事業所名

冨士高圧フレキシブルホース株式会社

所在地

山口県光市

事業内容

産業用フレキシブルホース・パイプ・継手金属部品の設計、製作、販売

従業員数

163名

うち障害者数

4名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	0
肢体不自由	4	生産管理データ入力、品質検査、製造機械オペレータ、組立
内部障害	0
知的障害	0
精神障害	0

この事例の対象となる障害

肢体不自由
言語障害
難病（筋萎縮症）

目次

1. 事業所の概要
2. 障害者雇用の背景・経緯
3. 障害者雇用状況と取り組みの内容
4. さいごに

事業所外観

1. 事業所の概要

　当社は昭和22年、燃料用フレキシブルホースのメーカーとして誕生した。その後、他社との技術提携を経て、現在では高圧用継手（ジョイント）や配管パイプなども生産し、海外も視野に入れた事業を展開している。その製作には設計、組立、溶接、耐圧等検査、塗装、完成検査、包装等に至る全ての過程が含まれており、この一貫生産体制は国内の企業でも他に類を見ない。当社で製作する部品は、日本の産業を直接支える役を担うゆえ、その品質管理には徹底した厳しい目が注がれている。
障害者雇用については、昭和58年から取り組みを開始した。平成19年6月現在、身体障害のある従業員4人全員を正社員として、データ入力、製造、品質検査の各部署に配置している。

2. 障害者雇用の背景・経緯

（1）背景～「半機械化の職場」という理念

　長年、技術部にて設計・開発に従事してきた永田弘児人事課長は、「人が機械に合わせて働くのではありません。人が機械を扱うのです。これは、当社が実体験から学んだ理念です」と話し、障害の有無に関わらず、従業員全員に対してこの理念が貫かれている。
企業はその経営戦略上、常に技術革新を必要とする。当社においても、その生産コストを削減する必要性から、製造部門の機械化・自動化を進めてきた。ただ、この方向性にも再考の余地があることに気づいた、と永田課長は話す。
機械化・自動化を無制限に推し進めると、人が機械に合わせて働くといった状況、あるいは、人が機械に使われるといった状況になりかねない。
「人が機械に合わせて働く状況になりかけてから、仕事上のミスが生じやすくなったことに気づきました。機械化や自動化はもちろん必要ですが、機械に全てを任せることには危険が伴います。製品の品質を保証するためには、製造工程のなかに従業員が適切に入り、手作業も含めていく必要のあることがわかってきました。このようにしたことで、仕事上のミスは減少していったのです。その意味で、半機械化・半自動化が大切なのだと今とらえています。」
品質保証とともに、従業員の勤労意欲を維持・向上させる鍵もこの「半機械化の職場」という経営方針のなかにあると言える。また、手作業も含めるという方針に、障害者雇用の可能性を見い出すことができる。

（2）「一人作業にならない職場」の実現と障害者の能力開発

　平成13年から、従業員一人ひとりに対し、新しい職務にチャレンジさせていく方針を立てた。
それまでは、従業員はそれぞれ特定の職務を担当しており、仮に誰かが欠勤すれば、他の従業員ではその職務を補いにくく、その製造ラインはストップしがちになる。そこで、従業員一人ひとりが複数の職務に対応できる技能を有することで、業務上の柔軟な対応を可能とした。
「一人作業にならない職場」を実現するため、従来の製造工程をいったん見直し、複数の職務を一つのまとまりとして捉え、そこに複数の従業員を配置した。従業員にとっては、新しい職務の技能習得にもチャレンジすることとなり、職務能力が開発された。
この「一人作業にならない職場」づくりが、障害者の継続雇用の可能性を広げる結果につながった。以前は、障害のある従業員の職務は、部品の出庫、配膳、箱詰め等の作業内容に限られていたが、現在では従業員同士の支え合いを背景としつつ、部品の製造にも取り組んでいる。

3. 障害者雇用状況と取り組みの内容

　社内のバリアフリー化を進めるにあたり、障害のある従業員に、社内の主要箇所に直接出向いてもらい、歩行や移動に支障のある箇所などについて意見を十分聴取し、必要な改善を図った。

（1）Aさんへの支援

　筋萎縮症による上肢・下肢障害（3級）があるAさんは、高校時代に学んだ情報処理の技能が優れていたため、正社員として採用した。
現在は、管理棟の生産管理部門で、パソコンによるプログラム作成やデータ入力作業などの技量をいかんなく発揮している。

データを入力するAさん

1）駐車スペース・スロープの設置

　自家用車で通勤するAさんは採用当初、従業員の駐車場が管理棟から離れており、駐車場から誰かの支援を受けながら時間をかけ管理棟まで歩かねばならなかった。このため、来客用の駐車スペースの一部として管理棟の隣に障害のある従業員用の駐車スペースを設け、歩行時間を半分に短縮した他、管理棟入口にスロープを設置し、膝を曲げずにゆっくり歩行し、入室できるようになった。
平成19年6月現在、下肢障害がある従業員4人全員用に、障害のある従業員用の駐車スペースを確保している。

管理棟の隣に駐車スペースを設けた

管理棟入口にスロープを設置

2）作業服による通勤許可

　上肢障害のある従業員にとって出勤後の作業服への着替えは時間を要するため、Aさんを含む障害のある従業員全員に、作業服での通勤を許可し、勤務への円滑な移行を図った。

3）会議室を一階に設置

　Aさんは、業務の打ち合わせ等で管理棟2階の会議室に出向く際、階段昇降に体力と時間を要していたため、会議室をAさんのデスクの背後にも2カ所設置し、主要会議のほとんどを1階で開くよう配慮している。

Aさんのデスクの背後に会議室を設置

4）トイレ・手洗いの改善

　トイレ・手洗いについても、手すりやシャワー式トイレ等、バリアフリーをめざした改良を行い、Aさんをはじめ従業員全員が、障害の有無を問わず、安心してトイレを使用できるようになった。

シャワー式トイレ

蛇口コック

　なお、情報処理の技能を当社で発揮しているAさんは、障害者技能競技大会に積極的に出場している。平成15年度の山口県における障害者技能競技大会では種目「表計算」で、また平成16年度には種目「データベース」で各々金賞を受賞した。さらに、平成16年度全国障害者技能競技大会では、種目「データベース」で、また平成17年度には種目「データベース」で各々銅賞を受賞している。
障害者雇用技能競技大会に対しては、当社からの理解と支援を受け、Aさんの積極的な努力により出場している。

（2）Bさん・Cさんへの支援

　上下肢障害（2級）があるBさん、Cさんは、組立工場内の同じ部署で働いている。
Bさんは言語障害の重複があるが、作業指示書や作業要領書などの文書類の内容は十分理解でき、組立工場で継手（ジョイント）の組付、出庫、配膳に係る作業を中心に勤務している。
組付作業では、軽度の麻痺がある左手で部品を機械に差し込むと、瞬時にセンサーが作動し、ナットが自動的にねじ込まれていく。その後のワッシャーの取り付けは、右手を使った手作業である。
Cさんは、左手が機能全廃のため、右手で部品を機械に差し込み、右足で作動スイッチを操作している。
二人とも、その技能は熟練の域に達している。継手の製造においては、円滑な作業スピードで次々と完成し、横に置かれたケースに整然と並べていく。二人の生産性は他の従業員とほとんど変わらない。

部品を機械に差し込むBさん

でき上がった継手

部品を機械に差し込むCさん

1）業務遂行援助者の配置

　Bさん、Cさんの支援を目的に、業務遂行援助者を配置している。援助者は、二人に対して作業のモデルを示すほか、製品のでき栄えを評価するなどの支援を適宜行っている。これらの支援により、二人は職務を円滑に理解し、仕事への自信も高めている。
また、周囲の従業員においても、複数人がひとつのまとまりをつくり、互いに支え合おうとする協力体制のなかで、二人の作業は円滑に進められている。

従業員の協力に支えられた部署

2）スイッチ盤の改造

　二人が勤務する部署には、操作を簡易化させたスイッチ盤を自社製作し、設置している。このスイッチ盤は、全てのつまみがON‐OFFで統一されているため、調整順番のミスや調整工程の忘れを防止することができ、作業の際に複雑な調整を覚える必要がなくなった。
また、片手操作のみで、ナットねじ込み・ワッシャー取り付け・シール材装着の3工程をこなす機械も自社製作し設置しているが、彼らが使用する時もある。

操作を簡易化したスイッチ盤

3工程の作業をこなす機械

（3）Dさんへの支援

　下肢障害（4級）があるDさんは、部品検査の部署において、製造した金属部品を計測器具で厳密に測定すると同時に視覚検査によって表面上の微細なキズ等を発見するなど、品質保証の要としての役割を担っている。また検査記録票を電子情報に変換するため、パソコン操作による画像処理作業も行っている。

部品を検査するDさん

画像処理を行うDさん

4. さいごに

　障害のある従業員への支援に力を尽くしている永田人事課長は、「私は小学生だった頃、養護学校の生徒さんとの交流を体験しました。だからでしょうか、障害のある人に対して違和感を感じません。私は障害のある従業員一人一人が持つ力を生かせる場を、これからも社内に探していきたいと思っています」と話す。
また、永田課長は障害者職業生活相談員の資格を持ち、さらにプライベートでは、障害者スポーツ指導員の資格も取得しており、休日には地域の障害者がスポーツに親しめるよう、山口県障害者スポーツボランティアとして活動している。

永田弘児人事課長

職場を見回る

　障害の有無にかかわらず、人は皆、その持てる力をこの社会で発揮し社会参加したいと願っている。障害のある人にとって、就労は究極の社会参加である。当社は、彼らの「働きたい」という熱い願いを叶えることを通して企業の社会的責任を果たしつつ、同時に業績も上げていくという企業経営を今日も続けている。

執筆者　：　山口大学教育学部　教授　　松田　信夫