病院内清掃業務における就労の取り組みと関係機関の支援
- 事業所名
- ワタキューセイモア株式会社東北支店吉川記念病院作業所
- 所在地
- 山形県長井市
- 事業内容
- 病院内清掃業務の受託
- 従業員数
- 8名
- うち障害者数
- 4名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 1 清掃業務 知的障害 1 清掃業務 精神障害 2 清掃業務 - 目次

1. はじめに
今回紹介する事例は、ワタキューセイモア株式会社という全国ネットの企業が、企業、派遣先、救護施設、サポート組織等、複数の関係機関の支援を得ながら、障害者を雇用する事業所が少ない地域に、障害者が働ける新規の職域開発に成功した例である。
ワタキューセイモア株式会社は、日本最大規模を誇る病院・福祉施設向けリネンサプライ事業を中心に、医療・福祉・健康関連のさまざまなニーズに事業展開をしているヘルスケア複合事業体である。本社は京都府にあり、全国に支店・支社は8箇所、営業所は27箇所、工場は38箇所、従業員数は5,488名(平成18年6月現在)、グループ全体では55,000名が働いているという全国規模の会社である。創業は明治5年、製綿業から事業を開始し会社設立は昭和37年、平成12年には東京支店にてISO9002を、平成17年にはISO品質マネジメントシステム(ISO9001:2000)を全社で認証取得している。
本事例で障害者雇用の契機となったのは平成18年11月に山形県長井市に「医療法人杏山会吉川記念病院」が新規開院したことであった。その院内清掃業務に障害者を雇用するため、病院(吉川記念病院)、企業(ワタキューセイモア株式会社)、救護施設(山形県立泉荘)、障害者就業・生活支援センター(サポートセンターおきたま)の4つの組織が連携・協力して、グループ就労的な雇用形態を作り上げた経過及び現状報告である。
2. 地域の障害者雇用の現状と事業所・関係機関の概要
(1)地域の現状
長井市は山形県の南西部に位置し、人口約30,600人(H18・10)、事業所数約1,900社(同)の地方都市である。事業所は小規模、零細規模が多く障害者雇用事業所は少ない。更に法定雇用率を満たしている事業所は10社に満たない程度の地域である。
(2)事業所の概要
社是を「 心 」としているワタキューグループ基本方針は次のとおり。
私達は創業時の原点に還り、
・お客様には仕事をさせて頂いている
・会社のみなさん方はお互いに働いて頂いている
・仕入先には売って頂いている
・外注、配送その他関連先には仕事をして頂いている
という感謝の気持ちと謙虚な姿勢で何事にも接する社風を醸成すると共に、誰もが思いやりの心を持ち、互いに協力し、人に誇れる立派な会社に勤めて良かったと思えるグループにする。
以上を礎としてワタキューグループの強固な石垣を構築するため社是を「心」とする。
山形県内では県立中央病院、新庄病院等の業務受託を行っている。現在は東北支店(東北6県)管轄のデータではあるが、従業員607名中障害者は10名雇用している。
(3)業務を委託した病院の概要
吉川記念病院は、平成18年11月に小規模な医院から病院として開院した。診療科目は精神科・神経内科・内科・小児科であり、①優しい医療、優しい看護、優しい介護が地域の患者さんの自立を支援します②病院に関わる全ての人に優しい病院であること③吉川医院として築いた、地域に根ざしたホームドクターの機能を備えた病院であることを理念としてスタートしている。院長の吉川順先生は救護施設・県立泉荘の嘱託医でもあり、特に地域の知的・精神障害者の自立支援に長年尽力してこられた方である。
(4)支援を実施した救護施設の概要
山形県立泉荘は、同じく長井市内にあり、身体上または精神上著しく障害があるために一人の力では日常生活を送ることが困難な方々に対し、潤いのある生活と自立のための援助を提供する入所利用型の救護施設である。施設内での処遇の他、共同生活援助事業(グループホーム)や障害者委託訓練事業(調理サービス科)も実施している。
(5)支援を実施した置賜障害者就業・生活支援センターの概要
就職や職場への定着にあたって、就業面の支援と合わせ生活面における支援を必要とする障害者のために、雇用、保健福祉、教育等の関係機関との連携拠点として存在するのが生活支援センターである。連絡調整を積極的に行い、就業およびこれに伴う日常生活、社会生活上の相談・支援を一体的に行っている。さらに支援を必要とする障害者にはセンター窓口での相談や職場・家庭訪問等も実施している。
3. 障害者雇用に向けての地域機関の支援
事業所にとって手がかりも足がかりも無い地方都市で、業務受託の条件である障害者雇用をスムーズに行うために各機関の支援を利用した。
そもそも、最初に病院内で障害者の雇用の場を作り出そうと考えたのは受託先の院長である吉川順先生であった。吉川院長は障害者を雇用する企業が少なく、雇用される機会も少ない長井地区で知的・精神障害者を自分の病院の清掃業務に就かせることが出来ないかを検討され、病院内清掃作業の経験がある企業に委託する方がスムーズとの結論を出された。この結論に至るまでに何度となく障害者の入居先である泉荘、障害者の生活面を支援する置賜障害者就業・生活支援センターとも議論をくり返されている。この考えを、院内の清掃業務の受託を希望した事業所に院長自ら提示され、障害者の雇用が委託の絶対条件とされた。事業所もグループの基本方針(誰もが思いやりの気持ちを持ち、大切にしたいのは心の出会いです)と言う社是とも合致することなので大いに賛同し、障害者雇用を進めていくこととなった。実際に雇用を開始したのは平成18年12月からであったが、数ヶ月前より事業所・泉荘・就業・生活支援センターで打ち合わせを重ねた。障害者の雇用ということで不安の部分もあり応募候補者の障害種別ごとに特性を説明した。更に面接者数名から実際に就業現場を目で見て理解したいという希望もあり事業所スタッフが職場を案内した。また面接をする際は「まずご本人と話をして本人を知って欲しい」との強い希望から、障害者の就職推進に対する関係組織の並々ならぬ意志を感じさせていただいた。生活支援センターの方からの「『障害者』としての枠でその方を見るのではなく、あくまでも一緒に仕事をしていく『パートナー』として接していただきたい」との言葉が現在も日々の色々な場面で浮かんできます。
4. 業務内容及び雇用形態
吉川記念病院の作業所で雇用しているのは、身体障害者1名・知的障害者1名・精神障害者2名の計4名である。なかなか就職が出来なかった方々で、ハローワークへの求職登録は勿論、山形障害者職業センターのカウンセラー・ジョブコーチの支援を利用していた方もおられた。事業所(吉川記念病院の作業所)は県立泉荘の外勤作業訓練施設としての側面も持っているため、雇用した4名のほかに泉荘利用者2~3名のメンバーが1日2名ずつ交代でシフトを組み訓練の清掃業務を行っている。勤務日は月曜~土曜、勤務時間は午前10時~午後3時(休憩は12時~1時)、となっており実際に業務に入る際は事業所の現場スタッフとペアを組んで行っている。主な清掃箇所は床・浴室・トイレ・洗面台であり、ダスターやモップ、タオル等を使っての作業であるが、使用器具も場所によって使い分ける必要がある。当然座って出来る仕事ではないので勤務時間中は立って動きっぱなしとなり、なかなかの重労働である。最初の頃、作業に慣れるまでは皆疲れるという声が多かったが、スタッフの的確な指示により徐々に作業のコツも覚え、動きもスムーズになってきていると現場班長も軌道に乗りつつある仲間の作業状況を喜んでいる。東北支店担当主任もスタート時点では、現場班長をはじめスタッフが障害者に仕事をさせることが先行してしまい、品質的観念(清掃場所の清掃の完成度)が落ちはしないかと心配し作業内容を厳しい眼差しで廊下、トイレ等の清掃し残しの部分が無いかどうかを確認していたが、今は問題なく遂行されている。



5. 職場内の様子
現場班長さんに初めて障害者を同僚・部下として仕事をされてご苦労された話を伺った。4名の作業状況については、「仕事についてはほぼしっかりやってもらっています。清掃業務のマニュアル通りにできてはいますが、人によっては時間がかかる場合もあるので、ペアを組んだスタッフと協力しながら行っています。中には、やはり体調不良で時折休んでしまう方もいますが、シフトの関係上他スタッフに負担がかからないよう連絡はしっかりするようにしてもらっています。余談ですが、先日私が風邪で休んでしまった時に、逆に彼らの方から「『大丈夫ですか?』との様子伺いの連絡を頂いてしまいました(笑)。」と職場内での一体感、信頼感等、連帯感が出てきたことを強調されていた。
今まで障害のある方と一緒に働いた経験が全く無く、当初は不安な点も多くあったとのことだが、実際に付き合ってみるとなんら違和感は無いという。あくまでも「同僚」「その人らしさ」として捉えており、昼食休憩時間の世間話も弾んでいる様子である。「何か大変なことは無いですか?」という視点で話を伺いに行った自分が反省してしまった次第である。
ただし、班長としての厳しさで全体的なスタッフの統括も行っており、彼らに対する目配りや何気ない会話の中で体調を聞いたりもしているということであった。また現場だけで判断するのが困難な場合には担当主任に報告・相談し解決を図っていると言うことであった。
今回雇用された障害者の定着支援のため泉荘・生活支援センター等が適宜事業所を訪問し、作業実態の把握については定期的に事業所の担当主任、現場班長等々と意見交換の場を設けさせていただいている。
6. その他
(1)吉川院長のコメント
吉川先生も、現在の雇用状況については一定の効果があったと感じておられるようである。週に2~3日、1人あたりについては短時間の就労ではあるが、実際にシフトに入り規則性を持った日々を送ることにより生活のベースが確立される、また事業所に雇用され清掃業務を行うことに加えて現場のスタッフとはもちろん、病院のスタッフとの交流も生まれ、あいさつ等の小さなコミュニケーションではあるが自然な交流を行うことも双方にとって大きな意義がある。なにより、皆に楽しんで仕事に来てもらうことが一番大切だとの心強いエールもいただいた。
(2)今後について
まだようやく1年を経過しようとしている時期で、これからもいろいろの問題が出て来るものと思われる。しかし障害者雇用の本当に少ない地域なので4つの機関がこれからも力を合わせて協力し、ようやく芽を出した障害者の職場がワタキューセイモア株式会社という大きな企業を中核にして大きな実がなるよう育ってくれればと願っている。
執筆者 : 社会福祉法人山形県社会福祉事業団・置賜障害者就業・生活支援センター
就業・生活支援ワーカー 白岩 守
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