「企業」に徹する姿勢が成功につながる
- 事業所名
- 山武フレンドリー株式会社
- 所在地
- 神奈川県藤沢市
- 事業内容
- 生産工場業務請負
- 従業員数
- 24名
- うち障害者数
- 20名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 20 3S作業、喫煙ブースのセル洗浄、スキャナー作業、生産ライン作業、機械加工ほか 精神障害 0 - 目次
1. 生き活きと働く社員が主役
「特例子会社といっても、企業とは、あくまでも利益を追求する組織。ボランティアではありません。特例子会社はそこの線引きがしっかりできていないと、目的を見失いがちになります。山武フレンドリーに来て5年目。私はずっとその意識付けに尽力してきました」
そう語るのは、山武フレンドリー株式会社の小野口富士男取締役総務部長。彼が提唱する「フレンドリー方式」は、今や神奈川県内の特例子会社のモデルケースともなっている。
山武フレンドリーが困難を乗り越え、培ってきたフレンドリー方式の実際を紹介する。
山武フレンドリー株式会社の親会社である山武グループは、昨年、創業100年を迎えた総合機器メーカーである。センサー類などを生産する制御機器事業を筆頭に、ビル内総合空調管理を行うビルシステム事業、石油プラントなどのプラント部品を手がける産業システム事業を国内外で展開している。
特例子会社を設立したのは1998年。山武創立90周年を機に行われた社内の企画公募によるものだった。障害者雇用率を達成しやすく、企業イメージがアップするなどメリットも考慮しての決定だったが、ゼロからの手探りだったため、数年間、試行錯誤が続いたという。
「総務部長として私が就いたときは、会社の雰囲気にまず驚きましたね。社員である障害者も設立当初からほとんど変わらず約10人でしたし、仕事がなくヒマそうにしている社員もいる。それにスタッフがなんでも面倒を見ている感じで、社員にもなんだか覇気がない。これではいけないと気を引き締めました」と小野口部長は以前を振り返る。

そこで思いついたのが、「生き活きと働く社員が主役」という信条だった。「いきいき」に「生き活き」という字を当てたのは、「毎日しっかりと生活している実感が持てる職場でありたい」という願いから。
同時に、山武フレンドリーの事業領域と経営目標、経営方針を明確にし、企業としての「あるべき姿」を掲げた。これが現在の「フレンドリー方式」の基盤となるものである。
・肢体障害者の雇用は、親会社の職場で進める
・親会社とは、仕事を通じてあらゆる場面で交流する
2. 会社設立投資、設備投資、運用費用になるべくお金をかけない
・応接室や食堂などは親会社と共有し、無駄な出費を避ける
・親会社には、特例子会社への発注により外注費を低減するなどメリットを提供する
3. 福祉機関との連携を図る
・「企業」と「福祉」の役割を明確にし、事業運営を行う
・地域就労援助センターと連携を図り、生活面などの相談にのってもらう
知的障害者だけを雇用対象としているのは、同じ障害を持つもの同士で一体感があり、精神的にも安心して働きやすい職場づくりができるからだ。肢体不自由者などについては、従来通り親会社の職場で雇用する。
また、福祉機関との連携だが、「会社内でのトラブルなどには対処できるが、正直、企業が社員のプライベートにまで細かく目配りするのには限界がある」と小野口部長。仕事面は「企業」、生活面は「福祉」と役割を明確にし、連携して二人三脚体制をつくることで、障害者の働きやすい、生活しやすい環境が作れると力説する。
2. 「やらせないほうがかわいそう」
山武フレンドリーは、山武グループの研究施設である藤沢テクノセンターの一角に事業所を構えており、仕事のほとんどは山武グループの事業運営に付随する周辺作業である。その事業内容は、実に多岐にわたる。
山武フレンドリーの主な事業内容
●3S(整理・整頓・清掃)業務、蛍光灯の交換
●エアクリーナー・喫煙ブースのセル洗浄、メンテナンス(他社からの受注もあり)
●メール便の集配、郵便処理、宅配便・製造部品の受け入れ
●山武グループ誌、労働組合機関誌の封入・発送
●印刷、コピー、製本サービス
●資料の電子化のためのスキャナー作業(最近ニーズが高い)
●生産ラインの補助作業、副組み付け
●部品の精密機械加工
●輸入部品の開梱、品質検査(受注が増えている)
●開発関係の実験データ記録支援(受注が増えている)
●工場廃棄物の回収、解体、分別
●除草、緑地の維持管理(藤沢テクノセンターのほか、伊東にある保養所も手がける)
●食堂から出る生ゴミの肥料処理(できた肥料はグループ社員の希望者などに配布)
●その他
「当社には20人の社員がいますが、そのうち6人が重度の障害者です。でも、どうですか? これだけの幅広い仕事がこなせるんです。最初は『そんなに難しそうな仕事をやらせるのはかわいそう』などと感じるかもしれませんが、やらせてみたら、個人差はありますが、どんどんできるようになる。私は逆に、仕事ができる彼らに『やらせないほうがかわいそう』だと思いますね」
これらの仕事の一つひとつは、スタッフが山武グループ内を駆け回り、集めてきた汗の産物だ。外注する場合と比べて、品質(クオリティー=Q)とコスト(=C)は同等を約束、同じ敷地内にいることを活かして納期(デリバリー=D)を短縮するなど、山武フレンドリーに発注する利点を説き、理解を求めた。
「企業にとってQCDの向上は必須条件ですからね。特にメーカーは、在庫を抱えないJIT(ジャスト・イン・タイム)生産が要。我が社に発注することで、例えば納期を今までより3日短縮することができれば、抱える在庫数を減らし、コストを削減することができるんです。山武フレンドリーにとって利益があり、またお客様である山武グループにも利益になる。そういった具体的な提案をすることが大切です」
長年、生産管理部門のマネージャーとして収益を見てきた小野口部長ならではの発言だ。
声をかけてもらった仕事は絶対に断らない。そして受注した仕事に対しては、お客様の期待を裏切らないように一生懸命に応えよう。小野口部長は社員に対し、何度も何度も訴え、意識の向上に努めてきた。
社員の高いモチベーション維持のため、展開してきたさまざまな工夫についてを次章で紹介する。




担当

3. 働くのは「稼ぐため」
社員への仕事の振り分けで重要なのは、それぞれが「好きなこと」をできるよう、配慮することだという。
例えば体を動かすのが好きな社員なら、3S(整理・整頓・清掃)やエアクリーナー・喫煙ブースのセル洗浄、ときには草取りなどを任せる。逆に、緻密な作業を得意とする社員には、部品の精密機械加工や品質検査など、繰り返し作業を担当させる。たとえ単純な作業でも、好きなことなら集中して取り組めるのが知的障害者の持ち味。品質も安定しており、信頼は高い。
社員の特技や特性を見極めるのはスタッフの仕事であり、適材適所を考え、また社員のレベルアップにも合わせて仕事の配置変更を常に行っている。


さらに大切なのが、社員一人一人の仕事を固定するのではなく、複数の仕事を覚えさせる「多能工化」だ。今日の午前中はメール便の集配、午後は冊子の封入とスキャナー作業など、一日のうちに仕事の内容がいろいろ変わることも珍しくない。
「変化があるので、作業に飽きないという効果もあります。それに社員が急に休んだ場合でも、代わりの社員が対応することも可能ですからね。またそれ以上に、たとえAの仕事がないときでも、BやCなど別の仕事を割り当てることができるというのが一番のメリットです」
「仕事がない」「やることがない」という無駄な時間をつくらないことが、効率のよい企業運営の基本なのだ。
「ダラリ」を徹底的に排除しなければ、効率よく収益を上げることはできない。「ダラリ」とは「ムダ」「ムラ」「ムリ」のこと。特例子会社だからといって「ダラリ」に甘んじていると、いつまでも親会社からの自立は望めないと小野口部長は何度も言う。
効率を上げる工夫は作業場にも見られる。社員のみんなが立って仕事をしているのだ。 品質検査など長時間集中する仕事は別だが、冊子の封入や部品の箱詰めなどは、逆に立っているほうが動きも軽やかで、スピーディーにできる。歩き回りながら次から次へとさまざまな仕事を行うので、同じ姿勢をずっと続ける苦痛もあまり見られない。

作業場の一角には、社員のプロフィールのほかに、「毎月の売上目標」「安全に対する注意」「社員を増やす夢」が貼られている。この三つは毎朝15分間の朝礼で必ず語られ、意識付けが行われるという。
「社員の一人ひとりが売上目標を認識し、そのために自分は何をすればいいのかを自覚することが大切です。忘れがちな社員には、きちんとノートに記入させる。目標達成のために、全員の力を合わせてがんばろうという一体感を持たせるんです」と小野口部長。
といっても堅苦しい雰囲気ではない。親しみやすい健康の話題や時事的なニュースも交え、スタッフと社員がともに発言しあう、なごやかなムードだ。
また、午後5時5分から5分間行われる終礼では、その日の反省や報告、翌日の作業の指示などが与えられる。その後、社員は日誌に「その日の仕事」「反省」「翌日の目標」「体調など(寝た時間、起きた時間、朝ご飯を食べたか)」について記入し、一日の仕事を終える。
朝礼と終礼で何度となく繰り返される「目標」。その狙いは「お金を稼ぐために働こう」という社員の意欲を高めるためだ。
「仕事で少々厳しいことを言うことがあっても、それはすべて利益を上げるため、つまり社員のみんなにお給料やボーナスを払うため。私はことあるごとに社員にそう言っています。社員だって稼ぎたければ、甘えることなく、お客様の期待に添えられるよう仕事に取り組まなければなりません。それは健常者だって同じことでしょう?」
働くのは稼ぐため。この考えが貫かれているからこそ、社員一丸となって目標に突き進む活発な空気が生まれるのかもしれない。

4. 実習生と見学者の受け入れ
山武フレンドリーは、年に春と秋の2回、約20人ずつ計約40人の職場実習生を受け入れている。主に養護学校の2、3年の生徒たちで、3日間にわたって行われるが、まず最初の会社説明時に、小野口部長は「会社と学校の違い」を説明する。
「学校はお金を出して勉強させてもらうところ。会社は働いてお金をもらうところ。この原則をまず理解させます」
お金をもらったら何がしたいか? そんな質問を実習生たちにぶつけると、「CDが買いたい」「旅行がしたい」「今まで苦労をかけた両親にプレゼントしたい」など、さまざまな答えが返ってくる。ディスカッション形式で語り合うことで、実習生たちの胸の内に「働きたい」という思いが募ってくるという。
その後、実習では、スタッフの指導のもとさまざまな作業を体験するが、社員も仕事内容を説明するなど積極的に参加している。
実習生は、全員が山武フレンドリーの入社希望者というわけではない。実際、山武フレンドリーが採用する社員は中途採用が多く、欠員や事業拡大に応じて地域の就労援助センターと連絡を取り合い、新入社員を採っている。
では、実質的な採用につながらないにも関わらず、労力をさいて多くの実習生を受け入れているのはなぜか?
山武フレンドリーは、神奈川県内の特例子会社と特別支援学校、教育委員会などと連絡を取り合う「就労支援フォローアップ研究会」をつくり、活動を展開している。その一貫なのだ。
「実習生の受け入れは確かに苦労もありますが、我が社のCSR(社会貢献)活動としても位置付けていますし、今後も続けていくつもりです」と小野口部長は語る。
就職前に、実習を通して「働くこと」への心構えを身につけていれば、就職した社員にとっても、また採用した企業にとってもスムーズなスタートとなるに違いない。「働いたことのない新卒の受け入れは大変」という企業側の生の声を知るからこその、実践的な取り組みなのだ。
同様に、山武フレンドリーは年間に300人近い見学者も受け入れている。障害者の雇用や特例子会社の設立を検討している企業や、学校、行政の担当者が多く訪れる。
「見学の際には、スタッフによる全体的な概要説明の後、実際に作業場を見てもらい、社員には自分の仕事をプレゼンテーションさせています。多くの人の前で発表することによって、自信もつくし、プロフェッショナルとしての自覚も生まれる。そのような教育的効果は大きいですね」
ただし、「障害者の働く姿を見てみたい」というだけの目的のない見学はお断りだ。「特に福祉関係の方に多いのが、障害者を子ども扱いしているのか、『この子』『あの子』といった表現を使う方々。我が社の社員の働く姿を、そんな興味本位の目で見てほしくありません」
ついつい語調を強める小野口部長。見学希望者は、何のために見学したいのか目的を明確にし、働く社員に対して尊敬の気持ちを持って臨みたい。

5. スタッフに必要なのは「3現主義」
現在、山武フレンドリーは20人の社員と兼任を含む4人のスタッフで構成されている。
スタッフの一人、山武フレンドリーに来て4年目を迎える神谷正子さんに話を聞いた。
「以前はスタッフが手取り足取り社員を指導している状態でしたが、今は社員同士が仕事を教え合ったりしているので、それほど苦労はなくなりました。挨拶をすることすらできなかった社員も、今ではきちんとできるようになりましたし、その成長ぶりにはびっくりしています。仕事をする上で心がけているのは、どんな壁が立ちはだかっても、『できない』『やれない』ではなく、どうしたらできるようになるのかを考えること。言い訳だけは言わないようにしています」
神谷さんに、落ち着いて人の目を見ることができない知的障害者に挨拶を教えるときのポイントを聞いたので、ここに紹介しよう。
「相手の目を見るのが苦手な人が多いですからね。そういう場合は、相手の鼻を見て挨拶することを教えるんです。そのうちに慣れてきて、自然と目を見て挨拶ができるようになりますよ」
これも現場で生まれた工夫のひとつだ。

スタッフの仕事で一番重要なのは、社員が働きやすい環境をつくることである。作業のスケジュールを組み、作業しやすいように治具もつくる。もちろん、新しく入った社員には細かく指導し、相談にものる。
小野口部長は、スタッフに必要なのは、現場・現物・現実を見る『3現主義』だと言う。
「現場・現物・現実を見ずに机上の理屈ばかり追っていると、判断を誤ってしまうことがありますからね。逆に、現場で働く社員の実情をしっかり知っていれば、スタッフも自分の考えや行動に自信を持って、彼らを導くことができるはずです」
特例子会社の主役は社員、そして彼らを生き活きと輝かせる舞台をつくるのが、黒子役であるスタッフたち。彼らの行き届いたサポートがあるからこそ、社員のその輝きが増すのだ。
山武フレンドリーは、今後、スタッフの人数はこのまま維持しつつ、社員を30人にまで拡大させたいと考えている。
「今は藤沢テクノセンターだけでの展開ですが、ゆくゆくは山武グループの伊勢原工場や湘南工場、秦野配送センターなどにも社員を置くなど、事業規模を拡大していきたいですね。さまざまなハードルはあるでしょうが、それだけ我々にできる仕事はあると思っています」
小野口部長の姿勢に一貫して見られるのは、「特例子会社といえど、企業である」という信念である。
事実、山武フレンドリーは小野口部長就任後、黒字化を達成し、社員に給料およびボーナスを支払うほか、前述のような実習生・見学者の受け入れや、冊子の封入作業においては地域作業所に一部発注するなどの貢献活動も盛んに行っている。
これらの展開は、「企業として当たり前のこと」と小野口部長は力説する。しかし、その当たり前のことが、なかなかできない特例子会社が多いのも実情だ。
神奈川県内でも最先端をゆく特例子会社として、山武フレンドリーに学ぶ点は多い。
執筆者 : 山笑堂 社長 小川 亜紀子
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