事業所名

株式会社加ト吉

所在地

香川県観音寺市

事業内容

冷凍調理食品製造業・生鮮魚介卸売業

従業員数

1，440名

うち障害者数

19名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	1	製造現場における軽作業
肢体不自由	8	製造現場における軽作業、巡回警備
内部障害	1	製造現場における軽作業
知的障害	9	製造現場における軽作業、清掃
精神障害	0

目次

1. 事業所の概要・障害者雇用の経緯
2. 取り組みの内容
3. まとめ

事業所外観

1. 事業所の概要・障害者雇用の経緯

（1）概要

　昭和31年に設立した当社は、冷凍食品製造業の全国トップ企業であり、グループ企業としてレジャー施設やゴルフ場、ホテル等の経営も行っている。

（2）障害者雇用の経緯

　半世紀を越える歴史を持つ中、従業員の高齢化もあり、内臓疾患等で自然発生的に受障下した職員もいる。
また、ハローワークなどからの紹介で身体障害者を雇用したり、養護学校からの紹介で知的障害者を雇用するなど、障害者雇用に対しては前向きに取り組んでいる。
従業員数1千人を超す大規模事業所であるが、障害者雇用に関しては本部と現場が協力し、職場配置から教育指導、日常の業務にいたるまできめ細かな配慮を行い、彼らがもてる能力を最大限発揮できるような職場環境を提供している。

2. 取り組みの内容

（1）職場配置

　障害の状態や程度などに応じて職場配置を決めている。採用するまでに、トライアル雇用や実習などを通じ、実際の現場を体験してもらった上で本人の意思を尊重しつつ、能力も考慮して配属している。
具体的には、
①　可能な範囲で住居地から近くの現場に配置するようにしている。原則として通勤は個々人の力でしているため、長距離の通勤は困難を伴う場合も多いためでもある。また、職住近接であれば、住居のコミュニティ内から大きく離れることなく仕事に通うこともでき、近隣住民も彼らを見守ってくれ、万が一、事故などに巻き込まれた場合でも、迅速に手助けすることができるなどのメリットもある。

②　身体障害者でも長年の勤務経験を有する社員は、現場での危険箇所等を熟知しているが、知的障害者は危険に対する理解に乏しいこともあり、機械設備の多い工場内での勤務配置はできる限り行わないようにしている。この点に関しては、慣れだけに頼っていてはいつか事故が発生するとの考えに基づき、トライアル雇用や実習の段階から考慮している。

③　養護学校に対しては、実際の職場や職務を見学してもらい、職場環境により適した人材を紹介してもらえるようにしている。

肉まん製造工程：各人が流れ作業で工程をこなす

肉まん成型機：障害者が外皮と中身のあんを投入、
機械が自動的に肉まんを成型

冷凍うどん製造工程：工場内では機械化・自動化が進んでいる

出荷前の製品：ロボットアームが活躍

ロボットアーム稼動域は立入禁止。
人が入ればセンサーにより自動的に停止する

冷凍うどんの自動包装機：障害者が製品の中身を機械にセットする

（2）職場毎の管理者によるケア

　人事部長および人事課担当者が障害者職業生活相談員の資格認定講習を受けており、実際の活動も行っている。職場における人間関係を円滑に保つために欠くことのできない存在となっている。
現場においては、各現場セクションの長が責任者となり、障害者の指導監督にあたっている。また、責任者だけでなく、ベテランの職員が職場における父親代わり、母親代わりとなり、親身になって面倒を見ている。
知的障害者は周囲からの影響を受けやすい面がある。これは職場環境に限定されず、テレビや雑誌などからもそうである。管理者はこのような彼らの変化を見逃すことなく、素早い対処を行っている。早い段階で対処を行うことができれば、彼らも注意や指導を素直に受け入れてくれる。
指導などをするときは、できるだけ分かりやすい言葉・表現を使うよう心がけている。ただし、必要以上の配慮はかえってよくないことを認識している。
食品の製造現場が中心であるため、衛生管理は非常に重要である。障害者も他の社員と同じ試験を定期的に受けることで、衛生管理に対する知識等を身につけ、実践に活かしている。

（3）健康面への配慮

　障害者についても、他の社員と同様な健康診断を受診させ、日常より体調などには注意している。
障害の有無を問わず、個人個人の体調に十分注意を払い、不慮の事故や病気等にかかることなどないよう配慮している。特に、工場ではライン毎に行っている毎朝の朝礼の場での体調確認が有用である。

（4）障害者との信頼関係

　障害者が職場において活躍していけるよう、現場の責任者や同僚だけでなく、人事担当など本部の果たす役割も大きい。また、家族の協力も非常に大切であり、現場・本部・家庭の3者が互いに密に連携して行ってこそ、より良い職場環境を提供できる。
障害者は非常にデリケートかつナーバスな面を持ち合わせていることもあるので、一度信頼関係を損なうと、その回復には大変な労力を必要とする。彼ら自身、自然体で職務に取り組んでいるので、管理者や職場の仲間も必要以上の配慮や行き過ぎたおせっかいなどは慎むようにしている。
彼らの自立は、当社のみならず社会全体の問題である。職務をまじめにこなしている以上、企業としては金銭面での自立支援を行うことは可能である。それ以上の支援となると、彼らの家族の枠組みにまで立ち入る必要が出てくるなど、実際問題としては難しい。また、企業としてそこまで立ち入ることの是非も十分考えねばならない。
ただ、障害者と共に長年勤務した職場のOBの人が、わが子・わが孫をみるような気持ちで、親身になって彼らの指導を行ってくれたりしており、職場や家族ともども感謝している。

3. まとめ

　当社は、知的障害者においてはトライアル雇用や実習などを通じ、彼らがスムーズに職場に溶け込めるような配慮や養護学校との連携を図っており、身体障害者においては勤務年数の長い社員も多く、職場自体、ごく自然体で障害者が活躍している現場が多くなっている。また、障害者と事業所のニーズのマッチングがうまく図れており、定着率も高い。
従業員規模が1千人超という大きな組織ではあるが、こと障害者雇用に関しては大きな組織運営の枠組みだけでとらえることに無理があると感じている。
障害部位や程度の違いもあり、障害者各々に適した職場・職務の提供や、現場における教育・指導等では個別対応も必要となる。よって、大きな企業というファミリーの見守る中、各部署単位等の小さなファミリーで障害者雇用の実際の運用を行っていく必要があると考えている。
現在は身体障害者および知的障害者の雇用を行っているが、環境が整えば、将来的には精神障害者の雇用も検討する意向である。ただ、精神障害者の雇用に関しては、雇用するサイドだけでなく、行政や医療機関との連携は必須と考えており、今後の基盤整備が求められる。

執筆者　：　財団法人香川経済研究所　主任研究員　　川上　浩志