10年の活動のなかで見えてきたこと。そしてこれから
- 事業所名
- 株式会社スタンレーウェル
- 所在地
- 神奈川県秦野市
- 事業内容
- 自動車用電装品組立・梱包
- 従業員数
- 24名
- うち障害者数
- 14名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 0 内部障害 0 知的障害 14 組立・梱包 精神障害 0 - 目次
1. 親会社からの自立を達成
(1)「品質」にこだわり、勝ち得た信頼
スタンレー電気株式会社の特例子会社、株式会社スタンレーウェルは、1998年設立。今年で10周年を迎える。仕事はすべて親会社からの受注で、自動車用電球の包装と、電子部品の組み立ての2本柱だ。
宗岡隆博社長が就任したのは2002年のこと。以来、宗岡社長の力強い旗振りのもと、親会社からの自立をめざして事業を展開してきた。
「私が徹底してこだわってきたのは、コストはもちろんですが、第一に品質の追求です。たとえば電球を箱詰めする場合でも、ひとつひとつ念のためチェックしながら作業するようにしています。スタンレーウェルに任せていれば大丈夫。会社の名が『品質保証の証』となるくらいの意識を持つよう、社員にも指導しています。」
「市場クレームゼロ」という高品質を維持することによって得たスタンレーウェルの信頼度は高い。2006年、スタンレーウェルは、親会社からの寄付金に頼ることのない、念願の自立を達成している。

(2)詳細で明確な行動指針
就任後、宗岡社長が社員に対して真っ先に示したのが、「行動指針」だった。全部で21項目。「安全第一を守るために」「仕事をしっかりやるために」「人にめいわくをかけないために」という3つのテーマのもと、それぞれ数項目の「やってはいけないこと」が記されている。冒頭には「4度も5度も反省と改善努力なく繰り返す人は、社長として厳重に指導します。心得て行動してください。」との厳しい文言もある。
行動指針は作業場に掲示されており、毎日行う朝礼や夕礼の際に、内容を全員で確認するという。
「この行動指針は、社会人としての必要最低限のルールでもあります。仕事を通して彼らに社会のルールを教えたいという思いもあって、かなり細かいことまで書きました」と宗岡社長。非常に具体的で分かりやすいので、以下に紹介する。
スタンレーウェル行動指針
安全第一を守るために
1. 階段の登り降りはゆっくり右側を一列で
2. 食堂・会社の行き帰りの道路は一列で。走らない
3. 歩くときは本を読んだり物を食べながら歩かない
4. くすりを使うときはスタッフに一声かけて
5. 工場しきち内は走らない
6. 朝は10分前に門を入る
7. 動いているフォークリフトには近づかない
仕事をしっかりやるために
8. 体操はしっかりやる
9. 私物を工場内に持ち込まない
10. トイレは病気以外何度も行かない
11. 提案は最低2ヵ月に1件は出す
12. 仕事で同じ失敗は繰り返さない(できないことは素直に認め、指導を受けてやる)
13. 仕事中あくび、ごみ捨て、おしゃべり、関係ない質問を何度もしない
14. 出勤当日、急病・急用で遅刻・欠勤する場合は午前8時30分までに会社に連絡する
15. 仕事は指示書、異常処置などルールにそってやる(てぬき、あわてて、ふざけてやらない)
人にめいわくをかけないために
16. バスの中では大声を出したりふざけたりしない
17. 社員どうしけんかをしない(人のいやがることを繰り返さない)
18. お金の貸し借りをしない
19. ロッカー・下駄箱は自分で整理整頓
20. お客さま専用ロールタオルは社員は使わない(各自ハンカチ用意)
21. ひげそり、作業着の洗濯、通勤着(通勤靴含む)など身だしなみを整える
2. 提案と改善の数々
(1)どうしたら提案が出せるか
行動指針を見ると、11番目に「提案は最低2ヵ月に1件は出す」とある。これは、2003年から展開している「提案制度」のこと。仕事を効率よく、やりやすく、また安全に進めるために思いついたアイデアは、どんどん提案しようと奨励するもので、採用されたものについては200〜500円の報奨金が出る。
「提案制度を作ったのは、与えられた仕事だけをやるのではなく、『どうやったらうまくいくのか』『こうしたらどうだろう』など、考える力をつけることが大事だと思ったからです。また自分のアイデアが採用されることにより、仕事に対する喜びや誇りを持ってもらいたいという狙いもあります。」と宗岡社長。

とはいえ、ただ「アイデアを出せ」と言うだけでは、知的障害者である社員たちはとまどうばかり。高いハードルに感じることだろう。そこで用意されたのが「どうしたら提案がたくさん出せるかのヒント」だ。ヒントを使って日頃の仕事のなかで「?」と思うことはないかと問いかけ、具体的な疑問が思い描けるよう導いている。このヒントも掲示板に貼り出されており、いつでも確認することができる。
どうしたら提案がたくさん出せるかのヒント
しごとのかいぜん
1. じかんのかかる仕事はないか?
2. かずを何回もかぞえる仕事はないか?
3. ものをさがすのに時間のかかることはないか?
4. かずが多い、少ない材料はないか?
5. いつも不良がでる材料はないか?
6. 作業がやりにくい仕事はないか?
7. にがてな仕事はないか?
8. だれかにしつもんしなければわからないことはないか?
9. がまんしてやっている仕事はないか?
10. だれかにいつもおしえていることはないか?
11. これがわかればらくになると思うことはないか?
12. みんなでやるよりだれか一人でやったほうがはやいと思うことはないか?
13. もっとちかくにあればべんりと思うことはないか?
14. こんなものがあればべんりと思うものはないか?
あんぜんのかいぜん
1. てがいたい、めがつかれる、くさい、うるさい、ことがないか?
2. きけんだな、びっくりしたなと思うことはないか?
3. おもすぎるものはないか?
4. もちにくいものはないか?
5. すべる、ひっかかる、ぶつかる、おちる、ものはないか?
ウェルのかんきょうかいぜん・ちきゅうのかんきょうかいぜん
1. ゴミがでるしごと、材料はないか?
2. でんき、すいどう、ガスのむだづかいはないか?
3. みっともないなと思うことがないか?
4. こうすればきれいと思うことがないか?
5. こんなにたくさんいらないと思うものはないか?
6. ここのあかりはいらないと思うところはないか?
7. この時間はいらないと思うものはないか?
(2)アイデアをカタチに
出された提案に対しては、スタッフがサポートしながら改善に取り組んでいる。なかでも目につくのは、作業するときに使用する治具の開発だ。提案した社員とスタッフが二人三脚で「ああでもない」「こうでもない」と試行錯誤しながら、手作りしていくという。愛嬌のあるネーミングもユニーク。そのいくつかを見てみよう。




(3)改善で気をつけなければいけない点
社員からの提案で行われた改善の他にも、日々、品質や効率を高めるための改善が展開されているが、ときには失敗もある。
「我が社では、ひとりでさまざまな作業を行う『多能工化』を進めていますが、1年ほど前のこと、作業ごとに移動しなくてはならない無駄をなくすために、作業場のレイアウトを変更したんです。そうしたら、部品に1枚ずつゴムを貼る作業なんですが、今まではきちんとできていたのに、間違って3枚貼ってしまうなどのミスが出るようになってしまって…。」
苦笑いしながら語る宗岡社長。移動することなく1ヵ所で作業ができるからラクになるかと思いきや、それまでの仕事の流れが変わってしまったことにより、作業者が混乱してしまったようなのだ。
不良品が出たのでは元も子もない。知的障害者は急な変更に順応する力が弱いことを改めて思い知らされ、反省とともに作業場を元のレイアウトに戻したという。
「レイアウトの変更などの大きな改善は、そこで働く人の能力なども見据えながら、時間をかけて行うべきでしたね。健常者なら『いい改善だから、すぐにやろう』と実行に移せますが、障害者の場合はそうはいかない。勉強になりました。」
3. 指名工程制でモチベーション向上
2008年、スタンレーウェルでは、新しい制度として「指名工程制度」を開始した。電子部品の複雑な組み立てなど、高い技術を持つ社員にしかできない工程を定め、皆に見えるよう掲示するのだ。組み立ての他、電子部品に塗布する液体の準備(液体は数を数えることができないので、必要なだけの量を用意するのが難しい)など、現在5工程が挙げられ、作業場には、それを手がけることのできる社員の名前が掲げられている。
それだけ大変な仕事をやっているんだという自覚を持たせる一方、他の社員に対して「自分もあの仕事がやれるようになりたい」というモチベーションを高める狙いもある。

「指名工程に選ばれてから、以前より30分も早く出社して準備を始めるようになった社員もいます。それだけ『自分の仕事をしっかりやろう』という自信と緊張感が生まれたのではないでしょうか。いい刺激になっていると思います」と宗岡社長。
指名工程の作業を希望する社員には、スタッフがサポートについて実習から始めるなど、教育プログラムの一環にもなっている。自分から「やってみたい」「やらせてください」と言うくらいの積極的なアピールには、できるだけ応えたい。「芽生えた向上心は、絶対に摘まない」というのが宗岡社長の方針だ。
4. 順調な受注増の一方で
10年目の節目を迎えたスタンレーウェル。宗岡社長に、今、抱えている悩みを聞くと、「難しい仕事が増えたことですね」と一言。安定した高い品質の仕事が評価され、特に電子部品の組み立てにおいては、部品点数が多く複雑な作業の受注が増加しているのだ。
難しい組み立てとなると、できる障害者には限りがある。どうしてもスタッフが作業に入ることになるが、これが思わぬ落とし穴となったという。スタッフは効率良く作業を進めるため、自己流に仕事をこなしてしまうことが多いというのだ。
「スタッフからしてみれば、障害者用にていねいに順序立てて作った作業手順書は、まだるっこしいんだと思います。でも、社員はそれをよく見ていて、どうして手順書通りに仕事をしないのか、疑問に思うわけです。行動指針をはじめ、決められたルールを守りましょうと口を酸っぱくして言っているのに、これでは説得力がありません」
今のところ社員から苦情が出ているわけではないが、宗岡社長は「敏感な彼らのこと。そういう空気を感じ取っているはずです」と懸念している。このまま放置していると、会社やスタッフに対する不信感が育つことにもなりかねない。
難しい仕事でも障害者ができるよう早急に仕組みづくりを整えつつ、スタッフにもきちんと作業手順を守るよう徹底するなど、対策を始めている。
5. 今後について(これからのスタンレーウェル)
(1)売り上げを伸ばすために
スタンレーウェルは、現在、神奈川県雇用開発協会から助成金を受けているが、それが2年後の2010年には終了する。その損失を補うには、売り上げを現状の5〜6%増やさなければならないという。その方策として宗岡社長が考えているのが、顧客の開拓である。親会社のスタンレー電気は事業部制をとっているが、今のところ、スタンレーウェルが付き合いがあるのが2つの事業部だけ。もっと別の事業部にも働きかけ、仕事を増やすことを検討している。
「もちろん、ただ『仕事をください』とお願いするだけでは無理です。『生産工程のこの部分をお任せください』と、具体的な提案をすることが必要でしょう。私も親会社でずっと働いていた人間ですし、モノづくりのことはよく分かっています。ひとつひとつ細かく見ていけば、きっと我々にできることが見つかりますよ」
親会社の事業部だけでなく、グループに名を連ねている関連会社にも目を向けていきたいと宗岡社長は語る。
(2)社長面談の重要性
年に1回、社員の生の声をしっかり受け止めようと、宗岡社長は1対1の社長面談を行っている。面談の主な目的は健康診断の内容の確認と指導だが、コーチングの手法を用いてじっくり時間をかけて話を聞くうちに、日頃の仕事に対する思いや悩みなども打ち明けるようになるという。
仕事上の課題や、職場の人間関係の問題が浮き上がってきた場合は、その後、スタッフと話し合いながら改善を施す。また、プライベートな問題は、就労支援センターや障害者施設、学校などに連絡をとり、解決への糸口を探す。
問題を顕在化し、早急に善処するためにも、1対1の面談の重要性は高い。
(3)実習生の受け入れ
スタンレーウェルでは、月に2~3人、年間にして20~30人の実習生を受け入れている。実習生は近隣の養護学校の生徒や就労支援センターからの紹介で、1回につき2~3ヵ月程度。そのうち実際にスタンレーウェルに就職するのは年に1人程度だが、今後も受け入れは継続して行っていく方針だ。
「実習生の受け入れは、特例子会社の社会的役割でもあると考えています。彼らが社会に出ていくための就労訓練として、ステップとなれば幸いです」と宗岡社長。
(4)障害者施設に仕事を発注
仕事が多いときは、近隣の障害者施設に作業を発注することもある。
「施設には、障害が重く、仕事に就きたくても就けないような人もいるわけです。少しでもそういう人たちの力になれればと思い、始めました。毎月決まった量をお願いできるわけではありませんが、こちらとしても予定外の増産などの場合は、とても助かっています。」
発注の際には、誰にでもできるような単純作業をなるべく選び、また使いやすいアイデア治具なども同時に貸し出し、指導もしている。これからも積極的に交流し、発注の機会を増やしていく考えだ。
執筆者 : 山笑堂 社長 小川 亜紀子
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