働きやすい職場環境整備が業務拡大をもたらした実践~制度活用により実現した作業工程の明瞭化、単純化~
- 事業所名
- 有限会社ニューホワイトクリーニング
- 所在地
- 宮城県白石市
- 事業内容
- クリーニング業
- 従業員数
- 48名
- うち障害者数
- 11名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 10 洗濯補助作業、シーツロール挿入作業 精神障害 1 浴衣機械操作及び挿入作業 - 目次

1. 事業所の概要
ニューホワイトクリーニングは、昭和47年、ホームクリーニングを主体とする洗濯業として宮城県南部、白石市に創業した。その後、昭和55年にリネン類クリーニングを主業務とする専属委託業者となり、やがて、業務拡大により、昭和60年と平成18年に工場を増設した。現在は、ホテル・旅館のリネン類クリーニング、業務用ユニホームクリーニング、一般用ドライクリーニングを業務としている。
限りある自然を大切にという基本理念をもとに、地域に根ざした企業を目指して、顧客が快適に健やかに生活できるお手伝いをするというのが会社の経営理念である。そこで、環境や製品に優しい洗剤を使用し、清潔で何度でも安心して利用できる製品を提供し、顧客の満足が得られるように常に努めている。
現在の従業員数48名のうちの11名が障害のある従業員であり、重度知的障害者7名、知的障害者3名、精神障害者1名が業務に従事している。性別では男性6名、女性5名である。
2. 障害者雇用の経緯・背景
(1)知的障害者雇用に取り組んだきっかけ
平成6年、地元中学校の特殊学級担任の先生の熱心な勧めもあって、職場実習を経て特殊学級を卒業した女子生徒の雇用に踏み切った。翌年には男子生徒、翌々年には女子生徒というように、3年連続で知的障害者雇用に取り組んだ。当初は経営者も現場の従業員も、初めて接する障害のある従業員にどう関わったらよいのか、作業内容や手順の説明をどう進めたら良いのかなど、戸惑い、混乱し、苦労の連続だった。3人の従業員は、それぞれ、得意なことも苦手なこともある。仕事を覚えるまでには、苦労の連続で、悩んだことも多かったが、現在は3人ともなくてはならない貴重な戦力である。
(2)さらに重度知的障害者雇用に取り組んだ経緯
平成16年に、商工会議所による募集に応じて初めて重度知的障害のある従業員を採用した。職業実習終了後も大きな不安が残ったが、障害者就業・生活支援センター職員の熱心な勧めによって採用に踏み切った。初めの頃は、会社に無事に来ることができるのか心配する毎日が続いた。「駅で泣いていたり」、「通勤途中で泣いていたり」、「会社に来ても度々、頭が痛いと訴えた」、「頭が痛いなら帰ってよい」というと、途端に元気になる。戸惑い、どう対応してよいのか悩みながらも、本人の意思を尊重して取り組む毎日が続いた。仕事に慣れるまでには、とても長い期間を要したが、現在は、しっかり仕事をこなしている。
通勤途中の不安を解消するために、翌年、重度障害者等通勤対策助成金により、通勤用バスを購入し、運転従事者を委嘱した。その後、自宅と会社間の送迎と運転従事者との毎日の会話などによって、会社を休むこともなくなった。
現在、障害のある11名の従業員のうちの8名が通勤用バスを利用している。自宅まで迎えに行く場合、通りの決まった場所で待ち合わせる場合、駅で待ち合わせる場合など、一人ひとりの特性に応じた利用である。
3. 取り組みの内容
(1)働きやすい職場環境整備の重要性
その後、平成18年8月に第1種作業施設設置等助成金を活用して第三工場を増設、同時に第2種作業施設設置等助成金によって、バックシステム、シーツフォルダー、スタッカーが導入され、作業能率の向上、作業負担の減少、安心して働ける環境の整備が実現した。バックシステムは、連続洗濯機に入れる洗濯物を前もって種類ごとに仕分けて袋に入れておくためのシステムであり、このシステムの導入によって、28回分の計量した洗濯物をバックに入れてストックしておくことができるようになった。3ヶ所の計量する場所では、規定量の洗濯物がバックに入ると、モニターに大きな×印が示されるので、それ以上洗濯物を入れてはいけない。そして、適量の洗濯物で満たされたバックが移動し、その替わりに空のバックがくる。新規採用の知的障害のある従業員者にとっても業務の内容がわかりやすく、時間に追われずに作業ができる。第三工場では、職業コンサルタントが中心になって、障害のない男性従業員3名と知的障害のある4名の男性従業員が業務をこなしている。また、スタッカー付きシーツフォルダーによって、キングサイズシーツも高速かつ丁寧に折りたたむことや、薄いものから厚いものまで幅広く対応できるようになり、障害のある従業員にとって取り組むことのできる仕事が確保できた。


(2)一人ひとりの障害のある従業員との関わり
知的障害のある従業員に仕事を覚えてもらうのは容易なことではない。毎日、同じ注意や指示を繰り返さなければならない。個人差はあるが、数や抽象概念の理解が苦手であるという特性を理解したうえで、一つひとつのことをあせらず、根気強く教えて、覚えてもらう。そのような繰り返しによって、現在はそれぞれ、次に何を行うべきかが判断できるようになってきている。
障害者雇用に関してモットーとしている山本五十六の言葉がある。「やってみせて、言って聞かせて、やらせてみて、ほめてやらねば、人は動かず」。一つひとつの作業工程について、言うだけではなく、実際に行動で示して、その結果、うまくできた時には褒めて、次の行動への意欲につなげるという好循環を繰り返すことが知的障害者雇用にとってとても大事なことである。いわゆる、「のんき、根気、元気、やる気」をもとに、一つひとつの過程について、緩やかな階段を一段一段、じっくり、時間をかけて昇るように取り組んで、成長していくのだ。一人ひとりの状況、特性、個性によって支援の仕方は異なるので、地域障害者職業センターのジョブコーチの支援も大切だ。障害のある本人を中心に多くの人々が関わっている。
常務は、どのような障害があっても、大きな可能性があるという。その可能性に周りがじっくりと時間をかけて、本人や家族が気づかないでいる潜在的な能力を発掘することが重要である。長い目で、焦らず、ゆっくりと、一人ひとりの個性に合った仕事のスタイルを見つけて、指導するのである。「障害があっても、皆とても素直な従業員である」、「いつまでもいてもらわなくちゃ」、とても実感のこもった言葉である。
各従業員が障害のある従業員に愛情をこめて接し、あきらめずに関わってきたことが現在のよい職場環境づくりにつながっている、と常務は話してくれた。
(3)家庭的な雰囲気を大事にする職場
従業員の生活環境も様々である。グループホームを利用している人もいるし、家族と同居している人もいる。会社では、家庭的な雰囲気の中で、一人ひとりに気配りをしながら充実した就労の継続を図っている。そのようなことから、持参する弁当の中身にも気を配っているが、栄養価や内容などを見て、家族と十分に話し合うこともある。
従業員の多くは近所の主婦である。従業員の障害理解も浸透し、わけ隔てなく、お昼の時間や休憩時間には一緒に和やかに過ごしている。彼女たちにとっても、自分の子どものように思えるのか、家族的な雰囲気がある。
(4)障害者雇用のメリット
ホテルや旅館のリネン類クリーニングが業務の中で大きく占めていることもあり、8月や正月などでホテルが忙しくなるシーズンは、仕事もとても忙しくなる。とくにお盆や正月などの業務繁多の時期には従業員の主婦としての役割も忙しくなり、休みを取る従業員も多くなる。そのようなときに頼りになるのは障害のある従業員であり、とても大事な働き手である。需要に応える安定した業務の遂行体制を整えるためには、障害のある従業員の配置が大きな企業メリットになっている。
多くの工場が人件費の安いアジアの国々に移転する中、クリーニング業務は毎日の需要に応える必要がある。時期による需要の変動があっても毎日安定した業務を行わなければならない。
4. まとめと今後の課題
障害者基本法(2004年改正)によると、「障害者とは、身体障害、知的障害又は精神障害があるため、継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう」と定義されている。ハード面やソフト面での就労の場における環境整備を行うことによって、様々な「継続的な」、「相当の」制限をできるだけ少なくすることができれば、安心して安全に、自信と意欲に基づく自己効力感とともに、生きがいをもって継続的な就労が可能になる。
ニューホワイトクリーニングでは、平成6年から知的障害者の雇用に取り組んできたが、平成16年に初めて障害者雇用に関する助成制度を活用した。諸制度の活用によって、作業工程が明瞭・単純化し、従業員の身体的負担も少なくなり、働きやすい環境が整備されたことによって、重度知的障害のある従業員にとっても「取り組める作業」、「できる仕事」が生まれた。ハード面での整備である。
加えて、ソフト面では、障害のある一人ひとりの違いと特性を経営者のみならず、他の従業員もしっかりと理解して、個別的な関わりに配慮していることが評価される。地域の特性を背景に家族的な雰囲気を大切にしている。
苦労を重ねて、一つひとつの取り組みに時間をかけてきた結果、現在は、障害者就労も順調に機能し始めている。第三工場の増設と機械設備の設置により、仕事の効率もはるかに向上し、こなせる仕事の量も1.5倍になってきている。そして、現在の取引先は120事業所にも及んでいる。
障害があると仕事を覚えるまでに長い年月を要する。現在、障害のある従業員は年齢も若いが、やがて、高齢化も大きな問題になると考えられる。新工場の増設と機械設備の設置により仕事の内容もわかりやすく、単純化し、力仕事も少なくなって、負担が軽減し、これからも安心して、いつまでも就労の継続が期待される。
もっと前にこれらの制度を理解して、活用しておけばよかったという常務の実感をこめた言葉が印象に残る。
執筆者 : 東北福祉大学 総合福祉学部 教授 阿部 一彦
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