個々人の特性を的確に把握し、適応可能な場を構築することにより、障害者の自立を支援する
1. 事業所の概要
（1）概要
当社は、山尾国敏社長と良栄夫人が、昭和49年に鶏肉処理加工場を個人で開設したことをルーツとし、昭和53年に神浦工場新設後、昭和54年に有限会社化、平成6年1月には本社を増設し、同年10月に現在の社名に変更し現在に至る。
開業当初は鶏肉の解体処理加工だけを主要業務としていたが、その後ミンチ加工・揚げ加工・蒸し加工・焼き加工等の技術力を修得しつつ、工場設備の近代化を推進し、現在は豚肉等の蓄肉やボイル野菜等の加工も主要な業務としている。
主要な取引先は長崎県内の株式会社みろくや、生活協同組合、学校給食センターに加え、福岡市に拠点を構える大手食品企業をはじめとして、四国・関西・関東等の食品企業等の広範囲に納品している。
（2）経営方針
創業から約30年間を数えるが、この間一貫して「食の安全と美味しさを食卓に」をモットーに掲げ、次代とともに変遷するお客のニーズに適合する製品作りと開発を目指している。このような経営方針を貫く立場から、山尾社長は、近年マスコミ等を騒がせている加工肉の不正表示や異物混入等の事件には、心底から憤りと嘆きの念を抱いて止まない。
長崎県には「長崎俵物」に代表されるように、伝統ある食材も多く存在する。したがって、本来の味を失わない昔ながらの味にこだわり続けて、清潔な工場から行き届いた製品管理下で作り出される郷土の美味しい食材を、少しでも多くの方々の食卓へ届けることが、社会的使命であると認識して取り組んでいる。
（3）組織構成
従業員数27名のうち、障害者を6名雇用（知的B1（1名）、知的B2（4名）、聴覚6級（1名））し、各人の適性を重視して、各工程に配置している。
（4）障害者雇用への思い
飽食の時代、モノ余り時代、成熟化社会といわれる現代社会において、「モノがある」「金がある」「食べ物がある」等を当たり前と認識し、自分自身が恵まれた生活環境にあることに気付いていないと思われる人々が多々散見される我が国において、就業を通じて「人の役に立てる喜び」「自立できる喜び」「人と交わることができる喜び」等を体中で表現する障害者を見る度に、事業経営者としての生き甲斐を感じている。
2. 障害者雇用の経緯
清潔と衛生管理が厳しい食品加工場内は、防水用の長靴や前掛けを着用し、マスク・ヘアキャップを着けて行う立ち仕事であり、若年層の採用や定着が困難な状況にあった。
このような折、ハローワークから障害者雇用の話が紹介され、早速雇用に踏み切ったところ、障害者には健常者を上回る根気強さと喜んで仕事に向かう姿勢が強く感じられた。
それでも最初は不安を持ちながら採用したが、数人の雇用を重ねる中、本人の能力に適合する作業であれば健常者以上に能力を発揮することが確認できてからは、障害者を雇用する不安も雲散霧消した。すなわち、障害者を雇用するうえで最も重要なことは、「本人の適性を把握すること」と「単工程の仕事を任せること」を事業所全体で修得するに至った。
このことを契機に、従業員間の理解も醸成され、常時5～8人の障害者を雇用する社内体制が確立された。
3. 障害者の従事業務
障害者の適性を重視して担当可能な作業を任せている。彼らの特性と従事業務等は以下のとおり。
①知的障害（B1：男性）…準備作業や片付け作業等の単純作業
気に入らないと勤務途中で帰宅したことがあった。その時家族を交えて、雇用するに当たっての当社の姿勢を訴え、理解を得ることができた。
②知的障害（B2：男性）…調味料の配合作業
真面目で正確な作業をする。
③知的障害（B2：男性）…機械で生肉のカット作業
頑固な性格であるが、機械好きでコツコツと仕事をする集中力がある。
④知的障害（B2：男性）…野菜・生肉のカット作業
素直で数字に明るく、計量等が得意。
⑤知的障害（B2：男性）…荷物の搬入搬出作業
体力があり力仕事に適している。
⑥聴覚障害（6級：女性）…野菜カット作業
健常者と変わらない能力を持っている。
4. 取り組みの内容
①障害者の適性を重視し、複雑な作業ができない人は単純作業へとシフトして、総合的な仕上げのチェックは健常者が行っている。
②刃物を扱う作業や機械を扱う作業においては、事前にテストするなど特に適性能力を確認している。
③最初は色々なことを担当させて、本人の能力と適性を把握するとともに、実践で作業を教えていく。
④清潔と衛生の観点から現場へは書面の持ち込みはしていないが、障害者への指示は簡潔な文章で掲示するなど工夫している。
⑤納付金制度に基づく助成金の活用（第1種作業施設設置等助成金）
職域の拡大と雇用の安定を図るため、新たな設備を導入することにより補助的作業から製造の作業が可能となった。
主として原料運搬、清掃等雑役業務に従事していた障害者に、割裁機を導入することにより、新規商品である蒸し鶏やカット肉等の製造業務が可能となったため、固定作業に従事させることができ、仕事の幅も広がった。
また工場においては、長年の作業により床面が剥離したことで段差が発生し、転倒の恐れや濡れると滑りやすい床面であったため、作業場の安全性を整備するため、滑りにくい材質で平坦化工事を行ったことで円滑な作業ができるようになった。
5. 取り組みの効果
障害者を雇用することで他の社員の理解が得られるか否かを心配したが、社員の多くが女性であり母親であることから、我が子を見守るように接する態度や姿勢が根付いてきた。
また、障害者が仕事を通じて「働くことができる喜び」を表現するのを見て、健常者の中には恵まれている自分自身の姿を再確認する社員も現れている。
さらに彼らと共に働くという行動が社会への貢献にもつながっている、という自覚も芽生えている。
なお、「平成19年度長崎県障害者雇用支援のつどい」においては、障害者雇用優良事業所として、長崎県知事表彰を受賞した。
執筆者 ： 徳山中小企業診断士事務所 代表 徳山 幸正
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