障害は個性。柔軟な発想が雇用の場を生み出す
- 事業所名
- ジョブサポートパワー株式会社(マンパワー・ジャパン株式会社の特例子会社)
- 所在地
- 神奈川県横浜市
- 事業内容
- 事務業務請負(受託)
- 従業員数
- 128名
- うち障害者数
- 119名
障害 人数 従事業務 視覚障害 21 総務事務、クイックマッサージ 聴覚障害 7 総務事務 肢体不自由 51 総務事務、経理事務 内部障害 32 総務事務、人事事務、社内外郵便物取り扱い 知的障害 2 庶務 精神障害 6 総務 - 目次
1.事業所の概要
横浜みなとみらいを象徴する超高層ビル「ランドマークタワー」の36階にある、人材派遣業大手のマンパワー・ジャパン株式会社本社の一角に、特例子会社として当社が設立している。
社員である障害者たちは、その名の通り、親会社の補助的仕事にそれぞれ従事している。タイムシート(勤務表)やプログラム作成などのOA業務、社内のメール配送や名刺印刷などの庶務業務、その他、経理業務や営業事務、そして社内マッサージなどのサービスなど。その仕事は多岐にわたり、また障害の種類もさまざまである。
2.障害者が働きやすい制度づくり
当社は2001年に設立した。2003年に特例子会社に認定されたときは、健常者2人と障害者5人だったが、毎年少しずつ雇用を増やし、2005年からは毎月3、4人の障害者を継続的に採用。この2年で大きく規模を拡大している。
「ここ数年で特に増えたのは、クイックマッサージコーナーで働く視覚障害者を多く雇ったからですね。ジョブサポートが掲げるモットーは『まず仕事ありき』。親会社であるマンパワー・ジャパン(以下マンパワー)をサポートする仕事のなかで、障害者にできることを探し出し、それに見合った人に任せる。その積み重ねです」と上薗宏総務部長は語る。
募集方法は、主にハローワークへの登録と障害者求人専用のWebサイトへのアクセス。適性とスキルを持つ人なら、障害の種類は問わない。
「たとえば、もともと企業で経理の仕事をしていた人が、なんらかの理由で肢体障害者や内部障害者になってしまうことがあります。そんな高い能力を持っているのに、障害者というだけで仕事に就けないなんて実にもったいない!というのが私の実感ですね。我が社がそういった人たちの受け皿になれたらいいなと思っています」

障害者が安心して働き続けるには、「なんといっても働きやすい環境づくりが大事」と上薗部長は力説する。
当社では「定期通院制度」を取り入れており、通院が必要な障害者に対しては通常の有給休暇とは別に、全日、半日などの休暇の取得を保証している。人工透析の必要な内部障害のある社員は週に3回の通院休暇をとっているが、制度として確立されているので、心おきなく治療に専念できる。
また、個人の都合に合わせて出勤時間を設定できるフレックスタイムおよび個別シフト制も設けている。精神障害などで午前中の体調が悪い社員は午後1時の出勤にしたり、肢体障害者などは午前8時のラッシュ前に出社している。
このような制度は、なにも設立時からあったものではない。障害者のなかから「こうしてほしい」と具体的な要求が出るたびに検討を重ね、今のシステムをつくり上げてきた。
「月に一度、マンパワーのメンバーも含め、『障害者雇用推進会議』を開いていますが、そこで、障害者の人にどんな仕事をしてもらいたいか、また彼らに何ができるか、そしてそのためにはどんな制度を設けたらいいかを毎回話し合っています」と上薗部長。
会議では、マンパワーの橋口善一常務が議長を務め、立川オフィス、大阪オフィスのメンバーにも電話会議を通じて参加してもらう。
当社の拡充は、マンパワーの企業としての大きな役割のひとつと位置づけられている。

3.親会社に溶け込んで働く姿
車いすを利用する佐藤貴秀さんは経理事務の担当。マンパワーの経理部のメンバーと隣り合わせの席で、日々の仕事をこなしている。前職でも経理を手がけていた専門家である。
「ランドマークタワーは新しいビルなので、バリアフリーに関してはほとんど不自由していません。職場の雰囲気にしても、たとえば高いところにある書類を取るときも気兼ねなく人に頼めますし、皆さん、障害者がいる日常に慣れているといった感じで、とても働きやすいですね」
佐藤さんが職場に来てからは、車いすの邪魔になる段ボールや本などの床置きが自然と減り、通行しやすくなった。「障害者が働きやすいように」などと声高に叫ばなくても、自主的に、さりげなく心配りがされる空気がある。
健常者のなかにいても、障害に甘えることなく与えられた自分の仕事をきちんとこなすこと。そうすれば自ずと認めてもらえるし、協力してもらいやすくなると佐藤さんは言う。

また昨年秋から、当社はマンパワーの受付業務の一部請け負いを仕事にしている。マンパワーの受付担当者の昼休みや休憩時間に、女性社員5人が交代制で受付に座っている。
「それぞれ肢体障害や内部障害、精神障害を持つ人たちですが、具合の悪いときは担当を代わるなど臨機応変に対応しながら、がんばっています」そう言うのは深瀬八重子さん。
初めのうちは来社するお客の対応に慣れない部分もあったが、「受付も総務の仕事のうち。恥ずかしがってる場合じゃない」と割り切って仕事を覚え、今ではベテランの風格が漂うほどになっている。

「今は試験的に部分委託の形でやっていますが、いずれは受付全体を請け負うぐらいにしたいですね」と上薗部長は今後を語る。
「『障害者に受付を任せるなんて…』と思うほうが、よっぽど偏見です。当社の場合も業務を委託されるまでには少し時間がかかりましたが、どんな仕事でも『少しずつやらせてください』と持ちかければ、徐々に障害者に対する理解も深まってきます。何度も言うようですが、せっかく仕事ができるのに、やらせないのはもったいないことですよ」
4.好評のクイックマッサージサービス
マンパワーのカフェテリアには、社員が無料でマッサージサービスを受けることができる「クイックマッサージコーナー」がある。ここでマッサージセラピストとして働くのは、視覚障害のある社員たちである。
彼らのリーダーであり、マッサージ事業のマネージャーを務める乙黒正次さんは、3年前、事務職の募集に応募し採用した。しかし、以前は接骨院を営みマッサージの仕事をしていたという経歴を聞いた上薗部長は、乙黒さんをリーダーとしてマッサージサービスを展開することを思いついた。
「せっかくの彼の知識や経験をフルに活かしたいと思ったし、乙黒さんにも、入社当時に比べて体調も良くなってきていたこともあって、快く了承してもらいました。彼のおかげで、とんとん拍子に仕事を立ち上げることができましたよ」
利用者からも「ちょっと時間の空いたときにお願いできるし、疲れがとれて、すごくリラックスできる。よく利用させてもらっています」と大好評である。今では本社での営業のほか、マンパワーの他のオフィスにも巡回施術を行うまでになっている。

マッサージセラピストたちはマッサージ師の資格所持者だが、企業での仕事は初めてという人も多い。以前は病院でマッサージ治療に当たっていたという女性は、「病院では『治療してあげる』という意識でしたが、ここでの仕事は、同じマッサージでも全然違う。相手は女性が多いですから、メイクや髪の毛をあまり乱さないように気を遣うようになりました。相手がリラックスできるような会話も大切ですし、それを楽しみにされている方もいます。『サービス』や『ユーザー指向』ということについて、さまざまな点に気づかされましたね」と話す。
乙黒マネージャーは、その意識改革こそが自分の重要な仕事だと認識している。マッサージ師の資格所持者は「手に職」という自負が強く、一匹狼的な人も多い。
「そういう人たちに、チームの一員としての意識やサービス業としての自覚を持たせるのが私の役割です。技術指導と意識改革、それから全体のスケジュール管理に採用の面接など…、セラピストたちの相談にものりますし、マネージャーの仕事は大変です。ですが、今後も視覚障害者の仕事の場を拡大していくためにも、尽力していきたいですね」
クイックマッサージ部門は、上薗部長曰く「乙黒さんがいたからこそ、ここまで成長させることができた仕事です」。その期待に応えるためにも、乙黒さんにはもうひとがんばりをお願いしたいところである。

5.障害者が障害者の仕事を開拓する
総務部の主任を務める森戸祐一さんは、週に3回、人工透析をしなければならない内部障害がある。マスコミ関係で働いていたが、オーバーワークがもとで身体を壊し、一年間の治療の後、2005年に当社に就職した経歴がある。
「私のような透析患者にとっては、なんといってもありがたいのが定期通院制度ですね。気兼ねなく休むことができるし、前職とは違って、自分の身体をいたわりながら仕事をすることができます」
もちろん仕事には支障が出ないよう、出社する日は朝8時には席につく。同じ障害者でも、定期通院制度を利用していない人には気配りしているという。

ところで森戸さんの主な仕事は、業務開拓である。マスコミで営業の仕事をしていた森戸さんは、同じ障害者の仲間たちの仕事を探す人材として適任であった。
「いくら親会社の理解があるといっても、待っているだけでは仕事はきません。こちらからどんどん新しい提案をして仕事をアウトソーシングしてもらい、いずれはマンパワーの頼れるパートナー的存在として自立することが目標です」「そのためには儲けにもこだわらなくてなりません」と森戸さんは話す。今、手がけているのは、カラーコピー業務の請け負い。フロアに各種あるコピー機を規格統一し、コピー単価を下げようという狙いである。コスト競争力をつければ受注もしやすいし、儲けも出ると森戸さんは見込んでいる。
また、せっかく委託された仕事でも、そのまま継続して任せてもらえるかどうかは、安定した品質や障害者のモチベーションの維持にかかっている、と森戸さんは訴える。
「ですから採用や教育、仕事の与え方には特に神経を使いますね。極端な言い方をすれば、今、働く障害者には二極化が進んでいると私は思います。高いスキルを持っている障害者は、どんどん自分の能力を活かしてキャリアアップを狙う。彼らにはより高い課題を与え、仕事に対する達成感を持たせることが重要です。一方で、仕事の能力の低い障害者もいます。ですが、この人たちにも仕事を探さなければなりません。『どうせできないだろう』と思って仕事をさせないわけにはいかないのです」
同じ障害者といえど両極に位置する人たちの能力と適性を見極め、彼らにあった「やりがいのある仕事」を開拓する。森戸さん自ら障害があるからこそ、そのベストマッチングができる。
6.柔軟な発想が仕事をつくり出す
その他、少人数ではあるが知的障害と精神障害のある社員もいる。精神障害者については、天候や体調の変化によって不安定になりやすいので、常に小さな変化にも注意してフォローすることが大切、と上薗部長は話す。調子が悪そうならすぐ他の人と交代させるなり、休ませるなりの対処が必要である。
また、知的障害者の場合は、チームを組ませ、その上に専属のサポーターを配置して仕事の管理をさせている。
「障害の種類や重さは人それぞれ。私は『障害は個性』ぐらいに考えています。ですから、その人にあった仕事のやり方をその都度考え、仕組みが必要なら制度化もします。当社には在宅で仕事をしている社員も20人くらいいるんですよ。主に新聞のクリッピングなどの調査業務を担当させていますが、仕事さえきちんとできれば、仕事場なんてどこでもいいじゃないですか」
上薗部長の語からは、「仕事と人」に対する非常に柔軟な考え方がうかがわれる。「仕事」と「人」を結びつける人材派遣業という世界で培われた蓄積が、障害者雇用の面においても「できる仕事はどんどん任せる」「働き方の形にはこだわらない」など、従来の固定概念を超えた発想に実現されている。
また、上薗部長と二人で当社の本社業務を支えている小野勝課長は、障害者と関わる上での心構えについて、「たとえば障害が一様であるのなら、対応の仕方にもパターンができてくるかもしれませんが、そんなことはあり得ませんよね。言葉通り『個性集団』そのものなんですから。それぞれの人に対して、こちらの視点を変えながら対応しなければなりません。そのギアチェンジが大切ですね」と話す。

今後も拡大路線を進んでいくジョブサポートパワー。彼らの持つ柔軟な視点で「仕事」という舞台を眺めれば、まだまだできることがたくさん見つかるに違いない。
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