従業員全員が愛情をかけて指導・育成する
- 事業所名
- 有限会社花篭製綿
- 所在地
- 岩手県紫波郡
- 事業内容
- ふとん製造業、クリーニング業
- 従業員数
- 50名
- うち障害者数
- 8名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 1 クリーニング工場にてたたみ作業 内部障害 0 知的障害 7 クリーニング工場にて洗濯物の出し入れ、ふとん工場にてゴミほろい、ふとんの解体、ミシンがけ補助 精神障害 0 - 目次
1. 事業所の概要
(1)経営方針
この業を通して永遠の福祉に貢献したい
(2)障害者雇用の理念
従業員全員で愛情をかけながら、ともに働く
(3)その他
昭和41年に創業し、主に病院や旅館、学校などの寝具を製造していたが、寝具のクリーニングの需要が高まったことから、平成3年にふとん工場から車で約5分離れた場所にクリーニング工場を開業。
ふとん製造の取引先は以前は盛岡市が中心だったが、時代とともに宮城、福島と範囲を広げ、現在は東京からも受注している。東京の取引先は、旅館や学校の寮が多い。
一方クリーニング業は、病院やホテル関係などの業務用がほとんど。こちらも宮城、秋田、青森と県外の取引先が多い。時には人手が足りなくなるほど仕事量が多く、経営は安定している。
両方合わせた売上げも毎年順調に伸びている。
健常者の従業員は約8割が女性。昔はふとん製造というと特殊な技術が必要だったが、今は機械化が進んでいるので、最近若い従業員が増えている。
2. 障害者雇用の経緯・背景
(1)経緯
障害者を雇用したのは昭和51年。当時はふとん製造業のみだったが、ふとんの打ち返しが流行っていた時で人手が足りなかった。一方で、近くにあった福祉施設の「実習工場」として、3ヶ月間限定で知的障害者を実習させていたため、施設の方から「雇ってもらえないか」と言われ、正式に雇用することにした。
実習生を受け入れていた時から、障害者は仕事を覚えればまじめに働くこと、理解できない状態が続くとパニック状態になること、などがわかっていたので、社長も他の従業員たちも雇用への抵抗やとまどいはあまりなかったようだ。
当時は現在のグループホームのようなものがなかったので、自宅が遠い従業員を住み込みさせていたが、皆施設で教えられてきているので、自分の身の回りのことは自分でやり、問題はなかったという。
最盛期で10人以上雇用していた時期もあるが、病気などで辞めていき、ここ数年は現在の8人(20代~40代)にとどまっている。8人のうち、ふとん工場で働いているのが男性2人、あとの男性2人と女性4人はクリーニング工場で働いている。女性4人のうち1人は脳卒中で肢体不自由になった人で、それ以外は知的障害者だ。ほとんどが10年以上勤めているベテランで、もっとも長い人で15年間働いている。
途中で退社した障害者の中には、「ここで働いて社会生活に自信がついたので、他社で自分を試してみたい」と言ったり、同社で働きながら自動車の免許を取ることができたので「実家の近くで働きたい」と言うなど、「前向きな理由」で辞めていった人もいる。「そうした者たちの親御さんから本当に感謝されて、こちらも嬉しくなりました」と社長は話す。
また、年2回の親睦会には障害者も皆参加し、楽しんでいる。「喜んでカラオケもしている」とほほえむ社長。お酒も入っているので、ふだんよりも他の従業員との会話が弾んでいるようだという。
障害者の人たちは、プライベートなことは施設の職員に話したり相談しているようで、「そうした面で困った経験はない」とのこと。全般的に施設の職員たちのフォローは良いが、以前、雇用した障害者の持病に関する情報がこちらに伝わらず、大変だったことがあったとのこと。それはテンカンの持病のある人で、作業中に発作が起きて倒れ、たまたま通りかかった社長が発見して大事には至らなかった。「その頃は、そうした持病を話すと雇用してもらえない、という先入観があったのでしょうね」と社長は説明する。
(2)背景
ふとんの製造もクリーニングも単純作業が多いので、比較的働きやすい職場である。重度の障害がある場合は大変だが、それ以外は一度教えるとだいたい覚えられるような簡単な作業が少なくないので、今まで大きな問題が発生することもなかったという。
何より社長自身が、実習生受け入れの時から「障害者なのだから健常者とは違う。このくらいの間違いは仕方ない」と広い心で接し、それを他の従業員にしっかり伝えていることが、長期雇用につながっている。
(3)その他
昔も今も、施設に入所している人の実家の多くは、施設から遠い市町村にあるという。そのため、同社で働いている障害者もグループホームから通ったり住み込みの人がほとんどである。「障害者の職場というものは社会であまり知られていない。まず家族たちが、自分の目で見て知り、理解することが必要ではないか」と花篭社長。社長は障害者自身の了解をとって、給料の一部を本人名義で貯金しているという。そうして退社して実家に戻る時にそれを持たせてやると、家族が喜んでお礼の電話をしてくる。「障害者もきちんと働けば、報酬が得られる場所があることを知ってほしい」と社長は訴える。
3. 取り組みの内容
(1)具体的な内容
一人に一つの仕事を担当させている。仕事そのものは難しくないので、だいたい一度教えると覚えるという。覚えた仕事はまじめに丁寧にこなすので、逆に仕事を途中で変えることはしない。
作業中にちょっとした間違いをすることはあるが、怒られるとパニック状態になる人もいるので、できるだけ怒らないようにしている。指導したり注意する時も褒めながら行う。同社では女性の従業員がほとんどなので、注意の仕方が優しいせいか、大きなトラブルはほとんどない。また、責任のある仕事は担当させていないので、たとえ間違ってもおおらかな心で接するよう、社長が従業員に徹底させている。
障害者の半分は女性で、おとなしい性格のせいか、職場で障害者同士のトラブルはほとんどない。ふとん工場では男性2人なのだが、別棟の「掛けふとん工場」と「敷きふとん工場」に分かれて配置されているので、接する機会が少ないとあって、やはりトラブルはない。この配置について社長は無意識のようだが、社長の奥さんは意識されている。
(2)活用した制度や助成金
ふとん製造に使うキルティングミシンを購入。障害者の従業員をグループホームから職場まで送り迎えするための車を購入。
(3)その他
比較的障害者を雇用しやすい業種とはいえ、20年以上も同社が雇用し続けることができた背景として、常時実習生を受け入れているという事実は大きい。それは雇用する側はもちろん、雇用される側の障害者にとってもプラスに働いている。
4. 取り組みの効果、障害者雇用のメリット
(1)取り組みを実施したことによる効果
一人一人がまじめに自分の仕事を間違いなくこなしてくれている。「時間を守るし、ムダ話もないので、健常者よりもよく働いてくれていると思う」と花篭社長。
(2)障害者雇用の波及効果やメリット
まじめに働く姿勢は、従業員全体の模範となっている。また、女性従業員が多い中で、ふとん工場で働く男性は若く身体も大きいので、「力仕事などもこなしてくれるので助かっています」と同僚の女性従業員は話す。
(3)障害者自身のコメント
ふとん工場で出来上がったふとんから綿くずなどをコンプレッサーで吸い取る「ゴミほろい」を担当している男性。入社は昨年秋であるものの、その前に実習生として働いていたので、「仕事は慣れました」と話していた。
(4)その他
仕事は単純作業で、他の従業員も黙々と働いているので会話をする必要がなく、知的障害者にとっては働きやすい職場であると感じた。
5. 今後の課題・展望
社長曰く、「ふとん製造もクリーニングも採算がとれる業種ではなく、最近は油の値上がりで経費がかかって大変」。だが仕事そのものは多いので、見通しは悪くなさそうだ。ただ、どちらの工場でも常勤の人手は足りているので、今後欠員が出ない限り、障害者の雇用はこれ以上増やす予定はないという。
執筆者 : フリーライター 赤坂 環
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