株式会社キャンドゥ
身近な100円ショップを展開する企業の障害者雇用への取り組み
- 事業所名
- 株式会社キャンドゥ
- 所在地
- 東京都板橋区
- 事業内容
- 100円ショップによる日用雑貨・加工食品の販売
- 従業員数
- 1,385人
- うち障害者数
- 29人(カウント数 40ポイント)
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚・音声障害 0 肢体不自由 4 店舗倉庫での商品の整理、伝票による納入商品の確認等のバックヤード業務 内部障害 1 〃 知的障害 24 〃 精神障害 0 - 目次
1. 事業所の概要と障害者雇用の経緯
(1事業所の概要
キャンドゥは100円ショップのフランチャイズ店への卸売、直営店のチェーン展開を事業とする会社として1993年に設立された。創業以来、店舗数、売上高ともに急カーブで上昇し続け、2001年には業界では初めてジャスダックに上場し、その後2003年に東証二部に、翌04年には東証一部への上場を実現している。
キャンドゥは、初めて店舗を訪れた人々に「これがみんな100円?」という驚きと感動を与える店であり、2度目以降でも店舗に足を運ぶたびに面白くて便利でバラエティあふれた新鮮な商品を届けられるように、常に新商品を開発して提供し続けている。また効率的でスピーディーに全国的に事業エリアを広げる多店舗展開が成功し、2006年11月末現在で北海道から沖縄まで全国で合計823店舗を数え、年間売上高も6百億円を超える規模に達している。
(2)障害者雇用の経緯
1.キャンドゥでは会社設立後8年でジャスダック上場を果たすなど急速に事業が拡大する中で、従業員数も店長を中心とする正社員に加えて、販売戦力であるパート・アルバイトの数が急激に増加していた。しかし障害者の採用は2001年時点でゼロとまったく手付かずの状態であったため、管轄のハローワークから障害者雇用について強い指導を受けることとなった。折しもジャスダック上場にともない社内における社会的責任意識が高まりつつあったことから、同年11月にトップダウンにより一年以内に法定雇用率を達成する目標を掲げ、全社を挙げて障害者雇用を推進する方針が決定された。
2.障害者雇用を進めるに際して参考としたのは、ほぼ同時期に店舗展開で障害者雇用を進めていたユニクロの事例であった。ハローワークおよび障害者職業センターからユニクロの先行事例を紹介されたことから、キャンドゥでも店舗内でのバックルーム作業を対象として障害者雇用を進めるための具体策が検討された。その結果、体力面で不安がなく、かつ店舗設備面で特段の改修を必要としない知的障害者を中心に採用を進める方針が固まった。また店舗における障害者雇用を推進するには店舗側の理解・協力を得る必要があると考え、店舗側を説得し模範を示す意味から本社内でも事務職域での身体障害者雇用を同時に実現することとした。
3.障害者の採用方針決定後の行動は早く、ハローワークや各都道府県の障害者職業センターにも協力を求め首都圏を中心に店舗での障害者の採用を進めた。障害者の配属地域に首都圏の店舗を選んだ理由は採用後の障害者の職場定着化を見据えたものである。初めて障害者を受入れる配属先の店舗側に対して、障害者の雇用管理を丸投げするようでは障害者の定着化に支障が生じかねないと懸念されたため、採用後の障害者に何らかのトラブルや問題が生じた場合には、首都圏にある本社人事部門が店舗側と一緒になり連携して問題解決に当たることが必要不可欠であると考えたものである。
4.障害者を配属する店舗の選定も重要視された。先ず雇用する障害者に一定量のバックルーム作業を確保する必要があるため比較的規模の大きな店舗を対象とした。次に店舗運営の責任者である店長や障害者を直接に指導担当するパートナースタッフの資質も重要視するポイントとなっている。慣れない障害者を受け入れるには、雇用管理面に優れるとともに積極的に受け入れ姿勢を示す店長の存在が欠かせない。また店長は早ければ半年という短期間で転勤することがまれではないため、パートナースタッフの役割が非常に重要となる。パートナースタッフの選任に際しては、店舗で比較的長期間の勤務を経験した準社員やパート社員の中からその資質を見極めて任命している。
以上に述べた施策に加えて、後述する障害者職業センターをはじめとする就労支援機関によるジョブコーチ派遣等のサポートが効を奏して、目標通り一年目で障害者15人を採用し法定雇用率である1.8%を達成することができた。
2. 障害者雇用の現状
当初の計画通り一年以内の法定雇用率達成を実現したキャンドゥでは、その後も障害者の採用を継続しており、平成19年6月15日現在の障害者雇用数は32名に増え障害者雇用率は2.83%に達している。雇用している障害者の障害種類・部位別でみると知的障害者が最も多く80%を上回り、次いで肢体不自由、聴覚障害者、内部障害者となっている。
障害者の採用方法、労働条件等については以下の通りである。
(1)募集と採用
キャンドゥの各店舗では、正社員であり店舗の責任者である店長を除くと、販売の主力となるのは転勤がないものの週40時間のフルタイム勤務である準社員や、短時間勤務の補助的販売員であるパート社員、アルバイト社員である。この中で障害者はフルタイム勤務が原則の準社員となり販売の主戦力として採用される。正社員と異なり準社員には転勤がないことから障害者に適した処遇とも言える。
障害者の採用基準は通勤、食事、トイレ等が介助なく単独で可能なことを前提に、面接と実習により本人の能力を見極める。また通勤時間も重要視しており片道1時間以内であることを1つの目安としている。採用方法については、従来は配属予定店舗が決定した都度、ハローワークを通じて中途採用で募集していた。しかし最近では養護学校の要望を受けて多くの店舗で実習生を受入れ始めた結果、実習生の中から能力の高い生徒を見極めて新卒採用するケースが主体となってきている。実習を通じて本人の性格や仕事の適性等を見極められる効果は大きい。
全社的には障害者雇用数が30名を上回っているものの、実際に配属される各店舗では障害者を初めて雇用するケースばかりである。このため、原則として採用する全ての障害者を対象にハローワーク、障害者職業センターと連携して障害者就労支援制度である職務試行法による実習制度、トライアル雇用制度およびジョブコーチ派遣制度を活用している。また賃金の一定割合を一定期間助成してもらえる特定求職者雇用開発助成金制度も利用している。
トライアル雇用では、挨拶がうまくできず、またタイムカードの打刻ができなかった2名の例外を除き全員が採用されており、90%以上の割合で本雇用に移行している。トライアル雇用やジョブコーチ制度は初めて障害者を受入れる店舗側に安心感を与えるとともに、期間中に知的障害者とのコミュニケーション方法や指導方法を学べることから非常に有益であるとキャンドゥでは高く評価しており、もしこれらの支援制度がなかったならば障害者雇用が現在のようにスムーズに進んだか疑問であるとコメントしている。
(2)労働条件
障害者は時給制の準社員としての処遇となるが、全員が常用労働者として社会保険および労働保険にも加入し、また土日休日も営業する店舗の性格から休日の取得はシフト制となっている。なお就労時間は上述の通り週40時間のフルタイム勤務が原則であるが、各自の能力・特性等を判断して無理なく勤務できるように、採用直後は週30時間から40時間の間で短時間勤務に就くことも認められる。
時給については最低賃金を上回る水準である。健常者の準社員に比較すると低くなることも多いが、これは担当する仕事の量や範囲に応じた職務遂行能力を反映した結果によるものであり、決して障害者であることに起因するものではない。健常者と変わらない仕事ができる者には健常者と同一の賃金が支給される。
昇給・昇格に関しては、準社員に対する定期的昇給制度がないものの、必要に応じて勤務評価を本人にフィードバックして能力に応じた昇給を実施することもある。また準社員から正社員への登用制度もあり、過去に1名の障害者が正社員の店長に昇格した例がある。
なお通院・通勤で特段の配慮事項は実施してないが、内部障害者(透析患者)の1名はシフト勤務による平日の休日を利用して通院している。
(3)担当業務と教育訓練
障害者が担当する業務は、店舗倉庫での商品の整理、伝票による納入商品の確認等のバックヤード業務が中心である。知的障害者の中にはまったくお客との応対ができない者もいるが、会話ができる者は名札をつけて売場での品出し業務も行っている。売場で商品を並べているとお客から商品の置き場所等を聞かれるケースもあるため、売場に出る障害者には「いらっしゃいませ」、お客に尋ねられれば「少々お待ちください」、「係の者を呼んできます」と答えられるように訓練している。また名札の裏にこれらの文句を印刷しており、もしお客の質問に答えられない場合には名札の裏を見せて対応することも可能となっている。
教育訓練については、健常者と同様に店舗でのOJTを実施している。採用直後は障害者職業センターから派遣されるジョブコーチの支援を受けながら仕事の進め方に慣れていく。その後は障害者の指導者として選任されるパートナースタッフを配置して、ジョブコーチとの連携で障害者に対する指導のノウハウを学び教育指導に当っている。知的障害者の指導に際しては、複数の者が夫々の異なる言葉で指示すると障害者が混乱を来たすケースがあることから、経験豊富な者を指導者に特定したものである。




3. 障害者雇用の不安要因解消への取り組み
キャンドゥでは障害者雇用を躊躇する不安要因に対して、次の様に対応策を講じている。
①どのような仕事を用意すればよいのか
障害者の就労能力は個人差が大きいため、どの仕事ができるかは実習を通じて本人の適性を見極めた上で具体的な仕事を選定する。
②コミュニケーションをうまく交わせるのか
職業センターから派遣されるジョブコーチの助言を受け、コミュニケーション方法を学ぶ。
③指導や生活面のフォローを誰が担当するのか
障害者1人に専任のパートナースタッフを配置する。
④受入れに際してどの程度の負担があるのか
個人差が大きく受入れ後でなければはっきり分からないが、結果は概ねうまく行っている。
⑤トラブルが生じた際にどの様に対応するのか
本人、家族、支援機関を含む関係者全員で話し合って原因を分析する。
⑥受入れ部門の理解を得られるか
先ず受入れに前向きで有能な店長の下で店舗受入れ成功例の実績を作り、その後に他の店舗にも
展開する。
これらの取り組みが成功しており、一旦採用された障害者で退職したものは僅か3名に過ぎず健常者と比較すると定着性は極めて高い水準にある。
キャンドゥによれば初めて知的障害者を受入れる場合、企業では障害者のコミュニケーション能力、仕事に対する適性・能力、日常生活能力を過小評価するため受入れを躊躇しがちである。しかし障害者雇用では様々な支援機関と支援制度があるので、如何にうまく支援機関と連携し支援制度を活用するかが障害者雇用の成功の鍵であると指摘する。
4. 今後の取り組み課題
キャンドゥでは既に法定雇用率を上回る障害者雇用を実現しているが、店舗での配属先を見ると首都圏に限られている。これは問題が生じた場合には店舗任せにしないで首都圏にある人事部門も加わり関係者全員で対応策を講じるという方針によるものである。しかし今後さらに障害者の雇用を進めるためには首都圏以外のエリアでの店舗雇用が不可欠となろう。今やこのための新たな展開策を検討する時期に至っているものと思われる。
また店舗の性格上、バックヤード業務が中心の障害者にも接客対応が求められる場面が増えてくる。
現在、最低限の接客対応が必要となる売場での品出し業務を担える知的障害者の数は必ずしも多くないが、彼らの働く意欲を高めるために、また障害者の職域を拡大するためにも知的障害者の多くが接客対応可能となるように教育しステップアップさせることが今後の課題となる。現在100円ショップはコンビニ同様に我々の身近で不可欠な存在になってきたと言える。我々が利用する身近な店舗で、障害者がごく普通に働いている姿が見受けられるようになることを期待したい。
執筆者:独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構東京駐在事務所障害者雇用アドバイザー 名田 敬
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