肢体不自由・知的障害・精神障害、それぞれの展開
- 事業所名
- 神奈川トヨタ自動車株式会社
- 所在地
- 神奈川県横浜市
- 事業内容
- 自動車販売
- 従業員数
- 1,865名
- うち障害者数
- 38名
障害 人数 従事業務 視覚障害 0 聴覚障害 0 肢体不自由 10 販売アドバイザー 内部障害 2 事務職 知的障害 25 車両洗車 精神障害 1 - 目次
1. 障害者雇用優良事業所として表彰
神奈川トヨタ自動車株式会社(以下神奈川トヨタ)は、1946年、神奈川県におけるトヨタ車ディーラーの第1号として発足。現在は、県内に展開する新車店60店、中古車店25店で、トヨタ車(含むレクサス・VW)の販売ならびに整備事業を手がけている。
従業員数は約1,800人。うち障害者は38人で、雇用率は約2%と高い数字を誇っている。積極的に知的障害者の採用を継続し、また肢体不自由者を福祉車両の販売アドバイザーとして雇用するなどのユニークな取り組みが認められ、平成19年度独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構理事長表彰で障害者雇用優良事業所に選ばれた。
(1)推販店舗「ウエルキャブステーション」
一口に福祉車両といっても、さまざまだ。肢体不自由者用に運転席に改造を加えたものから、車いすの人がスムーズに乗り込めるよう助手席をスライドシートにしたもの、車いすをラクに荷台に載せられる装置を搭載したものなど、多種多様なスタイルがある。
神奈川トヨタでは、実際に福祉車両を見て、使い心地を試すことができる福祉車両の常設展示店「ウエルキャブステーション」をオープン。myX本社店、相模原店、横須賀・武山店の3店で、専門のスタッフが訪れる人の相談に応じている。



ウエルキャブステーションには、サービス介助士やホームヘルパー、福祉用具専門相談員などの資格を持つ専門のスタッフ「ウエルキャブアドバイザー」がいるが、そのうち3人が肢体不自由者だ。車いす利用者だからこその親身な対応や、適切なアドバイスには定評があり、ウエルキャブステーションにはなくてはならない存在となっている。
神奈川トヨタでは、今後、よりニーズが高まる福祉車両の販売に力を入れることとしており、販売コンサルタントとして肢体不自由者の採用も随時増やしていく構えだ。
(2)スポーツ活動も支援
障害者の健康維持や体力向上の狙いもあり、神奈川トヨタではスポーツ活動を奨励しているが、なかでも大活躍なのが、茅ヶ崎店に務める堀内信雄さんだ。
知的障害を持つ堀内さんは、幼少の頃からリハビリの一環として卓球を楽しんでいたが、1997年、神奈川トヨタに就職した後も毎日欠かさず練習を続け、腕を上げた。
2007年には、知的障害者の卓球大会として世界最高峰とされる「第5回INAS-FID世界知的障害者卓球選手権大会2007」に出場し、団体戦で見事銀メダルを獲得。その活躍に対し、神奈川トヨタは2008年1月、表彰を行った。表彰状と金一封、副賞として社名がプリントされたユニフォーム一式を贈ったほか、今後も会社としてバックアップしていくことを約束。働きながら世界を舞台に活躍する堀内さんの姿は、社内ニュースに大きく取り上げられ、他の障害者にも明るい話題を提供した。

2. 知的障害者に適した「洗車」という仕事
知的障害者の採用は1994年から。神奈川トヨタでは、定期点検や修理のために客から預かったクルマは作業後にきれいに洗車してから渡しているが、その洗車スタッフとしての採用である。
「それまでは、主にアルバイトやパート社員が担当していた仕事ですが、障害者の法定雇用率の義務化の流れもあって、契約社員として採用を開始したと聞いています」と人事部の新嶋章部長は語る。

しかし実際にその働きぶりを見てみると、彼らの熱心さと集中力に、多くのスタッフが驚いたという。
「洗車スペースは屋外ですから、暑い日も寒い日もありますし、実際に大変な仕事なんです。洗車マンは各店につき大抵一人。もちろん仕事量が多いときは他のスタッフも手伝いますが、基本的には一人で、毎日10台近くのクルマをピカピカに磨き上げます。彼らのていねいな仕事ぶりは、むしろ健常者より上かもしれません」。
洗車というと誰にでもできる単純な作業のように思えるが、客にクルマを渡す最後の要の部署でもあり、小さなキズひとつが大問題に発展することもある。それらの緊張感や、「自分がやらなければ、誰がやる」といった責任感が、彼らのモチベーション向上にもつながっているのだ。
現在、25人の知的障害者が25店で、それぞれ洗車マンとして働いているが、新嶋部長は、洗車マンとしての彼らの能力を「強い戦力になる」と高く買っている。今後も店の需要と知的障害者個々の適性を見ながら拡大展開していく予定だ。

3. 「知的障害者雇用マニュアル」の作成
各店における知的障害者の管理・監督は店長およびエンジニア・リーダーが担当しているが、受け入れる前までは、そのほとんどが知的障害者と共に働いた経験がない人たちだ。そこで人事部が用意したのが、知的障害者に対する理解と対応方法を記した「知的障害者雇用マニュアル〜職場における基礎知識〜」である。
マニュアルは、A4サイズで約10ページ。人事部の管沢淳一係長が、さまざまな資料を調べながら、現場で必要とされるポイントを抜粋し、具体的にまとめた。内容は「障害者の特性」「起こりやすいトラブル」「日常生活の指導・配慮」「職務設計」「指示・伝達の仕方」「仕事の評価の仕方」「職場環境の配慮」「オフタイムのすごし方」の8項目。以下に一部を紹介しよう。

指示・伝達の仕方
具体的・視覚的・単純明快に
・指示・伝達は単純明快に。「これ」「あれ」などの抽象的な表現は避け、具体的にわかりやすい言葉で説明しながら、ゆっくりやって見せ、本人にやらせてみて、わかったかどうかを確認します。
大切なことは書類やメモにして渡す
・職場の規則や安全面での注意点、緊急時や体調の悪いときの対応、社内的な連絡事項など、ぜひ理解しておいてほしいことは、書類やメモを本人に渡して読ませると同時に、理解しているかを観察します。
職場環境の配慮
個人の特性に応じた安全教育を
・安全教育は、視覚的に、パターンとして記憶する能力をもつ個人の特性を生かした形で行うようにします。たとえば、注意点を列記した文書を見せるだけで済ませるのではなく、写真やイラストなどをまじえてより具体的・視覚的に説明するようにします。
・ヘルメットや防塵メガネ、マスク、手袋など、安全のために身に付けるものについて、それらを必要とする作業につくときは、必ず身に付けるように指導します。
・作業や操作の手順を教える場合は、実際にやって見せながら教えるようにします。
設備の改善も、視覚(聴覚)的に、わかりやすく
・作業中の事故が起きないように、危険な場所に標識をつける、進入防止用の柵やチェーンをつける、危険性のある機械には安全装置や警報機をつける…などの配慮を行います。
安全確保の基本は「わかりやすさ」
・以上のような工夫・配慮は、知的障害のある人だけを対象にしたものではありません。「わかりやすい」安全教育や、設備の改善は、従業員全体の安全を高める、ということを忘れないでください。
店長には、このマニュアルを熟知するよう徹底指導している。
「彼らの職場環境で特に留意しておきたいのは、仕事場が屋外だということです。暑い夏の日などは、熱中症に注意です。仕事に集中するあまり、水を飲むのを忘れてしまうこともよくありますからね。夏になったら各店に注意を促して、意識して彼らに飲み物をきちんと飲ませるよう指導しています」と管沢係長。
障害者の状況を人事部が把握し、情報の集中管理を行っているのも、神奈川トヨタの特徴のひとつであろう。
4. 知的障害者の採用手段
(1)合同面接会を積極利用
神奈川トヨタでは、ハローワークで「洗車スタッフ募集」と告知し、知的障害者を募集するほか、毎年秋には「よこはま障害者合同就職面接会」に参加し、年に1〜2名程度を定期的に採用している。
応募者には、さすがにクルマ好きの若者が多く、毎回30人近くがブースを訪れるとか。面接は管沢係長が担当し、その日の応募のなかから5〜6人に絞り、次のステップである個人面接に進むという。
「採用の基準は、ひとつは体力的なものですね。屋外での立ちっぱなしの仕事ですから、健康第一です。それから、いかに仲間に溶け込めるかということ。洗車は一人作業ですが、店の一員としてのチームワークも必要です。神奈川トヨタのルールを守ることのできる人かどうかを、面接会では見ています」と管沢係長。
次の保護者同伴の個人面接では、新嶋部長が対応している。
「この段階では、障害者の人よりも、保護者の方にご理解をいただくという意味のほうが強いかもしれません。何か問題が起きた場合は、会社と家庭、あるいは学校と一緒になって解決することを確認し合います」と新嶋部長。
時間をかけて理解を求める面接と、就職後も人事部自らが緻密なフォローを行っていることが功を奏し、今のところ退職者は若干名のみ。その点も、神奈川トヨタが雇用率を高く維持し続けている要因だ。
(2)今後は実習生の受け入れも
最近では、近隣の養護学校などから実習生を受け入れてほしいなどの要望も増えてきている。今までは見学のみ行ってきたが、今後は正式に実習生を迎え、洗車などの体験をさせることも検討中だ。
「我が社に知的障害者を迎えることだけを考えるのではなく、これからは彼らの自立を支援する企業の社会的責任として取り組んでいかなければなりません。学校や支援センターなどと協力しながら、よりよい道を模索していきたいと思っています」と新嶋部長。神奈川トヨタの活動に期待する福祉・学校関係者は多い。
5. 精神疾患発症防止策
神奈川トヨタでは、2005年より社員の「心の健全」を保つことを目標に、メンタルケアを進めている。これは「うつ」などの精神疾患の発症を未然に防ごうという取り組みで、上野健彦会長自らが旗振り役を務める全社活動でもある。その内容の数々を紹介する。
(1)健康相談センターの設置
社員の悩みや相談事を受け入れる専用の窓口として、2005年、2人のカウンセラーと2人のスタッフが常駐する「健康相談センター」が開設された。
本社や店舗とは別の場所に作られ、また入口と出口を分け、他の人と顔を合わすことがないようレイアウトを工夫するなど、プライバシー保護に配慮されている。相談がある人は電話かメールで直接予約を入れるシステムなので、上司や同僚に知られることはない。
人事部と直結した機関であり、相談を受けたカウンセラーが「休暇を取ったほうが良い」などの判断を下した場合、人事部を通して早急に対応できるようになっている。
(2)メンタルケア講演会
年に1~2回、任意参加ではあるが、専門家を招いた「メンタルケア講演会」が開催されている。内容は主に管理者向けで、部下の言動から「うつ」の信号をキャッチするためのポイントなどがテーマ。毎回50~60人の参加がある。
(3)メンタルヘルス・マネジメント検定の奨励
部長以上の管理職には、「メンタルヘルス・マネジメント検定」2級以上の取得が課せられている。会長、社長、役員も例外ではない。新嶋人事部長も2級保持者。
(4)「心の健康診断」の実施
全社員には、通常の健康診断と同様に「心の健康診断」を行うよう義務づけられている。
「心の健康診断」は、各自のパソコンで簡単に実施することができ、「悩み事を相談できる相手がいるか?」「いつも誰かに見られている感じがするか?」など100問程度の質問に「Yes」「No」で回答する。回答後すぐに点数で結果が表示され、回答内容によっては「健康相談センターでカウンセリングを受けることを勧めます」などアドバイスが得られる仕組みだ。
自分の心の健康状態を客観視し、場合によっては病気を自覚することにもなる。年に2回、定期的に行うことによって状態の変化を確認できるのもポイントだ。
以上、これらの「心の健全」の取り組みは、現在は神奈川トヨタだけだが、今後は神奈川トヨタグループ全18社の全従業員に展開することも検討されている。それだけ「本気で取り組まなければならない大きな課題」として、精神疾患の未然の防止が位置づけられているということである。
執筆者 : 山笑堂 社長 小川 亜紀子
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