現場での理解と努力によって障害者が活きる~スーパーにおける知的障害者雇用の取り組み~
- 事業所名
- 株式会社松源
- 所在地
- 和歌山県和歌山市
- 事業内容
- 食品スーパー(生鮮食品・惣菜等を中心とした日常必需品の販売)
- 従業員数
- 1,980名
- うち障害者数
- 27名
障害 人数 従事業務 視覚障害 1 販売店におけるパック詰め、陳列、商品整理、惣菜加工、レジ、事務等 聴覚障害 1 肢体不自由 10 内部障害 2 知的障害 12 精神障害 1 - 目次
1.事業所の概要・障害者雇用の経緯・考え
(1)概要
当社は、食文化への貢献を経営理念とし、和歌山県の泉南地域を中心に36店舗を展開する地域密着型の食品スーパーである。生鮮3品(青果、鮮魚、精肉)にこだわりを持ち、顧客第一主義を貫いている。
社員は「喜びのある達成感と幸せ感を」味わってもらう社風のもと、勤務している。
当社が雇用する社員は、パートを含め、約2,000人、うち障害のある社員は27人(身体障害者14人、知的障害12人、精神障害1人)であり、各店舗に配置し、他の社員と同様の職務に従事している。
(2)障害者雇用の経緯
従来から障害のある社員を一定人数雇用していたが、平成に入り、当時の人事部長(現専務取締役管理本部長)が、「これからは障害者も等しく働いていく時代である」との明確な指針を打ち出し、社長もこれに賛同、以後、全社をあげて積極的に障害者雇用に取り組むことになった。
(3)障害者雇用の考え
当社は、経営トップから障害者雇用に対し積極的であるため、全社的にこの姿勢が貫かれている。毎週、各店舗の店長を集め、本部で店長会議を開催するが、その際、折りあるごとに、障害者雇用事例や障害のある社員の活用の際の注意点など共有化を行っている。
採用し、配属したら後は現場任せにならないよう、店長会議で出された方針や情報を基に、各店長は、障害のある社員が働きやすい職場環境を達成するように、店内の社員全員にはたらきかけている。
採用においては、常に受け入れることを基本に考えている。「このような障害があるから無理」、ではなく、「採用の機会はどの人にも均等にあるはず」、という考えが土台にある。
2.取り組みの内容
障害のある社員は、採用後、住居に最も近い店舗に配属し、他の社員やパートと同様の仕事を任せている。従事する仕事の内容は、配属した店舗によって様々であり、各職場のマネージャーや先輩の社員やパートが、マンツーマンで指導にあたっている。
店長は、こまめに店内を巡回し、適宜、指導担当者に適切なアドバイスを与えつつ、養護学校の先生や本部の総務担当と連絡を取り合い、他の社員と同様、顧客第一主義を貫けるよう指導している。
(1)店舗での取り組み
具体的な取り組み内容は、基本的には、以下の職場インタビューのように、職場での理解と努力に委ねられている。
1)箕島店雇用後数年が経過した知的障害のあるAさん(女性)はパート社員として、惣菜部門で働いている。
Aさんは、十数種類ある弁当の盛り付けや素麺・冷麺の盛り付け、惣菜のラップかけや値付け、ジャガイモの皮むきといった食材の下準備など、多種類の仕事をこなしている。
仕事への取り組みは非常に積極的であり、他のパート社員と遜色なく、キビキビと作業している。
①担当社員による指導
Aさんは、配属されて最初の頃は、失敗の連続であり、教えられたことをなかなか覚えることができず、途中で気分が悪くなったり、涙ぐむことがあった。しかし、指導を担当する女性社員から、「覚えるのは社員みんなが通る道なんだよ。みんなと同じことができないと、それは仕事ではないよ。あなただけ特別扱いすることは絶対ないよ。みんなと一緒なんだよ。」とまるで自分の子に接するかのように、暖かく、そして丁寧に、しかし厳しく指導していった。
②作業状況(天丼の調製)
指導担当の社員が食材を準備する横で、手早くご飯を均等に盛り付ける。
当初は計量しながら盛り付けていたが、現在は習熟により、はかりを必要とすることなく手早く盛り付けている。
テンプラをご飯に乗せ、タレをかける。上ふたをかけ、値札をつけて完成。
売場での売れ行きに応じ、一度に数個ずつ調製する。
③養護学校の先生から指導方法のアドバイスを受ける
食品スーパーは近年営業時間が伸び、売場の社員は来客の混雑状況によりシフトパターンを組んで対応している。最初は付きっきりで指導できるが、シフトの状況により付いていられなくなる状況を想定し、指導担当者は、当初Aさんを甘やかせることは全くしなかった。しかしながら、厳しい態度によりAさんが業務について来れなくなることを懸念し、折りある毎に職場を訪れていた、彼女が所属していた養護学校の先生から適切な指導方法についてアドバイスを受けた。
試行錯誤しながら指導を行っていくうち、Aさんは業務に自信を持ち始め、仕事の面白さも手伝って、より積極的に業務を覚えていった。当初は困難理と考えていた惣菜のラップかけや値付けの機械操作も、現在では自信をもってミスを出さず行うことができている。
④接客対応
お客との接点が多い売場で商品を並べているときには、お客からいろいろな問い合わせを受け、また惣菜の調製作業においてはお客に作業風景が露出されている。
当社では、障害がある理由でお客から遠ざけることはなく、他の社員やパートと同様、高いレベルの顧客第一主義を徹底することを求めているなか、Aさんも期待に一生懸命応えている。
2)粉河店
雇用3ヶ月で現在パート試用期間中である、知的障害のあるBさん(男性)は日配品売場で働いている。
Bさんの主な担当業務は、日配品の商品棚の整理、商品の品出し、前進陳列(棚の後部の商品をお客が見やすいよう前に押し出して並べる)、商品をバックヤードにある冷蔵庫から補充する作業であり、牛乳やヨーグルトなど品目数がかなり多い。
①接客における課題
Bさんは、指導担当者や店長の適切な指導の下、明るく毎日の仕事に取り組んでいる。勤務してまだ日が浅いため、朴訥さは残るものの、お客に対して大きく元気な声で「いらっしゃいませ」と挨拶している。
Bさんの課題については、つい作業に集中するあまり、お客の接近に気付かない場合が多い。また、お客から他の売場の商品がどこにあるかなど問われたとき、店内の商品配置を十分理解できていないため、案内に時間がかかることがある。
「できないから仕方がないというわけにはいかない。既にスタッフジャンパーを着用して店員として働いているので、お客様に対する責任が発生していることを自覚してもらい、少しずつでも良いので、お客様との関わり合いを教えていく」と店長は話す。
②指導する側も毎日が勉強
Bさんの指導担当者は、本人の明るさと手堅く作業する姿勢に好感を持っている。「最初のうちは、どこに何が置いてあるか、何をすれば良いのかがわからず、商品を前にして当惑することがあったが、徐々に商品を覚え、また作業を覚えてきてくれた」と話す。
なお、「私たちが通常ならわかるものと思っていた言葉が、Bさんには伝わっていなかった」ことに気付いたことをきっかけに、ただ単に仕事を言いつけるだけではいけないことを近頃学んでいる。中華麺を売場に持ってくるよう指示しても中華麺の見当がつかないBさんに対し、わかりやすく「中華」で、「そばと同じような麺」と言うことでBさんに伝えることができた。
常に作業を分かりやすく説明し、Bさんが理解しているか判断することが必要であると認識している指導担当者は「毎日が勉強」と話す。
(2)労働条件・福利厚生
社会保険の加入はもちろんのこと、賃金も障害のない社員と同等に支給している。福利厚生面においても、基本的に障害の有無にかかわらず同様の内容を提供しており、契約保養所の利用も可能である。また、2年に一度の社内旅行には、障害のある社員もほとんど出席する。
加えて店舗単位でも、ボーリング大会や職場単位での人事異動に伴う歓送迎会などが積極的に開催されており、職場がひとつの家族のようにうちとけた雰囲気を作り上げているので、障害のある社員にとって居心地が良い環境となっている。
3.さいごに
障害者雇用に積極的に取り組んでいる当社は、障害があるという理由から特別扱いをしているわけではない。本部からの理念や情報を理解し共有している各店舗では、障害のある社員を同じ職場の仲間という認識で、彼らが働きやすいよう努力している。
各店舗とも試行錯誤をしつつも、適宜、有益な情報やアドバイスを得、また自らが指導方法を勉強し、障害のある仲間を指導している。一方、障害のある社員も業務に慣れようと一生懸命努力している。商品の盛り付けや、売場の商品管理を任せながら、徐々にではあるが、自分の行う作業に自信がつく取り組みを行っている。
さいごに、地域密着型のスーパーとして顧客第一主義を謳う当社は、お客への対応が最も重要である。そこには、障害があるからといった甘えは決して許されない。お客は、店員に障害があるとは認識しない。しかしながら、お客の求めに応じて業務を成し遂げることは、何物にも替えがたい喜びとなる。障害のある社員にお客との触れ合いにより業務達成の喜びを感じてもらえる大きな可能性が存在している。
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