障害者雇用の理念から繋がる人に優しい社会
～グループ全体でサポートする小売業の取り組み～
1. 事業所の概要
当社はイオングループの一つであり、沖縄県内ではジャスコ5店舗、マックスバリュー25店舗（うち沖縄本島20店舗）と多くの店舗を有し、大型スーパーマーケットとして沖縄県民の生活に深く根付いている。
従業員数は751人で、障害者雇用状況は知的障害・肢体不自由・内部障害のある19人を雇用し、法定雇用率を満たしている。
業務内容は、魚や野菜等の食料品から日用雑貨品に至るまでの様々な生活必需品の販売である。それに伴いレジでの接客や商品発注、商品のパック詰めから値札はり、品出し等とスーパーマーケットの中には多種多様な職種が存在している。
雇用している障害者の主な職種は、商品の品出しや陳列、事務等である。
2. 障害者雇用の経緯
以前から障害者雇用を行ってはいたものの、2002年当時は障害者雇用率が1．45％と法定雇用率を下回っていた。これを受けて改めて企業として障害者雇用を進めることは社会的責任であると明確に捉え、重要な課題として取り組み始めた。
具体的な取り組みとしては、法定雇用率を上回ることを第一に設定すること、毎月の進捗管理を実施し、現在の不足数を常に把握して対策を考えること、等である。
このような取り組みの成果もあって、2007年の雇用率は2．58％となり、障害者雇用の促進に向けた積極的な努力の跡がうかがえる。
3. 取り組みの内容
（1）職場実習等を経て採用
障害者雇用については、本社で一方的に決めても、現場の理解と協力なしには進められない背景があることをしっかりと意識している。そのため常に店舗と連絡しながら状況に応じて採用や募集をかけている。
採用に至る経緯は様々であるが、最も多いのが特別支援学校から職場実習を経て採用するケース、次にハローワークからの紹介、合同面接会による採用となっている。いずれの場合も即採用ということはしないで、職場実習やトライアル雇用、職場適応訓練を行った後に本人の意欲・適性を考えた上で判断している。このような採用までのしっかりとした考え方と方針が、障害者の長期の職場適応を可能にしている。
（2）職場配置
まず、各店舗に障害に対する理解を得ることを前提とし、それから配置する。
配置上の工夫としては、知的障害者に対しては、基本的に主に農産の商品加工、売り場への商品補充等といった難しい判断を必要としない単純作業を割り当て、身体障害者に対しては、特に人工透析を受けている従業員には、あまり身体に負担がかからないような出勤日程の配慮等を行っている。また、ジョブコーチによる支援制度も積極的に活用し職場適応を図っている。
なお、知的障害のある従業員においては、商品の品出しのみならず発注のための事務作業までこなしている社員もいる。過去の売上実績などをベースに考慮し、周囲の従業員がサポートすることで、今では自立的に担当することができるまでになった。
また、店舗には自閉的な傾向がある従業員が勤務しているが、野菜のパック詰め作業を主に担当し、20数年間働き続けている。非常に作業が正確で、大きな戦力として今や欠かせぬ存在になっている。
全体の取り組みとして、職場実習で受け入れた生徒の生の意見を取り入れて、障害者雇用に生かしていこうと考えている。また、特別支援学校が開催する就労体験実習発表会で生徒が発言した内容を参考にしている。これにより職場内の障害理解の促進が進み、より良い職場環境が形成されている。
労働条件としては、他の従業員と同等の方針であり、能力に応じた昇給やキャリアアップも可能性がある。
（3）社内のサポート体制
サポート体制の背景で最も大きいのは、従業員の障害理解である。イオングループには「イオン行動規範」というものがあり、その中にイオングループの障害者雇用の理念について、次のように表している。
「人権を尊重し、国籍・人種・性別・学歴・宗教・身体上のハンディキャップなどを理由とした差別を一切行ないません。イオンピープル一人ひとりが、ともに働く仲間の声に耳を傾け、お互いを自分と等しく尊重します。イオンは人間にやさしい企業を目指します。」
この理念によって障害者が安心して働ける場を保障している。
サポート体制としては、障害者の相談窓口として障害者職業生活相談員を配置するほか、障害者雇用担当者自らが店舗巡回時に障害のある従業員に一声かけるよう努めている。
現場においては、彼らと常に接している従業員や店長が中心となってフォローしている。作業を行うことに集中して休憩や食事を取ることを忘れてしまう従業員には、時間になると周囲が合図して教える等、共に働く中で自然にナチュラルサポートが形成されている。
（4）雇用支援機関との連携
就職希望者の斡旋・支援計画の作成や、職場適応訓練など障害者雇用援護制度の活用について支援を受けるなど、ハローワークを活用している。
障害者職業センターに関しては、ジョブコーチによる支援やフォローを受けるなどの活用をしており、必要に応じてその都度、連絡を取り合い、新規雇用の相談や支援体制の整備、問題の解決に取り組んでいる。
障害者就業・生活支援センターに関しては、障害のある従業員が「いじめ」を受けていると感じて困っていたときに、フォローに入ってもらった経験がある。
教育機関との連携では、特別支援学校等からの職場実習の受け入れについての打ち合わせや実習後の進路についての相談等、密接な関係がある。
4. 今後の課題と展望
今後もイオングループ全体で障害者雇用を進めていきたい、いつでも地域に育てていただいているという自覚を持ち、企業としての社会的責任を果たしていきたい。と明言する。
以前、障害のある従業員が商品陳列するスピードに対し苦情を受けたことがあったが、当時の社長は、気にせず取り組むよう話したとのことである。障害者の働く権利を守る強い意志を持っているということをよく表している。
なお、障害者雇用に関する制度等に対しては、「労働関係機関における制度及び手続きの簡素化を図ってほしい」、「制度活用の際の窓口と助成金の窓口が異なりわかりにくい」といった意見・要望がある。
イオングループは、これからも人に優しい企業を目指している。障害者も働くことで自立した一人の人間として社会で生きていくことができるという理念を、少しでも広めていくことが、多くの障害者の社会参加に繋がる。イオンとはラテン語で「永遠」を意味するが、このような理念が永遠に受け継がれていくことで人に優しい社会ができていく。
執筆者 ： 琉球大学教育学部障害児教育講座 準教授 田中 敦士
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてユミルリンク株式会社提供のCuenote(R)を使用しております。
