企業と学校がともに手を取り知的障害者の雇用の場を育てる
- 事業所名
- ケイヒン配送株式会社
- 所在地
- 神奈川県横浜市
- 事業内容
- 倉庫・配送(通販商品などの商品管理及び包装発送)
- 従業員数
- 358名
- うち障害者数
- 11名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 1 一般事務 内部障害 0 知的障害 10 入荷検品(2)、棚入れ(1)、ピッキング(5)、出荷(2) 精神障害 0 - 目次
1.事業所の概要
カタログ雑誌やテレビ、インターネットなどを使って手軽に買い物ができる通信販売の市場は、拡大の方向をたどっているが、その通信販売システムを影で支えているのが、膨大な商品の在庫管理と配送業務を請け負う倉庫会社である。
首都高速横羽線東神奈川インター近くに延床面積2万坪もの物流センターを持つ当社は、1972年の創業当初は、百貨店の贈答品などの配送を取り扱っていたが、1980年から通信販売商品の配送業を開始。現在は、大手通販会社や店舗小売会社などの商品在庫の管理および国内配送を展開している。
生鮮食料品や大型家電こそないものの、シャツや下着などの衣料品、靴、かばん、生活雑貨まで、色やサイズも数えると、在庫は5万アイテム以上あり、天井にまで商品が積み上げられた巨大な倉庫から、毎日、4~5万件の荷物が出荷されている。
従業員はパートやアルバイト、契約社員も含め約500人。ベルトコンベアや梱包機などの自動設備も多く配備しているが、注文書に合わせて商品を棚から出してくるピッキングの作業などは主に人の手による。
2.障害者雇用の経緯と現況
(1)経緯
知的障害者の雇用を始めたのは1995年。横浜市立日野中央高等特別支援学校(旧・横浜市立高等養護学校)の先生から雇用の相談を受けたことがきっかけだった。
「少しでも社会貢献になるのなら」と始めた採用だったが、以来、毎年ほぼ1人ずつ順調なペースで雇用している。
(2)障害者雇用の状況
当社が雇用している知的障害者10人は、パート社員として、通販商品の入荷、検品、棚入れ、ピッキング、出荷などの軽作業に従事している。
「基本的には他のパート社員と同じ仕事をしてもらっています。ピッキングなどは、どちらかというと彼らの得意分野といえますね。決められたことを真面目にきちんとこなすので、反復作業の分野では特に戦力になっています」と早田管理部長は話す。

障害のある社員にはスタッフが一人ずつ担当として付き、仕事の指示や相談などに応じる。しかし、思った以上に彼らの面倒を見ているのが、パートの女性たちでもある。
「50代、60代の女性たちは、ベテランも多いことから職場のムードメーカーでもあります。障害のある社員の母親くらいの年齢ということもあって、何かと細かく声をかけてやっているようですね。また、倉庫で働く人たちは立場もそれぞれ違うし、老若男女さまざま。『いろんな人がいる職場』だからこそ、障害者でも特別視されないムードがあると思います。今のところ彼らも溶け込んで、うまくやっていますよ」
障害のある社員だけをひとところに集めて特別な作業をさせるのではなく、他の従業員と交流させながら同様に仕事をさせるという方針が、現場の雰囲気とも相まって、良い効果を上げている。

3.知的障害に対する取り組み
(1)視覚による説明
知的障害のある社員の仕事内容は他のパート社員と同様といっても、指導する立場のスタッフとしては、障害に対する配慮が必要である。
「一般に、知的障害者は記号に対する認識が高いと言われていますが、私も仕事を教えるときは、言葉だけではく、記号や図を使って説明するようにしています」と、彼らに対して指導する際の注意について、営業本部商品管理一部の中島部長は話す。
注文書を見ながら棚から商品を取り出すピッキングの仕事は、まずどこに何番の棚があるのかを頭に叩き込んでおくことが必要である。もちろん、各棚には列・行ごとにナンバーがふってあり一目で分かるようにはなっているが、広い倉庫内では、いちいち列を数えながら追っていては効率が悪い。そこで中島部長が用意したのが、倉庫の棚ナンバーを記した全体図である。図面を彼らに渡し、棚の場所を早く覚えるように指導している。
「さらに重要なのは、『1時間あたりにピッキングできる量を上げよう!』『目的の棚に一歩でも早く着こう!』といった具体的な課題を与えることです」
少し高めの目標を設定することで、彼ら自身に、どうすれば早くできるか、どうすれば間違えることなくできるかを考えさせている。


(2)一定の距離を保ちながら声かけする
一方、中島部長が特に気を遣っているのが、むやみに言葉をかけないことである。「細かく世話をするのは彼らの同僚であるパートの女性のほうが適任だし、スタッフは見守るというスタンスにしています。指導する立場の人間が、あまり根掘り葉掘り聞き出そうとすると、逆に彼らの気にさわったり、また萎縮してしまうこともあるようです。仕事を教えるときは別ですが、その他は話しかけられたことだけに対して答えるようにしています」
中島部長の話に早田部長も深くうなずく。以前、何気なく「がんばっているね」と声をかけたとき、「がんばるのは当たり前ですから!」と声を荒げて返された経験がある。「他の人と同じようにやっているのに、自分だけが特別に声をかけられたことが不満だったのでしょう。意識せずに言った一言でしたが、それ以来、私も注意するようにしています」
ただ親しく声をかけるだけではなく、彼らの気持ちを尊重し、それぞれの立場や職場の雰囲気によっては、あえて距離を置くことも必要である。
(3)安全指導
温和な中島部長が、一度だけ彼らに対し大声で怒ったことがある。
「自分の仕事に集中しすぎて、フォークリフトが来るのに気付かなかったことがあるんです。他のことなら個室に呼んで注意するぐらいですが、安全に関することですからね。みんなの前でどなりつけて、いかに危険なことかを教え込みました」
倉庫内は、車道と歩道は区別されているものの信号などはない。リフトは警報を鳴らしながら走行するが、障害のある社員においては、仕事に熱中するあまりに音の認識ができないことがある。中島部長は、本人が理解できるまで粘り強く指導を続けた。
職場では、毎朝の朝礼時に必ず安全について注意し、実際の事故の例などをあげながら安全教育を行っているが、彼らに対しては、なお安全に対する意識付けを行わなくてはならない。たとえ大声でどなって本人から厭われることになっても、それだけは徹底しなくはと中島部長は肝に銘じている。

(4)責任感を持たせ、意欲の向上を図る
雇用した知的障害のある社員に対して、まずピッキングの仕事から任せることが多いが、真面目で正確な仕事ぶりを評価し、入荷品のチェックや出荷品の宛名ラベル貼りの仕事に配置することもある。
特に宛名ラベルの貼り付けは、お客の元に正しく商品を届けるため、絶対に間違いを起こしてはならない。この緊張感が、作業に携わる社員の自信や誇りとなり、仕事に対する意欲に強く結びついている。その自信は、「僕が休んだら、誰がやるの?」「僕がいないと仕事が進まない」などの発言からも読み取れる。
また、彼らの活躍が他の障害のある社員に与える影響も大きく、「がんばればもっといい仕事をさせてもらえる」というモチベーションの向上になっている。
仕事の任せ方が本人の意欲に大きく関係するのは障害の有無にかかわらず同様である。定期的に個人の仕事内容と能力を把握しながら、配置替えや仕事の見直しをすることが重要である。
(5)学校との連携
当社は、横浜市立日野中央高等特別支援学校の卒業生を年に1人のペースで雇用している。
「先生方の熱心さには本当に頭が下がります」と早田部長は話す。先生は半年に1回は卒業生たちの仕事ぶりを見に訪れ、彼らの相談にのったり、また当社と今後の方向や改善策を話し合う。
また、就職を控えた3年生の保護者を招いた職場見学なども頻繁に受け入れており、年間30~40人が来社する。
「実際に我が子が働くかもしれない職場の環境と、額に汗して元気に働いている先輩たちの姿を見ていただくことが、親御さんたちの一番の安心感となっているようです」
なお、3年前からは、前期と後期に1人ずつ来春卒業予定の生徒を実習生として迎え、1ヶ月間、仕事をしてもらうなかで、その適性を見る取り組みも行っている。実習生にとっては就職前の心構えと社会人としてのルールを身につける場でもあり、また、雇用後のトラブルを回避する上でも重要なステップとなっている。
学校との綿密な連携について、早田部長は次のように話す。
「採用した障害のある社員が何か問題を起こした場合は、必ず学校に連絡し、先生も一緒になって解決するようにしています。保護者との連絡も学校が間に入ってくれるよう依頼していますし、今までの例を見ても、会社と学校、そして保護者が一体となって取り組むことで、うまく改善につなげてきています。この三位一体の活動は、今後も強化し、継続していくつもりです」
横浜市立日野中央高等特別支援学校と長年の間に培ってきた信頼があってこそ、障害者の安定した雇用が保たれている。それは、学校側からみれば優良な就職のモデルケースであり、事業所にとっては優秀な人材確保の機会である。
両者に「今後も長く良い関係を続けていきたい」という強い思いがあれば、たとえ今後、難しい問題やハードルが立ちふさがったとしても、必ず克服への道が開ける。
4.うつ病となった社員への対応
早田部長は、仕事を休みがちになっていた30代半ばのAさん(男性)について、うつ状態らしいと報告を受け、本人にヒアリングを行ったが、Aさんは「疲れているだけで、大丈夫」と言うだけで、本人にもあまり自覚がなかった。
しかし、この状態を傍観しているわけにはいかない。まずは「うつ」という病気をよく知るため、神奈川障害者職業センターに相談に出向いた。センターが主催する事業主支援ワークショップでは、専門医やカウンセラーによる講義のほか、従業員がうつになった他社の人事担当者などを交えたフリートーキングが開かれている。
早田部長はそこで知りあった専門医に助言を求めたところ、「とにかくすぐに休ませること」とのアドバイスを受け、Aさんに対して先ず病院に行くことを勧め、通院しながら1~2ヵ月間ゆっくり自宅療養させることにした。
療養中は何度もAさんの自宅を訪れ、休職中の仕事の状況などを説明して不安を解消させるとともに、本人の様子を確認するなどフォローに気を配った。
現在、Aさんは無事、職場復帰を果たし、早田部長のもとフルタイムで元気に仕事に取り組んでいる。
「初期段階の対応の仕方を間違えたら大変なことになりますからね。早い段階でセンターに相談に行き、他社の事例や専門医の指導を聞くことができて良かったです」と早田部長も胸をなで下ろしている。
採用時には健康であった社員が、毎日の仕事のなかで精神を病んでしまうケースも最近は多い。当社の対応例は、その一歩手前で適切な対処をし、解決に結びつけることができた好例である。
5.知的障害者雇用における課題と期待
「障害者の自主性を育てたい」というのが、当社の掲げる信条である。指導役のスタッフがいつもそばについて手取り足取り教えるのではなく、「その場の状況に合わせて臨機応変に対応できる自主性」を彼らに望んでいる。
「仕事の波によっては、勤務時間中でもポッカリと手が空いてしまうときもあるわけです。そのような場合は他の人の仕事を手伝ったり、スタッフに他の仕事がないか聞きに来るなり、自主的に動いてほしいというのが本音です。でも、なかなかそういった判断ができないようで…。いつだったか、暇になったからといって、倉庫の片隅にじっと座り込んでいた人もいました」
「指示待ち君」ではなく、自主的に仕事を探すようになってほしいと中島部長は望んでいる。
「また、こんなこともありました。うちでは出荷のために大量の段ボール箱を使用しますが、その作製を頼んだら、これまたきっちりと、几帳面にゆっくりと時間をかけてテープでとめているんです。お届け先では捨てるものですし、ある程度雑でもいいんです。それよりも時間のほうが大切だと説明しても、キョトンとしている。今、何が重要なのかという優先順位をつけるのが不得手なんですね」
知的障害のある社員に対し、そこまで要求するのは難しい部分もあるが、あえて彼らの成長を信じたい、と中島部長は話す。
指導には手間と時間、そして何より根気がいる。しかし、当社では今後、彼らの立場をパート社員から正社員にする計画もある。そのためにも、彼らの能力をより向上させ、会社に貢献できる社員の育成をめざしている。
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。