作業における環境整備を図り、知的障害者雇用の拡大を図る～一人の成長が、次の障害者雇用につながる～
1.事業所の概要
愛知県春日井市は、王子製紙を中心として、製紙、製本、印刷等、大企業から中小零細企業まで、紙に関する企業が密集している。
当社は、紙を巻く芯（紙管）を製造している企業である。産業用、情報用の用紙は、加工する前は全てロール状になっている。
紙管は製紙会社があれば必ず必要となる一方、この業種は淘汰が進み、県内には3、4社が残るのみとなっている中、創業以来40年の歴史を誇っている。
現在では、紙管を新たに製造するのではなく、製造する紙管の8割以上がリサイクル製品である。一度元請け企業が利用した紙管を改修し、クライアントの要望する長さに再加工することが主な業務になっている。環境に配慮し、使い捨てからリユースの時代を迎え、需要はさらに高まっている。
なお、当社は、従業員数11人の小企業ではあるが、4人の障害者（障害者雇用率は約36％）を雇用し、戦力化している。
2.障害者雇用の経緯
バブル景気に入る昭和60年頃までは、緩やかな経済成長であり、それなりに人員確保が可能であった。しかし昭和63年になると、景気の急激な拡大期となり、中小零細企業では優秀な若い人材の確保がほとんど不可能となった。
そのような中で目をつけたのが高齢、障害者の雇用であった。幸い、機械化しにくく、どうしても人手に頼らざるを得ない工程があること。また、その工程が単純な作業であったこと。原材料がリサイクル材なため、安価であり、失敗してもさほど事業所には損害が少ないこと。これらのことを理由に、以後人材確保は、障害者にシフトすることとなった。
5年あまり続いたバブルの景気も陰りを見せ始め、平成3年の後半からバブルがはじけた。そのような中、当社もこうした経済動向のあおりを受け、仕事量は約半分に落ち込み経営すら怪しい状況になってきた。
こうした状況に対して、従業員の定年退職者に対する人員補充に障害者を採用してきたことから、障害者助成金を活用したことにより、経済的負担の軽減を図ることができ、売り上げの落ち込みをカバーすることができた。
障害者助成金を受給する一定期間の間に、彼らが一人前に成長できるよう努力し、成長したことで新たな障害者の雇い入れが可能になった。この循環が障害者の雇用拡大に結びついた。
3.取り組みの内容
（1）実習の活用
障害者雇用は一般に職業安定所からの紹介により、面接で採否が決められることが多い。しかし、健常者に比べ一般に社会経験が少ない人もおり、面接で適性を判断することは難しい。その結果、本人と企業とのミスマッチが生まれ、離職率がとても高くなる。そこで、当社では採否を判断するために実習を取り入れている。
幸い、近隣には「愛知県心身障害者コロニー」と、その中には障害者の一般就労で実績のある「県立春日台養護学校」がある。高等部生徒の卒業後の就労のための実習を積極的に受け入れることで、企業にとっても障害者にとっても納得した形での雇用ができた。幸い労働意欲の高い障害者が多く、雇用につながったケースが多い。
採用基準としては、①自力通勤が可能であるか。②労働に耐えうる体力があるか。③健康面で問題はないか。④作業に対しての持続性があるか等である。知的障害者の場合、理解力や応用力については課題が多い場合があるが、この点については企業努力でカバーしてきた。
（2）賃金の設定
労働意欲が高い障害のある社員には、積極的に一般就労の場を確保したいと考えた。しかし、企業である以上、自社の負担になってしまっては安定した雇用につながらない。そこで、彼らの雇用条件を一律にするのではなく、あくまでも労働に見合った賃金設定を行った。
現在の雇用形態は正社員やパート社員に分かれている。また、労働基準監督署で最低賃金適用除外を受けている社員もいる。これらのことにより、重度の知的障害者の受け入れも可能にした。企業、障害のある社員、またはその保護者が納得のいく形で労働に見合った賃金で無理なく働き、さらに年々昇給している。少しずつでも賃金が上がることは障害の有無にかかわらず、新たな労働意欲の創出につながる。
（3）各作業工程における環境の整備
作業現場では障害のある社員の能力を十分に発揮させるための取り組みがなされている。
1）紙管の整理
入荷してきた製品の材料となる紙管をつなぎ合わせ、注文の長さに合わせ製品として販売する。
紙管を、手前から奥に向けて長くなるよう整理することで、彼らがどの材料を選べばよいか判断しやすくしている。
今ではベテラン従業員として成長したAさんは、ほとんどの作業を自分で判断して行うことができるようになり、無くてはならない存在となっている。
2）紙管のつなぎ合わせにおける対照表の活用
紙管をつなぎ合わせる際に対照表を導入した。
表の左側が完成した製品の寸法（長さ）。右側の数字の上段と下段の長さの紙管をつなぎ合わせると左側の長さになる。
知的障害者は桁数の大きな計算が不得手な場合が多いが、Aさんは対照表の導入で、数字にあった材料を自分で選び、 加工できるようになった。
3）カウンターの活用
今どれだけできていて、あとどのくらい製造すればいいのかという見方ではなく、発注書の数字になったら終了という具合にカウンターを活用している。
些細なことであるがこうしたことで、一つ一つ指示しなくても、自分で判断し、動けることが多くなった。
4）口金圧着
Aさんが裁断した物に機械（圧入機）口金を圧着するBさん。これで製品が完成する。
5）安全装置
安全には最も留意すべき点である。Bさんが取り組む機械には安全装置が付いており、製品を圧着する工程で手を巻き込むことはない。
写真で指差ししている部分がセンサーである。このように手をかざすことで機械の動作が止まる。こうした機械の導入にあたっては障害者作業施設設備等助成金を活用した。
（4）福利厚生
社内行事として、慰安旅行、ボーリング大会、花見、忘年会等がある。会場まで保護者に送迎してもらうことはあるが、よほどのことがない限り、障害のある社員も100％参加している。泊を伴う行事などでは、管理者が同室になるなどの配慮をしている。彼らは、皆これらの行事をとても楽しみにしており、日々の労働意欲向上につながっている。
4.障害者雇用の効果
雇用した当初は、パニックがあったり、指示が伝わらなかったりと、苦労の連続であった。難しい言葉を簡単な言葉に置き換えたり、理解できたかをきちんと確認してから、次の動作に移らせたりと、常に試行錯誤の連続であった。
時には厳しく、時には優しく対応する中で、社員とのコミュニケーションがいかに大切かと言うことを学んだ。
成木専務取締役は、「まさに子どもを育てているような感覚だった」と当時を振り返る。また「うまく育てれば必ず戦力になる」と力強く話す。現在は彼らへの対応も大分慣れてきている。
高齢者と異なり、若い障害者は安定した労働力として期待できる。現在では、仕事面以外でも現場を和ませる雰囲気を作り出すなど、思わぬ波及効果がある。
障害者が賃金をもらって働くことができるよう、当社は、何か利益を生み出し、彼らにできる仕事はないか真摯に探求している。
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