普通であること ~特別扱いしないこと
- 事業所名
- 富士通アイソテック株式会社
- 所在地
- 福島県伊達市
- 事業内容
- パソコン・PCサーバーの製造、プリンターの開発・製造・販売、パソコンの修理、リサイクルビジネス
- 従業員数
- 780名
- うち障害者数
- 9名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 5 パソコン組立、製品機能試験、プリンター組立及び修理 肢体不自由 4 パソコン組立及び修理、プリンター組立、製品機能試験 内部障害 0 知的障害 0 精神障害 0 - 目次
1. 事業所の概要
富士通アイソテック株式会社は1957年に富士通(株)と(株)クロサワとの共同出資により黒沢通信工業(株)として東京都蒲田にて操業を開始し、1975年に福島県伊達市の現在地に工場を移転(開設)し、1985年に社名を「富士通アイソテック(株)」に変更し今日に至っている。2007年には会社創立50周年を迎え、現在正規従業員数780名(2007年1月)、派遣社員等を加えると1000名を超える従業員を抱え、年間売上高も1500億円を超える会社に成長している。
会社の主な事業はパソコン・PCサーバーの製造、プリンターの開発・製造・販売、パソコンの修理、リサイクルビジネスなどを行っている。とりわけ富士通のデスクトップ型パソコンの国内向け生産は当社が一手に引き受けている。
2. 障害者雇用の概況
(1)障害者雇用に対する会社の基本姿勢
富士通アイソテック(株)は会社設立以来、障害者雇用に積極的に取り組み、それが地域及び社会への貢献であり会社の社会的責任であると考えている。その一環として、毎年近隣の特別支援学校からの実習生を積極的に受け入れ、また近隣の特別支援学級教師や保護者等の工場見学も積極的に受け入れて、障害者の雇用促進事業に協力している。会社としては今後とも法定雇用率を高めるための努力を惜しまず、障害者を積極的に雇用していく方針であるとのことである。同社の障害者雇用の基本的なコンセプトとして次の3点が挙げられる。
①地域密着の企業を目指して障害者を業務経験に見合った作業に従事させる
富士通アイソテック(株)ではデスクトップ型のパソコンの組み立てや試験作業を中心として、障害者をその経験を生かした作業に従事させ、製造オペレーターだけではなく、製造工程管理を中心としたグループリーダーとしての業務も遂行させている。
②労働条件・福利厚生面での特別扱いはしない
障害者だからといって業務遂行や労働条件面での特別扱いはしてない。ただし、作業環境を障害の状況に応じて「立ち作業」から「座り作業」へ変更したり等の配慮は行っている。また社員教育、グループ活動等においては手話通訳を外部に依頼してコミニュケーション能力の質的向上を図るための配慮を講じている。
③職場定着のための創意工夫
ここ数年は会社の定期採用の抑制により障害者の新規採用は実施してないが、将来的には採用していく予定である。障害者の職場定着を図るための工夫としては、配置換による本人のスキルアップを目指すというよりは、同一職場での業務の集中化(専念化)によるスペシャリスト養成を目指した体制作りを計画し実行している。
(2)障害者雇用の実態と概要
富士通アイソテック(株)には2008年2月現在で以下の9名の障害者が雇用されており、その概要は表1に示す通りで法定雇用率は1.9%となっている。
No. | 性別 | 年齢 | 勤続年数 | 障害区分 (注:2は重度) |
障害の概要 | 職種(作業内容) |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 男 | 52 | 24 | 2 | 聴覚機能障害1級 | パソコン組立・試験 |
2 | 男 | 44 | 23 | 1 | 右下肢機能全廃3級 | パソコン組立・試験 |
3 | 男 | 46 | 23 | 1 | 右下肢機能障害5級 | パソコン修理 |
4 | 男 | 53 | 23 | 2 | 聴覚機能障害1級 | プリンタ組立・試験 |
5 | 女 | 42 | 22 | 2 | 難聴両耳2級 | プリンタ組立・試験 |
6 | 男 | 41 | 22 | 1 | 関節機能障害3級 | パソコン修理 |
7 | 男 | 40 | 20 | 1 | 右下肢機能全廃3級 | パソコン組立・試験 |
8 | 男 | 39 | 19 | 2 | 聴覚機能障害2級 | パソコン組立・試験 |
9 | 男 | 46 | 16 | 2 | 先天性聴覚機能障害2級 | パソコン組立・試験 |
表1に示したように9名の障害者が雇用されているが、障害種は聴覚障害者が5名、下肢障害者が4名である。障害等級は1級が2名、2級が3名、3級が3名、5級が1名となっている。9名のうち重度障害者が過半数の5名を占めている。年齢は53歳から39歳までの比較的高齢者で占め、平均年齢は44.8歳となっている。若年の障害者が少ないが、今後は採用していく予定である。勤続年数は長い人で24年、短い人でも16年で平均勤続年数21.3年となっており、総じて永年勤続者が多い。
仕事内容は一般の従業員と何ら変わりはなく、所属部署や仕事内容も全く一般従業員と同様である。具体的にはパソコンやプリンターの組立・試験や修理、部品の組み立てで、適材適所で仕事をこなしている。もちろん待遇面でも全く一般従業員と変わらない。居住地は福島市及び伊達市近郊が多く、通勤手段も電車やマイカーで通勤しており、交通機関の利用についても何ら支障は無い。
障害者だからといって仕事の面で特別な班やグループを編制したり、特定の人を指導員として配置したり等の特別な配慮は何もしてない。ごく普通に当たり前にしていることが、実は障害者への一番の配慮だといえるのかもしれない。障害者本人たちも「特別扱い」されることを嫌がり、望まない。
会社としても本人たちも、たまたま聴覚に障害があり身体が不自由であるだけで、同じ社員であることには何ら変わらないとの認識である。
(3)障害者雇用の配慮事項
基本的には「特別扱い」しないことが障害者への何よりの配慮であるが、敢えて当社での配慮事項を挙げれば以下の点である。
①聴覚障害者への対応
当社で雇用されている障害者の大半が聴覚障害者なので、コミュニケーションの取り方についての配慮が必要である。手話が出来る人が少ないために筆談が中心になるが、周囲の社員や上司は身振り手振りでかなりの会話が可能になっている。会社の研修会等では必要に応じて手話通訳を付けたりして配慮がなされている。一番大切なことは、聴覚障害者本人が他人とのコミュニケーションを積極的に取ろうとする態度や姿勢である。コミュニケーションを取るのに消極的になったり恥ずかしがらずに、自ら積極的に関わろうとする姿勢が大切である。また社内でのそういう雰囲気作りが必要である。
②肢体機能障害への対応
上肢・下肢機能に障害がある人に対しては、長時間の「立ち作業」は苦痛なので椅子に座っての「座業」に就かせたりして配慮している。いずれの作業も障害者の自己ペースに合わせて工程が組まれており、生産ラインに急かされて仕事をするのでなく、自らのペースに合わせてラインが組まれている。広い作業場でゆったりとラインが流れており、空間的にも心理的にもとても余裕のある工場であった。
③働きやすい職場環境作り
障害者にとって働きやすい職場環境は、実は一般社員にとっても働きやすい職場である。障害者がごく自然に会社に慣れ親しみ、一般の社員と人間関係を結びながら楽しく仕事を続けている。こうした温かい会社の雰囲気や人間関係を構築していくためには、上司や周囲の社員と互いに相手を理解し合い、協力し合っていく環境作りが必要である。障害者自身も他人との協調性に富み余暇時間やレクレーション活動等に積極的に参加し、会社外での諸活動にもごく普通に参加していくことが必要である。
仕事以外の社内行事や社外行事も同様で、一緒に飲みに行ったりカラオケに行ったり、花見や忘年会・新年会等への参加もまったく本人任せで自然にしている。このようにごく普通に特別扱いしないで自然に任せていることが、結局は障害者にとって働きやすい職場となり、障害者の職場定着に繋がる。
(4)当面の課題
当社の障害者雇用で特段に問題はないが、強いて挙げれば互いに伴侶を得て結婚し、家庭を築いて欲しいことかも知れない。また、年々障害者の高齢化が進行する中で、今後は健康の維持管理と体力の増進が求められてくるであろう。
3. 障害者雇用で大事にしたいこと
雇用に際して当社が求める障害者像として下記の点が強調された。これは当社に限ったことではなく、広く障害者雇用全般にいえることである。またこれは障害者に限ったことでもなく、一般の社員(従業員)にも同様に言えることである。
(1)健康で協調性(社会性)のある人
何事でもそうであるが、まずは心身共に健康であることが求められる。そのためには日頃から体力作りと健康管理に努めておく必要がある。そして会社内での対人関係や人間関係の形成がとても重要になる。そのためには我が儘を通すのでなく、他人との協調性や協力心が特に重要である。協調性とコミュニケーション能力と言い換えてもよい。
(2)挨拶や返事がきちんと出来る人
当たりまえのことであるが、自分から明るく挨拶したり名前を呼ばれたらきちんと返事をすることである。これは幼少期から家庭生活で躾として指導されるべきものであるが、障害者によってはその都度必要に応じて指導する必要がある。
(3)生活の基本がきちんと出来ている人
日常生活を送る上で必要な基本的生活習慣をきちんと身につけておくことである。例えば、食事、排泄、衣服の着脱、身なり、清潔、といったエチケットやマナーをしっかりと身につけておくことである。
(4)何事にも積極的でチャレンジ精神が旺盛な人
引っ込み思案で臆病では困る。何事にもチャレンジしようとする意欲のある人を会社は望んでいる。分からないことや疑問があったら必ず質問し、終わったら報告するなどである。よく言われる、「ホー(報告)・レン(連絡)・ソウ(相談)」が出来る人である。
(5)根気があり集中力のある人
何事もコツコツと最後まで根気よく取り組める人である。作業には時として危険なこともあるので、安全面の点からも集中力が必要とされる。
以上に挙げたことは当社に限ったことではなく、どんな仕事に就こうが職種や業種に拘わらず必要とされる基本的資質である。しかも障害者であろうが一般の社員であろうが、すべて職業人に必要とされる人間的資質である。障害者の雇用に際しては、どちらかといえば彼らの作業能力や技能といった「スキル」に目が奪われがちであるが、それよりももっと基本的な資質が必要であることに注目しなければならない。雇用する企業側は、むしろ障害者の「人間的資質」を問題にしている点に注目すべきである。
4. まとめにかえて -特別扱いしないこと
富士通アイソテック(株)を実際に訪問し、工場内を見学させていただいたり聞き取り調査を行って、「普通であること」の重要性に改めて気づかされた。障害者を「特別扱い」しないことが、実は障害者への一番の配慮であるということを痛感した。障害者を特別扱いしないことが大切な視点であり、障害者の職場定着を可能にしている秘訣だと思われる。何か特別なことが必要だと思っていた我々の先入観が問題であったのかもしれない。そのことを強く感じたのが今回の富士通アイソテック(株)訪問であった。
執筆者 : 福島大学 人間発達文化学類 教授 松崎 博文
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