「育ち」を支援する~共生の社会を目指して~
- 事業所名
- 株式会社エイブル
- 所在地
- 福島県いわき市
- 事業内容
- 精密レンズ加工、複写機・投射レンズ・産業用スイッチの組立
- 従業員数
- 67名
- うち障害者数
- 17名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 1 産業用スイッチの組立及び検査作業 肢体不自由 1 産業用スイッチの組立及び検査作業 内部障害 0 知的障害 13 レンズ研磨の補助作業、産業用スイッチの組立作業、タップバリ取り作業 精神障害 2 - 目次

1. 事業所の概要
(1)事業の内容
猪狩正江氏により昭和49年10月に部分加工場として創業したことに始まる。その後、キャノン(株)玉川工場よりカメラレンズの部分加工の委託生産を開始し、昭和56年2月に東邦光学(株)を設立。さらに平成5年10月に社名を改称し現在に至っている。主な事業は精密金属加工・精密レンズ加工で、その他複写機・投射レンズ等の組み立てなど多種多様な部品の生産を行っている。
ナノ単位の優れた加工技術により、「お客さまの満足度100%の実現」を経営理念として掲げている。これを実現する前提として社長は、「人間それぞれの味を大切に育てる」という考えを根底に持っている。そのことが従業員数67名の内、障害者の雇用が17名という数字にも表れているといえる。
(2)障害者雇用の理念
障害者雇用については、企業の「社会的責任」というような気負いが全くない。社長には仕事の他に、地元の中学生に30年ほどテニスを教えていたという経験がある。その経験の中から社長は、「人は、周りの環境で変わる」「得意・不得意は人の常で、足りないところを補い合い、助け合えば良い」そして、「その人の持ち味を発揮することが、その人に誇りを持たせることになる」という人生観をもっている。
障害者に対しても同様で、障害者を社会的弱者として捉えるのではなく、それぞれの障害者の出来る仕事を分担し、その仕事を通してその人の持ち味が発揮できるようにお互いが支え合う事が当たり前であり、自然な姿であると考えている。
2. 障害者雇用の状況
(1)障害者雇用の経緯・背景
障害者雇用のきっかけは、今から20年前頃のバブル経済といわれた好景気による社会的背景があった。その頃の会社は猫の手も借りたいほどの忙しさで、人手不足の状況であった。そんな折、地元の中学校の特殊学級からの依頼により障害者を採用したのが始まりである。その頃は、障害を持った人でも訓練を積めば仕事が身につくであろうし、健常者よりも仕事が遅いのは仕方がないことで、二人で一人分の仕事ができればよいぐらいの思いで採用したとのことである。
(2)障害者の就労状況
①雇用状況と業務内容
雇用している17名の障害者を障害種別で見ると、知的障害者13名、身体障害者2名、精神障害者2名である。障害の程度別では重度障害者12名、中・軽度障害者5名である。年齢は25歳から48歳で、30歳代が最も多く、平均年齢は34歳である。勤続年数は1年未満から、長い人で21年である。障害者の職場への定着率は良好で、7~8年前の不景気の時代に会社都合で数名辞めてもらった他は、自己都合退職はほとんどない。障害者の雇用状況は表1のとおりである。
№ | 性別 | 年齢 | 障害の種類・程度 | 採用年月日 | № | 性別 | 年齢 | 障害の種類・程度 | 採用年月日 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 女 | 42 | 知的障害(重度) | 昭和61年4月 | 10 | 男 | 25 | 知的障害(重度) | 平成9年4月 |
2 | 男 | 35 | 知的障害 | 昭和63年4月 | 11 | 男 | 42 | 精神障害 | 平成10年10月 |
3 | 女 | 32 | 知的障害(重度) | 平成2年7月 | 12 | 男 | 34 | 知的障害(重度) | 平成12年4月 |
4 | 男 | 32 | 知的障害 | 平成3年4月 | 13 | 女 | 48 | 聴覚障害(2級) | 平成15年10月 |
5 | 男 | 32 | 知的障害(重度) | 平成3年4月 | 14 | 男 | 25 | 精神障害(2級) | 平成15年12月 |
6 | 男 | 35 | 知的障害(重度) | 平成4年4月 | 15 | 女 | 44 | 知的障害(重度) | 平成16年2月 |
7 | 男 | 37 | 知的障害 | 平成4年10月 | 16 | 男 | 26 | 知的障害(重度) | 平成16年2月 |
8 | 男 | 29 | 知的障害(重度) | 平成6年4月 | 17 | 男 | 37 | 身体障害(6級) | 平成19年1月 |
9 | 男 | 26 | 知的障害(重度) | 平成8月4月 |
障害者の行っている業務は、産業用スイッチの組み立て、レンズ研磨、タップ作業(ねじ切り)、タップのバリ作業等で、それぞれ機械を使用して熱心に作業に取り組んでいる。一人ひとりがその仕事や職場の環境に溶け込んでいる状況であった。



②障害者雇用率
障害者雇用数は29人(重度12人×2+5人)となり、雇用率は43.3%となる。この雇用率は県内の民間企業ではトップクラスであり、法定雇用率1.8%を大きく超えるものであり、驚異的な数値である。
③労働条件
雇用形態は全て正社員として採用している。労働時間は他の従業員と同様に実働7時間50分である。これは、障害者であっても8時間労働の習慣・経験を積むことが大切であり、社会人としての自立には必要であるとの考え方に基づいている。賃金は福島県の最低賃金にプラスマイナス5%程度の範囲内で支給することを原則としている。尚、最低賃金を下回る場合は適応除外の届出をしている。
④生活の場及び通勤方法
雇用している障害者の生活の場は、自宅7名、グループホーム8名、会社の寮2名である。公共の交通機関が無いため、通勤には会社のバスにより送迎している。
3. 障害者雇用の取り組みの内容
(1)職場適応に向けて
障害者を雇用する上での特別な訓練や、職場環境の整備などは特に行っていない。次のような配慮があれば、障害者が自らの力を発揮していけると考えている。
①不安を持つよりも、先ずやってみること
障害者にこの仕事が出来るか、仕事が長続きするかなどを考えすぎず、とにかく一旦やってみようといった「遊び心」も経営者には必要である。彼らが出来そうな仕事を探し、1ヶ月位は彼らのペースで8時間を会社で過ごす経験と、その習慣を身に付けることが先ず大切なことである。会社に慣れてきた頃に、段々と仕事を教えていく。健常者が3日位で覚える仕事に20日間位はかかるが、丁寧に教えさえすれば出来るようになってくる。障害者が仕事を覚えるには時間はかかるが、それは誰でも最初は同じである。
②自分自身の障害をよく認識してもらうこと
社会人としてのルールや、仕事の出来具合を誉めて自信を持たせることは必要であるが、誉めてばかりではそのレベルで固まってしまう。時には突き放し、どうしたら良いのか自身で考えさせ、自分が改めなければならないこと、自分の出来ないことを体験的に自覚し、認識してもらうことも大切なことである。それにより、周りの者も具体的に補う部分が明確になり、障害者が他者の助けを求めるなど相互の支え合いの姿勢が育ってくる。
③当たり前の環境の中で、普通に接すること
勤務中のいろいろな出来事に対しての相談などは、社長と事務員で連携して支援を行っているが、原則的には、彼らも他の従業員と同様に会社の構成員の一人として接している。仕事中の身だしなみや態度など、改善が必要な点があればその都度注意したりするが、これは他の従業員に対しても同様である。皆が同じ会社の社員として普通に接することによって、障害者自身も普通の社会人としての自覚と誇りや、自立心が高揚していくものと感じている。
(2)活用した制度・助成金
障害者を雇用した当初は、いろいろな制度があることが分からなかったそうだが、その後に各種助成制度があることを知り、現在は以下のような制度を活用している。
①トライアル雇用事業(障害者試行雇用事業)
②職場適応訓練
③重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金
4. 障害者雇用による効果
生産的なメリットから言えばそれほど大きなものではない。しかし、彼らは仕事を休むことは殆ど無く、確実に生産上の計算が出来る存在である。上手に教えさえすれば賃金に見合った仕事は可能であり、教え方次第では、それ以上の利益を生む期待も持てる。職場での良い人間関係を築くことは、会社の経営にとっても大切なことであるが、社内において従業員同士の人間関係が悪くなった場合などには、障害者の人たちの存在がいいクッション役となり、人間関係を緩衝し、人と人との関係を和らげる働きをしている。そして、何よりも尊いことは、健常者も障害者も同じ会社の中で働くことが、当たり前のこととして自然に息づいていることである。昼休み中に何人かの障害者の方と話をする機会があったのでそれを紹介する。会社に対する感想は、「会社は大好き」・「今の会社で定年まで働きたい」・「辛いこともあるけど仕事がたくさんあるから頑張る」・「会社を休みたいと思うことはない」・「会社の人たちは皆親切で楽しい」・「前の会社では嫌な思いもしたが、ここは嫌な人は誰もいないので働きやすい」等々である。このように感じられる会社の雰囲気こそ、何よりも尊いことではないだろうか。これこそがノーマライゼーション(共生の社会)であり、このような職場環境であってこそ、障害者一人ひとりが社会人として育ち、働く者としての誇りも生まれてくるのではないだろうか。
気負いのない地道な取り組みが、障害者もそうではない人も共に支え合い、共に生きる社会の実現を目指して、他の企業や公的機関にも波及していくことを願うものである。
執筆者 : いわき短期大学 准教授 鈴木 尤恃
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