障害者自らが経営者を目指す~障害者による障害者のための事業所~
- 事業所名
- クリーニングホワイトランド
- 所在地
- 福井県敦賀市
- 事業内容
- ホームクリーニング、介護洗濯、せっけん販売、安心洗濯・環境講習会の開催
- 従業員数
- 5名
- うち障害者数
- 5名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 2 アイロンがけ、包装 精神障害 3 アイロンがけ、包装、洗濯、集配、事務処理 - 目次


1. 事業所の概要
当事業所は、平成8年3月に敦賀市の最高峰である野坂山のふもとの自然環境に恵まれた住宅に隣接する工場で創業し、「将来的には、障害者自身が代表理事になる法人化」を目標にクリーニング業を営んできた。
最大の特徴は、従業員全員が障害者であることから、互いに職場を通じ強い絆で結ばれ、作業場での「切磋琢磨」により除々にではあるが、経営理念を持つ従業員も見えてきているのが現状である。
営業は、市内の顧客を対象とした集配クリーニング及び介護施設への営業による業務用白衣等のクリーニングが中心で、特に、ここ数年では介護施設からの集配クリーニングが増加してきている。
また、地元の福井県民生活協同組合において、環境浄化のできる家庭洗濯講習会を開催し、オリジナルブレンド石鹸・重曹・EMW等の販売を行うなど、環境にやさしい洗濯の一役を従業員とともに担っている。
また、時折、近隣の滋賀県長浜市や高島市に出向き、同様の家庭洗濯講習会の開催やオリジナル商品等の販売も行っている。
2. 障害者の勤務状況
当事業所の従業員5人は、全員障害がある。
知的障害 2人(うち1人は自閉症)
精神障害 3人
また、実習生として2人が勤務している。
精神障害 1人
アスペルガー症候群 1人
(1)知的障害
1)Aさん
45才で4年目のAさんは、アイロンを主に包装等の全体の段取りに従事しており、職場でのムードメーカーとして、みんなを引っ張っている。
雇用当時は、2時間の連続作業が限界であったが、本人の性格に合わせ、朝が苦手なことから出社時間をシフトするなど、働き易い環境づくりを常に仕事場で把握し、その場その場での適切な指導援助の繰返しの結果、今では6時間の就労が可能となっている。
また、自分の健康に対する意識も芽生え、大好きだったお酒も週3日、煙草は1年に1本ずつ減らし、現在では1日10本、10年後には0本の禁煙家を目指している。
このことから、無駄使いも少なくなると同時に金銭感覚も備わってきており、リーダーシップに相応しい人物となっているところである。

2)Cさん
自閉症(27才)で4年目のCさんは、包装を主にアイロンや洗濯物の運搬に従事している。
雇用当時は、喋ることが苦手で、画用紙にマジックで書きながらの筆談であったが、現在ではみんなと自由に喋りながら、仲間のお世話やお手伝いをしている。
また、Cさんは当初、人に聞く耳を持たず、勝手に自分なりの作業をすることによる失敗が重なって止まなかったが、現在では、仲間の手助けのお陰もあり、作業前には必ず作業工程を聞きながら仕事に従事していることから、快調そのものであり、彼独特の世界が今では従業員のみんなを癒している。

(2)精神障害
1)Bさん
37才で4年目のBさんは、洗い物を主に包装・アイロン掛けに従事している。
雇用当時は、2時間の連続作業が限界であったが、今では8時間就労も平気にこなすほどになった。
また、生活環境等の妨げだった「彼女との悩み」を解消し、「自活のための就労」に人生の目標を見つけた今は、人を見違える程の明るさと活力に溢れている。
Bさんは現在、県のクリーニング師免許取得に向けて特訓中であり、また、今年度は「無遅刻、無欠勤」に挑戦中で、6月現在遅刻・欠勤はない。

2)Dさん
32才で3年目のDさんは、営業車での集配業務と営業に従事しており、時間に余裕があれば店内作業も手伝っている。
雇用当時は、生活リズムがパチンコやお酒が好きなだけに、良いバランスが取れていなかったが、現在では、パチンコは完全にやめ、お酒は断酒日も設け週3回の1日500ccまでの減酒、煙草は1日10本の喫煙で1年に1本の削減に取り組む等により、体調もすこぶる快調で、預金も増え、多少の生活の余裕となっている。

3)Eさん
36才で2年目のEさんは、包装やアイロン掛けを主に資材管理も同時従事している。
雇用当時は、3時間の作業が限界であったが、悩みの要因である「女性問題」から抜け出ることにより、今では、ほぼ1日7時間の就業を可能としている。
国立大学を卒業しているEさんは、現在、精神保健福祉士の取得に向け必死に勉強中である。

(3)実習生
1)Fさん
精神障害がある29才で3年目のFさんは、石鹸作りや作業場外回りの除草作業に従事している。
当初通勤してきた時には、体調が不安定で欠勤などが多く悩んだが、漸く、就業への自立心が出てきたことから、現在、2ヶ月間の無欠勤が続いており、就職を目指して頑張っている。

2)Gさん
アスペルガー症候群のある20才で1年目のGさんは、洗濯物の包装作業に従事しているが、作業に対する真面目さと器用さはトップレベルである。殆ど会話ができないが、一生懸命に努め、就職を目指し奮闘しており、天気が良ければ毎日20キロの通勤路を自転車で通い現在無遅刻・無欠勤である。

この様に、精一杯元気に働いている姿は、雇用者としては限り無い喜びであり、今後も、障害者の雇用を引き続き考えて行きたいと思うところであり、何にも増して、就業に対する彼らの意気込みに最高のエールを捧げたい。
是非、彼らと手を繋ぎ合いながら、「みんなが代表理事である法人化」を、いち早く実現できるよう、力添いをできる限りしたい。
3. 取り組みの内容
(1)業務遂行援助者として代表が対応
真柄博行代表が業務遂行援助者となり、家族的な環境の中、日々短時間ミーティングを繰り返しながら、指導援助を行っている。
なお、ミーティングにおいて雇用管理上の問題が生じた際には、「やまびこ園(知的障害)」、「ひまわりの家(精神障害)」の支援員と連携し、解決に努めている。
(2)助成金の活用
①障害者作業施設設置等助成金(第1種)・・・パソコンの購入に活用
②障害者作業施設設置等助成金(第2種)・・・営業用車両の購入に活用
③重度障害者介助等助成金(業務遂行援助者の配置)
(3)行事参加
1)お神輿参加
年2回、近所でのお祭りのお神輿に参加し、近隣住民との連携と親睦を図ることにより、一般社会への参加と一層の人間形成がなされるために全員で体験する。
2)清掃奉仕参加
年1回、初夏に町内で実施する「清掃奉仕活動」に参加し、特に体力の必要とする側溝等の重い蓋を取りはぐし清掃を行うことが、町内の高齢者の手助けの一助になっている。
「自分たちが役にたっているとの達成感」により、今後の社会生活の自分自身の自信にも繋がる。
なお、清掃奉仕活動が終わると同時に行われる、食べ放題・飲み放題も地域住民との親睦に繋がるとともに、楽しみの行事の一環となり、その結果、コミュニケーションの輪が広がり明日への活力にもなる。
4. 障害者自身が「良くなる」ための雇用管理
(1)自律のための約束
当社の従業員としての地位を確立するための絶対条件がある。それは、「本人が良くなってもらう」ことである。
つまり、どれだけ従業員が増えようが、私と彼らとは一対一での個々の教育であり、自立を目指すのであれば、自律が必要であることから、実習等に入る前に必ず次の2つの約束をする。
クリーニング業はそもそもが、サービス業であることから、顧客からの預かりの洋服等の管理は慎重にしなければならないし、特に、洗濯衣類に現金等の貴重な品物も多いことから、これらは大切に保管しクリーニング後の配達の際には、責任を持って返すことが顧客管理の原則である。したがって、これらの預かり物を失ったり粗末に扱った場合には、保管庫での貴重品管理の周知徹底を行い、自己責任の範囲で解決を図っている。
また、仕事に対して、互いの仕事の出来具合等の批判や、従業員虐めをした場合には、その都度本人を含む従業員全員での改善策について、ミーティングを行いながらスキルアップに努めるとともに、互いに尊重、思いやりながら協力し合って解決するよう努めている。
以上の2点については、社長をはじめ従業員の役目なので、できないことをどうやってできる様にするかが大事であり、しいては、当社の事業を発展させて行く上で重要な事項であることから、最初の段階で「しっかり」従業員に伝えている。
(2)健康管理
殆どの従業員が、心身の健康の大切さを重要と思っていないので、毎年、全員に健康診断を春の3月に受診させており、その結果、一項目でも精密検査や指導区分を受けた場合には、年度当初の賃金昇給額等の査定に反映している。
そのことが、健康管理にも繋がり、「健康だから、仕事が出来る喜び」を感じて欲しいということのが社長の理念である。
(3)ミーティング
如何なる場合においても、1日4回、短い時間ではあるが、皆で集まり仕事の問題点や顧客に対するサービスのあり方等についてミーティングを行っている。
話の内容は、特に「個人的な悩み」・「顧客ニーズのあり方」を中心に、概ね30分の4回で2時間を皆で話し合い、考え合う。このことが障害者雇用継続には欠かせないことでありまた、雇用環境の改善に結ばれることと確信している。
代表は、これらの話し合いを基に、採用1年くらいの期間には、頻繁に家庭訪問をしながら作業に携わっている経過や指導方法など保護者を交え、ともに考えながら彼らの自律心を養うよう努めているところであり、問題等が解消すれば家庭訪問も終了としている。
5. 今後の展望~良き指導者の育成~
目指すのは、障害者手帳を所持している彼らが、当社の障害者職場介助者としての「良き指導者」となることである。
辛かった彼らの経験から得た「新人達への」指導こそ、健常者には解らない極め細やかな指導である。
4年間、1人も離脱者を出さなかったことは、「障害者手帳を持った指導員」のお陰で、決して代表の雇用管理だけではない、と代表は思っている。
毎日奮闘している5人の従業員と2人の実習生が目指している「障害者による障害者のための、総合的な福祉施設を立ち上げる経営者」という望みをいち早く叶えさせるために、代表と従業員たちは、互いに目をキラキラ輝かせて頑張っている。

執筆者 : クリーニングホワイトランド 代表 真柄 博行
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