事業所名

有限会社大分クオリティ

所在地

大分県宇佐市

事業内容

自動車等の電機電子機器部品の製造、組立、検査

従業員数

65名

うち障害者数

8名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	0
聴覚障害	0
肢体不自由	1	修正加工
内部障害	2	選別管理者、修正加工
知的障害	0
精神障害	5	部品組立、修正加工、スライズ版、クリップ工

目次

1. 事業所の概要
2. 精神障害者雇用の経緯
3. 取り組みの内容
4. 今後の課題、展望

事業所外観

1. 事業所の概要

（1）事業内容

　当社の事業内容は以下のとおり。

①自動車の電機電子機器部品の製造、組立、検査

②電子部品の製造・組立、検査　等

（2）障害者雇用の状況

　従業員数65名中、8名が障害者（身体障害者3名、精神障害者5名）

（3）関連施設及び協力企業等

①精神障害者通所授産施設「ひまわり苑」、「つわぶき園」

②共同作業所「由布さくら会」、「大分すみれ会」、「大分たちばな会」

③三泉化成株式会社、豊洋精工株式会社、株式会社豊洋メット、九州市光工業株式会社、株式会社ユーテック、株式会社目黒化学、平和自動車株式会社

2. 精神障害者雇用の経緯

　精神障害者の雇用について、「精神障害者は根気が続かず2～3時間立ちっぱなしで仕事に集中することは無理といわれています。ご苦労が多いでしょう。周囲の方に支障が出てきませんか？」という問いに対して、河野美昭社長は、「ありません、あるほうがおかしい」、「その人に合った仕事を与えれば喜んでしますよ」、「合った仕事がなければ、採ってくればよい。それが会社の役目です」と回答する。企業理念の第一に掲げている経営信条「私たちは、お客様に信頼され、社会に貢献する企業として、幸せを分かち合うことを信条とする。」が実践されている。

　精神障害者との出会いは、隣の豊後高田市にある精神障害者授産施設「ひまわり苑」の理事長が、「うちの所員(利用者)でも出来るような内職的な仕事はないでしようか。」と言って、飛び込みで相談に来たのが縁となった。

　「理事長さんの話を聞きながら、出来そうなペーパー掛けやサンダー掛けの部品を2～3種類持って帰ってもらいました。納品を検討すると合格点の仕事が出来ているではありませんか。こんな仕事が出来る人たちの日常の様子を見てみたいと思うようになり、作業の様子を見せてもらいました。なんと！うちの会社で働けそうな方が何人もいるではありませんか。」と社長は話す。

　彼らの「力」を雇用につなげる方法はないかと考えた末の結論が「研修制度」である。

3. 取り組みの内容

（1）授産所との連携で「研修制度」を確立

　パーツを授産所に預け、作業を依頼しているが、期間中にたびたび授産所を訪ねて日常から授産所の利用者とコミュニケーションを取ったり、作業の様子を観察する。

　　↓

　作業を通して評価し、研修生候補を選抜する。

　　↓

　働けそうな方を2～3名研修生として通勤させ、従業員と同じ仕事をさせる。

　　↓

　10ヶ月～1年間研修を行い、合格と判断した者のうち本人が入社を希望すれば優先的に採用する。

　授産所も事業所もそして家族も、安心・信頼して雇用契約できるシステムである。なお、来年度は、現在研修に来ている3名が採用される予定である。

自動車のバンパーの修正加工（研磨）

形成後の部品組立・検査

（2）「5Sの徹底」～これこそが障害者も含めた当社の社員教育のテーゼ

　パンフレットに載せている企業理念は、前述の「経営信条」のほかに、「品質方針」、「人材育成・訓練」「生産体制の在り方」の4項目でそれぞれに詳細を述べている。そして、その下に「重点活動項目」として「物造りの基本として、5Sの徹底を図る。」と述べているのが、今回テーマに掲げた5つの「S」である。

　整理：必要なものと必要でないものを区別して必要でないものは撤去すること。

　整頓：必要なときに必要なものをなるべく早く取り出せるようにすること。

　清掃：職場のゴミをなくし、よごれのないきれいな状態にすること

　清潔：整理、整頓、清掃がいつも維持されていること。

　習慣：職場の規律やルールがいつも正しく実行できるようにすること。

　とりわけ、物造りの観点から清掃には力を入れている。

　「障害者の人でもこれが出来れば仕事が出来る。」「一般社員も同様で、これが徹底していれば、取り立てて障害者を雇用したからといって、特別な教育や配慮を声にしなくても、ことさら問題は生じていない。」「今後も、この5Sの徹底こそが我が社の発展につながると思う。」と、自信をのぞかせる。

（3）人材登用に障害者、健常者の差別はない～障害をオープンにすべき～

　社長は次のように話す。

　「もともとが、障害者だから採用に何らかの条件をと言う意識はなかった。5Sが出来る方であれば、仕事ができるのだから。ただ、障害を隠して入社した人に採用後にちょっとしたトラブルがあった。

　てんかんのMさんが、突然仕事中に倒れたのである。さいわい大きな事故にはならなかったが、障害をオープンにすると採用時点で拒否される経験を皆が持っている。

　心臓に病気を持つKさんも同様である。彼は雇用以前に身体障害者の認定を受けていたが、やはりそれを前面に出すと不採用になることを恐れていたらしく、隠して試験を受けたことが後に分かり、『そんなことで判断しない』『人物で決める』～『障害のことはオープンにして、堂々と働け』と伝え、安心して働ける条件を創った。今は生産管理の中心として我が社になくてはならない人材に成長した。」

　「会社側として求めることは、他薦・自薦、公の機関からの紹介の時でも障害や病気はオープンにしてほしいと思う。途中で分かると職場の不信を回復することに時間がかかる上、一番本人が苦しむことになる。」と何度も強調する。

（4）助かったジョブコーチ制度～制度は大いに活用すべき～

　「ひまわり苑」の理事長と出会い、障害者雇用に対する関心を持つようになり、実際活用してみて、大いに助かった制度もある。

　「大分障害者職業センターからジョブコーチを派遣してもらい、職場での悩み、生活指導におけるアドバイス等々、様々な問題についてカウンセリングをしてもらった。

　例えば、休憩時間のこと、音や臭いなどの環境のことなど、我々には言いにくいことも聞いてくれるので、相談者自身のストレスが解消されるし、事業所にとっても例えば騒音や臭いのこと等について、『製品作りには、しようがない事なんだ』という一言を、事業所側の人間が言うより、ジョブコーチが伝える方がワンクッションあって柔らかに伝わる。」など、その時々の対応が的確になされたとのことである。

4. 今後の課題、展望

　雇用に関して、障害者、健常者という意識は全くない。5Sのできる人であれば、とにかく人材がほしい。仕事は探せばいくらでもある。

　現在従業員は65名であるが、近々75、80名と増やしていきたい、障害がどうこうではなく、眠っている戦力を引き出したいという考えである。

　なお、将来は、いろいろな障害の人を採用できるような事業所にしたいと考えている。

執筆者　：別府大学短期大学部初等教育科　教授　　佐藤　賢之助