障害者を活かす職場づくり
1. 事業所の概要
当社の創立は昭和48年である。「自分たちの生み出す製品が今もどこかで誰かの役にたっている」という思いが原動力となって動いてきた。現在は本社工場の他、京の上工場（福岡）、重見工場（福岡）、八代工場（熊本）の3工場が稼動している。
創業当初から「金型」を製作している。金型の命は精度である。ミクロンの精度にこだわった金型は世界的な評価を受けている。現在では時代のニーズとともに、超精密機械加工、装置開発、電子部品の搬送用としての紙キャリアテープ、エンボスキャリアテープなどの商品生産も行っている。
当社では、設計、加工、組立と全作業を一貫して自社で行っており、顧客の要求にゼロから応えている。また安定した供給が信頼と考え、短納期・高品質での取り組みを基本としている。
経営理念は「相互信頼」。具体的には、顧客優先思考の徹底、市場競争力の強化、目標管理の徹底、新規市場の開拓である。
社是は「誠実、挑戦、共存」。こういった理念を掲げ、全社員が日々の仕事に取り組んでいる。
八代工場では、平成14年に、10年以上労災ゼロを達成していて、職場の安全衛生にも徹底した取り組みを進めている。
2. 障害者雇用の経緯
10年以上前から障害者雇用については進めてきたが、それは企業としての社会的な責任を果たしたいという思いから始まった。
障害者雇用率が法律で定められているが、それは企業の責任として到達しなければならない目標であると考えていた。
障害者を雇用するといっても、仕事がなければならない。どんな仕事ができるか、どこで力を出してもらうかを考えて、仕事を用意できたということが雇用へもつながっていった。現在は、製品検査、出荷準備などの業務に従事してもらっている。
取り組みは長いが、当初、定着率はよくなかった。慣れた頃に、他の仕事をしたい、独立したいなどの理由で辞めていく人も多かった。10年以上頑張って働いている従業員も一人いるが、なかなか続かないのが現状であり、いかにして定着をはかっていくかという課題が常にあった。
現在働いているのは、ハローワーク主催の合同面談会で出会った人たちである。学校を出た20歳代の若い社員ばかりだが、真面目で仕事に対する意欲もあり、休むことなく仕事を続けている。
3. 取り組みの内容
（1）障害に配慮した取り組み
健常者だから、障害者だからという意識は、あまり持っていない。仕事に対して最大限の力を発揮してもらうということは、誰でも同じである。
現在働いている障害のある社員はフルタイムで働いている。障害があるから充分なことができないということはない。もちろん障害の状況によって作業内容は異なるが、製品検査、出荷前の準備など、根気のいる作業をこなしている。
このように彼らが力を出せるようになってきたのは、同じ職場の社員が実に面倒見がよいということもある。20歳代の若い社員に対して、年上の社員が自分の子どもをみるように暖かく面倒みてくれているので、自然にサポートできている。
また、現在の仕事の体制もちょうどよい環境を生み出している。各部署は2～3名でチームを組んで仕事をしている。もう少し人数の多い部署もあるが、いつも同じメンバーで仕事をしている。メンバーが固定していると指導者の目が届き、指導しやすい。また、指導を受ける方も継続した指導を受けることになるので、心の安定につながっている。
このように、少人数のチームで指導が行き届き、お互いにわかりあえているのでストレスも少なく、それが結果として働きやすい職場になっている。
（2）コミュニケーションの対応
その他、特に配慮していることは、コミュニケーションを取るということである。どの社員も基本的には同じ扱いだが、障害のある社員の場合、特に家族との連絡を取るようにしている。
若い世代ということもあって、職場の不満などは職場では言えずに、本音を家庭で話すことが多い。だからこそ、家族と連絡を取るようにして、気を配っている。
もちろん、直属の上司とは連絡を密にして、何か問題があればすぐに対応するようにしている。今まで特に問題になったことはないが、こういった配慮は日常的に必要だと考えている。
（3）取り組みのまとめ
聴覚障害を持っている社員については、職場の音が不快な音として響くこともあるようで、それぞれの障害に対応して職場環境を整えることの大切さも、雇用を進めていく中でわかってきた。
また、生活支援としてジョブコーチをお願いするなど、入寮している社員に対して、新しい生活環境に対応できるように配慮した。生活全般については、押し付けることはできないので、本人の性格などに対応したきめ細かな指導が必要であると感じている。
また、学校からは実習生の受け入れも行っており、今後も引続き行っていく予定である。
4. 取り組みの効果
現在、7名の障害のある従業員は、指導者の下、意欲的に仕事に取り組んでいる。仕事にも慣れてきており、作業効率も大変よく仕事も早い。実にテキパキと仕事に取り組んでいる。ラベル貼り、箱の組立、出荷の点検などの仕事を確実にこなし、生産性も上げている。
障害がある社員も、効率よく作業をこなしているのが特徴である。
他の社員も、障害の有無をことさら意識している様子はない。同じ仲間として助け合っている。あるいは子どもを見守る親のようにあたたかく若い世代を指導している。
企業はその目的を果たしてこそ、その存在価値がある。だからこそ、理念に沿って目的を達成するために確実に仕事をする、プロになるということをめざして指導している。
ハローワークのトライアル雇用も利用している。事業所のみならず本人も試してみることができる制度であり、今後も機会があれば利用していきたいと考えている。
現在も障害者の雇用は企業の責任として認識しており、健常者も障害者も働きやすい職場を目指していきたいと考えている。
5. 今後の課題
今後の課題としては、障害のある社員が十分にその力を発揮し、いかに職場に定着していくかを考えていかなければならない。最初は一生懸命頑張るが、慣れてくると、もっと他のことがしたいなど、仕事から離れていくこともある。自分自身の目標を持ち、やりがいを持って仕事に取り組めるような教育が必要だと考えている。
加えて、メンタル的なサポートも必要であり、これは他の職員に対しても重要なことだと認識している。
執筆者 ： 社会保険労務士（ファイナンシャルプランナー） 菅野 美和子
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