を受けずに、将来は一人で生活できるようになることであり、そのためにも厚生年金等の社会保険の加入は欠かせない条件であるし、65歳までの継続雇用も大きな要件である。
社会保険の全員加入は、大企業では当たり前のことではあるが、厳しい経営を余儀なくされている中小企業では、実は大変なことであり、その点については石川社長もよく認識したうえで「全員社会保険加入」を継続している。
65歳までの継続雇用も、本人が希望し、体力的に問題のない人は可能であるが、今のところ障害者で60歳を超えて働くことを希望した人はいない。
賃金面でひとり立ちする前提は、本人が努力し仕事面で一人前になることである。
一人ひとりがさらに精進して成長し、当社を強く支える存在になってほしい。全員がそういう存在になった時が賃金面でも“ひとり立ち”できる「独立記念日」になるはずである。その日が一日も早く来ることが期待されている。
執筆者 : ヒューマン・リソーシズ・コンサルタント 北村 卓也
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