特例子会社における障害者雇用の取り組み~ノーマライゼーション理念の発信!~
- 事業所名
- 株式会社テルベ
- 所在地
- 北海道北見市
- 事業内容
- オフセット印刷機等による帳票類・POP・チラシ・小冊子等印刷物全般の印刷及び冷暖房完備の栽培用ハウスによる椎茸生産
- 従業員数
- 28名
- うち障害者数
- 17名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 2 印刷製版工 肢体不自由 7 印刷製版工及び補助員、椎茸事業部課長代理 内部障害 1 印刷製本工 知的障害 7 椎茸栽培員 精神障害 0 - 目次


1. 事業所の概要
(1)会社の設立経緯
1990年代、日本ではまだまだ企業が障害者の受け入れを積極的に行うようにはなっていなかった。そうした社会の中で、イトーヨーカ堂の障害者雇用率も、行政が定めた基準1.6%に対し、半分以下の0.64%にとどまっていた。その事実に企業としてどのように対処していくかが、大きな課題として浮上したのである。
当時、接客中心の小売業では、障害者の雇用は難しいという先入観が強かった。しかし、果たして本当に無理なことだろうか。真摯に自らに問いかけ、障害者雇用を単に雇用率の問題にとどめることなく、広くノーマライゼーションの理念に立って根本から見直すことにした。そして1991年11月、「ノーマライゼーション推進プロジェクト」を発足した。スタートにあたって同プロジェクトは、
①全社員にノーマライゼーションの理念を徹底し、正しい姿勢でこの課題に取り組む風土を確立する
②各事業所において障害者雇用を積極的に進める
③重度障害者の雇用を推進するための特例子会社づくりを研究する
④障害者の職場参加を円滑にするために、手話通訳者の養成・職場施設の改善などを積極的に進める
⑤障害者のお客様のための接客マナーや施設のあり方を研究し、障害を持つお客様の立場に立った店づくりを推進する
という5項目の基本方針を作成し実行していった。
同プロジェクトでは、店舗における障害者雇用と設備の改善を進める一方で、北海道北見市の知的障害者通所授産施設における二つの大きな課題を知ることとなる。①授産施設で作られている製品を恒常的に売る場がない、②一般の企業で働きたいが就労の場がない。この二つの課題をヒントに、1994(平成6)年3月、プロジェクトの基本方針に基づき、イトーヨーカ堂をはじめ、セブン‐イレブン、ヨークベニマル、デニーズのグループ4社と北海道北見市との共同出資により、障害者雇用促進法に定める特例子会社として株式会社テルベの設立が実現した。
また、同年、障害者施設を支援するため、地域の社会福祉協議会などに店舗の売場スペースを無償で提供し、福祉施設で製作された商品を展示、販売する『みんなのふれあい福祉ショップ・テルベ』をイトーヨーカドー和光店と北見店に設置(現在全国7店舗)。
ショップでは、地元の福祉施設で作られた手製のオリジナル工芸品や生活雑貨などの販売を行うだけでなく、ボランティアの受付、イベントなどの情報交換の場としても活用していただいている。日によっては、障害者も店頭に立ち、自分たちの作ったものを自らの手で売る喜びを体験している。

(2)創立理念
ノーマライゼーションの理念を経営理念に掲げ、ハンディを持つ人も持たない人も、若い人も高齢者も、それぞれの特色を生かし平等な立場で就業可能な職場を創設する。
※「テルベ」の名称はイトーヨーカドーの社員から募集し選出。仏語で「緑の大地」すなわち「肥沃な大地」「物を創りだす大地」という意味を持つ。オホーツクの緑の大地に生まれた小さな芽が大樹に育つようにとの願いをこめて命名された。

誓いの言葉 今日も一日私たちは、真心と情熱をもって、仕事に励み、共に働く仲間と力を合わせ、感謝の気持ちを忘れることなく、自ら希望達成のためにつとめます。 テルベ三つの精神 「めげず!たゆまず!ほがらかに!」 |
(3)会社概要
①沿革
・1994年 3月 イトーヨーカドーグループ(イトーヨーカ堂、セブン‐イレブン・ジャパン、デニーズジャパン 現セブン&アイ・フードシステムズ、ヨークベニマル)と北見市の出資により、イトーヨーカ堂の特例子会社として設立
・1995年11月 操業開始
・2004年 6月 東京コピーセンター操業開始
・2005年 9月 セブン&アイ・ホールディングス内の特例子会社へ
②売上高・資本金
・売上高 5億円
・資本金 4億円
・株主 (株)イトーヨーカ堂 54% (株)セブン‐イレブン・ジャパン 25%
(株)ヨークベニマル 10% (株)セブン&アイ・フードシステムズ 10%
北見市 1%
2. 事業内容
(1)北見事業所
・印刷事業部—15名体制うち障害者10名
工場には、オフセット印刷機・製本用機器・製版用機器版下製作用Macintosh・大型高速コピー機、カラーデジタル複合機などを配置し、帳票類・POP・チラシ・名刺・封筒・ポスター・年賀状・シール・小冊子等あらゆる印刷物に挑戦し、常にお客様にご満足いただける高品質な印刷を追求しつづけている。


・椎茸事業部—9名体制うち障害者7名
本館から廊下で車いすでも行ける冷暖房完備の栽培用ハウス(75坪)3棟、1棟に2万個の菌床があり、365日休みなく生産されている。
年間総収量65トン、生産された椎茸は北海道内のイトーヨーカドー各店で販売され、新鮮で品質の良い生椎茸として好評を得る。


(2)東京事業所 (セブン&アイ本社内)
・コピー事業 セブン&アイ各社のコピー
3. 職場環境の整備(ソフト面:働きやすさと安全を第一に考えられた工場・施設)
(1)社員一人一人が安全で安心して働けるよう、様々な設備を導入
①段差の無い床面・車いす対応エレベーター・屋内専用駐車場・出入口スロープの設置など、全てがバリアフリー設計。
②トイレは洋式・和式の両方を用意・車いす対応のウォシュレットトイレが男女それぞれ4ヵ所・うち失禁時に対応できるシャワー付が各1ヵ所あり衛生面にも配慮している。また、緊急時に対応するための「ヘルプコール」を設置。


③印刷工場内の設備には、聴覚障害者に機械作動中を知らせる「パイロットランプ」の設置、重い紙製品の移動困難な人のために「エアーテーブル」の設置。

(2)社員の快適な職場環境づくりのための施設整備
①車いすが自由に動ける、休憩室・食堂・保健室・相談室・洗濯室・乾燥室や広々とした更衣室・シャワール-ムを完備。さらに、地域のコミュニケーションづくりにも利用可能なボランティアルーム(集会室)がある。また、屋外通路にはロードヒーティングを施している。

ルーム
②緊急時の避難スロープや誘導用点滅装置などを設置し、安全にスムーズに避難できるように整備している。
③障害者・高齢者の方が乗降可能なリフト付通勤バスを365日運行している。

4. 職場環境の整備(ハード面:快適な職場環境で、障害者の自立と職場定着をめざす)
ハード面はお金をかければ解決できるが、障害者が職場に定着し仕事を継続していける最大の要素は、ソフト面の充実である。
障害者も健常者も「心のバリア」を取り払う大切さを学び、明るく楽しい職場づくりを目指している。

(1) 障害者職業コンサルタント・障害者職業生活相談員を配置して、いつでも相談を受け入れるように配慮するとともに、家族あるいは支援者との連携を密にして、一人一人の障害者の情報を共有している。
(2) 職場定着推進チームが、会議を定期的に開催して問題点等の解決にあたるとともに、障害者がその能力を十分発揮できるような職場環境づくりに努めている。
(3) テルベでは内科系及び外科系の准看護師2名を配置し、日常の健康管理と「心のケア」で職場定着率の向上を図っている。特に知的障害者には准看護師が中心となって家族・支援者・会社の三者が健康状況の情報を共有し、少しでも長く働けるよう健康管理に配慮している。
また、緊急時対応のために「緊急連絡先・健康管理カード」を整えるとともに、AEDの設置・社員研修なども実施している。
(4) 家族が中心となって家族会「つなぎの会」を設立し、年2回開催する中で家族が抱えている悩みなどを家族同士話し合う場として活用するとともに、お互いの親睦を図っている。
(5) 従業員(シルバー含む)全員で親睦会を設立し、年間2~3回程度、焼肉パーティー・ボーリング大会などのレクリエーションを開催している。
また、従業員同士のコミュニケーションを高めるため、社員個々人の趣味を生かしたレクリエーションを各々企画し、コミュニケーションの「話題づくり」にも努めている。(車いす生活者の夢である登山・釣りなどを実現)
(6) 毎月一回業務終了後にオフサイトコミュニケーションを開催。座長は交代制で自ら議題を決めて進行役を務め、本音で話し合える仲間づくりに努めている。
(7) みんなの声の箱設置——聴覚障害者など話すことが苦手な人のために、希望・意見・苦情等を的確に直接トップに伝えることで業務のみならず様々な改善策に繋げている。
5. ノーマライゼーション理念の発信(~障害の有無にかかわらず、誰もが地域社会に共に生きるというノーマライゼーションの理念を発信し、障害者に対する正しい理解や支援の輪を広げています~)
(1)地域、そして世界のみなさんとの絆をさらに深める取り組み。
① 毎年、総合学習の一環として、多くの小中学生の受け入れ、高校生インターンシップの受け入れ等々の中で、「福祉とは」「障害とは」「ノーマライゼーションとは」をやさしく解く学習。さらには当事者の話も交えながら、障害者に対する正しい認識を身につけて自己の生き方について考える機会を提供している。
(年間1,000名以上に及ぶ見学・受講者)
② 海外からの見学団の受け入れ—海外の福祉関係で働いている方々、福祉を学んでいる学生等を毎年受け入れている。(中央アジア諸国・中南米諸国など)
③ 地域のイベントに積極的に参加—地域との絆を深めるため従業員がボランティアとして出店。
④ 組織には営業部はなく社員全員が営業マンであるハンディを持った人もお取引企業等に直接出向き、地域とのつながりを深めている。
⑤ 「障害者に遠慮はいらない!しかし配慮は必要だ!」
障害者に対して大切なことは、同情することでも、いたわることでもなく、ただ同じ人間として普通に接することを基本としている。
⑥ 午前9時になるとオランダ製の鐘の音とともに、知的障害者主導のもとで全員が手話を交えた朝礼がはじまる。

6. さいごに
「世の中に障害、すなわちハンディを持っていない人がいるのでしょうか。赤ん坊の時は誰しも親や周囲の助けを必要とします。歳をとると、やはり周囲のお世話になります。そればかりでなく、明日交通事故に遭うかもしれません。
また、身体障害者だけでなく、数学が苦手な人は数学の障害、英会話の苦手な人がアメリカに行ったら、日常生活に障害をきたしてしまいます。人はみな何らかのハンディを持つ、だからお互いに支え合い、助け合って、お互いの良いところを組み合わせ伸ばすようにすることが大切ではないでしょうか・・・・。」
このようなメッセージを発信しながら、施設や設備のハード面の工夫や投資はもちろん必要だが、それ以上に、正確な認識に基づく日常的な心配りといったハートある支援が必要なこと、また、勝手な思い込みによる支援は、かえって迷惑や差別にもつながるとして、相手の立場、相手の目の高さに立った「ノーマライゼーション」の推進を目指してまいります。
執筆者 : 株式会社テルベ 取締役所長 岩元 保
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。