“YES，WE CAN．”をスローガンに、障害のある人も積極的に取り組める職場
1.事業所の概要
（1）概要
大和三山のひとつ天香久山の近くに設立している当社は、大手電器メーカーの共栄会社として、家庭電化製品用モータ・小型産業用モータの製造、熱硬化性樹脂成形加工、モータ完成品組立加工を行っており、民生機器はもとより、産業機器に不可欠な小型モータや小ロットのモータ、機械生産できない分野の特殊モータの加工技術ももち、常にモータの研究、開発に努力し技術の優秀性を誇示できる製品を社会に供給できるよう努力を重ねている。
平成14年7月にはISO9001認証とISO14001認証を同時取得し、高品質で地球環境にやさしい企業、省エネ、低コスト化のモータづくりに取り組んでいる。
（2）モットー
昭和35年の創業以来「社会に貢献」をモットーに、「ルールを守り品質絶対の物づくり」を合言葉に、信頼される「人間、製品、社会」を目指し、従業員一丸となって安全で明るく楽しい職場づくりに日々励んでいる。
また、『YES，WE CAN．』をスローガンにチャレンジ精神を発揮することを目指しているが、このことは、障害のある社員にとっても例外ではない。
信頼される製品を生産し社会に貢献することに、障害のある人も積極的に参加してくれることを期待している。
2.障害者雇用の経緯
初めて障害者を雇い入れたのは、創業間もない頃である。教育委員を務めていた初代社長が、知的障害者の雇用を依頼され、養護学校を卒業したばかりの男性1人を採用した。最初は仕事に慣れず、あきらめかけたこともあったが、時間をかけてさまざまな仕事を体験させたところ、モータづくりがうまくできたことから、障害があっても特定の仕事については障害のない社員と同等もしくはそれ以上の能率でこなせることがわかった。
このことがきっかけとなり、その後、養護学校やハローワークから採用の依頼があれば、仕事に順応できるかどうかを見極めたうえで採用している。
なお、平成6年3月に現社屋に新築移転する際に、重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金を活用し、旧社屋では手狭で雇用が困難だった肢体不自由のある社員も作業可能な空間を確保した。当時雇用していた障害のある社員は12人、その後増減しながら現在に至っている。
3.障害者雇用の状況
（1）職務
現在、重度の聴覚障害のある社員1人、重度の肢体不自由のある社員2人、知的障害のある社員8人、計11人の障害のある社員を雇用している。彼らは、いずれもモータ巻線加工等、製造ラインでの作業に従事し、機械の操作も行っている。肢体不自由のある社員にはリニアモータ機器の巻線加工などを、知的障害のある社員にはそれぞれの適性に応じて巻線挿入機械による成形加工、レーシング加工、製品の検品、箱詰めなどを任せている。
（2）配置
障害のある社員は各ラインに平均的に配置しており、彼らの受け持つ作業の数は他の社員と比べて限られるものの、作業内容は基本的に同等である。なお、こなす数量では障害のない社員を上回る人や、検品を担当する知的障害のある社員は、他の社員が気付かないわずかな不具合も見つけ出すことができる。
ただ、流れに乗り過ぎて数量ばかり追うと作業ミスが発生するため、基本的に次の作業工程の人がミスをチェックできる体制にしているほか、一定数に達すると機械を一旦止める工夫などをしている。
4.取り組みの内容
（1）社内支援体制
現在、障害者職業生活相談員は3人。障害者職場定着推進チームは昭和61年に設置し、事業主、職業生活相談員、現場指導員、障害者代表など5人で構成している。
また、平成11年6月と平成16年8月に、重度障害者介助等助成金の認定を受け職業コンサルタントを配置した。
（2）職場実習の活用
当社で勤務する障害のある社員は、大半が養護学校などの新卒者であり、当社への就職を希望する人に対し、卒業前年の夏と秋に職場実習を行っている。職場実習は、本人に合う仕事について事前に見極める重要な機会である。実習のなかで多くの作業を経験してもらい、一つでも適した作業があれば採用するが、どうしても当社の作業への対応が難しい人は、はっきりと採用を断っている。
（3）聴覚障害に対する取り組み
聴覚障害のある社員は、社会人になってからの病気による中途障害である。手話はできないが、積極的に同僚とコミュニケーションを図ろうとし、口話や身振り手振りで意思疎通は十分できる。当社としても敢えて手話を取り入れる予定はない。
（4）肢体不自由に対する取り組み
肢体不自由のある社員には高度な業務を担当させており、当社の期待も大である。1人は肥満傾向が顕著で、この状況が進むと動作に支障をきたすだけでなく将来の健康への支障が懸念されるため、本人の自覚を促している。食習慣の改善は家庭との連携が欠かせず、保護者には、本人の嗜好のままに食事を摂りすぎないよう指導・協力を求めている。
（5）知的障害に対する取り組み
知的障害のある社員に対する指示命令は他の社員に対するものと変わらない。集中力、安定性、正確さなどに関して、平成14年7月に取得したISO9001(品質)に則した指導・教育を行っている。
毎日の朝会、昼会、夕会には障害のある社員を含め全員参加させ、作業方法、品質の基本ルールを説明している。また、当社の重要な方針のひとつである5S（整理、整頓、清掃、清潔、しつけ）は、すべての基本であることを繰り返し指導して理解させるようにしている。
教育訓練や環境問題の指導も他の社員と同様に行い、その内容を整理した「報告書」を読んでもらい、理解できればサインさせている。
保護者との連絡には連絡帳を用いる。しかし、知的障害のある社員においては、勤続年数が長くなり勝手がわかってくると、自分に都合の悪いときは保護者に連絡帳を見せないこともある。緊急性が高く重要な事項は電話で連絡・相談し、場合よっては保護者に来社してもらうなど、連絡を密にしている。
また、時折同僚とトラブルを起こす社員もいる。職業生活相談員や現場の指導員が、日頃から彼らの言動に注意を払い、気分よく仕事ができるような言葉かけに努めるなど、トラブルの未然防止を心がけている。トラブルが発生した場合は、保護者はもちろん、ハローワークや地域障害者職業センターなど関係機関とも連絡をとって迅速に対応している。
トラブルを起こした社員にじっくりと語りかけ、今後そういうことがないよう納得させるのは職業生活相談員の大切な務めである。
5.取り組みの効果
障害のある社員は他の社員と同等の仕事をこなせるようになったことで、自信を持ち、一方、周囲の社員は彼らが同じ職場にいることに抵抗がなくなった。従業員に占める女性の割合が増えていることも、障害者雇用が従業員全体に自然に受け入れられるようになったことによるとともに、それがまた職場の雰囲気をソフトなものにして、障害者にとっても働きやすい環境を作り出している。
また、障害者雇用助成金を活用した作業可能な空間の確保の取り組みは、他の従業員に障害者雇用の意義を認識させる役割を果たしている。
なお、以前は障害のある社員においては、無遅刻無欠勤が通常であったが、最近はそれが少しくずれている。このこと自体は好ましくなく指導は必要であるが、彼らの心のなかに、障害のない社員とも対等だという意識が根ざしてきたのかもしれないと考えている。
周囲の若い社員のなかには、生産効率を最優先に考え、障害者雇用の効果を疑問視する人もいたが、子供ができると見方が変わり、社会的弱者の持つ能力を気長に見て行こうというゆとりがもてるようになった。障害者雇用は障害のない社員をも育てている。
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