二十歳の知的障害者を「工場長」に~適性のある養護学校卒業生を徹底指導~
- 事業所名
- 京奈リサイクル
- 所在地
- 奈良県奈良市
- 事業内容
- 空き缶・空き瓶・ペットボトルのリサイクル事業
- 従業員数
- 8名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 4 選別作業 精神障害 0 - 目次

1.事業所の概要
森田代表が平成14年10月に個人事業として始めたばかりの新しい事業所である。奈良市の東南部、周辺に田畑の点在する敷地内にふたつの建屋を構え、空き缶やペットボトルなどのリサイクル事業を行っている。
飲料メーカーの自動販売機から回収されたアルミ缶、スチール缶、ペットボトルなどの飲料空き容器や、福祉団体が一般家庭などから回収した空き容器を当社に搬入し、ベルトコンベア式の選別機や洗浄粉砕機などを用いて、選別、粉砕、圧縮等の処理を行う。
代表のモットーは「速く、速く」。従業員は10人に満たないが、作業場では機械の動きに負けじと、どの従業員も一心不乱に手を動かしている。作業そのものは簡単な仕事で、繊細さや緻密さは要求されない。とにかくスピーディーに処理することが徹底されている。
環境問題が重視されリサイクル事業が社会的にも評価されているとはいえ、それが事業として順調に成長していく保証はない。また業界特有の事情もあって、積極的な営業活動によるシェア拡大もむずかしい。収益をあげていくためには、とにかく効率的な経営を目指していくしかない。しかし、このことがかえって障害者雇用に途を開くことになった。
2.障害者雇用の経緯
創業当初は障害者を雇用するという発想は無く、通勤に便利な近在の若年者などを採用していた。しかし3K(キツイ、キタナイ、キケン)とまではいかないにしても、単調な反復作業を毎日続ける根気のない従業員も多く、なかなか長続きしなかった。
そのような中、平成15年夏頃、県内の養護学校の先生が訪ねてきて、知的障害のある生徒を試しに使ってみてはくれませんか、と持ち込まれてきた。
個人事業で、しかも創業後まだ年数も経っておらず、事業所としての体制も不十分であったため、すぐに正社員採用とまでは踏み切れない。そこで、ダメでもともとと、まずは在学中の職場実習、そして卒業後は職場適応訓練として、助成金制度を利用しながら受け入れてみることにした。
誰にでもできる簡単な仕事といっても、単に同じ動作をただ続ければよいというものではない。ある程度の仕事内容の把握、段取りをつける能力は必要である。
たとえば空きびんを「白」、「茶」、「その他」と色によって選別する作業にしばしば立ち往生してしまうようでは務まらない。こういうことができたうえで、飽きずに、しかも手早く繰り返す能力が障害者にも求められる。1時間ほど仕事ぶりを見ればやっていけるかどうかは判断がつくが、雇用に結びつく障害者は少ない。
反対に、健常者以上の効率で手の動く障害者もいることがわかった。知的障害があるとはいえ、障害者と感じさせない人もいる。「これなら定着する」と判断した人は正式採用し、雇用保険にも加入した。
事業所の規模からいってそれほど多数は採用できず、現在も将来も4~5名程度が適正と思われるが、職場適応訓練の時点から指導した従業員は貴重な戦力になっている。
3.障害者の従事業務、職場配置
(1)従事業務
現在、知的障害者(重度以外)4名を雇用し、職場適応訓練で1名を受け入れている。
彼らの従事する業務は、①ペットボトル専用洗浄粉砕機へのボトルの挿入、同ライン上での手作業によるボトルのキャップやラベルの除去と洗浄工程へのボトルの挿入、②空き缶選別プレス機へのスチール缶とアルミ缶の挿入、③カウンター式フォークリフトの操作、等である。
作業内容は基本的に健常者と変わらない。フォークリフトについては、彼らの一人が免許を取得している。






(2)作業上の配慮
動作は速くても、彼らはたった1人で作業することは困難である。管理・監督者が付く必要はないが、同じ作業をする従業員と複数でラインに立たせ、孤立感を生じさせないようにしている。
作業内容が比較的単調であることから、業務についての指示命令に特別なものはないが、助成金を活用して導入した機械設備の利点を最大限活かすためにも、唯一「速さ」だけは強調している。猛烈なスピードで空き缶やペットボトルをさばいていく手際の良さは健常者にひけをとらない。はた目にはすぐにもくたびれてしまいそうな作業だが、彼らはむしろその流れを楽しむようでもあり、時間があっという間に過ぎていくようである。
4.取り組みの内容
(1)障害者を「工場長」に
事業規模が小さいこともあり、現在のところ、障害者職場定着推進チーム等は設置していない。代表以外の健常者といっても60歳代の2人のみである。障害者の監督や職業生活相談等はすべて代表1人で行っているが、そのことで特に支障はない。
また、20歳の1人の障害者には、「工場長」の肩書を与えて、障害者のリーダー役を任せている。
(2)職場実習・職場適応訓練の活用
雇用する障害者は主に養護学校などの新卒者である。若い人の方が教えたり鍛えたりして伸びていく可能性が高いからである。就職を希望する人に対し、まず職場実習を受け入れている。「リサイクル」という語感に惹かれたり簡単で誰にでもできる仕事だろうということで、希望してくる生徒は多い。
また中途採用では、福祉の場で同種の作業を経験したような人も応募してくる。ただ、福祉作業所での経験は、戦力となる反面、手を抜く場合も多い。
いずれの場合も、見込みのある人のみ、まずは職場適応訓練で能力を見極めることにしている。
職場実習や職場適応訓練の段階では作業の基本的な心構えを身に付けさせるため、主に掃除の仕方を教えている。床や地面にゴミや空き缶などが散らかっていては危険であるばかりか、仕事の効率も損なう。
現在在籍している障害者は特に問題なく業務に従事しているが、1人、相手と向かい合うことに恐怖感を感じる対面恐怖症の人がおり、他人が一定の距離よりも自分に近づいてくると、殴るような動作をとることがある。本人の業務はラインをはさんで他の従業員と向かい合って行う作業なので、トラブルにならないよう、養護学校の先生とも相談し、作業の位置や方向を多少変えて他の従業員の存在を過度に意識しないような配置にした。
(3)安全管理
障害者が使用する機械は決して危険なものではないが、一度、指を切る事故を起こした人がいた。ペットボトル洗浄粉砕機の、ボトルを裂く動作をする部分の掃除をする際に、電源を切るのを忘れて手を入れたためである。掃除をするときは電源を切るよう徹底しており、それまでは守られてきたが、たまたまその時だけうっかり忘れた。
その後は、掃除の際は事前に複数の従業員に確認させるなどの策を講じている。
(4)家族との連携
障害者の家族とは特別な連絡や連携はとっていない。幸いなことに、これまでほとんどトラブルもなく、とる必要がないまま推移している。
(5)障害者助成金の活用
平成17年6月に知的障害者1名雇用とペットボトル専用洗浄粉砕機導入、平成18年8月に知的障害者1名雇用とカウンター式フォークリフト導入、平成19年7月に知的障害者1名雇用と一方締金属プレス機の導入により、障害者作業設備設置等助成金1種を3度受給した。
助成金の受給は障害者雇用に踏み切る契機となるとともに障害者にとっての職場環境の改善に役立ち、また他の従業員にも障害者雇用の意義を認識させる役割を果たしている。

5.取り組みの効果、障害者雇用のメリット
時折、同僚が欠勤すると連鎖反応で欠勤する従業員もいるが、一旦仕事に慣れると定着率は高い。やんちゃな人や何か問題を抱えた人でも、じっくり説明・指導するとかえって自信をもち、健常者と同等の力を発揮する。高賃金で報いることは難しいものの、超過勤務などをさせる必要もなく、私生活との調和も図られている。
障害者雇用に取り組んだことで、小規模とはいえ、安定した職場を求める障害者と、効率的でコンスタントな事業運営を図る事業所双方にプラスになっている。
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