障害者も健常者も同じ人間

1. 事業所の概要
○ 経営方針
良い商品を
1 清潔な店で
2 鮮度の良い状態で
3 毎日価値ある価格で
4 最高のサービスを提供する
○ 社 訓
われわれは誠実と責任を以って日々努力を重ねより品質を高めて消費者の信頼に応えよう
○ 身体障害者の従事業務
Aさん(下肢障害3級)
スーパーの商品の陳列などフロア作業
Bさん(上下肢2級)
本部事務室でコンピュータオペレータ作業
Cさん(上下肢1級)
本部で電話受理、コンンピュータオペレータ作業
Dさん(下肢6級)
惣菜部門で惣菜製造
Eさん(視覚2級)
本社・本部でパソコン操作
Fさん(聴覚障害2級)
店舗青果部門で商品の品出し
○ 知的障害者の従事業務
Gさん
本部総務課でファイリング業務
Hさん
青果部門でパック陳列など
Iさん
店内・トイレ・休憩室などの清掃
Jさん
店内・レジ周りのタオルの整理、店内・トイレ・休憩室の清掃

○ 障害者雇用の表彰
平成19年度に新潟県知事から障害者雇用優良事業所として表彰された。
○ その他
パワーズ事業部 県内に11店舗
セサミ事業部 県内に4店舗、1配送センター
知的障害者は、同一店舗に集中させず、各店舗に各々配置されている。
2. 障害者雇用の取り組みの経緯
(1)雇用の経緯と理念
事業所が佐藤食品工業(株)のスーパー部門から平成10年に独立し、従業員数が増えるにつれて障害者雇用を考えていかなければならなかったが、急成長に伴い障害者雇用について考えるゆとりがなくなり、不足の場合は納付金を払えばよいという安易な気持ちで障害者雇用について関心が薄かった時期があった。
しかし、新潟障害者職業センターのワークトレーニング社を見学に行く機会があったとき、いい人がいるので面接してほしいと頼まれ、面接の結果、挨拶がとてもしっかり出来、しかもまじめな印象を受けたので、平成10年に初めて知的障害者を採用した。
この従業員は片道1時間以上かけて通勤し、言われた仕事は手を抜くこと無くまじめに仕事をこなし、今でも明るく挨拶し、きちんと仕事もしている。
平成12年にハローワークから、障害者5人以上不足だったことから「3年間の障害者雇入れ計画書」の提出指導を受け、当該計画書を提出した。計画書提出後も毎月のようにハローワーク担当者が訪問し、計画達成に向けた進捗状況について聞かれたが、結果的にこの1年間は何の進展もなく具体的な雇用に至らなかった。
平成14年になっても、ハローワーク担当者からの定期的訪問指導を受けていたが、障害者雇用の進展がないと特別指導による企業名公表の可能性もあると指摘され、ようやく社会的責任の面から、障害者雇用の義務と雇用環境の重要性を話し合い、具体的に取り組むことに決まった。
当時の担当者である圓山さんは振り返り「過去に障害者雇用のマイナス事例もあり、なかなか踏み切れなかったが、企業名公表等の話しが出てからようやく上司と相談し、全体会議で障害者雇用の重要性を会社全体で認識してもらい、協力をお願いしました。」
その後、トライアル雇用制度、ジョブコーチ制度などを活用し、積極的に雇用を進めた結果、平成16年には、知的障害者を4人(うち重度知的障害者を1人)を雇用し、上下肢障害者4人を含め8人の実雇用となった。
平成17年4月には1.86%と法定雇用率を達成することが出来、現在は2%台半ばの雇用率となった。

3. 最近の雇用事例
担当者であった圓山さんに(現在は障害者職業生活相談員)最近の雇用事例をお伺いした。
「障害者の雇用を始めた頃は、現場にあまり負担をかけない部署にということで、本部事務部門に上下肢障害者の男性1人と女性1人を採用した。男性は41歳で事務の仕事は初めての様子でしたが、ワークセンターでパソコンの勉強をし、家に帰っても1日5時間も復習をするという努力家でした。人柄もよく今ではある店舗のストアコンピュータオペレータとして、皆さんから慕われています。また、女性の人は性格がとても素直で電算のオペレータとして本部で伝票入力をしていますが、右手が不自由なためパソコンの左手用キーボードを障害者職業センターに紹介していただき、これを取り寄せ彼女のパソコンに取り付けております。さらに、彼女の障害程度は1級で両足も不自由なため、入社当初は階段の上り下りが大変で、手摺りも無かったものですから壁を伝って昇降していました。
そこで早速、新潟県雇用開発協会に作業施設設置等助成金を申請し、4分の3の助成金を活用して階段の両側に手摺りを付けました。彼女は18歳の新社会人でもあったことから、今までは正社員だけが対象であった入社式に、準社員であった彼女も社長の特命で親御さん共々入社式に参加し、他の新入社員に負けないくらいの決意表明をしていただきました。
社長も『こんなにいい人がいるなら、もっと採用していいよ』と言うくらい、障害者に対しての認識が一段と変わってきたように思いました。」

「社長が懸念したのは、スーパーはお客様を相手にしての仕事だからというより、お客様の中にはいろんな方がいらっしゃいますので、お客様から心無い中傷を受けたときに『それを受け流せるような心の強さを持っているか、また、周りにカバーできる人がいるか』ということでした。『それが出来るなら別に障害者雇用に問題は無いよ』と言われ、担当の私は社長の言葉がとても温かく感じられ、障害者に対する思いやりを感じました。」
「それからは、希望があれば誰に遠慮することなく、ハローワークなどから紹介を受ければ適材適所に配置したいと思っています。」
「今は、店舗に知的障害者を店内清掃やレジ周りの補助作業に配置し、本部総務に自閉症の男性1名を配置していますが、それぞれジョブコーチの支援を利用しております。特に、知的障害者の方たちに仕事を覚えてもらうには教え方に工夫が必要だと思いますし、何といっても障害者個人の特性を理解しないと、せっかくの芽も潰しかねないことから、ジョブコーチというプロにお願いして知的障害者に仕事を覚えてもらうばかりでなく、周りの従業員も彼らに対する接し方の参考にしております。ジョブコーチの制度なくしては私たちのような企業は知的障害者の雇用は困難と思います。だから、この制度はとても有難いと思っています。」


ジョブコーチ支援を利用した具体的事例は次のとおりです。
「本部総務に、配置した自閉症の男性ですがジョブコーチ支援を利用しました。職務は総務事務の補助作業です。総務は当社の1,000人余の給与計算、入退社、制服等の支給の他、作業量や書類の管理をしている部門です。それを現在、社員2名と半日のアルバイトの2.5人で処理していますが、書類の整理が出来ず大変だったところです。
そこに自閉症でもある知的障害者のGさんを配置しました。正直、私自身自閉症の障害特性も知らなかったものですから、事務系の仕事は大丈夫かなとか、じっとして仕事が出来るかなとか、また、本部は社長のお客様から取引先業者さん等々いろんな方が出入りしますので、お客様に失礼なことは無いか等、色々心配しました。しかし、ジョブコーチを通して仕事を覚えてもらい、結果的には挨拶はいいし、礼儀正しいし、しかも作業に従事したら前年の他の従業員の時より間違いの無い正確な仕事ぶりでした。
当初の私の不安が見事に払底され、ただ凄い!という感動だけでした。しかし、2ヶ月も経つと総務の指導担当者は、本人の特性の理解面や意思の疎通面で、そんなに甘くはないと気付かされる事態になったようです。それを私は作業日誌と母親との連絡帳のやり取りで分かりました。
今となって見ますと、自閉症のGさんはとてもすばらしいお母様を持っていらしたということ。そして温かい家族関係を築いていられるという事を感じました。」
「また、障害者に対して担当者の言動が与える影響は大きく、一人の人として接していく事が予想以上に大変だということも実感しました。それは例え障害者であっても、使う側も使われる側も同じ人間だからです。そして、人間である以上、お互い感情が伴ってくることから、その感情をいかにコントロールしながら、どれだけ根気強く教え続けることが出来るか、そして、相手の行動を変化させていくには健常者であれ障害者であれ等しく忍耐が必要になります。その忍耐とは、感情のコントロールをしながらですのでとても大変なことと改めて気付かされました。」
「昨年の障害者職業生活相談員の講習会で印象に残った言葉として、障害者に対して『区別はしても差別はしない。配慮はしても特別扱いはしない。』ということです。しかし、このことは健常者も同じことではないかと思います。人間として平等に出来ること、出来ないこと、適材適所を見極めることが大切だと思っています。
同情心でなく、本気になって社会人の一人として職場に適応させるべく会社側も努力をしたいと思います。それが、企業としての社会的責任を果たすということではないかと気付かされました。」


4. 取り組みの状況
(1)やる気を起こさせる工夫など
総務担当が職業生活相談員の資格を取り、各店舗を回り、キーマンになる従業員や障害者に声かけをするなど、日常的に現場の仕事ぶりを把握すると共に激励をしている。また、担当者自身も、各現場を回ることが良い勉強にもなっている。
(2)労働条件など
勤務時間は、8:00から16:00、9:00から16:30と必要に応じて配慮している。
賃金は、知的障害者の場合、最低賃金除外(最低賃金の減額特例許可)申請はしていない。
福利厚生は、みな同じ扱いである。

5. 取り組みの効果
・最近5年間の離職状況
離職者なし(但し、定年退職者1人は除く)
・生産性の向上など
確実に伸びており、仕事は無論、一人間として向上していることが分かる。
配属するときは、本人の特性を十分に把握した上で行っている。
6. さいごに
産業別に見て、障害者の雇用率が低かった小売業において、障害者雇用の特別指導寸前の状況にあったなかで、会社がトップを始め一丸となって、障害者雇用に積極的に取り組んだ。
その過程で、障害者職業センターの活用、とりわけジョブコーチ支援による職場適応への取り組み、ハローワークのトライアル雇用制度の活用、雇用開発協会の助成金活用による施設の改善等々、社会資源を有効に活用しながら短期間に法定雇用率を達成した好事例である。
執筆者:元公共職業安定所長 金子 芳三郎
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