職場環境の整備と、無理のない仕事配分により技能職人を育成する
- 事業所名
- 株式会社甲伸堂
- 所在地
- 山梨県西八代郡
- 事業内容
- 印鑑製造
- 従業員数
- 32名
- うち障害者数
- 3名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 1 印鑑の荒彫 肢体不自由 2 印鑑の荒彫、事務(庶務) 内部障害 0 知的障害 0 精神障害 0 - 目次


1. 事業所の概要・障害者雇用の経緯
(1)概要
山梨県は、古くから印鑑彫刻が行われ、伝統工芸として現代に受け継がれている。
昭和53年に設立した当社は、印鑑の発祥地である六郷町の三百年の歴史と技術を受け継ぎ、「印鑑の総本家」として全国主要都市に拠点を設け、良い商品を一貫生産しお客に届けている。なお、印鑑については、当社伝承の製法と、独自の神殿である富士見神殿において一刻入魂の儀、そして社員一同による真心により真の印鑑となるよう祈念しながら製造している。
(2)障害者雇用の理念
地域に貢献する意味から、障害者雇用についてはオープンで募集を行っている。基本的な考え方は「特別扱いしない」ということに尽きる。障害のない社員と同様に接しており、逆に、障害があるからこそ頑張れる、と高く評価をしている。
(3)障害者雇用の経緯
昭和59年の創業間もない時期に、当社の近くに住んでいた障害のある人が就職を希望してきたことが最初であり、きっかけとなった。
その後、ハローワークからの紹介により採用に取り組み続け、ハローワーク主催の障害者合同面接会なども活用している。また、南アルプス市にある心身障害者小規模作業所「どんぐりの家」の利用者も採用している。
現在、聴覚障害のある1人と、肢体不自由のある2人を雇用しているが、共通して言えることは、最初から何の抵抗も問題もなく、戦力として活躍してもらっていることである。
2. 取り組みの内容
(1)労働条件
1)雇用期間
期間は定めていない。また、職人として活躍している障害のある社員もいるが、職人になると定年はなくなる。
2)勤務場所
工場(印章センター)内であり、異動はない。
3)勤務時間
フルタイムで設定している。
4)賃金
障害のない社員と同額を支給している。
(2)職務内容
障害があることに対する特別な設定はしていない。現在の職務内容は、主に印刻と事務の2職種としている。
1)荒彫
印刻作業の工程の一部で、字入れしたものから字を残す作業であり、3ヶ月程度で作業に慣れるが、一人前になるには一年程度要する。個人差があるため、なかなか慣れない場合は、製品の難易度を変更し対応している。
なお、荒彫を含め印刻作業の全てができれば、独立することも可能であり、過去に障害のある社員が独立した実績もある。
作業手順










2)事務
事業所全体の庶務を任せている。

(3)雇用管理
1)人的配慮
障害者雇用の基本姿勢である「特別扱いをしない」を徹底しており、ポイントは以下のとおりである。特に教育訓練は障害のない社員と全て同様に行っている。
ポイント
①決して無理はさせず、できる範囲の仕事を配分する。
②壁に突き当たった時は、遠慮なく質問するように指導していること。
③特別に教育担当者を置くのではなく、職場全体で、時間的に可能な者が適宜指導をすること。
これら3点以外に、聴覚障害に対しては、メモや携帯電話のメールを活用してコミュニケーションを図っているほか、社員の中には自主的に簡単な手話を勉強し、積極的な意思の疎通に取り組んでいる人もいる。
また、障害者雇用の紹介を受けた「どんぐりの家」からは、毎月、指導員による巡回訪問があり、労使双方の安心感の向上や労務改善に役立っている。
なお、採用に際しては、試用期間を3ヶ月間設けているが、この期間に退職した人は過去に一人もおらず、当社の育成姿勢が非常に有効であると言える。
2)設備・職場環境面の配慮
ポイントは、安心かつ快適に仕事ができるように基本的な職場環境・設備の整備を心がけている。
具体的には、車いすを使用する社員が安全で快適に職業生活が送れるよう、以下の取り組みを行った。
①段差を避けて車いすでも移動できるように、入口内外になだらかなスロープを設置
②作業がしやすいように、作業机の高さを調節
③障害者用のトイレを設置



(4)障害者雇用助成金等の活用
助成金等については、特定求職者雇用開発助成金、重度障害者等雇用促進助成金(注)、トライアル雇用奨励金、障害者作業施設設置等助成金(スロープの設置及び障害者用トイレの整備に活用)を受給し、障害者雇用においてコスト面でバックアップを受けた。
(注)重度障害者雇用促進助成金
山梨県では障害者の社会への完全参加と平等を実現するために制定された「山梨県障害者幸住条例」に伴い、より多くの重度障害者等の雇用の場を確保するために、山梨県独自に創設された助成金。雇い入れ一人につき20万円が支給され、特定求職者雇用開発助成金といった国の助成金と併給できる。
3. 取り組みの効果
(1)企業風土の改善
障害者雇用に取り組み、仕事だけではなくスポーツなどを通じて障害のある社員と接する機会が増えたことにより、次のような効果が見られた。特に障害のない社員においては、彼らの真摯な姿勢を大切にするようになった。
さらに、彼らの前向きで明るい言動が、事業所全体の雰囲気を明るくしている。
効果
①社員に協調性や思いやりの気持ちなど人間的な成長が見られた
②声を掛けることの大切さを学んだことにより、人との接し方が改善された
(2)職場の活性化
障害のない社員が、彼らの一生懸命コツコツと明るく働く姿を目の当たりにすることにより、モチベーションの向上に対して大きな刺激になっている。
(3)職場環境の改善
スロープの設置は、安全で働きやすい職場環境作りであり、労働災害の防止などに直接影響する。彼らが作業しやすいような環境の配慮は、高年齢者や女性も含めた社員全員の安全・安心を確保することになり、職場全体において働きやすい環境整備につながった。
(4)労働力の確保
障害のある社員が十分戦力となる仕事があるので、障害者雇用は、労働力確保の重要な施策の一つであり、当社にとって必要不可欠となっている。
(5)企業イメージの向上
対外的に、地域貢献としての障害者雇用について評価を受けることにより、企業のイメージアップに大きく貢献している。
4. 今後の課題と対策
(1)課題
地域貢献や労働力確保を継続する点からも、障害者雇用の現場を拡大したいと考えており、そのためには、現状の設備では困難な職務への対応が必要と考えている。
印鑑ケースの製作作業においては、現在では二階に作業場があるため、下肢障害のある人を受け入れるための設備改善が課題となっている。
印鑑ケース製作作業(一部)



また、少子高齢化の影響は避けがたく、社員の平均年齢が50歳を超えており、印鑑製造という職人技における技能承継問題を抱えているなか、障害者雇用は必要不可欠であり、男性に限らず女性の障害者雇用も検討しているところである。
福利厚生においては、忘年会や親睦旅行など、障害のある社員にも一緒に参加させたいと願ってはいるが、安全面の確保が不十分のため実現できていない。
(2)対策・展望
障害者雇用は必要であり、前向きに受け入れたい思いはあるが、働く場を無理して作ると、事故やトラブルになりかねないことから、無理はさせないという考えに基づき、現状の体制の中で、可能な範囲で仕事を任せることを基本とし、可能な限り障害者雇用に取り組む意向である。
特に、職人技が求められる業務では、本人のやる気次第で、障害や年齢に関係なく活躍できる職場として、障害者雇用を継続し、障害の有無にかかわらず教育訓練を実施していきたいと考えている。
また、忘年会や親睦旅行なども安全対策をしっかりと整備した上で、全員参加を実現したいと考えている。
執筆者 : 雨宮労務管理事務所 所長・特定社会保険労務士 雨宮 隆浩
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