事業所名

医療法人仁政会杉山病院

所在地

秋田県潟上市

事業内容

医療業（内科、精神科、神経科、介護老人保健施設・グループホームの運営）

従業員数

242名

うち障害者数

7名

 

障害	人数	従事業務
視覚障害	2	事務、リハビリ助手
聴覚障害	0
肢体不自由	3	准看護師、リハビリ助手、看護補助
内部障害	0
知的障害	2	看護介護補助、清掃
精神障害	0

目次

1. 事業所の概要
2. 取り組みの経緯・背景
3. 取り組みの課題・内容
4. 取り組みの効果

事業所外観

1. 事業所の概要

昭和51年9月、秋田市に隣接する現在地に杉山病院として、内科7床に精神科、神経科を併設して開設し、昭和55年4月に医療法人仁政会として法人に改組した。開設以来、病棟の増床を行い、当地域の一般医療、疾病予防、健康増進の役割を一手に担っている。

さらに、隣接する井川町には、介護老人保健施設「翠香苑」、「ケアプランセンター杉山」等を開設、秋田市には障害者の社会参加を援助するための杉山病院グループホーム「杉翠荘」を平成15年12月にオープンさせ、医療と福祉の更なる充実に努めている。

2. 取り組みの経緯・背景

身体障害者の雇用と中途障害者の雇用継続について、当院では積極的に対応してきたが、知的障害者については、これまで雇用の経験がなかった。養護学校からの依頼があったことから、雇用前に、知的障害者の障害特性や、作業の適応力・持続力を見極める必要があり、養護学校3年時に3回にわたり職場実習として受け入れた。受け入れにあたっては、雇用ということも視野に入れてタオルたたみと清掃作業に取り組ませることとした。職場実習を行っている中で、指導担当者や周囲の従業員から基本的な労働習慣や作業に取り組む姿勢等に問題が提起されていた。

卒業を目前に控えハローワークや在籍養護学校から雇用についての打診があったが、職場実習で諸問題を抱えていたことと、自閉症を抱えた知的障害者を1日を通して作業に従事させるといった経験がなかったため、当院としても躊躇していた。

そのことから、周囲の従業員の理解を得ながら働くことによって障害者の成長を促すという「就業体験支援事業」を活用し、問題の解決を図りながら雇用の可能性を見極めて行くこととし、6カ月の事業終了後、問題点の解決が図られたため、職場の業務遂行援助者を選任した上で正式に採用した。

採用後2年経過した頃、作業態度や対人態度が崩れ、作業能力の低下が顕著に見られたため、養護学校の進路指導主事や障害者職業センターと相談し、ジョブコーチ支援制度を活用して、職場定着を図ることとした。

タオルのたたみ作業

清掃業務

3. 取り組みの課題・内容

患者が見ているテレビの音量やチャンネルを勝手に替えるなど、周りに配慮しない行動や、タオルたたみや清掃作業でもスピードを上げて早くたたんだり綺麗に清掃しようとする意識が無いこと、注意されると大声で泣いたり、談話室にこもったりすることがあり、そうした態度の改善を図る必要があった。

そのため、基本的な労働習慣を再構築し、作業に取り組む姿勢や対人態度の改善を図り、定着を目指すことにした。

まず、タオルたたみと院内清掃（手すり、洗面所、会議室のモップ掛け等）の作業遂行能力が、健常者の半分以下となったため、一定のレベルまでの向上を目指した。タオルたたみについては、ジョブコーチが作業状況を観察し、無駄な動きを除いたり、作業目標を明確に提示していく中で、タオルの枚数の多い木曜日以外は定刻に終了できるようになってきた。「タオルたたみ報告書」を用いて作業量を記録させ、職員に報告することにより目標の達成度合いを評価してもらうことで、周囲との関わりを持つ時間を作り、職場の作業態度の向上を図った。

清掃作業については、単独作業になるため、1日の流れの確認、仕上がり時間を意識化させるため「日課表」や「作業チェック表」を作成し、職員にも障害者の動きや仕事の成果を把握してもらい、安定した作業となるよう指導した。

支援期間中に数回、関係者で会議を持ち、良い作業状態の維持のための相談を重ねた。職場の業務遂行援助者やスタッフに対してジョブコーチから、作業意欲と能力の向上を図るためには、分かりやすい言葉がけが必要であることの助言を得た。

業務遂行援助者やスタッフの指導や注意に対して、大声で泣いたり、談話室にこもったり、注意されたことに腹を立てて病棟の椅子を投げつけて壊すなど情緒不安定な面や、“でも”や“できない”など否定的な言葉を連発するなど、指示・指導に対して否定する態度に対しては、支援期間中にジョブコーチから職場で望ましい態度を噛み砕いて教えてもらいながら、できている部分をきちんと評価してもらうことで精神的安定を図ることとした。時々姿が見えなくなる時があることから、職場放棄をなくし作業への集中が図れるよう指導した。

4. 取り組みの効果

ジョブコーチの支援を受けて、「タオルたたみ報告書」、「作業チェック表」、「日課表」をつくり、タオルたたみの具体的な数値目標を設定した。

最初は嫌な表情をしていたが、達成する喜びを得られるよう、職場のスタッフの言葉掛けと目標を達成したときに誉めることをルール化することによって、リラックスした中にも作業はスムーズにできるようになり、数値目標、時間目標ともに改善された。

また、職場の様々な影響により定刻に作業が始められないことに対しても、自分がそれに合わせて行動しなければならないという気持ちが持てるようになった。時折、たたむ量にバラツキが見られるが、ジョブコーチの支援や、職場内での言葉かけにより、以前のような大きな崩れには至らず改善が図られている。

清掃については、当初は同じところを何度も拭いたり、力を入れないで拭くなど雑な作業が見られたが、できていないことについては、はっきりと言葉で説明し手順を示すことによって理解が得られ改善されている。

特に、定着してほしい良い部分については、少々大げさな誉め言葉が効果的であることをスタッフが理解したことで、障害者と躊躇無く関わりが持てるようになった。辞めさせられるかも知れないと思って情緒不安定になっていた本人に対して、ジョブコーチが支援開始時に「素直な態度をとれば問題ないよ」と、働きかけたことなどで、徐々に落ち着きを取り戻し、表情も豊かになった。その結果、大声で泣いたり談話室にこもるといった大きな感情の波は見られなくなった。

当初、自閉症という障害の特性から、型どおりの対応になったり、予測できない指示に対し指導を拒否したり、注意を自分への否定ととってしまうことによるパニックなどが随所に見られた。ジョブコーチ支援事業を通して、業務遂行援助者だけでなく、スタッフ全員がジョブコーチと本人とのやり取りを見ながら障害の特性を理解し、障害者への言葉のかけ方が定着したことによって、職場の雰囲気も自然になり、障害者自身の緊張もほぐれて行き、安定した就労状態が維持できている。

執筆者  ：  社団法人秋田県雇用開発協会  障害者業務課長  池田  徹