地域に雇用の場をつくり、障害の有無に関わらず誰もが仲間として一緒に働ける職場

1. 事業所の概要
(1)設立の背景、経緯
それまで水稲作に依存した農業を展開していた三原村では、住民の就業機会の確保や新規作物の導入、さらに開発用地の使途が課題となっていた。同じ頃、トマト製品の国内トップメーカーであるカゴメ株式会社は、四国での生鮮トマトの養液栽培候補地を探していた。
高知県の食品卸売業者の呼びかけもあって、具体的な協議がスタートしたのは平成12年。温室を含めた施設全体は三原村の農業公社が農林水産省の補助事業を使って建設し、トマトの生産を請け負う事業所の社長と役員を村が公募することになった。そうして、現在の取締役3名が選ばれ、彼等とカゴメ株式会社、地元食品卸売業者の出資により、当社が平成15年に設立された。


取締役3名は、村出身者及びUターン者である。小八木喜尊代表取締役社長は、地元で縫製工場を営んでいた自営業者、残る2名は元会社員であり新規就農者だった。そのため、小八木社長たちは、設立前にカゴメ株式会社の系列菜園へ研修に行った。
「そこで実感したことは、このような大規模な農園経営には、技術もさることながら、経営者としての管理能力が問われるということ。自分が長年培ってきた経営者としての経験が活かせる仕事だと思った」と小八木社長は話す。
当社では、カゴメ株式会社が開発した「ラウンドレッド」「プラムレッド」の2品種を半分ずつ導入し、ロックウールを用いた養液栽培を行っている。通常、午前中いっぱい収穫作業を行い、並行して選果・パック詰めといった出荷作業を夕方まで行う。


現在、職員は41名。そのうち、知的障害者3名が出荷部門を中心に働いている。彼らのうち女性2名は、重量計にトマトを玉載せし、重さ別に振り分け、箱詰め・袋詰めする作業を行っており、男性1名は、箱づくり、箱の片づけなどの作業を行っている。
また、繁忙期には隣接の菜園にてトマトの収穫も行っている。



(2)企業理念
気候や天候によって、作柄や価格が左右されやすい生鮮トマトの安定的な供給を目指している。また、受粉作業にマルハナバチを使用し、農薬散布も極力少なくするなど、カゴメブランドを傷付けないように「安全・安心なトマトづくり」を心がけている。
また、創業したきっかけの一つが、「地域に雇用の場をつくること」ということもあり、地元のやる気のある人々がその能力を十分に発揮でき、安定した収入が得られるよう、働きやすい環境づくりを心がけている。
(3)障害者雇用についての認識
障害のあるなしに関わらず、「どんな人も仲間として一緒に働いていく」という雰囲気づくりを心がけている。そのため、障害者雇用について理解を示し、日常管理も含め、雇用管理、職場内の人間関係に常に配慮している。
2. 障害者雇用の経緯
設立当初から、「これぐらいの規模の会社になったら、障害者を雇用しないといけないという意識があった」、と小八木社長。「私自身も障害を持っている。障害者から近い位置にいる私は、障害者と健常者の距離を縮めることができる存在。また、やる気と能力があるのに働くチャンスがない障害者が大勢いるという状況も知っていた」と話す。
最初に障害者を雇用する際には、ハローワークを通じて募集を行い、1人目は三原村出身の人を紹介された。
2人目は、福祉施設の寮長が訪ねて来て、「仕事がなくて困っている。協力してほしい。」という相談を受け、3か月のトライアル雇用を経て採用した。「会社の経営も安定しており、人助けという気持ちもあった」。
3人目については、当時、これ以上障害者を雇うのは難しいと考えていた。しかし、学生時代に3回職場体験を受け、「皆が親切にしてくれてうれしい。卒業後は、ここで働きたい」という手紙をもらうなど、本人の熱意と作業がよくできたことが決め手となり、採用した。
以上、障害者施設とハローワークの紹介、そして養護学校在学中に実習生として受け入れ、本人の意欲と勤務態度をみて採用を決定した。なお、新たな採用は現在のところ難しい状態である。
3. 取り組みの内容
(1)ハード面
1)安全面
高い所での作業やハサミを使っての作業など、危険を伴う作業を行う場合は、他の人が行ったり、事故が起こらないように管理者のもとで作業を行うようにしている。
2)生産面
労力省力化のため、温室内の環境自動制御については、カゴメ株式会社のノウハウだけでなく、オランダ等の園芸先進国の技術も導入し、温度調整、窓開閉、スプリンクラー、養液注入等は全てパソコンで操作している。また、栽培用養液は再利用している。
さらに、栽培ベッドを浮かせたり、台車に座って収穫ができるようにするなど、従業員が作業をし易い環境づくりを心がけている。


3)衛生面
施設内は常に清潔にするよう心がけている。出社時や温室入出時の手の消毒、温室内に病気を持ち込まないために外出する時は制服を着用しない、温室内に落ちているトマトを踏みつけてそのままにしない、といったことを従業員に徹底している。
カゴメ株式会社からも「温室がきれいで、管理がきちんとされている」と高い評価を受けている。
(2)ソフト面
1)雇用管理
①賃金
常用雇用の障害者は時給700円、トライアル雇用者は最低賃金である。
また、パート職員にも賞与がある。賞与の査定にあたっては、「無断欠勤等の勤怠情報、能力、意欲・態度」等の要素を重視しており、支払いの際に、全体会で査定基準を説明している。
こうして賞与の基準を明確にすることは、自分がどこにあてはまるのか考えるきっかけとなり、本人のやる気づくりにつながっている。
②労働時間・休日
通常は9:00~16:00。忙しい時期は8:30~17:50。休憩は、10:15~10:30、12:00~12:45、15:00~15:15となっている。
休日は、第2・4土曜日(作業に遅れがない場合は毎週休み)、日曜日、ゴールデンウィーク・お盆・正月中にそれぞれ3~4日間となっている。
カゴメ株式会社が開発した2品種のトマトは、完熟しても日持ちが良いため、土日に収穫を休んでもほとんど支障が出ない。また、休み中に異常があれば、ただちに管理者の携帯電話に連絡が入り、現場に行かなくてもパソコンから指示を送り対処できるため、従来の農業と異なり、決まった労働時間や休みがとれる。
2)職場配置・定着
本人の個性、障害の程度に配慮しながら、適性を見極めた上で、それぞれの作業に配置している。
作業はきついが、職員の定着率は高い。これは、小八木社長が経営者として「人を動かすこと」を重視し、常に職場内の人間関係に配慮するなど、働きやすい雰囲気づくりを整えてきたためである。
3)教育・訓練
雇用した際に、基本的な事項をきっちりと教育する。その後は職場において、業務遂行援助者でもある班長が、実際の作業を通じて職務上の教育・訓練を担当する。
また、作業に慣れるまでは常に近くに指導する従業員を配置している。
なお、収穫作業においては、収穫の頃合いなど概ね理解はされているが、傷ものや未熟なものなど不適切なものが混ざらないよう、チェックを行ってから出荷するようにしている。
4)福利厚生・健康管理
福利厚生については、夏のビアガーデン、花見、忘年会といった慰労会を年3回行っている。また、毎年、慰安旅行も行っている。
健康管理については、年に1回健康診査を行っている。
5)養護学校等との連携
養護学校からイベントの案内が送られてくる。また、施設の指導員も、時々来社し本人の勤務ぶりを遠くから見守っている。
6)助成金や各種支援制度の活用
トライアル雇用終了後の従業員に対して、業務遂行援助者の配置助成金を活用している。
7)その他
障害者3名を含め、施設内で作業を行っているのは主にパートである。これは、一定期間(夏期2か月)を種まき・植替えやクリーニングにあてており、この間は仕事(収穫・出荷作業)がなくなるためである。
4. 取り組みの効果
当初は、障害者雇用について、不安があったが、実際一緒に働く中で、「仕事が楽しい」「皆親切で、働きやすい職場だ」という本人たちの声を聞いたり、必死に作業に取組む姿を見たりすることで、周りの人のいい刺激になっている。
また障害者も、「自分たちがつくったトマトが店に並び、売れていくこと」「努力したことが報われ、経済的に自立すること」で社会参加していることを実感している。

5. 今後の課題・展望等
当面、既設の温室2棟で経営安定を図っていき、将来的には規模拡大も視野に入れていきたいと考えているが、今後とも、企業間の競争は激化する一方で、より優秀な人材を確保し、技術レベルをあげることが急務となっている。このような厳しい社会情勢の中で、「障害者が就職するには大変な努力と時間を要すると思われるが、チャレンジ精神を持ち続けてもらいたい」と話す。
また、障害者雇用を促進するためには、企業側の理解も必要だが、企業が障害者を雇用しやすいように国の制度を見直す必要があると話す。「例えば、仕事の理解や習得に時間がかかったり、作業内容が制限されるなど、障害者が健常者の70%の作業しかできないならば、残りの30%を企業に国が継続的に補助するような制度があれば良い」とのこと。
障害者は弱く援助しなければならないと考えるより、始めから、障害があることが自然に普通のあたりまえのことと対応できる雇用環境を整えることによって、障害者の雇用機会が増えていく。
執筆者 : 株式会社くろしお地域研究所 調査研究部長 浜口 忠信
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