事業所名

有限会社アイティシィ

所在地

島根県大田市

事業内容

自動車部品製造

従業員数

31名

うち障害者数

4名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	0
肢体不自由	1	自動車部品製造
内部障害	2	自動車部品製造
知的障害	1	自動車部品製造
精神障害	0

目次

1. 事業所の概要・障害者雇用の理念
2. 取り組みの背景・経緯
3. 取り組みの内容・効果
4. 今後の課題、展望等

事業所外観

1. 事業所の概要・障害者雇用の理念

（1）事業内容

　平成2年創業。創業当初は電子部品の組み立てを行っていたが、仕事量が減少する中、平成4年から現在の自動車部品製造に転身し、海外との競争の中で継続し展開している。

（2）経営方針

　「仕事を受注し、従業員に給与を払っていくこと」という基本的なことを大切にしながら、従業員31人と協力し、内職作業も福祉施設に発注するなど、事業に対し絶えず工夫することを忘れず、地域への貢献も考えて働きやすい職場環境が築かれている。

（3）組織構成

　31人の従業員のうち、障害者4名を雇用している。

（4）障害者雇用の理念

　知的障害者1人、身体障害者3人（うち車いす使用者1人、透析2人）に対して「健常者と変わらない仕事をしてくれている」と社長が話すように、雇用されている障害者の方がそれぞれ工夫して働いていることが他の従業員の刺激にもなっている。
雇用の際、障害者に限らず全員が3ヶ月の研修期間を経て本採用するという点においても、特別な意識はなく、「仕事が出来る人なら関係ないです」とする一方、在宅就労や、勤務時間の配慮など様々な工夫をし、誰にとっても働きやすい職場環境として、障害があってもできる限り受け入れるよう努力している。
障害者雇用援護制度の利用は最低限に押さえ、障害があっても仕事は健常者と変わらないことを理解し、お互いが工夫することを積極的に行いながら、良い環境で仕事に取り組んでいる。

2. 取り組みの背景・経緯

（1）背景

　平成2年に創業以来厳しい経営状況の中、自動車部品の組み立てを行ってきている。
障害者雇用については、ハローワーク等からの紹介よりも、本人や家族からのアプローチにより徐々に実現してきた。当初から3ヶ月の見極め期間を設け、能力の把握や適性を見ながら「健常者と変わらない仕事が出来る」と判断すれば戦力としてできる限り受け入れてきた。職場は比較的山の麓に位置しているため、通勤は健常者でも時間がかかるが、全員が継続して働いている。

（2）経緯

1）Aさん

　知的障害のあるAさんは5年前、家族と当社に訪れ、社長に「何とか働かせてもらえないだろうか」とお願いした。社長は家族と知り合いだったこともあり「やってみて出来なければ断ることもあるよ」と言い、Aさんを引き受けた。Aさんは3ヶ月の見極め期間で努力し今も継続して働いている。

2）Bさん

　車いす使用者のBさんは、たまたま当社と同系列のガソリンスタンドの客であったが、何か「自分に何か出来ることはないだろうか」と社長に相談したところ、その積極的な態度により雇用した。
現在自宅の作業場で在宅雇用として働いている。

3. 取り組みの内容・効果

（1）知的障害への取り組み

1）トライアル雇用の有効活用

　Aさんをはじめ実習を受け入れる際、まず簡単な作業から始めるようにした。

　3ヶ月間はトライアル雇用を活用し作業を開始したが、最初何回か繰り返し教えるようにすることで比較的スムーズに仕事を覚え、熱心に取り組むことができた。
なお、社長は3ヶ月のトライアル雇用は障害者に限らず健常者にも全員適用し、特別扱いしないようにしている。その結果、障害者もやる気を持ち、仕事に取り組むことができている。ほとんど休まず出勤していることからもそのことがうかがえる。

2）障害特性も含めた能力と仕事とのマッチング

　Aさんは朝一番に早く出勤することが多く、出勤してすぐ仕事に取りかかる。まじめに積極的に取り組むことで周りの従業員にも良い影響を与えているようで、工場長からは健常者にも「Aさんも出来ているのだから」と言って、全体の志気を上げるときがある。
最初は一つのことしかできなかったが、今では様々な仕事をこなせるようになり、戦力として活躍している。
Aさんに限らず障害特性も含めた本人の能力と仕事とのマッチングは大変重要であり、それがうまくいかなければやる気がいくらあっても継続して働くことができないケースも多いが、Aさんの障害特性と仕事の内容がうまくマッチングした結果、職場定着にもつながり本人も働く喜びを感じている。

3）本人の能力を引き出す工夫

　工場長も仕事を教える際、何度も教える事以外に、できるだけ同じ作業を繰り返す仕事を与え、毎回行程が変わるような作業は極力避けるように配慮して、Aさんの能力を最大限活かすよう心がけている。ジョブコーチなどの制度も利用できるがそれを使わずAさんを育てている。

熱心に仕事をこなすAさん

（2）肢体不自由への取り組み（在宅雇用）

1）在宅雇用を可能にする工夫と職場の理解

　車いすを使用するBさんのために、製造機械を工夫し使いやすい物にして作業環境を整えた。元来手先の器用なBさんであったため作業効率は非常に高く、戦力として活躍していた。
しかし、Bさんは、体調を崩した事でしばらく療養し、引っ越しを機に自宅に自ら作業場を建てた。Bさんの能力は高く評価していたため、在宅雇用を実施することを決めた。　職場から15分程度の自宅に毎日部品を運び比較的スムーズに在宅雇用を実施している。

2）時間や体調管理を含めた働きやすい環境作り

　Bさんにとっても時間や体調を自身のペースで管理することができ、働きやすい環境となっている。
なお、Bさんは自ら製作機械も工夫し、使いやすい物に設計し直し、設置しており、作業環境は本人にマッチした物となっている。自ら工夫することでより積極性も高まり責任を持って仕事に取り組んでいる。
出勤できない従業員には休職扱いをする事業所が多い中、当社はBさんの能力を評価し、在宅での雇用を実施した。
在宅雇用という新しい雇用形態を進めている国の制度も充実し、パソコンを使った仕事に視野がいきがちな中、職種を広げて考える良い例を当社は示している。社長も「能力があるBさんには出来るだけ長く働いて欲しい」と話している。

在宅で仕事をこなすBさん

車いすで作業しやすく工夫した機械で作業

（3）取り組みの効果

　以上、障害者雇用に対する考え方と、健常者と変わらない対応や評価といった環境作りは当社の特徴である。人工透析を行っている従業員にも勤務時間の工夫により継続雇用が実施しており、彼らも働きがいを感じている。
社長は「能力のある方ならあと2、3人でも来て欲しいくらいですよ。」と言うくらい障害者と社長の信頼関係ができている。

4. 今後の課題、展望等

　当社は、厳しい海外企業との競争の中、仕事量の減少とともに複雑な作業が求められている。それでも事業所の基本である「仕事をしてもらい給料を支払う」ことを継続して行うため日々努力している。
障害者雇用においても柔軟な対応と創意工夫により、より充実したものとなるよう制度面などの支援も期待される。
現在雇用されている障害者にとって働きやすい職場環境である当社が、できるだけ継続して雇用継続していけるよう、本人、職場、周囲の人々の連携が望まれる。

執筆者　：　社会福祉法人ふらっと　職業相談員　　新田　裕之