職場定着に有効に作用する人間関係面での配慮と助成金の活用~アビリンピック山形優秀賞受賞者の就職~
- 事業所名
- 本間物産株式会社
- 所在地
- 山形県飽海郡
- 事業内容
- 食料品(生鮮食品・酒類他)を主体に県内外に(22店舗)ディスカウントショップを展開している
- 従業員数
- 642名
- うち障害者数
- 1名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 1 22店舗の商品管理(台帳)業務 内部障害 0 知的障害 0 精神障害 0 - 目次
1. 事業所の概要
(1)事業所の歴史
本間物産株式会社は昭和38年に設立された。
もともとは農機具・肥料・農薬等を扱う商社であったが、農業そのものの縮小に伴う農業機器市場の縮小や同業者の台頭があったため、農機具取扱いを切り放して別会社として、本社は小売業に力をいれることになった。幾多の経済的変遷を経て昭和56年に「酒田マルホン」(マルホン第1号店)がオープンした。平成2年、経営不振のため会社更生法の更生手続開始の申し立てを行い、平成5年、株式会社カウボーイ傘下に入ったが、企業名はネームバリューのある本間物産株式会社を継承した。(株)カウボーイの代表取締役が管財人代理に就任し、新業態の生鮮産品、一般食品、酒類のディスカウント販売を行うマルホンカウボーイ店舗に業態変更し、リニュアルオープンすることとなった。その第1号店である「マルホンカウボーイ酒田店」がオープンし、その後も山形県内を中心に秋田、新潟、岩手、宮城の各県に店舗をオープンした。さらに回転寿司店、小型店なども手掛けている。平成7年には更生計画の認可が決定された。
(2)事業の内容など
本間物産株式会社の経営理念は「より良いものを、より安く」である。
現在マルホンカウボーイは22店舗である。また小型店であるマルホンマートも酒田市内に3店舗ある。都市部よりも郊外のほうが多く、客層は高齢者が多い。高齢者が多いため、品揃えは新製品よりも定番商品を中心としている。また、地場の商品を中心に品揃えをしていることも、マルホンカウボーイの特徴といえるであろう。
従業員は650名弱であり、そのうち正社員は2割強である。パート社員が多いのは小売業ならではであろう。例えばマルホンカウボーイ酒田店では、従業員40名のうち正社員が8名、残りはパートタイムの従業員である。平均年齢は37.7歳ぐらいで、定年退職者はまだ出ていないという、若い企業である(会社更生法適用以降)。ただ、近年の不景気の影響もあって、新規卒業者の採用は17年間行われていない。
2. 障害者雇用の現状
(1)障害者雇用の経験
本間物産(株)では、以前3~4名の身体障害者が採用され、店舗のバックヤードで働いていたが、人間関係がうまくいかないなどの理由で辞めていった。今は店舗で働いている障害者はいない。そのときの経験から、本間物産(株)では障害者の店舗での雇用は難しいという印象をもっている。
その後しばらくは障害者の雇用はなく、雇用率もゼロという状態であった。障害者雇用状況の改善については管轄のハローワークからも指導を受けていたこともあり、会社としても障害者の雇用については前向きに検討を続けてきた。
平成18年、本社で新しい部署を立ち上げたのを機に、事務で新しい人を採用する必要が生じた。店舗での障害者雇用は難しいが、本社の事務部門なら採用できるのではないかということでハローワークに紹介を依頼していた。そんな時期に障害者雇用の啓発業務で当時の山形県障害者雇用促進協会(現山形県高齢・障害者雇用支援協会)のアドバイザーが同社を訪問し、障害者を募集している話を聞き、地区在住のアビリンピック山形大会のパソコン部門優秀賞を受けた経歴があるAさん(女性)の情報を提供した。会ってみたいとの人事課長の感触を受け、ハローワークと連絡を取り、対応を依頼した。採用試験時にハローワークの紹介で試験を受けにきたのは3人であった。3人について試験(面接)をした結果、人柄、能力ともに会社が求めている人材像に最も合致している人を採用することになった。それがAさんである。
Aさんは即戦力として期待できる人物であった。Aさんが採用内定されたのは平成18年9月のことである。
(2)Aさんのこと
Aさんは病気のため、以前の仕事を辞めざるをえなくなった。現在は移動には車いすを使用しており、視力にも障害が生じている状態である。障害の程度は2級と認定されている。
療養後、しばらくは仕事をしていなかったが、5年ぐらい前から酒田市内のパソコン教室に通うようになった。このパソコン教室は、障害者のためのパソコン教室を開催したり、障害者が働いていたり、障害者の雇用支援に力を入れている。ここでパソコン技能を身につけ、アビリンピックにも参加し、これまで数回パソコン関連部門で優秀な成績を収めている。また、ハローワークで求職手続きを行っていた。働く際の希望は、通院への配慮が得られること、半日勤務であることなどを挙げていた。
3. 職場環境整備の取り組み内容
(1)就労環境の整備
本間物産(株)はそれまで車いすを使用する社員はいなかった。そのため、Aさんを採用するにあたっては物理的な環境を整備する必要があった。協会のアドバイザーが車いすのAさんに関する情報を提供した際に人事課長が心配された事がトイレとスロープの件であったという。
まず、入口には大きな段差があるのだが、そこにスロープを設置して、車いすでも入れるようにしたい。社内の小さな段差もスロープを設置するなどして解消したい。会社内部の通路は元から車いすが通るのに十分な幅があるが、トイレは通常のものしかないので車いす使用者が利用できるように改造したい。そしてそれを助成金を活用してすぐにでも実施したいと協会に申し出た。
これらの改造の進捗がAさんの採用時期と密接に関わることから、協会からの指導で、急いで工事業者と打ち合わせをし、助成金の認定申請書を提出し、Aさんの採用・勤務開始期日が11月13日と決められた。



(2)労働時間の配慮
Aさんの労働時間は現在、午前8時半から15時半である。就労を開始した当初は、Aさんにとっても久しぶりの仕事ということもあって、8時半から12時半という短い時間に設定がされていた。人事課長もAさんの様子が分からず協会にも相談したそうである。アドバイザーからもAさんと課長がよく話し合って決めていただきたいと言うことで、人事課長は充分にAさんに配慮をしてAさんの意見を入れられたそうである。なかなか企業の中では個人の意見の尊重は難しい事であるが、配慮していただける事業所に雇用されたAさんは大変感謝をしていた。労働時間を延長するという時期については取り決めはなされず、Aさん自身に自信がついたら時間延長をするということになっていたそうである。
Aさんは以前に協会のアドバイザーに話した通り最初は一定の時間働けるかどうか不安だったが、働き始めてから間もなく、Aさんから「慣れたので6時間労働でも大丈夫」という申し出があったため、現在の労働時間となった。勤務開始間もなくのAさんの申し出からはAさんの意気込みと甘えのない仕事に取り組む厳しい姿勢が感じられた。なお、通勤にはお父さんが全面的に支援しておられた。
(3)同僚・上司の配慮
採用の経緯にもあるが、Aさんが採用されたきっかけは、会社に新しい部署が立ち上がって人手が足りなくなったからである。本間物産(株)では、それまで店舗からの発注は店舗ごとに扱っていたが、それを本社で一括して扱うことになった。新しい部署は商品管理課という名称で9名の社員で構成され、その業務を行うために立ち上げられた。
Aさんの採用面接には配属予定部署の課長が立ち会っている。直属の上司となる課長自らが人物の確認を行ったのである。また、Aさんの採用が決まってすぐに、人事課長は同じ課の女性にAさんの面倒をみてくれるように前もって頼んでおいた。また席をその女性の隣に配置した。その女性社員がさり気なく気を配ってくれたおかげで、Aさんの職場定着もスムーズに進んだ事は間違いない。そしてそれは配属先の環境まで気配りをされていた人事課長のご配慮の賜物である。商品管理課は課長以外は20代、30代という若く、Aさんと同世代の社員がそろっており、男性4名、女性5名と男女比率のバランスもとれている。
Aさんにとって療養後、しかも受障してから初めて就いた新しい仕事、新しい職場で緊張を強いられることも多いと思われるが、会社・人事課長・所属課長が同僚・上司に働きかけ、配慮することで、その緊張、精神的負担をできるだけ軽減できるようにしている様子が見てとれる。
4. 今後の障害者雇用の見通し
本間物産(株)ではAさんの採用と仕事に取り組む姿勢を通して、障害者雇用を前向きに捉えるようになっている。すぐに障害者の雇用を拡大させるということではないが、かつて店舗での雇用がうまくいかず、障害者の雇用が全くなかったことを考えるとAさんの雇用は本間物産(株)にとって大きな意味をもっているといえる。同社では店舗での雇用は難しいという考えは変わっていないようであるが、店舗での雇用が人間関係の難しさでうまくいかなかったという経験が、Aさんの職場環境の整備・配慮につながっているとも考えられる。新しい部署であることで、すでにできあがった人間関係の中に入るのではなく、他の社員も新たに人間関係を構築しなければならないという環境を用意したこと、そしてキーパーソンとなる人物を早くから準備していることなどにそれが見られる。このような人間関係についての配慮は、物理的な職場環境の整備と同程度、またはそれ以上に障害のある人の職場定着に必要かつ有効なことであると思っている。
また、Aさんの雇用は地方アビリンピックの受賞歴が評価され雇用に至った例であるが、今後も同様の例が続けばと考えている。
執筆者 : 東北公益文科大学 准教授 澤邉 みさ子
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