ハンディのある人が健常者と同様に働いて自分の収入で生活しようとする人たちの職場確保

1. 事業所の概要
(1)創立のあゆみ
昭和51年 2月 | 財団法人札幌福祉作業所を設立 松坂屋店他4店舗開店 |
52年度 | 手稲店他3店舗開店、以後店舗開店を積極的に推し進める |
61年 2月 | NHK放映 |
9月 | 障害者雇用促進大会で優良従業員受賞、以後受賞を続ける |
63年 1月 | 雇用の広場で「シュリーの店」掲載 |
9月 | リハビリテーション世界大会に参加 |
64年 3月 | 雇用の広場「視点」掲載 |
平成 6年 8月 | 刃物研ぎ取次ぎ業務開始 |
7年 4月 | 白洋舎靴修理下請業務開始 |
10年10月 | UHBTVスーパーニュース放映 |
11月 | HBCTV「市民とともに」放映 |
11年12月 | 澤村理事長が厚生大臣表彰受賞 |
(2)事業の特徴
「シュリーの店」といえば、靴・傘・鞄の修理、合鍵の作成・・・と札幌市民から親しまれ重宝されているお店。昭和50年に札幌市が福祉都市宣言をして福祉政策を突き進めていた時期に、障害者が思い切り働ける職場をつくろうと、昭和51年に市と協議を重ね、市も出資して財団法人を設立。
札幌市の障害者に対する透徹した施策に支えられ、障害者で組織された全国でもユニークな事業所として出発した。
人々が物を大切に使っていた時代を背景に、スーパーやデパート、JR構内等、市民が常に立ち寄る場所に、一人を配置する店舗を次々と開店していった。
(3)障害者雇用の理念
「ハンディがある人を『力がない』としていたわるのは本当の福祉ではない。健常者と同様に働いて自分の収入で生活しようとする人たちの職場としたい。」との思いで運営されてきた。
(4)経営方針
障害者に大切なことは、障害を持っていることを意識しないこと。スポーツや遊び、そして一人の店員として健常者と同じ気持ちで取り組むことであり、この考えは経営方針にも反映されている。「シュリーの店」も競合する他の一般企業と同様に一事業所として経営がなされていかなければならないとの理念の下、新店舗を出すのにも立地条件などを慎重に考慮し、また、過当競争にも耐えうる技術の向上に努めてきた。
(5)組織構成
「シュリーの店」は札幌市中央区北8条西23丁目に本部を置き、スーパー、JR構内等人の集まるところに計16の店舗を出し、原則、各店舗において業務の全てを取り仕切るが、設備的技術的に困難な作業は本部に設置されている本部店舗に持ち込まれる。
従業員の採用は本部の大味所長が行い各店舗の配属も、店舗の状況、各人の技術の状況、一人ひとりの家庭の事情を考慮し本部が決定し、傘下店舗の調整を図る。
2. 障害者雇用の経緯・背景
財団設立は、国際障害者年(昭和56年)より5年も前の、まだ障害者が働いて家族を養うことが考えられていなかった時代に、障害者の雇用の場をつくり働く能力がありながら就職が難しい障害者の自立を目指して設立された。
札幌市の障害者に対する理解と著名な札幌市の施策を通しての支援の下、身体障害者授産施設の理事長を勤めた現澤村理事長を中心に鉄道弘済会グループや飲食店経営者の応援を受け、1号店を繁華街ススキノの松坂屋にオープンした。
平成20年1月現在全従業員37人のうち、重度12名を含む身体障害者34人と全従業員の9割強が障害を持って働いている。
3. 障害者の従事業務
仕事は、主に靴の修理と合鍵の製作。修理には靴のほかに鞄、ハンドバッグ、ベルト、傘などが持ち込まれる。合鍵は千種類ほど。二人、三人が詰める四店舗以外は、原則一人店舗。こうした店舗では、雪が降り出す頃には靴に滑り止めをつけるお客様でトイレにも行く暇がないほど混雑するときもある。
配属には従業員の能力や技術、なんと言っても従業員の家庭の事情を考慮して決めなければならず、大変難しい。スーパー等では、年中無休、二十四時間営業という最近の流れの中で、週四十時間、四週八休、半年で発生する年次有給休暇取得等と労働基準法を遵守しながら、自宅から勤務先までのルート、通勤方法、働く人同士の相性など、様々な条件を加味して勤務表を作成する。
4. 取り組みの内容
(1)障害者の自立支援を目標
最近の使い捨てが主流の時代に、修理という仕事の需要はますます減っていく傾向にあり、さらに修理の目玉商品であったハイヒールが流行しなくなり売り上げが激減している。長引く不況を背景に、「シュリーの店」の経営も困難を余儀なくされている。しかしながら一般企業と異なり障害者の自立支援を目標に掲げている以上、「リストラは絶対にできない。」と澤村理事長は言い切る。
(2)当面の課題

幸いなことにシュリーは仕入れ等の費用が少なくて済むため、仕事があり売り上げが伸びさえすれば経営が成り立つ。したがって当面の課題は新しい業種の開拓に取り組み売り上げの増強を図ることである。自転車の修理、内装の取次ぎ、乗馬靴やゴルフ場の傘修理、結婚式場の花嫁さんの貸し靴など可能な仕事の範囲を広げていこうとしているものの、次々と新しい構造の靴が出て、どうしたらよいか考えさせられることも多くなってきている。
店舗は従業員が一人で切り盛りするので接客、修理、レジと三役をこなさなければならず、充分な時間が取れないことがあり思うように新業種の開拓のための実施に踏み込めないでいるのが現状である。
(3)リピーターの確保
札幌市民に愛されているシュリーの店の〔売り〕は、なんと言ってもお客様との信頼関係である。「誠実に仕事をしてくれる」、「身近な市民の修理屋さん」と言ってくれるお客様の信頼は決して裏切れない。きれいな仕事をすれば必ずリピーターになってくれることを全従業員が実感しているので技術の向上にも余念がない。
この道35年の大ベテラン折館店長によれば、「壊れたものを補修するほうが作るより難しい。お客様は靴でもバッグでも気に入っているから直しに持ってくるわけですから信頼される仕事をすれば必ずリピーターになっていただける。また、初めてのお客様にリピーターになっていただくために、特に挨拶と笑顔の接客が大事です。」と言う。飛び切りの笑顔でお客様に接する折館店長の技術は折り紙つきで固定客の数は断トツに多い。次代の人たちに接客の心得と技術を伝えていきたいと願っている。

(4)教育訓練の実施
仕事上、脳性麻痺等の障害者や上肢障害者は採用しにくく、下肢障害者で組織されているが、採用後技術が身につく前に辞めてしまう人もいる。
不用になった靴や片方になった靴を集め新人に教育する。習得した技術を駆使し靴などの修理が完成し、お客様から、お金をいただいた上で「有り難う。」と言われるのが何よりの励みとなる。大事にしている靴の修理をどこへ行っても断られたのが、当店で苦心して細工し直したときにはお客様からデパートに感謝の手紙が届けられ、皆で喜んだエピソードは今でも語りつがれている。
(5)経費節減
バブル崩壊により消費低迷が続く中、平成13年には総売上の13パーセントを占めていたデパート店の廃業は深刻な事業の存続の危機に見舞われた。このときには不採算店舗の撤退、従業員の昇給ストップ、事務所スタッフの割愛、研修旅行の中止などを実施し、障害者の働く場所だけはなんとしても確保したい一心で札幌市への援助を強力にお願いした。
折りしも札幌市全体の財政も大変厳しい時期にあって、澤村理事長他関係者が市役所へ日参し窮状説明とお願いを続けた結果関係者の努力が実り、補助金の決定や、運転資金の貸付が受けられ急場を凌いだ。
(6)通勤対策、助成金、報奨金
下肢に重度の障害を持つ者が就業する上で最大の悩みは、通勤であり、通勤店舗における駐車場の確保は重要である。駐車禁止除外指定車標章を持っていても、極力会社が有料駐車場を契約し路上での駐車を避けるよう努めているが、駐車場料金の支払は経営に大きな負担となる。そこで重度障害者通勤対策助成金を利用しているが、これらの助成金は経営の大きなサポートとなっている。
また、障害を有するものに対する福利厚生には費用がかかることが多く報奨金を大いに活用している。
5. 取り組みの効果
営業成績が伸びず経営が厳しく困難なときに、関係各方面の方々の温かいご理解とご支援を頂いたが、その前提として全従業員が一致結束して働く姿を市民の皆様に見ていただいたことが事業の存続につながったのだと誰もが実感し、使い捨ての時代に決して負けない気概がそこに生まれた。
6. さいごに
昨今、障害者に対する理解が深まってきたとは言っても、現実には障害者の働く場はほんの一部でしかない。「生まれてこの方、あるいは生涯の一コマとして自分の体の一部に障害を持つことになろうかとは、誰もが想像しないことである。つまり、長じて社会人として暮らし向きを整えることは等しく人の望むところである。然るに、この願いは個人を超えて全ての人々の願いであり、皆で考えを出し合うべき大切な事柄である。」と澤村理事長は訴える。
障害者の自立を支援するため、企業が積極的に取り組まなければならない障害者の雇用という使命は、障害者を保護するための企業の義務としてではなく、人々が暮らしていく上での社会の本質的な義務であり、豊かな社会形成のための基盤に、むしろ「シュリーの店」は欠かすことができない存在なのではないかと再認識したところである。
執筆者 : 北海道行政事務代行社 理事長 畑澤 政博
アンケートのお願い
皆さまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、アンケートへのご協力をお願いします。
なお、事例掲載企業、執筆者等へのお問い合わせや、事例掲載企業の採用情報に関するご質問をいただいても回答できませんので、あらかじめご了承ください。
※アンケートページは、外部サービスとしてMicrosoft社提供のMicrosoft Formsを使用しております。