個人の能力をじっくり伸ばし、育てる~医療業におけるリネン部門での知的障害者雇用~
- 事業所名
- 特定・特別医療法人慈泉会 相澤病院
- 所在地
- 長野県松本市
- 事業内容
- 医療業(一般病院)
- 従業員数
- 1,347名
- うち障害者数
- 7名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 4 医療福祉相談、看護師、薬剤師、介護職員 内部障害 0 知的障害 3 リネン係、食器洗浄 精神障害 0 - 目次

1. 事業所の概要
当院は、松本城を中心に商業都市として発展した松本市の旧城下街から少し離れた住宅街に1952年(昭和27年)に創業、地域とともに発展し、地域にしっかりと根をはっている病院である。
医の本質としての救急医療と医の心としての全人的医療を病院医療の原点と考え、その実践に意を注いでいる当院は、急性期医療を担う地域の中核的病院として、新しく良質な医療を行うために、機能的で活力あるチーム医療を常に心がけ、地域からの高い信頼獲得をめざした病院づくりに次のような理念のもとに取り組んでいる。
理念
私たちは、患者さまのためのまごころの医療サービスを行います。
私たちは、地域のみなさまから信頼される病院づくりに努めます。
私たちは、常に新しく良質な医療の提供ができるように心がけます。
私たちは、皆様の健康増進、疾病予防のお役に立ちたいと願っております。
2. 障害者雇用の経緯
従来から有資格職(例えば、看護師、理学療法士、作業療法士、医療事務等)を主体に、身体障害者雇用を中心に取り組んできたものの、業種の関係上、障害者雇用は難しい中、法定障害者雇用率は未達成のままハローワークから指導を受ける状況であった。
2006年10月、ハローワーク及び長野県雇用開発協会主催の障害者就職面接会に参加した際には、10数人の求職者が問い合わせや面談を行った。そのうち知的障害のある求職者6人が、長野県松本障害者雇用支援センターの指導員の同行等により面談コーナーを訪れたが、彼らの多くから「洗濯の仕事はないのか?」という問い合わせを受け、この質問をヒントに、知的障害者雇用と彼らの戦力化・能力拡大等に取り組み始めた。
3. 知的障害者雇用に向けた取り組み
障害者就職面接会で問い合わせのあった「洗濯の仕事」については、当院にも当然リネン業務はあるが、院内のシーツ・タオル等の洗濯・乾燥など一連の作業は現有の4人体制で間に合っており、当面欠員の予定もなく安定していた。
職場に戻った人事部の藤原主任は、それでも「何か知的障害の人ができる仕事はないものか」と期待をもって、①駐車場の整備・誘導、②院内メッセンジャー、③リネン業務を3本柱としている「さわやかサポート課」の胡桃課長に相談を持ちかけたところ、学生時代に障害のある人と接した経験がある課長は、知的障害の特性や接し方などをある程度心得ており、彼らの持っている能力をうまく活かし、職場の一員として認められ、働き続ける励みとなる仕事について考え始めた。
(1)リネン作業における雇用条件の設定
職員の補助的役割で知的障害者に働く場を提供することは可能であるが、工数面で余力を生むことになるリネン業務で彼らを雇用し、戦力として活用していくのであれば、本人や一緒に仕事をする職場の同僚にとって①仕事の成果が上がり、それが見えるようにしたい、②周囲からも良い評価を得たい、③本人にも充実感を味あわせてやりたい、をポイントとした。
課長は作業現場を管理してきた経験から、「仕事は完結型が好ましい」との考え方を持っていたので、能力的に可能であれば作業の一部分を担当するより完結できる作業のほうが仕事内容に変化ができ、しかも責任の所在や達成度が明確であり、やり遂げた時の充実感や満足感は大きいと考えた。
そこから、洗濯の前後工程にあたる各病棟からの回収や仕上がり品の配達までを、職員が支援しながらでも担当させるため、職員や患者との挨拶や言葉のやりとり、機敏な動作、さわやかな笑顔、計数と記帳などができるレベルの人を募集することを条件とした。
一方、職場では、以下の内容の実践を条件とした。
①管理者として、彼らの持っている能力を把握し、長期的な教育・指導計画と目標管理計画をつくる。
②実際に毎日の指導や協働して作業にあたる職員の教育・指導が新たに必要であり、余力対策を確立する。
③関係する部門に協力依頼し、幅広い受け入れ態勢をつくる。
(2)対応方法の検討
採用に向けてハローワークと相談し面接を行ったところ、家が近くで仲の良い、市内の障害者雇用支援センターを利用する2人の女性(八鍬さん、山田さん)に対し、重度の判定を受けていたが表情も明るく、挨拶や返事も良くでき、理解力も動作もかなり期待できると評価した。
2人の状況に対して、リネン業務に従事する職員に話したところ、不安感もうかがえたので、担当職員が障害者雇用支援センターの指導員と打ち合わせや情報交換会を実施し、日常指導のノウハウなどを学ぶ機会を設けるなど、受け入れ側の環境づくりを進めた。
障害者雇用支援センターにおける指導内容を基にした対応方法は以下のとおり。
①複数の指示は出さない
②必ず「終わりました」の報告をさせる
③結果を確認し、YES ・NOをはっきり伝える
④昼食は職場の人と一緒に
⑤病院はサービス業、態度・服装・挨拶はキチンとする
⑥解らないこと、不安なことはその都度質問や相談をする など

(3)作業実習の活用
障害者民間委託訓練を活用した作業実習を計画、2人と一緒に作業することを通して、雇用の際の準備や2人の言動を観察し、指導上の見通しをつかむほか、一緒に仕事をする予定の女性職員における接し方や、対応できる職務の範囲を把握し、やっていける感触を得ることができた。
4. 職場の取り組みと効果
(1)職場教育・指導のポイント
2人の職務遂行力に向上が見られたことについて、胡桃課長により確立された以下の職場教育・指導のポイントによる取り組みの効果が生まれている。
1)先輩の指導・自己表現の強化
知的障害があり、しかも初めて就職した2人に対し、仕事だけでなく社会教育の一つとして、職場生活や対人関係、職場外の生活も含めた心得などを先輩職員の協力も得ながら教え、指導している。その中で、「自分の意思や考えをはっきり表現すること」を常に意識してもらい、実行させることにより、自ら学び取る力を伸ばすようにしている。


2)長期的な視点による指導
そのために、毎日の協働作業や指導を担当する職員に対しては、2人に沢山の経験を積んでもらい、自信をつけてやりながら戦力として育てていくため、「まだ、戦力として要求してはいけないよ」「支援者・指導者としての努力とガマンの時だよ」「自分の子供と同年代の人を受け入れるのだから…」という指導を何回も繰り返し、長い目で育てるようはたらきかけた。
最近では「彼女たちの仕事ぶりを認める発言が増えてうれしい」との声も聞こえてくる。
(2)効果
平均年齢の高いリネンの職場に若い2人の仲間を雇用してから6ヶ月経過するが、仕事や職場生活にもすっかり慣れ、業務の主軸になってきている。
勤務においては、2人を個人カレンダーのローテーションに組み入れ、時には2人だけで、各病棟にある12箇所のリネンステーションを2時間弱で数回に分けて回り洗濯品の回収を行っている。
2人は、午前・午後の2回に、合計150kgにもなる洗濯品の回収や、記帳後に洗濯室へ持ち帰り洗濯・たたみ・配達の一連の作業を確実にできるようになったほか、洗濯室にある5台の洗濯機に作業をセットしてから回収に出るなど、効率よく機械を稼動させる職場習慣もすでに身についている。
現在、一人は新たに実績入力を、現行作業の合間に「自分で時間を作って入力する」課題に取り組んでいる。

5. 今後の課題・展望
今後は、サービスの質の向上と仕事の幅を広めることで、自信を高め、さらにキャリアアップを図れるよう指導しながら、障害者総合支援センター等とも連携して生活面のフォローにも協力し、じっくりと育てていく意向である。
2人の余暇活用についは、センターの行事にも参加しており、今後、センターとの連携や情報交換を深めることにより、生活面からの定着支援がより強められることが期待できる。
執筆者 : 元エプソンミズベ株式会社代表取締役 吉江 英夫
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。