仕事に合わせた配属と根気強さで雇用率2.21%を達成~毎日、会社へ行くことが楽しい!~
- 事業所名
- ヤマト運輸株式会社 茨城主管支店
- 所在地
- 茨城県土浦市
- 事業内容
- 運輸業
- 従業員数
- 1,551名
- うち障害者数
- 20名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 荷受事務 聴覚障害 1 ボックスの搬送 肢体不自由 6 リフト運転、集配ドライバー、一般事務 内部障害 1 ボックスの搬送 知的障害 11 荷物の仕分け、メール便のラベル貼り、ボックスの搬送 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要・障害者雇用の状況
(1)概要
1919年に創立した当社(本社:東京都)は、「宅急便」として、全国ネットを組織している国内最大の企業であり、茨城県内の取扱量は2,000~2,500万個にもなる。当支店は1,551人の従業員が24時間体制において仕分け配送を行っている。
(2)障害者数
20名(うち重度障害者数4名) (平成19年10月末現在)
(3)障害者雇用率
全社 2.26%
茨城主管支店2.21%
(4)茨城主管支店が現在雇用している障害者の年次別雇用数
(カッコ内は重度障害者で内数)
№ | 採用年度 | 種類 | 採用経緯 | 担当業務 |
---|---|---|---|---|
1 | 昭和53年 | 視覚1 | ハローワーク | 荷受受付 |
2 | 平成 2年 | 聴覚1 | ハローワーク | ボックスの搬送作業 |
3 | 3年 | 内部1(1) | ハローワーク | ボックスの搬送作業 |
4 | 4年 | 肢体1(1) | ハローワーク | リフト運転・集配ドライバー・一般事務 |
5 | 6年 | 肢体1 | ハローワーク | |
6 | 12年 | 肢体1 | ハローワーク | |
7 | 13年 | 肢体1 | ハローワーク | |
8 | 14年 | 肢体2 | ハローワーク | |
9 | 15年 | 知的4 | 養護学校 | 宅急便の仕分け・メール便のラベル張り・ボックスの搬送作業 |
10 | 17年 | 知的2 | 養護学校 | |
11 | 18年 | 知的1(1) | 養護学校 | |
12 | 19年 | 知的4(1) | 養護学校 | |
合 計 | 20(4) |
2. 障害者雇用の経緯・取り組み
障害者の雇用を、当支店の先頭に立って進めている人事総務課の今宮弘美課長は、現場で知的障害者と向き合って今年で5年。支店の雇用率2.4%は、今宮課長の障害者雇用にかけた5年間の情熱の成果である。
今宮課長は今年の6月から人事総務課長となり、支店全体の人事を統括することになり、一層障害者雇用に拍車がかかることが期待されている。
また、大塚茂芳ベース長は、当支店へ異動して3ヶ月であるが、今宮課長を補佐して障害者雇用に取り組んでいる。


(1)障害者雇用の経緯(身体障害者から知的障害者雇用へ移行)
平成14年までは、身体(肢体)障害者の雇用が主体であったが、建物が古いためバリアフリー化の遅れが目立つようになり、彼らの雇用が難しくなってきた。
当時、今宮課長は現場を担当していたが、職場や設備の改善を必要としない知的障害者に目を向けた。地元の高等養護学校の先生から生徒の受け入れについて熱心な働きかけがあり、さらに幸運なことに、他社から、製品のPR用パンフレットを顧客あての袋に入れる軽作業の注文が継続して大量に入った。このように人材と仕事の確保が確実となり、平成15年、4名の高等養護学校卒業生の雇用に踏み切った。
これが今宮課長と知的障害者との初めての出会いであったが、その時の高等養護学校の先生が大変熱心で、近隣の養護学校にも当支店の存在を大いにPRしてくれた。これがきっかけで近場の2つの養護学校の生徒が毎年見学するようになり、当支店で働くことを希望する生徒が続出した。
春・秋それぞれ2~3週間、職場体験学習を受け入れ、翌年の春に雇用するパターンが生まれている。
(2)「最初が肝腎!」、初年度採用者の定着に全力投球
今宮課長は、知的障害者の定着は「最初が肝腎」と、平成15年度の新入社員4名の定着のために、ありとあらゆる手を打った。
まず、彼ら全員との交換日記を1年間休まずに続けた。初めての就職で一番心配するのは家族だろうということで、職場生活の日々の状況を本人経由で家族に伝えた。
「先輩と食堂で楽しく話をしていた」。「忙しかったが、汗をかきながらよくがんばった」。「体調が悪いようなので気をつけてほしい」等々。これに対して家族からも感謝のコメントがついた。
交換日記は、家族の不安を安心に変える「好感日記」となった。平成15年度だけ実施し、それ以降雇用した社員には一期社員が先輩となって面倒を見るようになり、日記がなくても安定した雇用が継続的に実現した。
また、これも初年度だけであるが、採用3ヵ月後には本人と両親をホテルに呼んで食事会を開き、率直な意見交換をはかった。これがきっかけとなり、家族から子供たちの働いている姿を見たいとの要望が出て職場見学会が実現した。これは、現在も定期的に実施している。
もう一つの工夫は、どちらかといえば引っ込み思案が多い知的障害者が一人では不安だろうということで、毎年複数雇用したこと。初年度は4名。平成17年2名、平成18年は家庭の事情で1名が退職し1名、平成19年4名と続いている。
これは大成功で、右も左もわからない入社したばかりの障害者が休憩や昼食を一緒にし、いろいろ話し合っている姿をよく目にした。職場に慣れてきてからは、先輩とも一緒に食事をするようになり、ごく自然に職場に溶け込んでいった。
(3)配属は「障害に合わせて決める」
ハンディキャップを考え、この人ならこの仕事で大丈夫だろうと、障害に合わせて仕事を探し配属を決めてきた。
職場、仕事に合った人を配属するので、設備改善の必要はなかった。
安全面も彼らに合わせた配属なので、ほとんど心配はない。在籍する20名の障害者は、これまで小さなケガ一つしていない。しかし、これからも油断することなく、完全無災害を継続していく意向である。
(4)教育は「一人ひとりに根気強く」
教育は、「一人ひとりに根気強く」が基本。たとえば、平成15年度採用の4人に対しての朝の挨拶は、「Aさん、おはよう」、「Bさん、おはよう」、「Cさん…」、「Dさん…」といった具合に、一人ひとりに行う。4人を前にして全員に対して一度に行うと「私にだけいわない」と誤解される恐れがある。
これは引っ込み思案の知的障害者に対しては、会話の機会を少しでも多く持つようにして、気持ちをほぐす、という基本にもつながってくる。仕事の説明も全員を集めて一緒に行うとなかなか理解されない。そこでやはり一人ひとりに「Aさん、こうして下さい」、「Bさん、こうして下さい」、「Cさん…」、「Dさん…」といった具合に4人に同じ説明をする。
また、活字のマニュアルは理解しづらいので、一人ひとりに山本五十六流に、「やってみせて、いってきかせて、させてみて」、理解するまでこれを繰り返す。
(5)数字は苦手、変化も苦手だが、後退はない
数は、両手指(10本)を超えると怪しくなる第一期の4人に対し、パンフレットを20部勘定する場合は、段ボール1箱ぴったりで20部、箱の上部にすき間ができたり盛り上がったら過不足があるというように教える。そのうち「ぴったりで20部」の感覚が理解できるようになり、チェックの必要がなくなった。
ベルトコンベアに荷物を乗せる流れ作業では、乗せる荷物がなくなったら別な所からもってきて補充するという「変化」がなかなか理解できず、何もしないでその場に立っている人に対しても、「やってみせて、いってきかせて、させてみる」を繰り返すことで、次第に支障なくできるようになった。
知的障害者の前進スピードは決して速くはない。しかし後退はない。10以上の数の勘定に不安がある4人は、今では郵便番号を見て、全国の各地区へ配送するための仕分け作業や、また、キャスター付きのボックスを指定場所へ搬送する作業もできるようになり、戦力化している。


(6)通勤状況
当支店で雇用している知的障害者は全員まったく問題なく通勤している。
一番近い人で自転車通勤の10分、自転車40分、バイク20分。残る8名は電車、バスを利用して通勤している。採用当時は心配もあり家族が同伴した人もいたが、すぐに一人通勤できるようになった。
3. 今後の目標・課題等
(1)目標は障害者の自立
一番の目標は、障害者一人ひとりの家庭生活を含めた将来像を描き、これを実現すること。ヤマトグループのホームページには「社会とともに持続的に発展する企業」と、バランスを重視。そして、「地域の一員として信頼される事業を行うとともに、障害のある方の自立を願い、応援します」とある。
この企業姿勢を証明するように、当支店の最低賃金は750円(茨城県の最低賃金は665円)と設定し、勿論、障害者もそれに見合った仕事をしていると、今宮課長や大塚ベース長は胸を張る。そこに独り立ちに向かって彼らが着実に歩んでいる姿を見ることができる。
(2)今後の課題
障害者雇用率はすでに法定雇用率1.8%を大幅に超える2.21%であるが、これからも数字にこだわらないで、来年度以降も複数の知的障害者を雇用していく意向である。
さらに障害者により多く働いてもらうためには、知的障害者ばかりでなく身体障害者の雇用も必要である。建物が古く身体障害者の受け入れが困難となっていたが、今年はトイレのバリアフリー化を行った。さらに建物全体を順次見直し、身体障害者雇用の再開に意欲的である。
(3)ヤマトグループの障害者雇用の牽引車として
今宮課長と大塚ベース長は「一番うれしいことは、障害をもつみなさんが、「会社へくることが楽しい」といってくれること」と声をそろえて話す。
彼らの中には別会社で職場体験をした人もいるが、職場の片隅で一人黙々と作業することが多かったという。
当支店では、周囲の、お父さん、お母さん的な人が「がんばって!」と期待を口にして、声をかける。食事にも誘う。昨日のニュースについてもいろいろ話をする。このように何気なく交わされる日々の会話がうれしく職場へ行くことが楽しくなる。
当支店のようなターミナルは、全国に72ヵ所ある。これまで支店は、雇用率2.44%の福岡主管支店を模範としてアドバイスを受けながら障害者雇用を続けてきたが、今度は自分たちが法定雇用率を達成していないターミナルの模範となるよう、さらに障害者雇用を進めていきたいと考え、すでにヤマトグループの障害者雇用の牽引車の役割を担っている。
今宮課長、大塚ベース長、そして周囲の社員の期待を一身に受けて、日々努力し着実に成長している障害者が、6,000坪の広大な土地も狭く感じるほどに、寸暇を惜しんでめいっぱい生き生きと動き回る姿が、何よりもそのことを雄弁に物語っている。
執筆者 : ヒューマン・リソーシズ・コンサルタント 北村 卓也
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